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18 現実世界

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 次の日、目が覚めると俺はーー


 自分の部屋に居た。

「あれ?

え?」

 ライラの、あの豪華な部屋ではなく、本当に俺の部屋に居たのだ。

「嘘、マジで……?

や、やったーー!!」

 俺はベッドから起き上がってガッツポーズした。

 戻れた……!

 俺は現実世界に戻れたんだ!!

 となると、色々と確かめなくては!

「母さん! おはよう!」

 俺は2回の自室から階段を駆け降りてすぐ様リビングにいる母さんに挨拶した。

 母さんは料理中なのかコンロや流しの前を忙しく行き来している。

「あ、やっと起きたのね。おはよう。
ほら、もうあんたの分の朝ごはんあるから。
さっさと食べないと遅刻するわよ?」
「え?」

 俺はパッと時計を見ると、時刻は午前7時半を指していた。

 確かに、後10分位で出ないと学校には間に合わない。

「やばっ!!
いただきます!」

 俺は急いで朝ごはんを食べ始めた。

 確かにあの世界の料理は絶品ばかりだったが、この母さんのいつもの朝ごはんがやっぱりホッとする。

 それに、ライラの時みたいにいちいちお淑やかに食べなくても良いし。

「行ってきます!」

 俺は鞄を持ってすぐに学校へと向かった。

 そういえば、大分久々に感じるが現実世界は一体今何月何日なのだろうか?
 でも、母さんはいつも通りだったし、もしかしたら1日も経っていないのかもしれない。

 つまり俺は長い夢を見ていたという事なのだろうか。

「まあいいか、戻れた訳だし!」

 俺は嬉しくてにやけながら普段の学校への道のりを歩いた。

 教室の前に着くと、中をぱっと見た限りでは何故か人が誰も居なかった。

「あれ? 全体集会でもあったっけ?」

 不思議に思い教室に入ると、そこに月野さんだけが居たのだ。

「月野さん! おはよう!」
「あ、日野くん、おはよう」

 俺の挨拶に月野さんは笑顔で答えてくてた。

 ヤバい、久しぶりに本物の月野さんだ。

 俺はグッと込み上げてくる感情を抑えつつ月野さんに質問する。

「今日って集会か何かあったっけ?」
「さあ……まだ誰も来てないみたい」

 月野さんも理由が分からないらしく、不思議そうにそう答えた。

 普段真面目な月野さんが分からないという事は、何か別の理由だろうか?
 そもそも、ホームルームまでもう後5分なのにまだ俺と月野さん以外来てないなんてあるのだろうか?

 しかし、こんな時にあれだが、こうして月野さんと教室で2人っきりなんてシチュエーションもう今後2度とないかもしれない。

 それなら。

「つ、月野さん!」
「?
何?」

「俺、月野さんの事が前からずっと好きでした!」

 い、い、言っちゃった……!

 でも、折角現実世界に戻れたんだ、後悔なんてしたくない。

 例え振られたとしても、ダメで元々な訳だし。

「……日野くん、その、ごめんなさい」

「……」

 ああ、やっぱりそうだよな。
 そもそもそこまで仲が良かった訳でもない、ただ秘密がバレただけのクラスメイトなんだから、こうなる事は分かってた。

 それでも良いんだ。伝えられないよりは。

「私、女の子とは、しかも悪役令嬢とは付き合えない」

「……え?」

 女の子? 悪役令嬢?

 俺は月野さんの言ってる言葉が分からず目を見開く。

「だって、今の日野くんは、ライラじゃない」

「はっ!?」

 月野さんに言われて俺は教室の窓に映る自分の姿を見た。

 そこには、ライラの姿が映し出されていた。

「な、んで……」

 俺は、ライラのまま……?






「ーーっ!」

 目を見開いた俺は急いでベッドから身を起こした。

 冷や汗が頬を伝う感覚が実に気持ちが悪い。

 急いで鏡を見てみると、俺はまだライラのままだった。

 起き上がった部屋は、最近見慣れてきたあの豪華なライラの部屋だ。

「……夢、かよ」

 最悪だ。

 折角戻れたと思ったのに……。

 月野さんに、会えたと思ったのに。

「はぁ~……」

 俺は項垂れながら大きな溜め息を吐く。

 すると、コンコンというノックとともにメイがアーリーモーニングティーを持ってやってきた。

「おはようございますライラお嬢様……って、どうされましたか!?」

 メイは俺の意気消沈している姿にびっくりしてすぐに駆け寄ってきてくれた。

「あ、メイ……」
「ご気分でも優れませんか!?
すぐに旦那様に行ってお医者様を連れて来ましょうか!?」

 メイは本気で心配そうにジッとこちらを見つめている。

「いや、ただ夢見が悪かっただけだよ。
心配かけてごめんな」
「本当に、それだけですか?」
「ああ」

 俺がそう弁明すると、メイはいきなり顔を近付けてきた。

「……え?」

「失礼します」

 な、ま、まさか……

 キスされる!?

 俺は焦りと混乱でギュッと目を瞑ると、メイはコツンと俺のおでこに自分のおでこを当てる。

「熱はないみたいですね」

 それからメイは俺から離れてもう一度俺の顔色を見て心配そうな顔をした。

「あ、ライラお嬢様、先程よりお顔が赤いですね?
やっぱり熱があるのでしょうか?」

「あ! いや、違くて!
これは今のが恥ずかしかっただけで!」

 俺はブンブンと首を横に振りドキドキとうるさい心臓を落ち着かせようと胸に手を当てて小さく深呼吸した。

「あ、恥ずかしかったですか?
ごめんなさい」

 それからメイは申し訳なさそうに謝ってきた。

「いや、メイは悪くないから!
そ、それより、お茶!
お茶飲もうかな!」

 さっさと話題を切り替えようと俺はメイにそう提案する。

「あ、分かりました!
今日は麦茶です!」

 それからメイも急いでお茶を用意しだした。

 俺はそれを一気に飲み干す。

「……ぷっはぁ!
はぁ、ありがとうメイ」

「あ、いえ、ご気分はもう大丈夫でしょうか?」

 メイは心配そうにこちらを覗き込んできた。

 ヤバい、さっきので大分メイを意識してしまってるから、これ以上近づかれるのはまずい。

「だ、大丈夫だから!
もう大丈夫だからさ、お茶ありがとう!
ほら、メイも他に仕事あるだろ?」

 俺は覗き込んでくるメイから体を離す様にのけぞらせながらそう言った。

「そ、そうですか?」
「うん! もう大丈夫!」

 俺は何とかニッと作り笑いをしてみせる。

「なら良いのですが……。
もし何かあったらきちんと言って下さいね?」
「うん! 言うから!
大丈夫だから!」

 俺は作り笑いのままぶんぶんと首を縦に振る。

「……では、失礼します」

 そんな俺をメイは訝しげに見つつもぺこりと頭を下げて去って行った。

「……ふぅ」

 俺はメイが出て行ってから一息吐く。

 心臓はまだバクバクと脈打っていた。

「まさかあんなにメイに心配されるとは、全く心臓に悪い……」

 というか俺、意識しすぎじゃないか?

 夢で月野さんに告白した時以上に鼓動が激しいのは、やはりあの告白が夢の中だったからなのだろうか?

 多分、きっとそうなのだろう。

 もしあれが夢じゃなくて現実だったら、俺は月野さんに告白する勇気があったかすら怪しい。

「起きた直後は悪い夢だと思ったけど、今思い返してみれば久々に月野さんに会えただけでも良かったのかもしれないな」

 俺はなんとかそうポジティブに捉える事にした。

 とは言え戻れたと本気で思っていただけにメンタルが大分やられはしたが。

「それはそうともう着替えて広間に行かないと、朝飯間に合わなくなるな」

 その後俺は急いでドレスに着替えて広間へと向かった。
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