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第1章
ミイラのような男
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「ヘタクソ」
たった一言、枯らした低い声を放ったのは、ミイラのように全身を……顔も半分以上、土色のターバンやマントで隠した、小柄で背中が丸い男性でした。
「あの……」
私が何かを言おうとすると、唯一見えていたその人のくっきりと大きい瞳がが、ギロリと私を睨み付けておりました。
「ガキが、高度魔術を使おうとするな」
私はもうすでに、成人と認められる十八になったばかりでした。
「もう大人です」
「術一つ操れず、指先吹っ飛ばされそうになったやつを、誰が大人だと思う」
そう言われて、私は初めて、組んでいた指先の爪が一部剥がれそうになり、血が滲んでいることに気づきました。
「こ、これは……つい油断をして……」
そう言おうとした時。
「痛っ……!」
身を捥ぎ取られるのでは、と思いました。その人が、私の血に染まる指を、見た目の弱々しさからは全く想像もできないような力で、握りながら引っ張りあげているのです。
「離して……」
「では、今ここで指がなくなってもさほど気にしないということだな」
怒りに満ちた、重々しい声が降ってきます。
「やめて……ください……」
懇願をするので、私はもう、いっぱいいっぱいでした。
「そんな覚悟なら、魔術なんて捨てろ」
そう言い放ったその人は、ぱっと私の指を離したかと思うと
「後悔するぞ」
そう言い残し、あっという間に道の奥へと吸い込まれるように消えていきました。
一体何が起きたのか分からないまま、私は痛みが走っていたはずの指を見てみると
「痛く……ない?」
血も乾燥し、茶色い蓋になっており、噴水のような出血が止まっていました。
……魔術を捨てろ、というあの人の言葉は引っかかりましたが、私には後に引けない事情がありましたので、先ほど失敗した魔術辞典のページに、要復習とだけ書いておきました。
と、その時、ドーン、ドーンという爆音が空中に響き渡りました。鳥達が慌ただしく騒ぐ中
「王宮専属魔術師選抜試験にお集まりの皆様、間も無く試験が始まります」
王都中に響くアナウンス。鳥達は、太陽の方に向かって、逃げるように飛び去っていきます。
(もしかすると……)
魔術辞典に頼らずとも、目的地へ向かう確信を得ることができたので、先ほどの人が向かって行った道と同じ方向だということに気づかず、進んで行きました。
たった一言、枯らした低い声を放ったのは、ミイラのように全身を……顔も半分以上、土色のターバンやマントで隠した、小柄で背中が丸い男性でした。
「あの……」
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「ガキが、高度魔術を使おうとするな」
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身を捥ぎ取られるのでは、と思いました。その人が、私の血に染まる指を、見た目の弱々しさからは全く想像もできないような力で、握りながら引っ張りあげているのです。
「離して……」
「では、今ここで指がなくなってもさほど気にしないということだな」
怒りに満ちた、重々しい声が降ってきます。
「やめて……ください……」
懇願をするので、私はもう、いっぱいいっぱいでした。
「そんな覚悟なら、魔術なんて捨てろ」
そう言い放ったその人は、ぱっと私の指を離したかと思うと
「後悔するぞ」
そう言い残し、あっという間に道の奥へと吸い込まれるように消えていきました。
一体何が起きたのか分からないまま、私は痛みが走っていたはずの指を見てみると
「痛く……ない?」
血も乾燥し、茶色い蓋になっており、噴水のような出血が止まっていました。
……魔術を捨てろ、というあの人の言葉は引っかかりましたが、私には後に引けない事情がありましたので、先ほど失敗した魔術辞典のページに、要復習とだけ書いておきました。
と、その時、ドーン、ドーンという爆音が空中に響き渡りました。鳥達が慌ただしく騒ぐ中
「王宮専属魔術師選抜試験にお集まりの皆様、間も無く試験が始まります」
王都中に響くアナウンス。鳥達は、太陽の方に向かって、逃げるように飛び去っていきます。
(もしかすると……)
魔術辞典に頼らずとも、目的地へ向かう確信を得ることができたので、先ほどの人が向かって行った道と同じ方向だということに気づかず、進んで行きました。
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