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鈍感兄さん
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一方、再び結婚式場にて。
「エマお嬢様、ご結婚おめでとうございます」
「エマちゃん、結婚おめでとう!
そのウエディングドレス、すっごく素敵ね!」
式場にやって来ていたルイスとシーラはエマに祝言を伝えていた。
「ルイス様、シーラ様、ありがとうございます!」
「羨ましいわ。私も早くウエディングドレスを着られる日がくると良いんだけど」
と、シーラはそう言いながらルーカスを見つめていたが、ルーカスはちょうどルイスやノアと話していてその視線に気付く事はなかった。
「……私はまだ時間がかかる様だわ」
「が、頑張って下さいシーラ様!」
「そうよ、私もエマも応援しているわ!」
がっかりと肩を落とすシーラをエマと私は2人で必死に応援した。
一方、見つめられていたルーカスはルイスに問い掛けられていた。
「ところでルーカス様は今気になる方とかいらっしゃるんですか?」
「え? ああ、いや、まあ……」
そう訊かれたルーカスは歯切れ悪く答えながらチラッと落ち込んでいるシーラの方を見やる。
「ルーカス兄さん、もしかしてシーラ様が気になっているんですか?」
「い、いや、気になるというか……この前励まされてな」
ノアの問いにそう苦笑いでルーカスは答えながらその時の事を思い出していた。
それは、オリヴィアとノアが下町に住み出して少し経った後の事だ。
オリヴィアとノアに自営業の事を教えている時、笑顔で2人に教えつつもまだ吹っ切れていなかったルーカスは内心複雑な気持ちをいだいていた。
「うーん、ここはどうしようかな……」
「リヴィ、こうしたら?」
「あー、それいいかも」
2人でお店のレイアウトを考えているのをルーカスは眺めながら羨ましく思っていた。
そして、そんな自分に自己嫌悪していた。
ノアを羨ましく思っては駄目だ。
俺の大好きな人は、俺の大事な弟と結ばれた。
喜ばしい事じゃないか。
「ねえ、ルーカスはどう思う?」
そんな2人に、こうやって頼られるのは光栄な事だ。
「そうだな。俺なら……」
それから2人がブルーラインに帰っていった後、偶然シーラがハワード家にやって来た。
「ルーカス様! 突然すみません。
実はまたキッシュを焼いたので、お裾分けしようと思って!」
にこにこと話しながら焼きたてのキッシュの入ったカゴを携えてシーラはそう話す。
「シーラ様、ありがとうございます。
是非いただきます」
俺はそんなシーラににこりと微笑んでキッシュを受け取った。
すると、シーラは訝し気な顔で問い掛けてきたのだ。
「ルーカス様? 何かありましたか?
私でよろしければ相談に乗りますわ」
「え? いや、大丈夫ですよ」
俺がそう断ると、シーラは真剣な表情で話し出した。
「ルーカス様。私はルーカス様が笑顔を見せて下さったあの時からずっとルーカス様の事をお慕いしておりました。
だから、ルーカス様が無理をして笑顔を作っている事なんてお見通しです。
それに、きっとオリヴィア様の事なのでしょう?」
そうシーラに問われて俺は図星を言い当てられてドキッとする。
「……バレバレでしたか」
「別に私の前では無理しなくても良いですわ。
私はどんなルーカス様でも受け入れます」
「シーラ様……それなら、是非俺に一喝していただけませんか?」
俺がそう伝えると、シーラはキョトンとしていた。
「え? 一喝……ですか?」
「はい。いつまでもオリヴィア様を忘れられない女々しい俺に対して、どうか叱っていただけないでしょうか?
こんな事頼むのはおかしいでしょうけれど……」
お願いしますと頭を下げる俺に、シーラは困った様な表情で返事をした。
「ええと……分かりました。
うまくいくか分かりませんが……」
それからシーラはすぅ、はぁ、と一呼吸吐いた後キッと俺を鋭く睨みつける。
「いつまでオリヴィア様の事を引きずっていらっしゃるのかしら!?
早くそんな女の事なんか忘れなさい!」
「は、はい! 申し訳ありません!!」
シーラにそう怒鳴られた俺は気付くと思わず頭を下げて謝っていた。
「あ! や、やり過ぎだったかしら!?
ご、ごめんなさい!」
それからシーラは申し訳なさそうな顔をして謝ってきたので、俺は手を振ってそれに答える。
「い、いえいえ! 俺が言い出した事ですし!
寧ろありがとうございます!」
と、感謝の気持ちを伝えると、シーラは顔を赤くして困った様に微笑んだ。
「そ、そうかしら?
その……お役に立てたなら良かったです」
「はい。ありがとうございました」
俺は気付いたら悩んでいた事も忘れていつもの様に笑っていた。
実はあの日以来、俺はシーラの怒り顔が忘れられずにいた。
我ながら変だと思うが、まるでオリヴィア様に叱られた時の様にドキドキしてしまったのだ。
かと言って、この前までオリヴィア様が好きだったのに、振られたから元婚約者のシーラ様の方にまた戻るだなんてよろしくないだろうし、シーラ様だって呆れてしまうだろう。
俺を励まそうと慕っていると言ってくれただけで、きっともう俺の事なんて眼中にないだろうし……。
ルーカスはそう考えながら小さく溜め息を吐く。
そんなルーカスを見てルイスとノアはお互い顔を見合わせていた。
この2人、もしかして実は両想いなのでは??
ルイスとノアはそう思いながらルーカスを後押しする様に言葉をかけた。
「俺としては早くルーカス様とシーラ姉さんが付き合えばと思っているんですが……」
「僕もその意見には同意ですね」
「そんな、シーラ様は俺の事なんてもう吹っ切れてるだろうし、それに俺にシーラ様は勿体ないだろ?」
そう残念そうに話すルーカスを見て、ルイスとノアはそれぞれ溜め息を吐いた。
「ルーカス兄さんの鈍感」
「ん? ノア、何か言ったか?」
「いえ、何でもないですよ」
これはまだまだ時間がかかりそうだと呆れるノアとルイスなのだった。
「エマお嬢様、ご結婚おめでとうございます」
「エマちゃん、結婚おめでとう!
そのウエディングドレス、すっごく素敵ね!」
式場にやって来ていたルイスとシーラはエマに祝言を伝えていた。
「ルイス様、シーラ様、ありがとうございます!」
「羨ましいわ。私も早くウエディングドレスを着られる日がくると良いんだけど」
と、シーラはそう言いながらルーカスを見つめていたが、ルーカスはちょうどルイスやノアと話していてその視線に気付く事はなかった。
「……私はまだ時間がかかる様だわ」
「が、頑張って下さいシーラ様!」
「そうよ、私もエマも応援しているわ!」
がっかりと肩を落とすシーラをエマと私は2人で必死に応援した。
一方、見つめられていたルーカスはルイスに問い掛けられていた。
「ところでルーカス様は今気になる方とかいらっしゃるんですか?」
「え? ああ、いや、まあ……」
そう訊かれたルーカスは歯切れ悪く答えながらチラッと落ち込んでいるシーラの方を見やる。
「ルーカス兄さん、もしかしてシーラ様が気になっているんですか?」
「い、いや、気になるというか……この前励まされてな」
ノアの問いにそう苦笑いでルーカスは答えながらその時の事を思い出していた。
それは、オリヴィアとノアが下町に住み出して少し経った後の事だ。
オリヴィアとノアに自営業の事を教えている時、笑顔で2人に教えつつもまだ吹っ切れていなかったルーカスは内心複雑な気持ちをいだいていた。
「うーん、ここはどうしようかな……」
「リヴィ、こうしたら?」
「あー、それいいかも」
2人でお店のレイアウトを考えているのをルーカスは眺めながら羨ましく思っていた。
そして、そんな自分に自己嫌悪していた。
ノアを羨ましく思っては駄目だ。
俺の大好きな人は、俺の大事な弟と結ばれた。
喜ばしい事じゃないか。
「ねえ、ルーカスはどう思う?」
そんな2人に、こうやって頼られるのは光栄な事だ。
「そうだな。俺なら……」
それから2人がブルーラインに帰っていった後、偶然シーラがハワード家にやって来た。
「ルーカス様! 突然すみません。
実はまたキッシュを焼いたので、お裾分けしようと思って!」
にこにこと話しながら焼きたてのキッシュの入ったカゴを携えてシーラはそう話す。
「シーラ様、ありがとうございます。
是非いただきます」
俺はそんなシーラににこりと微笑んでキッシュを受け取った。
すると、シーラは訝し気な顔で問い掛けてきたのだ。
「ルーカス様? 何かありましたか?
私でよろしければ相談に乗りますわ」
「え? いや、大丈夫ですよ」
俺がそう断ると、シーラは真剣な表情で話し出した。
「ルーカス様。私はルーカス様が笑顔を見せて下さったあの時からずっとルーカス様の事をお慕いしておりました。
だから、ルーカス様が無理をして笑顔を作っている事なんてお見通しです。
それに、きっとオリヴィア様の事なのでしょう?」
そうシーラに問われて俺は図星を言い当てられてドキッとする。
「……バレバレでしたか」
「別に私の前では無理しなくても良いですわ。
私はどんなルーカス様でも受け入れます」
「シーラ様……それなら、是非俺に一喝していただけませんか?」
俺がそう伝えると、シーラはキョトンとしていた。
「え? 一喝……ですか?」
「はい。いつまでもオリヴィア様を忘れられない女々しい俺に対して、どうか叱っていただけないでしょうか?
こんな事頼むのはおかしいでしょうけれど……」
お願いしますと頭を下げる俺に、シーラは困った様な表情で返事をした。
「ええと……分かりました。
うまくいくか分かりませんが……」
それからシーラはすぅ、はぁ、と一呼吸吐いた後キッと俺を鋭く睨みつける。
「いつまでオリヴィア様の事を引きずっていらっしゃるのかしら!?
早くそんな女の事なんか忘れなさい!」
「は、はい! 申し訳ありません!!」
シーラにそう怒鳴られた俺は気付くと思わず頭を下げて謝っていた。
「あ! や、やり過ぎだったかしら!?
ご、ごめんなさい!」
それからシーラは申し訳なさそうな顔をして謝ってきたので、俺は手を振ってそれに答える。
「い、いえいえ! 俺が言い出した事ですし!
寧ろありがとうございます!」
と、感謝の気持ちを伝えると、シーラは顔を赤くして困った様に微笑んだ。
「そ、そうかしら?
その……お役に立てたなら良かったです」
「はい。ありがとうございました」
俺は気付いたら悩んでいた事も忘れていつもの様に笑っていた。
実はあの日以来、俺はシーラの怒り顔が忘れられずにいた。
我ながら変だと思うが、まるでオリヴィア様に叱られた時の様にドキドキしてしまったのだ。
かと言って、この前までオリヴィア様が好きだったのに、振られたから元婚約者のシーラ様の方にまた戻るだなんてよろしくないだろうし、シーラ様だって呆れてしまうだろう。
俺を励まそうと慕っていると言ってくれただけで、きっともう俺の事なんて眼中にないだろうし……。
ルーカスはそう考えながら小さく溜め息を吐く。
そんなルーカスを見てルイスとノアはお互い顔を見合わせていた。
この2人、もしかして実は両想いなのでは??
ルイスとノアはそう思いながらルーカスを後押しする様に言葉をかけた。
「俺としては早くルーカス様とシーラ姉さんが付き合えばと思っているんですが……」
「僕もその意見には同意ですね」
「そんな、シーラ様は俺の事なんてもう吹っ切れてるだろうし、それに俺にシーラ様は勿体ないだろ?」
そう残念そうに話すルーカスを見て、ルイスとノアはそれぞれ溜め息を吐いた。
「ルーカス兄さんの鈍感」
「ん? ノア、何か言ったか?」
「いえ、何でもないですよ」
これはまだまだ時間がかかりそうだと呆れるノアとルイスなのだった。
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