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悪魔の子

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 ※作中で1番シリアス展開です。
 苦手な方はご注意下さい。


 俺は親の愛情を知る事なく育てられてきた。

 いつだって俺を支配していたのは暴力だった。

「何だその赤い眼に八重歯は!?
お前は人間じゃない、悪魔の子だ!」

 きっと、理由は何だって良かったんだと思う。

 父親も母親も、俺を殴る理由が欲しかったんだ。

 それが、たまたまこの容姿だっただけで。

「お前がそんなんだから、恥ずかしくて外にも連れていけないわ!
あんたなんて生まれてこなければ良かったのに!」

 毎日の様に、ぶたれ、殴られ、時にはライターで炙られたり、お湯をぶちまけられたり……そんな地獄の様な日々を過ごした。

 食べ物もろくに与えられず、俺は生き延びるために必死にキッチンの流しから野菜の切れっ端など取り敢えず食べれる物を何でも食べた。

 何で俺がこんな目に遭ってるのかは分からないけれど、生まれた時からこうだった為か、すっかり俺はこれが当たり前の事なんだと認識していた。

 だから、痛くて辛いとは思えても悲しくはなかった。

 ただ、アザが治る頃には別のアザが増え、火傷の痕が増えていった。

 そして、俺が6歳の頃。

 父親がいつもの様に俺を殴ろうとした時の事。

 いつもいつも殴られていた俺は、すっかり父親の攻撃パターンを覚えていた。

 なのでその日、何となく、俺も父親の様に出来るんじゃないかと思ったんだ。

 父親との身長差は100センチ以上もある。

 普通なら、挑む事すらしないだろう。

 それでも子供ゆえか、それとも慣れか、父親に挑む事を怖いとは思わなかった。

 いつもの様に殴ってきた父親の攻撃を躱し、俺はその足元目掛けて父親と同じ様なフォームで殴ってみた。

「痛っ!?
こ、こいつっ!!」

 すると、父親はまさか俺から反撃されるとは思ってもみなかったらしく、もろに俺のパンチを食らった。
 そのせいか足に力が入らずに父親はそのまま体勢を崩して倒れていった。

 しかし、倒れた先が悪かった。

 父親は後ろのキッチンの角に思いっきり後頭部を打ちつけ、そこから鮮やかな赤い血がどくどくと流れ出したのだ。

 今思えば、お酒も入っていたせいで血流が良くなっていた事もあってか、血は止まらずどんどんと流れていき辺り一面を赤く染めあげた。

「ひ、ひぃ!
やっぱりあんたは悪魔の子だったんだ!
このっ! 殺してやる!」

 その一部始終を見ていた母親は包丁を持って俺を本気で殺しにかかってきた。

 それを見て俺は咄嗟にこの母親を殺らなければ俺が殺されると理解した。

 包丁を振りかぶっている母親の足目掛けて俺は今度は思いっきり蹴りを入れる。

「うわぁ!」

 それから母親はすっ転び、持っていた包丁は遠くに転がっていった。

 俺はそれを走って拾い、起きあがろうとしている母親の背中に馬乗りになってその背中目掛けて躊躇いなく刺した。

「うがぁ!」

 しかし、握力が足りなかったのか一撃では母親は死なず、背中に手を回して包丁を取ろうとしたので、俺は怖くて何度も母親の背中を刺した。

 何度も、何度も、母親が動かなくなってからも、暫く刺し続けた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 それから刺し疲れた俺は、包丁を抜いて血濡れて倒れている両親を見やる。

「……良かった」

 もう、これで俺を傷付ける人はいない。

 その安心感に、俺は思わず涙が溢れた。



「……お腹、空いた」

 暫く泣いて喜んだ後、俺は腹を満たす為に冷蔵庫の中身を物色した。

 そこで初めて俺はハンバーグを食べた。

 本当なら冷蔵保存されているのを温め直さなくてはいけないのだが、子供の頃の俺にそんな知識はなく冷えたまま齧り付いた。

「……美味い」

 それでも、今まで食べていた野菜の切れっ端なんかより何百倍も美味しく感じた。



 それから暫くは冷蔵庫の中の物を食べていたが、流石に1週間も過ぎると食べ物は底を尽きてきてしまった。

 それに、父親と母親の死体はすっかり腐敗して異臭がたち、虫が集っていた。

「……どうしよう」

 取り敢えず、この家から出るしかないか。

 俺は初めて外の世界へと飛び出した。

 そこには、俺が見た事もない風景が広がっていた。

 町には色んな人達が行き交いしており、お店には美味しそうな食べ物が立ち並んでいた。

 勿論金で何かを買うという事を知らなかった子供の頃の俺は、美味しそうなパン屋さんのパンを勝手に盗って食べた。

「こらっ!」
「いっで!」

 すると、後ろから思いっきりげんこつをお見舞いされた。

 俺はやっと両親の暴力から解放されたのに、外にもまだ暴力を振るう奴がいるのかとそいつを睨む。

「あんた人の商品を何勝手に食って……って、あんた何だいその顔は」

 パン屋のおばさんは俺の顔を見て思いっきり顔をしかめる。

 ああ、このおばさんもきっと俺の事悪魔の子とか言い出すんだ。

 俺はてっきりそう思ったのだが。

「傷だらけじゃないか、誰にやられたんだい?
とにかくこっちへおいで」
「え……」

 ぐいっと強引に腕を引っ張られて店の奥へ連れて行かれ、俺は強制的に服を脱がされた。

「な、何すんだよ変態!」
「あーあーあー、何だいこのアザに火傷は!
あんた虐待されてたのかい?」
「ギャクタイ? 知らねーよ!」

 するとパン屋のおばさんは何やら薬を塗り出したのだが、それが何ともしみて痛かった。

「痛い! やめろ!」
「ちゃんと薬塗らないと、治るもんも治らないよ!
ほらパンやるから大人しくしてな!」
「むがっ!」

 騒ぐ俺を大人しくさせる為か、おばさんは半ば強引に俺の口にパンを突っ込んだ。

「これで良し。
本当は病院に行った方がいいけど、見たところあんた家出かい?
住む場所がないならうちで住み込みで働くかい?」
「うるせー! 変態ばばあ!」
「あんだって!?」

 それから俺は逃げる様にパン屋を出て行った。

 大人になって考えてみたら、見ず知らずのガキの傷の手当てをして更にパンまでくれた優しいおばさんだったのだが、あの頃親の愛情すら知らなかった俺からしたら何か傷をいじられて勝手に痛い事してきた変態ばばあとしか認識出来なかった。

 正直、誰も信用なんて出来なかったんだ。

 それから数年、俺は路地で過ごしてきた。

 主に最初の頃はお店の物を盗んだり、たまに優しい人が恵んでくれたり、逆にストレス発散代わりに殴りかかってきた人を返り討ちにして金を奪ったり……まあそんな事ばかりしてのらりくらりと日々を無駄に過ごしていた。

 そして俺が路地に暮らし始めて6年経ち、色々な事を理解し始め路地の暮らしにもすっかり慣れた頃。


「お兄さん、そこの路地に住んでる人?」

「誰だよ? お前」

 ゴスロリっぽいフリフリのドレスを身に纏った白髪に赤い瞳の少女が俺の住んでいた路地にやって来た。
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