最弱魔術師が初恋相手を探すために城の採用試験を受けたら、致死率90%の殺戮ゲームに巻き込まれました

和泉杏咲

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第2章

何も、しない

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私は急いで、水の術を使おうと、荷物を下ろしました。まだ辞典無しでは、私には魔術は使えませんので……。
そのタイムロスが生じたことが、私の生命を救うことになるなど、この時は知る由もありませんでしたが。

「やはりか……」
その人が呟くと同時に、私の紙に描かれていた殿下の顔が、全く別のものに変わっていくのが見えました。

「何ですか……これ……」
「これが、選抜試験、ってことか」

私の独り言のような問いかけを拾ったのは少年の方でしたが、私はこの言葉に気づかされました。
私達は魔術師の選抜を受けている。
魔術をいついかなる時も使わなくては全く意味がないのです。

何故、この時まで全く気づけなかったのでしょう。
他の紙も、火に焼かれることによって大きく変化していきます。
火で消えていったのは、殿下の顔。そうして現れたのは……。

「薔薇……?」
炎に焼かれた紙から、ぐんぐんと薔薇が咲き誇り始めたのです。
これほどまでに深い赤色をした薔薇を、私は人生で一度もお目にかかったことはございませんでした。
試験でなければ、炎に包まれた薔薇という、美しい情景を飽きるまで眺めていたかったものです。

と、その時、炎をあっという間にかき消す、大量の水が、私達も巻き込み襲いかかりました。
「へっへっへ」
「ったく、こういうのは誰かのアイディアをパクるのに限るよな」
 先ほどの野蛮二人組でした。
いつからいたのでしょう。
「何か仕掛けがあると思っちゃいたが、燃やすなんてのは、さすがに勇気が出なかったぜ」
「それなー!」
下品な笑いを浮かべながら、二人組が薔薇へと近づこうとします。
そしてその様子を遠巻きで見ていたであろう、他の受験生達も次から次へと現れました。

私と少年も、先を越されてはいけないと薔薇に手を伸ばそうとしましたが、その人は一向に動く気配がありませんでした。少年は、野蛮な二人組と同じように生まれた薔薇を手にしましたが、私は、その人の微動だにせず、ただ観察している様子が気になってしまいました。
その人は、何もしないことを選んだ私に向かって言いました。
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