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下手な嘘

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「そんじゃあ早速本題に入るか。
因みにそのアレシア姫の手紙はあるのか?」

「ええ。これです」

 私はアデックに昨日届いたアレシアからの手紙をアデックへと渡した。

「ふーん、大分綺麗なノルトギア語が書けるんだな」

 アデックは手紙を見ながらそう呟く。

「……成る程な。小手調べに動いてきたって感じか。
まあ流石にノアが向こうに行ってから初のお呼ばれでお前やノアに危害を加えたりだなんて事はないだろうけど……。
日時は週末の土曜日の昼12時から、か」

 それから手紙に書かれていた日時を確認してアデックはうーんと思案顔になる。

「まあ、どっちにしろお前に断る権限はないだろうし、行くしかないのは確かなんだよな。
もしくは俺との用事が先にあるからって無理矢理断る事も出来るには出来るがそれが通用するのは最初の一回目だけだろうし、それにそこまでして断った所で意味もないしな」

「そう、ですよねぇ……」

 確かに隣国の姫からの誘いを断る条件として、自国の王子との用事が先に入っているなら流石にそちらを優先させた方がいいとなりはするだろう。

 しかし、その手も何回も連続で使う事が出来ない。

 それに何より私とアデック王子との用事があるだなんて言ったらそれこそまたスキャンダルされてしまいそうだ。

 それからアデックは神妙な顔つきで話し出した。

「……オリヴィア、1つ策があるんだが……ただ、これは下手したらお前とノアが危険な目に遭う可能性もある。
まあそうならん様に手は打つけど」

 いつになく真面目な顔つきで話すアデックを見て私は固唾を飲んで質問した。

「それは、一体何でしょうか?」

 そうして私はアデックからとある策を聞かされた。

「……上手くいくか分かりませんが、まあ、一応頑張ってみます」

 その策を聞いて私は上手く出来るか不安になったが、しかしアデック王子が考えた作戦なのだしここは素直に信じてその通りやってみようと思う。

「おう、よろしく頼んだぞ。
それじゃあ俺は午後からまた仕事があるから今日はもう帰るわ」

「あ、分かりました」

 そして私はアデック王子を外まで見送りに行った。

「じゃあなオリヴィア、土曜日頑張れよ!」
「うっ……は、はい」

 そう言い残してアデックは王室へと帰っていったのだった。

「……はぁ。上手くいくかしら」

 アデックが帰った後オリヴィアは先程聞いたアデックからの作戦に頭を悩ませていた。

 一方アデックはというと……。

「はぁ……今までのどんな仕事よりオリヴィアの部屋で2人っきりの方が緊張するとか……」

 表に出してはいなかったが実はめちゃくちゃ緊張していたのだった。

 本当にあいつは人の気も知りもしないで……!
 いや、俺も言うつもりもないんだが。

 ただ、手作りのアクセサリーを褒めて素直に礼を言ってきた時の顔が可愛すぎて辛かったな……。

 それと……。

「いつも以上にドレスがシンプルだったせいか大人びて見えたな……」

 そう呟きながら赤面するアデックなのであった。



「オリヴィアお嬢様、もしかしてその普段着ドレスでアデック王子と会われたのですか?」

「あ、そう言えば着替えるの忘れてたわ」

 アデックを見送って屋敷に入った後、私はメアリーからの指摘を受けてそう言えばいつも部屋で着ている大分質素なドレスでアデックに対応していた事に今更気付いた。

「はあ、まあアデック王子なら大丈夫でしょうけれど、他のお客様がいらした時はきちんとしたドレスに着替えて下さいね?」
「ごめんなさい、気をつけるわ」

 相手がアデックだった為メアリーからもそこまで怒られずに済んだ……。

 というか、普通は一国の王子が来た時こそ1番ちゃんとしたドレスで出迎えなくてはならないのでは? とも思ったのだが、メアリーもアデックの性格を知っているが故にそこまで怒らなかったのだろう。

 いや、それもどうなのかと思うのだが。

「ああいや、こちらこそ入ったばかりの新人メイドがたまたまアデック王子に声を掛けられた事にテンパってしまってオリヴィアお嬢様にドレスを着替える様伝えられなかった事もありますので、それはこちらの不手際なので大変申し訳ないです」
「いやいいのよ。寧ろ新人がテンパるのも無理ないと思うわ」

 そりゃあ確かにお屋敷に働き出して間もないのにいきなり王子が来たらそりゃあ誰だってびっくりしてしまうだろう。

 恐らくアデックもたまたま近くに居た人に話しかけただけだろうし。

「それとオリヴィアお嬢様、1つ訊いてもよろしいですか?」

 それからメアリーは急に真面目な顔で問い掛けてきた。

「何かしら?」

「昨日オリヴィアお嬢様が私に相談した時、トラブルに巻き込まれた少年がノア様だって言ってましたよね?
それって何のトラブルですか?」

「……あ」

 そういえば、昨日メアリーに確かにそう説明した気がする。

「まさか、ノア様が突然アレシア姫と付き合いだしたのって、そのトラブルに……」
「あーーっ!! い、いや、違うの!!
アレシア姫は全く! 全っ然!! 関係ないからっ!!!」

 段々勘づいてきたメアリーの考えを私は必死に否定する。

 もしメアリーにバレてしまったら、きっとハワード子爵の耳に入ってしまうだろう。

 そうなった場合、変に大事になってそれが原因でノアの身に何かあったらまずい。

「オリヴィアお嬢様……なら何のトラブルなのですか?」

「うっ! え、えと……」

 ジト目でメアリーに問い掛けられて私は言葉に詰まる。

 本当にこんな時すらすらと言い訳を考えつくノアを羨ましく思う。

 どうやったらあんなにすぐにマシな嘘がつける様になるのだろうか?

「……じ、実は、ノアが……」
「ノア様が?」

「……その、さ、詐欺紛い? みたいなのにあって苦労してるとかしていないとか……」
「詐欺紛い? 一体何ですかそれは」

 苦しい言い訳を更にメアリーに言及されて私はつい目が泳いでしまう。

「え? えーと……わ、私も詳しくは分からないんだけど、兎に角何か苦労してるみたいで! それで何か力になれたらなと思っただけで!
あ、あんまり大事にしたくないから、他の人に言わないで欲しいって言われてたの!
だからメアリー、この事は秘密にしててくれないかしら?」

 私は何とかメアリーを口止めしたくてそう懇願すると、メアリーは溜め息を吐きながら渋々了承してくれた。

「……はぁ。分かりましたよ。
ただしオリヴィアお嬢様、何か危ない事ならすぐに周りの大人を頼って下さいね?
ノア様もオリヴィアお嬢様もしっかりしているとはいえ、まだまだ子供なのですから」

「ええ、分かったわ」

 心配そうなメアリーを他所に、私は取り敢えず窮地を脱した事に一安心する。

「そ、それじゃあ私は部屋に戻るわね」
「はい。分かりました」

 そしてオリヴィアが部屋に戻った後、メアリーははぁ、と大きく溜め息を吐いた。

「やはり旦那様の読み通り、ノア様は望んでアレシア姫と婚約した訳じゃなさそうですね。
そしてどうやらその事をバラされたらまずい状況だと……。
さて、どうしましょうかね……」

 メアリーはふむと考えながら、コツコツとハワード家の奥の部屋へと姿を消したのだった。
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