上 下
303 / 328

ごめんなさい

しおりを挟む
「アデック王子、今日もまた相談に乗ってくれてありがとうございました」
「ああ、まあ頑張れよ」

 相談も終わり帰り際に私がそう礼を言うと、アデックはからかう様な笑顔で応援してくれた。

「はい。頑張ってみます」
「おう、また何かあったらいつでも相談に乗ってやるからな」
「ありがとうございます。
それじゃあまた」
「ああ、またな」

 私はもう一度礼を言った後、ソフィアと共に馬車に乗り込みハワード家へと帰っていった。



「それでソフィアは先生とあの執事の人とどっちを選ぶの?」

 ハワード家へと帰る馬車の中、私はどうしても気になってしまいたまらずソフィアに問い掛けていた。

「オリヴィアお嬢様、もしかして聞いてたんですか?」
「ごめん、聞くつもりはなかったんだけど、あまりにも先生の声が大きくて聞こえてきたの」

 私が弁明すると、ソフィアは恨めしそうに呟く。

「全く、兄さんめ……」
「それで、どうなの?」

 その後私が再度訊き返すと、ソフィアは顔を赤らめながら恥ずかしそうに答えた。

「……そんなの急に訊かれても、分からないですよ」
「そうなの? てっきり付き合いが長い先生を選ぶかと思ってたわ」

 私がそう言うと、ソフィアは目を丸くして驚いた後物凄い勢いで首を横に振った。

「いやいや! 兄さんと付き合うだなんて想像出来ませんし!」

 それからソフィアは少し寂しそうに呟く。

「……それに、兄さんだって私の事ただのうざい奴くらいにしか思ってないでしょうし」
「そうかしら? 本当にうざいと思ってるならまず話したりしないと思うけど」
 
 私が思った事をそのまま言うと、ソフィアはいやいやと手を横に振った。

「兄さんは私の事嫌ってますもん。
本当に好きならもっと優しく接するでしょう?」
「……そう?」

 不満気に答えるソフィアには悪いが、私としては先生が人に優しくしている所が想像つかなかった。

「というか私の話なんてどうでもいいんですよ!
小説やドラマでよくある主人公の周りの脇役達の恋愛なんてみんな興味ないでしょう?」
「それは人それぞれな気がするけれど……」

 その後は私が質問してもソフィアは頑なに何も答えてくれなかった。


 そうこうしているうちに馬車はハワード家に着き、私は馬車を降りて屋敷に入ろうとすると、ちょうど来客の馬車がやって来た。

「あ! オリヴィア様!
ご機嫌よう!」

 そう馬車から颯爽と現れたのはハンネル家の長男のルイスだった。

 ルイスは私の姿を見つけるなりにこにこと笑顔で挨拶する。
 
「あ、ご機嫌よう。ルイス様」

 私もルイスに挨拶を返すと、ルイスは私の元に駆け寄って質問してきた。

「オリヴィア様、何処かへ出掛けてたのかい?」
「ええ、まあちょっとアデック王子のところに」

 私がそう答えると、ルイスはピシッと一瞬で固まり変な空気が流れだす。

「そう……アデック王子のところ、か……」

「ルイス様?」

 何やら呟いているルイスに声を掛けると、ルイスは我に返ったのかぎこちないながらにも笑顔に戻った。

「あ、いや、何でもないよ。
それにしても今日は会えて良かったよ。
前に何度かアポ無しで来た事もあったんだけど、タイミングが悪くて会えずじまいだったから」
「え? そうだったの?
折角来てくれてたのにごめんなさい」

 ルイスにそう言われて私はぺこりと頭を下げる。

 まさかルイスが時々アポ無しで来ていたとは。
 というか、私普段はあまり外に出掛けないのに、ことごとくタイミングが合わなかったのも逆に凄い気がする……。

 私がそう半ば感心していると、ルイスは慌てて手を横に振っていた。

「ああいや、こっち側に用がある時に帰り際寄るくらいだから全然謝らなくていいよ。
そもそもアポ無しだったから仕方がないしね。
でも、折角今日は会えたんだし少しお喋りしても良いかな?
あ、勿論オリヴィア様が疲れてなかったらで良いけど」

 恐らく私が今帰って来たばかりだから気を遣ってくれたのか、私に判断を委ねてくれた。

「いえ、大丈夫よ。
それじゃあ中へどうぞ」
「ありがとう、オリヴィア様」

 私がそう返事をした後ルイスと一緒に屋敷へ入って客間の方へと向かった。

「あ! そうだ、ルイス様に渡そうと思っていたものがあるんだった」
「え? 俺に?」
「はい。取ってくるのでちょっと待ってて下さい」

 私はふとある事を思い出して部屋に一旦行ってからまた客間へと戻ってきた。

「これ、良かったら好きな物どうぞ」

 それから私は趣味で作っていたブレスレットを何個かルイスに見せると、ルイスは目を輝かせて確認するかの様に訊き返してきた。

「え!? 俺が貰ってもいいのかい!?」
「ええ。そう言えば前にルイス様が手作りのアクセサリー欲しいって言ってたのに誕生日に渡すの忘れてた事思い出したので。
誕生日に渡せなくてごめんなさい」

 確かルーカスの誕生日に手作りのネックレスを作っていると言ったらルイスが欲しいと言っていた事を、ルイスから告白された後色々と悩んでいた最中に思い出したのだ。

 なので、次会ったら渡そうと考えていた。

「そんな、覚えていてくれただけでも嬉しいよ!
それじゃあ俺はこれを貰おうかな」

 それからルイスは青色のブレスレットを選んで嬉しそうに腕に付けた。

「本当にありがとうオリヴィア様!
大事にするよ」
「いえ、こちらこそ趣味で作った物なので、こんな物くらいしかなくて……」
「いや、それでも全然嬉しいよ!」

 ルイスはにこにこと本当に嬉しそうに笑っている。

「これなら、俺にも少し脈はあるのかな?
なんて」

 ルイスのその言葉に、私はズキンと胸が痛んだ。

 本当は、ブレスレットなんて渡さない方が良かったのかもしれない。

 でも、前にした約束くらいせめて叶えてから返事をしようと思ったのだ。

「ルイス様。
その、前の告白の返事なんですけど……。

ごめんなさい。私、ルイス様とは付き合えません」

 私はルイスの瞳を見据えてそうきっぱりと言い切った。

 何だかとても悪い事をしてる気がする。

 だって、ルイスは悪い人じゃない。
 それでも、傷付けなければいけないのが、こんなにも怖い。

「うん。分かったよ」

 しかし、ルイスはにこりと優しく微笑んでいた。

「ルイス様……」
「オリヴィア様、そんな顔しなくても大丈夫だよ。
俺はそんなに弱くないからさ。
そりゃあ振られたのは残念だけど、オリヴィア様が本当に好きな人と付き合って幸せになれるのなら、それが俺の望みであり幸せだから。
それに、ノア君も無事に帰って来た様だし、良かったじゃないか。

……まあ俺としてはいけすかないではあるけど」

 と、ルイスは最後の所をボソッと小声で呟く。

「ルイス様……ごめんなさい。ありがとうございます」

 きっと、ルイスは私が罪悪感に駆られない様にわざと明るく振る舞ってくれてるのだろう。

 そういえば、エマを振った時もそうだったっけ?
 みんな、何でこんなに優しいんだろう。

「うっ……」

 ふいに、ぽたっと涙が出てきて私は必死にそれを隠そうと下を向いた。

 私が泣いてどうする?
 本当に傷付いているのはルイスなのに。

 すると、ルイスはそっと私にハンカチを手渡してきた。

「これ、良ければ使って」
「あ、いや、ごめんなさい!
大丈夫だから!」

 私は悪いと思って手を横に振るが、しかしルイスに無理矢理ハンカチを握らされてしまった。

「良いから。これ、返さなくても大丈夫だから。
それじゃあ俺はもう行くね」
「え? あ、ありがとうございます」

 きっと返すと言ってもルイスは受け取ってくれないだろうし、私はそのまま礼を言うと、ルイスは優しく微笑んだ後そのままそれじゃあ、と席を立った。

「またね、オリヴィア様」
「あ、はい。また……」

 こうして、ルイスは帰っていった。

「……返さなくてもいい、か」

 これでルイスからハンカチを貰うのは2度目だなと白い綺麗なハンカチを見つめながら私は部屋へと戻る事にした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...