最弱魔術師が初恋相手を探すために城の採用試験を受けたら、致死率90%の殺戮ゲームに巻き込まれました

和泉杏咲

文字の大きさ
上 下
7 / 37
第2章

城門前にて

しおりを挟む
すでに門前には数年に一度も行われない、専属魔術師試験の受験者を一目見ようと、見たこともない程の人が押し寄せておりました。

どうにかその波を掻い潜り、受付を済ませ、案内された場所……バルコニーによって見下ろされる広場に辿り着くと、各々が自分の存在を自信ありげに曝け出しているようでした。

(やはり、私みたいな人間は、来るべきではなかったのでしょうか……)

引き下がりたくなりました。
逃げたくなりました。
家を出た時の決心なぞ、朝露のように消えそうになっていました。
あのお方の登場があと五秒でも遅かったならば、あっという間に、門前の人々に同化しにいったことでしょう。

「やあ!愛する僕の国民達……!」

その声を聞いた者は、男女問わず一斉に黄色い歓声をあげてしまう……そんな噂を聞いたことがありました。
この国家元首のご長男でいらっしゃる、アルベルト殿下が、どこからともなく、凛々しい顔をした馬を颯爽と乗りこなして、バルコニーに降り立ったのです。

殿下のお姿を見た門前の人々からは、一斉に
「アルベルト様―!」
「お美しいー!」
「結婚してー!」という声があがりました。

声の力は恐ろしいもので、声の量が多ければ多いほど、風の魔術を発動させてしまいます。
そのため、受験生の皆様は……僭越ながら私も……警戒心を強めておりました。

「ああ、我が可愛い民達よ、どうか僕の声が皆に届くよう、少しだけ大人しくしてくれるかな」

 と、殿下が投げキッス付きで問いかけるものだから、皆様本当に黙り込んでしまいました。
受験生の皆様達の緊張も解けた様子でしたが。殿下は私達を一通り眺めました。

「この度は我が王宮の専属魔術師を目指してくれたこと、心から感謝するよ」

殿下がそう言った途端、息を飲む音が聞こえました。
この場にいるのはおよそ百人前後。
老若男女……下は十代半ばくらいから、上は八十は超えているであろう、生まれ育った環境も世代も何もかもがバラバラの人々は、今日この日、たった一つの目標の為に努力し、集まったと言っても過言ではないのです。
その緊張の糸が、ぴんっと再び張り巡らされていました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

現在進行形で流されている少女

サバ焼き師
ファンタジー
海面上昇によって人間の文化が衰えてはや数百年。 いかだと共に、師を探すため少女は海を進む。 マイクラとどう森と異能バトルを混ぜたようなものを目指しています。 ギャグ要素強めかもしれません。 バトルシーンはほとんどない...です。 ゲーム、アニメとパロディーネタ少し

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...