普通の男子高校生が悪役令嬢に転生した話

本田ゆき

文字の大きさ
上 下
18 / 21

17 お背中流します

しおりを挟む
「マジか……」

 俺はウィリアムが先に風呂に入っている中、俺は服を脱いでバスタオル1枚を身に纏った。

 何でイケメンの背中を流さなきゃいけないんだよ。
 いや、言い出したのは俺だけど。

 過去の俺の馬鹿やろうっ!!

「し、失礼します!」

 えーい、もうままよ!

 俺は過去の事を後悔しつつも勢いで風呂場に入る。

「本当にしてくれるんだ?」

 ウィリアムは驚きながらも顔を赤らめていた。

 因みにウィリアムはちゃんと下をタオルで隠してある。
 まあ女の子が入ってくるのだから当たり前と言えば当たり前か。

「まあ、言い出したのは私なので……」

 俺は腹を括ってウィリアムの背中を洗い出した。

 しかし、まさかイケメンの背中を洗う日がくるだなんて。

 何か屈辱的であるが、ここはアレだ。
 父さんへの感謝の気持ちとして父さんの背中を流してると思おう。

「あのー、力加減はどうですかー?」

 俺はゴシゴシと割と強めにウィリアムの背中を洗う。

「ライラお嬢様って、案外力があるんだね。お陰で気持ち良いよ」

 どうやらウィリアムは強めで良かったらしい。

 しかしまあ、女になってから他の男を見ると、やはり男の方が自分より一回りも大きく頼もしく見える。

 俺、男だった時こんなに頼もしく見えてただろうか?

 ……いや、多分そうは見えないだろうな。

 何だか自分で自分を客観的に見ると悲しくなってきた。

「ライラお嬢様、もういいよ。
ありがとう」

 それから背中を洗い流すと、ウィリアムは笑顔でそう言ってくれた。

「あ、分かったわ。
それじゃあまた後で」

 俺は今度こそさっさと風呂場を出て急いで着替える。

「……まさか本当にしてくれるだなんて、本当に勘違いしちゃうな」

 お風呂場に残ったウィリアムはそう呟いて顔を赤らめていた。

 その後、風呂から上がったウィリアムは俺とルナ(と言うか、ルナばっかり)と談笑して、服が乾いて雨が上がると同時に帰って行った。

 しかし、今思えば、俺、あのマウント王子もといアラン王子やレオとの好感度が高いらしいし、無理してウィリアムにまで好かれる必要なかったんじゃないか?

 あの背中を流すイベントをやらなくてよかったんじゃないかと若干後悔するも、まあ、好感度は低いより高いに越した事はないだろうしとポジティブに考える事にした。

「よし、兎も角これで順調に進んでるな」

 最初は悪役冷静のライラで誰かを攻略なんて不可能では? とも思っていたが、やれば出来るものだと感心する。

 俺は小さくそう呟いてガッツポーズした。

「……」

 そんなライラの姿を、ルナは訝しげな目で見ていた事に、屋敷の誰一人として気付かなかった。

 そして翌日。

「ふぁぁあ~。
良く寝た~」

 俺はいつもの如く目覚めてぐぅーと伸びをする。

 今日も戻れてなかっただなんて期待はもうしていないぞ!

 と心では思いつつも内心やっぱり気にしてしまい鏡を覗き込むまでが朝のルーティーンになっている。

「あ、おはようございますライラお嬢様」

 それからいつもの如くメイがアーリーモーニングティーを持ってやって来た。

「今日は緑茶にしてみました」

 そう言っていつものティーカップに緑茶が注がれるのだが、何というか、改めて緑茶に西洋風のカップは似合わないなぁと思う。

 しかし俺は紅茶より緑茶派なので普通に嬉しい。

 一口飲むと、久しぶりの緑茶の味で懐かしさを感じる。

「美味しいよ、ありがとう」
「お口にあった様で良かったです!」

 メイは嬉しそうににこりとはにかんだ。

 俺はいちいちそれにときめきかける。

 いかんいかん、だから俺は月野さんが好きな訳で!

 そう考えて俺が首をぶんぶんと振ると、メイは不思議そうに俺の事を眺めていた。

「あ! これはちょっと首の体操を!」
「ああ、そうなんですね」

 苦し紛れの言い訳だが、どうやらメイは納得してくれたらしい。

 なんというか、多分天然なのだろう。

「ところでライラお嬢様、今日はどうなさいますか?」

「え? あー、そうだなー……」

 ルナに問われて俺は少し頭を悩ませる。

 何せ無理して好感度をあげなくても良い様な気もするが……。

 それに昨日の大雨イベントも結局3人も攻略キャラが来た訳だし。

「よし! 今日は1日ゆっくりしようかな」
「そうですか、かしこまりました。
ふふっ」

 俺の答えを聞いて、メイは何故か嬉しそうに微笑んだ。

「どうかしたか?
何か嬉しそうだけど」
「……あ、いえ!
何でもありません! 失礼します!」

 メイはそう言ってバタバタと去って行った。

「……何だったんだ?
まあ、いいか」

 それから俺は朝食を食べに広間へと向かった。



「あぁ~休日ベッドでゴロゴロとかマジで最っ高!」

 朝食を食べ終えた後、俺は自由気ままに自室のベッドに寝転んでいた。

 何せ普段はインドア派の俺が、思い返せばこの世界に来てからは色々と外出してばかりだったので、こうゆっくりと出来る時間があまり無かった。

 何だかこうしてゆっくり出来るのも久しぶりな感じがする。

「思えば死にたくないが為に頑張ったよな~俺。
いや、本当すげーよな、俺」

 俺が自分自身を褒めていると、コンコンと扉がノックされた。

 メイでも来たのだろうか?

 そう思い俺がどうぞと答えると、俺の部屋に入ってきたのはまさかのルナだった。

「ライラお姉様、失礼致します」

「え? ルナ?」

 ぺこりと頭を下げて挨拶するルナを見て俺は驚きのあまりに目を丸くする。

「えっと、どうしたの?」

 俺は困惑しつつルナに尋ねる。

「はい。ライラお姉様に実は訊きたい事がありまして」
「訊きたい事?」

 こんなイベント、ゲーム中では勿論見た事がない。

 という事は、またライラだからこそのイベントという事なのだろうか?

 そんな事を俺が考えていると、ルナが口を開いた。

「ライラお姉様は、誰か好きな方がいらっしゃるのですか?」

「え?」
 
 ルナにそう問われて俺はまたもや困惑する。

 まさかルナにそんな事を訊かれるとは。

「え、えっと……そうね……まあ、いるにはいるわね」

 なんともしどろもどろに俺はそう答えると、ルナは更に質問を続けた。

「それは、誰なんですか?」

 そんなの誰かと訊かれても……。

 本心でなら月野さんと答えるけれど、今俺はライラなのだから、あの攻略キャラの誰かを答えなくては。

 とは言え、正直誰を答えればいいのだろうか?

 ルナはやはりウィリアム狙いなのだろうか?
 とは言えもしここで別のキャラを狙っていた場合、俺が被ってしまうと勝ち目がないし。

 それに、俺は攻略さえ出来れば別に誰だって構わないから、誰が好きかと訊かれてもという感じである。

「まあ、秘密、かしら」
「秘密、ですか……」

 苦肉の策で俺がそう答えると、ルナは俺を訝しげに見てきた。

「先にルナの方から教えてくれるなら教えてあげても良いけど?」

 俺は逆にルナにそう問い掛けた。

 もしこれでルナが答えてくれたら俺はルナの好きな相手を攻略しない様に立ち回ればいいので、我ながらこの切り返しはナイスだと思う。

「え? 私ですか?
わ、私も秘密です!」

 しかし、ルナのガードも中々に固いのか、教えては貰えなかった。

「用事はそれだけですので、失礼しました」

 ルナはそう言うと、また頭をぺこりと下げてそれからそのまま去って行ってしまった。

「あ……何だったんだろ?
このイベント」

 俺は不思議に思いつつも、まあいいかとまたベッドでゴロゴロと寛ぐ事にした。

 それからその日の午後、またメイは俺の部屋へとやっ来てた。

「ライラお嬢様、午後もお休みになられますか?」

「ん~そうだなぁ、今日は1日のんびりするって決めたからな」

 俺はメイにそう言うと、メイは嬉しそうにそうですか、と答えた。

「何だか、今日のメイは朝からずっと機嫌が良いよな?
何か良い事でもあったのか?」

 俺は嬉しそうにしているメイに率直に訊いてみた。

「え!? そ、そんなに嬉しそうに見えますか?」

 一方メイは顔を赤らめながら両手で頬を押さえてあわあわしている。

 何だかその様も可愛い。

「うん。何か今日はずっと笑顔だし。
いや、いつも笑顔ではあるんだけど、今日はいつも以上にニコニコしているというか……」

「そ、そうでしょうか……?」

「だから何かあったのかなって。
まあ言いたくなければ無理には訊かないけど」

 俺がそう言うと、メイは顔を赤らめながら小さく答えた。

「今日は、ライラお嬢様が1日お屋敷にいらっしゃるので……」
「え? 俺が屋敷にいるから?」
「だから、その……や、やっぱり何でもないです!
失礼します!」

 そこまで言ってメイはそそくさと逃げる様に部屋を出て行ってしまった。

「え? あ!」

 俺はそれを止める間もなくメイに出て行かれてしまった。

 それからメイの事を少し考えていた。

「俺が屋敷にいるから嬉しい?
何でだ?



……まさか、メイの奴


他のメイドに虐められてる、とか!?」

 俺がいる間は手を出されないだけで、普段実は我慢でしているとかではなかろうか?

 そう考えると途端にメイが心配になってきた。

「よし! どうせ暇だし、メイの事を見てみるか」

 そう決めた俺は部屋から出てメイの後をつける事にした。

 ……のだが。

「うーん……?」

 メイを見ている限り食器を洗ったり、洗濯物を干したり、掃除したりと至って普通に働いている。

 他のメイドとも普通に挨拶したり談笑したりしているし、とても虐められている様には見えない。

「という事は、俺の勘違いか……」

 そう呟き俺はホッと一息吐く。

 何せメイにはこの世界に来てずっとお世話になっているからなぁ。

 ……というか、お世話になりっ放しで、俺自身はメイに何もしてあげてないんだよな。

 よくよく考えてみたら、メイはメイドとしての仕事もしつつ、俺の世話もしつつ、内緒で俺にマナーレッスンにも付き合ってくれてたんだから、普通に考えて俺、結構メイに甘え過ぎでは……?

「……今度出掛けた時に何かプレゼントでも買おうかな」

 俺はそう決心した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マフィアと幼女

ててて
恋愛
人身売買用に商品として育てられた幼女。 そんな彼女を拾った(貰った)マフィアのボス。 マフィア×幼女 溺愛話 *スローペースですから! スローペースですから!!

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...