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2 夢の世界?

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「ふあぁ~。
あー、いつの間に寝たっけ?」

 俺は思いっきり伸びをして目を擦る。

 確か月野さんに勧められた乙女ゲームをやっていて、いつの間にか寝落ちしたんだ。

「張り切ってぶっ通しでガンガン進めたから、腹減ったな。
夕飯食べよっと」

 俺はベッドから起き上がったのだが、とてつもない違和感を感じた。

「……あれ、俺自分の部屋に居たよな?」

 起き上がった部屋は見覚えのない部屋だったのだ。

 しかも、なんか凄いゴージャスな部屋である。

「まるで俺がやっていた乙女ゲームの世界みたいだな……」

 という事は、これは夢か?

 俺は自分の頬をつねってみる。
 ちゃんと痛い。

 もうちょっと強くつねる。
 やっぱり痛い。

「痛いな、やり過ぎて頬赤くなってね?」

 そう思い俺は近くにあったドレッサーの鏡を覗き込む。

「……は?」

 覗き込んだ鏡の中には、なんとあの乙女ゲームの悪役令嬢の顔が映っていたのだ。

「え?
何これどうゆう事?」

 俺は鏡をまじまじと見つめる。

 長いサラサラの黒髪に、赤眼という、ある意味中二心をくすぐられるルックス。

 間違いなく、そこに映っているのはあの悪役令嬢である。

 俺は訳が分からず戦慄した。

「な、な、何で」

「何で俺が『悪役令嬢』になってるんだよぉ!!」

 こうして、何故か俺は乙女ゲームの悪役令嬢になっていたのだ。

「これは夢だよな!?
そうだ夢だ!
どこから夢なんだろ?

……もしかして月野さんと会話した事も全部夢だったのか!?」

 俺は狼狽えながらそう考える。

 きっとこれは夢に違いない。

 そもそも、あのマドンナ的存在の月野さんと一介のモブである俺が仲良くなるなんて事自体おかしな話だったのだ。

 きっと、あれは俺が妄想した世界。
 そして、ここもそれを元に作られた俺の夢の世界なのだろう。

「しかし、どうせ夢ならイケメンキャラの方になりたかった……。
どうしてよりによって悪役令嬢なんだよ」

 夢の中ですら俺は主役にはなれないのかと落ち込む。

 すると、コンコンと誰かが部屋のドアをノックした。

「ライラお嬢様、夕食の準備が出来ました」

「え?」

 俺はガチャリとドアを開ける。

 すると、モブであろうメイドが立っていた。

 しかし、例えモブでもメイドさえちゃんと可愛かった。

 やはりメイドっていいな。うん。

「夕食?
分かった。今行く」

 俺がメイドにそう言うと、メイドはキョトンとした表情で俺を見ていた。

「ん?
どうした?」

「あ、いえ、その、いつもと口調が違っていましたので……。

も、勿論悪い意味ではございません!
申し訳ございません!」

 そうメイドは頭を下げる。

 成る程、今俺は悪役令嬢のライラなのだから、口調もそれっぽくしないといけないということか。

 そして、悪役令嬢であるライラは我が儘で周りに当たり散らしたりしていた為、メイドからも怖がられているという事なのだろう。

「あー、謝らなくてもいい……ですわ。
それよりお腹が空いたから早く向かおう……向かいましょう」

 女口調なんて、しかもお嬢様口調なんて今まで使った事もない為物凄く喋り辛い。

 というか、この夢いつになったら覚めるんだろ?

「あ、はい!
すみません!」

 メイドはオドオドしながら俺を案内した。

 しかし、どれだけこの悪役令嬢は怖がられてるんだ。

「おお……!」

 広間に着くと、今まで見た事もない様な豪勢な料理が並んでいた。

「さて、ライラも来たし頂くとするか」

 そう父親が口を開いた。
 確かゲームでは立ち絵が一枚しか無かった人だ。

「そうね、頂きましょう」

 母親も続いて口を開く。
 こちらもゲームでは立ち絵が一枚しか無い。

「頂きます」

 そして出ましたメインヒロイン。
 名前はルナだ。

 ゲームで見てて可愛いと思ったけれど、こうして見るとやっぱり可愛い。

 お淑やかで可憐で少し天然な性格で出てくるイケメンキャラを次々に落とす魔性の女である。

「頂きます」

 さて、俺も腹が減っていたし、早速夕食を食べようと思ったのだが。

 俺は普通の男子高校生。
 テーブルマナーなんぞ知る由もなかった。

「えーと……」

 スープはこの大きめのスプーンで良いんだよな?
 サラダはフォークか?
 そもそも食べる順番なんてあるのか?

 俺はチラチラと周りの人の食べ方を見ながら真似して食べる。

「うわこの肉めっちゃうっっま!」

 美味い。めちゃくちゃ美味い。

 こんな高級食材普通に生活していたら絶対食えない。
 例え夢の中だけとは言え、こんなに贅沢出来るなんて……!

「ライラ、はしたないわよ」

 ゲーム内の母親に怒られてしまった。

「あ、ごめん……なさい、お母様」

 やはり口調が慣れない。

 しかし、俺がそう謝ると周りの人がみんな驚いた表情でこちらを見てきた。

 さっきの失言が余程駄目だったのだろうかと反省する。

 まあしかし夢なんだし、起きたら現実世界に戻るんだから、多少変な目で見られても大丈夫だろう。

 俺は特に気にしない様にした。

 それから夕食を食べ終わり、俺は部屋に戻った。

 それからもう一度鏡を見てみる。

 何度見ても、そこには悪役令嬢のライラが映っていた。

「しかしまあ、ゲームではあんまりフォーカスが当たってないから気付かなかったけど……。

すっごく可愛くね?」

 ゲーム内のライラは悪役令嬢らしくキツい表情ばかりの立ち絵であまり好きではなかったが、こうしてきちんと見るとかなり可愛い。

 俺は鏡の前でニッと作り笑いをして見せる。

「やだ、俺の顔、可愛すぎ……!」

 思わず呟いてしまった。

「しかし、本当に女子なんだな……。

てことは」

 俺は気付いてしまった。

 もし男が美少女になってしまったとしたら、まず真っ先に思い付くであろう事を。

 俺はドキドキしながら、そっと胸に手をやる。

 モミモミ。モミモミ。

 ……。

「胸が……無ぇ」

 立ち絵では特に気にしていなかったが、ライラはどうやら貧乳だったらしい。

 知らねーよそんな事実。
 俺の期待を返せよ馬鹿野郎。

 つーか、お邪魔キャラなら普通色仕掛けで相手を誘惑したりとかするだろ!?

 でもこのゲーム割と健全だったからなあ。

「クソッ! このゲームが18禁だったら良かったのに!」

 俺は悲しみ嘆いた。

 待てよ、まだ希望はある。

「こ、股間の方も、確かめた方が良いよな?」

 俺は恐る恐る手を下に持っていく。

 そして掴んでみた。

 無い。

 何とは言わないが、俺の相棒とも言えるあいつが無いのである。

「こ、これが女子の体……!」

 ん? でもこれって小便どうやるんだ?

 ……。

「まあいっか!
夢の世界だし!」

 しかし、それを気にした途端小便したくなってきた。

 そういえば女子って男よりトイレが近いんだっけ?

 俺はトイレへ向かおうとするも、屋敷が広くて何処が何処だか分からない。

 仕方ないので通りすがりのモブメイドに声をかけた。

 先程のメイドとはまた違うメイドの様だ。

 どうやらモブメイドだけでも何人かいるらしい。

「あの、すみません」

「ひっ、はい、何でしょうか?」

 何か凄い怖がられている。
 その反応ちょっと傷つくからやめて欲しい。

「トイレって何処? ……かしら」

「え?
トイレですか?」

 そう不思議そうにメイドは訊き返す。

 まあ確かに屋敷に住んでる人が何故に今頃トイレの位置なんぞ聞いてくるんだという話である。

「うん。トイレ行きたくて」

「え、と……。
ここの廊下を右に曲がった先です」

「ありがとう」

 それを聞いて俺はすぐ様トイレへと向かう。

 そして無事トイレへと着いたのだが。

「立ちション出来ない……だと!?」

 俺は生まれて初めて入った女子トイレに戦慄する。

 あの馴染み深いいつもお世話になっている小便器が無いのだ。

「つまり、座ってやるんだな、多分」

 俺はこうして何とか用を足すことが出来たのだが。

「何かいちいち座るの面倒だな」

 女子の体って中々不便だという事が分かった。

 俺が部屋に戻ると、またメイドが部屋にやってきた。

 こちらは最初にやって来たメイドである。
 恐らく俺に従えているメイドなのだろう。

「お着替えを持ってきました」

 メイドはそう言って俺に寝巻きを渡す。

「お風呂も沸かしておりますよ」

「風呂……」

 俺はメイドと共に風呂場に向かった。

 心臓がうるさいくらいに高鳴る。

 だって俺今女なんだぜ?

 つまり、女の裸体が拝める!
 いや、それどころか、触る事が出来る!

 いいのか、そんな事して。

 いや、今俺はライラなんだから、勿論オッケーだ。

 それにこんな夢もう二度と見れないだろうし、今のうちに楽しんで損はないはず!

 俺はそう邪な気持ちを胸にウキウキと風呂場へと向かった。

 そして、脱衣所でゆっくり服を脱ぐ。

 ヤバい。
 俺自分の体に興奮して……。

 ……おっぱい無いな……。

 脱いだ所でその絶望は変わりはしなかったのである。

 しかし、この後更に俺は絶望を味わう事になる。

 俺はその後風呂に入り、寝巻きに着替えて眠りについた。

 朝目覚めたら元の俺の部屋に戻っていると信じて。

 しかし、朝起きても俺は変わらず悪役令嬢ライラのままだったのである。
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