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第1話
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私、田中美智子。
ごくごく普通の専業主婦です。
旦那は普通のサラリーマンで、息子は高校2年生になりました。
私は今日も今日とて、平日の午前を掃除機をかけたり、洗濯したり、アイロンかけしたり、といつもの日常を過ごしておりました。
あの電話がかかってくるまではーー
プルルルと、私のスマホに突然電話がかかってきた。
着信は息子の貴志からだった。
(あの子から電話?まだ学校の筈じゃ……)
私は不思議に思いつつも、電話を出る。
「はい、もしもし」
「あ、すみません、貴志さんのお母さんでお間違いないでしょうか?」
私は眉をひそめた。
確かに息子からの着信だったはず……
しかし、電話口からは見知らぬ女性の声が聞こえてくる。
「そうですけれど、すみませんがどちら様でしょうか?」
「失礼しました。私、町田総合病院の受付の今野と申します」
「……病院?」
私は思いもよらぬ電話にびっくりする。
「落ち着いて聞いてください。
実は、あなたの息子の貴志さんが車に轢かれて今こちらで処置をしております」
「え!?」
私は言われた意味がすぐに頭に入らなかった。
貴志が轢かれた?
そんな、何故?
「お母さんも病院の方へいらして下さい」
「は、はい!すぐに向かいます!」
私は電話を切った後急いで外着へと着替え、タクシーを呼んで病院へと駆けつけた。
受付へ行くと、すぐ様病室へと案内された。
そこには、ベッドの上で呼吸器をつけて眠っている貴志の姿があった。
その横に白衣を着た医師が立っていた。
「先生!貴志は、うちの子は大丈夫なんですか!?」
私は医師の方へと詰め寄った。
「お母さんですね?貴志君の容態なんですが、今のところ命に別状はありません」
私はそれを聞いて少し安心する。
ですが、と医師は暗い顔で話を続けた。
「脳は正常に機能しているはずなのに、意識が戻らないのです」
「え?それはどういう事ですか?」
「実は、貴志君は外傷が少なかった分、心臓へのダメージが大きかったのか、うちに運ばれてきた時には心臓が動いていない状態だったんです。
それで、手術をして回復したのですが」
「何故か、どこにも身体異常がないはずなのに、目覚めないのです」
「異常がないのに、目覚めない……?
つまり、植物人間ということですか?」
私は青ざめながら質問する。
「いえ、植物人間というのは、大脳というところが機能していない状態です。
しかし、貴志君の脳は正常に動いています」
「そして、ここ最近では、全国的にそういう患者が増えてきています」
「え?全国的に?」
私は訳が分からず聞き返す。
「ええ、それで今色々と調べられているのですが、その患者達は、脳が凄く活発に動くのです。
そこで考えられているのが、もしかしたら意識だけ別の世界へと行っているのでは?という事です」
「意識だけ、別の世界へ?」
「はい。そしてその脳波を元に、もしかしたら健常者でもそちらの世界へ行けるのでは?と開発が進められ、今まだ世に出てはいませんが、テスト段階としてその機械が出来上がっているのです」
「えーと……」
私は話についていけなくなる。
「そこで、あなたにお願いがあります。
あなたも貴志君の行ってしまった別の世界へ入ってくれませんか?」
「それは、つまり、そこに行けば貴志の意識がある、ということですか?
でも、そんなのどうやって?」
「口で説明するよりも、見て貰った方が早いので、こちらへ来ていただけますか?」
すると、医師は私を別室へと案内した。
そこには、色んなグラフがうねうねと動いているモニターが沢山あり、その中央に、ベッドがあった。
「うわぁ、凄いですね。
まるでドラマの中の研究室みたい」
私はそう感想を言う。
「このモニターは、数々の脳波を元に作られたものです。
今回は貴志君の脳波の世界へ入るので、そちらに合わせます。
因みに、この脳波が今現在の貴志君の脳波です」
私はそうモニターを見せられる。
そこにはグネグネと線が動いていた。
やはり、脳は正常に動いているらしい。
「こちらの脳波を、この機械へと連動させます」
そう、医師は何やら頭に被る様な形の機械を手に持っていた。
「これを被れば、あなたは貴志君の意識の世界へと入れるはずです」
「あの、一つ質問してもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
私は言葉を考えながら質問する。
「その、機械を使えば誰でも貴志の行ってしまった、別世界?とやらに行けるんですか?」
「実は、全員が全員行ける訳では無いのです。
どうやら個人差もある様ですし、ただ、身内の方だとその世界に入りやすいと言われています
因みに、私自身も試したのですが、私は駄目でした」
そう医師は苦笑いする。
「そうなんですね……」
「後、一応今のところ実験でこの機械を使っても命に別状は無かったので、そこはご安心下さい。
ただ、念の為、意識の世界へ行くのは一日一時間のみとさせて頂いてます。
もしよろしければ同意書にサインを頂ければ……
もちろん、怪しいなと思いましたら、お断りしても構いませんので」
そう医師は私に同意書を渡してきた。
「でも、これ以外で貴志が助かる方法は無いんですか?」
医師は悩みながら答える。
「今のところ、残念ながらありません。
こちらも手を尽くしたのですが、他に異常がない為、手の出しようがないんです
このまま自然に意識が戻るのを待ってもいいのですが……」
私はごくりと唾を呑んだ。
「分かりました。お受けします」
ごくごく普通の専業主婦です。
旦那は普通のサラリーマンで、息子は高校2年生になりました。
私は今日も今日とて、平日の午前を掃除機をかけたり、洗濯したり、アイロンかけしたり、といつもの日常を過ごしておりました。
あの電話がかかってくるまではーー
プルルルと、私のスマホに突然電話がかかってきた。
着信は息子の貴志からだった。
(あの子から電話?まだ学校の筈じゃ……)
私は不思議に思いつつも、電話を出る。
「はい、もしもし」
「あ、すみません、貴志さんのお母さんでお間違いないでしょうか?」
私は眉をひそめた。
確かに息子からの着信だったはず……
しかし、電話口からは見知らぬ女性の声が聞こえてくる。
「そうですけれど、すみませんがどちら様でしょうか?」
「失礼しました。私、町田総合病院の受付の今野と申します」
「……病院?」
私は思いもよらぬ電話にびっくりする。
「落ち着いて聞いてください。
実は、あなたの息子の貴志さんが車に轢かれて今こちらで処置をしております」
「え!?」
私は言われた意味がすぐに頭に入らなかった。
貴志が轢かれた?
そんな、何故?
「お母さんも病院の方へいらして下さい」
「は、はい!すぐに向かいます!」
私は電話を切った後急いで外着へと着替え、タクシーを呼んで病院へと駆けつけた。
受付へ行くと、すぐ様病室へと案内された。
そこには、ベッドの上で呼吸器をつけて眠っている貴志の姿があった。
その横に白衣を着た医師が立っていた。
「先生!貴志は、うちの子は大丈夫なんですか!?」
私は医師の方へと詰め寄った。
「お母さんですね?貴志君の容態なんですが、今のところ命に別状はありません」
私はそれを聞いて少し安心する。
ですが、と医師は暗い顔で話を続けた。
「脳は正常に機能しているはずなのに、意識が戻らないのです」
「え?それはどういう事ですか?」
「実は、貴志君は外傷が少なかった分、心臓へのダメージが大きかったのか、うちに運ばれてきた時には心臓が動いていない状態だったんです。
それで、手術をして回復したのですが」
「何故か、どこにも身体異常がないはずなのに、目覚めないのです」
「異常がないのに、目覚めない……?
つまり、植物人間ということですか?」
私は青ざめながら質問する。
「いえ、植物人間というのは、大脳というところが機能していない状態です。
しかし、貴志君の脳は正常に動いています」
「そして、ここ最近では、全国的にそういう患者が増えてきています」
「え?全国的に?」
私は訳が分からず聞き返す。
「ええ、それで今色々と調べられているのですが、その患者達は、脳が凄く活発に動くのです。
そこで考えられているのが、もしかしたら意識だけ別の世界へと行っているのでは?という事です」
「意識だけ、別の世界へ?」
「はい。そしてその脳波を元に、もしかしたら健常者でもそちらの世界へ行けるのでは?と開発が進められ、今まだ世に出てはいませんが、テスト段階としてその機械が出来上がっているのです」
「えーと……」
私は話についていけなくなる。
「そこで、あなたにお願いがあります。
あなたも貴志君の行ってしまった別の世界へ入ってくれませんか?」
「それは、つまり、そこに行けば貴志の意識がある、ということですか?
でも、そんなのどうやって?」
「口で説明するよりも、見て貰った方が早いので、こちらへ来ていただけますか?」
すると、医師は私を別室へと案内した。
そこには、色んなグラフがうねうねと動いているモニターが沢山あり、その中央に、ベッドがあった。
「うわぁ、凄いですね。
まるでドラマの中の研究室みたい」
私はそう感想を言う。
「このモニターは、数々の脳波を元に作られたものです。
今回は貴志君の脳波の世界へ入るので、そちらに合わせます。
因みに、この脳波が今現在の貴志君の脳波です」
私はそうモニターを見せられる。
そこにはグネグネと線が動いていた。
やはり、脳は正常に動いているらしい。
「こちらの脳波を、この機械へと連動させます」
そう、医師は何やら頭に被る様な形の機械を手に持っていた。
「これを被れば、あなたは貴志君の意識の世界へと入れるはずです」
「あの、一つ質問してもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
私は言葉を考えながら質問する。
「その、機械を使えば誰でも貴志の行ってしまった、別世界?とやらに行けるんですか?」
「実は、全員が全員行ける訳では無いのです。
どうやら個人差もある様ですし、ただ、身内の方だとその世界に入りやすいと言われています
因みに、私自身も試したのですが、私は駄目でした」
そう医師は苦笑いする。
「そうなんですね……」
「後、一応今のところ実験でこの機械を使っても命に別状は無かったので、そこはご安心下さい。
ただ、念の為、意識の世界へ行くのは一日一時間のみとさせて頂いてます。
もしよろしければ同意書にサインを頂ければ……
もちろん、怪しいなと思いましたら、お断りしても構いませんので」
そう医師は私に同意書を渡してきた。
「でも、これ以外で貴志が助かる方法は無いんですか?」
医師は悩みながら答える。
「今のところ、残念ながらありません。
こちらも手を尽くしたのですが、他に異常がない為、手の出しようがないんです
このまま自然に意識が戻るのを待ってもいいのですが……」
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