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みんなの想い

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 建国祭から数日後の週末。

「折角オリヴィア様と2人きりで町を見て回れると思ってたのに……」
「あら何不貞腐れてるのよルイス、別にデートじゃなくてアデック王子へのプレゼント選びでしょう?
私が一緒だと何か不満なのかしら?」

 不貞腐れているルイスに、シーラはそう言い返していた。

「シーラ姉さん、少しくらい空気を読んでよ」
「あら、今回私を誘ってくれたのは紛れもないオリヴィア様なのだけれど?」
「えーと、まあ、そうね……」

 シーラの言葉に私は肯定する。

 そう、今日はルイスと、それからシーラと私の3人で町までやって来ていた。

 何故こうなったのかと言うと、時は建国祭まで遡る。



 あの建国祭のパーティでルイスと別れた後、私はたまたまシーラとも会っていた。

「あ、シーラ様。ご機嫌よう」
「あらオリヴィア様、ご機嫌よう」

 私がそう軽く挨拶をすると、シーラも挨拶を返して来た。

「あ、そうそう、さっきルイス様からアデック王子の誕生日がそろそろだって聞いたのよね。
シーラ様も何か渡すの?」

 私は何となく話題の1つとしてシーラにそう訊くと、どうやらシーラも今私に言われて思い出したらしく焦った様な顔をする。

「あー……そう言えばそうだったわね。
今度買いに行かなきゃだわ」
「シーラ様もまだだったんなら、さっきルイス様と一緒にプレゼントを買いに行くって約束したので、良かったらご一緒にどうですか?」

 折角だし、と私が誘うと、シーラは嬉しそうに微笑んだ。

「あら、私も是非オリヴィア様と一緒にお買い物してみたいと思っていたの。
それなら今週末一緒に行きましょう!」

 こうして、ルイスの知らぬ所で私はシーラと約束を取り付けていたのだった。


「うぅ……まあ、オリヴィア様からシーラ姉さんを誘ったんなら仕方ないか……」

 ルイスは半ば諦めた様にそう呟く。

「ところでシーラ様やルイス様はいつもアデック王子にはどんな物をあげてるんですか?」

 そんなルイスをスルーして私が尋ねると、シーラはそうねぇ、と答えだした。

「私は、大体猫用の遊び道具やグッズかしら。
3匹もいると結構すぐにおもちゃが壊れたり紛失したりして大変って言ってたから」

「へぇ、成る程……。

それにしても、アデック王子が1人の時に猫達と戯れている光景って、想像すると何か可愛らしいわね」

 そのオリヴィアの言葉を聞いて、ルイスは羨ましそうに口を開いた。

「そうなのか……?
シーラ姉さん、うちも猫飼っても良い?」
「ルイス、あんたどんな理由で猫飼おうとしてるのよ?」

 一方、噂のアデックは絶賛猫じゃらしのおもちゃで猫と遊んでいた。

「それ! お前らも部屋の中ばっかだから運動させないとな」

 そんなアデックの光景を見ながら、執事は溜め息を吐いた。

「アデック様……ペットを可愛がるのは良い事ですが、婚期を逃しますよ?」

「うるせー、そんな無理してまで結婚しなくても良いだろ別に」

 何とも王子らしからぬアデックの発言に、執事は眉根を寄せる。

「何を仰ってるんですか。
王子なのだから、いずれは結婚してお世継ぎを産んでもらわないと困りますよ」

 執事にそう言われて今度はアデックが溜め息を吐く。

「別に俺の子供を継がせなくったって良いだろ。
血筋なんかより政治を上手に出来る奴が王子に即位すれば良いと思うし、俺が国王になったら次の代からそうするつもりだから問題ない」

 アデックがそう言うと執事は顔色を変えて怒り出した。

「問題大アリでしょう!?
ネーロナイト家は先祖代々国王としてずっとこの国を統治してきたんですよ!?
それをアデック様の代で終わらせる訳にもいかないでしょう?

……全く、前回オリヴィアお嬢様と折角ホテルで2人きりにしたのに手も出さずに帰ってくるし」

 ぼそりと呟く執事にアデックは顔をしかめる。

「あのなぁ、いくら何でも未成年に手を出す馬鹿はいないだろ?」
「王子なら許されるでしょう?
次のお世継ぎを産む為なら多少若い女性でも何ら問題はないですし」
「問題ないのが問題だろ、第一オリヴィアだって拒否するだろうし」

 アデックの発言に、執事はやれやれと首をすくめる。

「はぁ、好きな女性に強気に出れなくてどうします?
あ、それなら次の誕生日の時正式にお付き合いでも申し込まれたらどうですか?」

 そんな執事を睨みながらアデックは口を開いた。

「だから俺はオリヴィアをそんな風に見ていないって言ってるだろ?
あいつは友達というか、可愛い妹みたいなもんで……」

 アデックはそう否定するも、執事は大きく溜め息を吐く。

「はあ、いい加減自分の気持ちに素直になったらどうですか?」
「うるせー、それにあいつは、多分……いや、兎に角お前これ以上変な事するなよな?
本気でクビになりたくなかったらな」

 釘を刺す様にアデックは執事にそう言いつける。

「それならアデック様もいい加減婚約者を作って下さい」

 執事もアデックにそう言い返して部屋を出て行った。

「……何だよ、別に俺が独り身だろうとこの国がそんな簡単に終わったりはしないだろうに。
なあ?」

「にゃー?」

 アデックはベラを抱き抱えて問い掛ける様にそう呟いた。


 一方、オリヴィア達はペット用のグッズも置いてある雑貨屋に来ていた。

「しかし、猫用グッズが誕生日プレゼントだと、アデック王子へのプレゼントというより、猫ちゃん達へのプレゼントみたいな気もするわね……」

 猫じゃらしのおもちゃや猫用のボールを手に取りながら私はふとそんな考えが頭を過ぎる。

「まあそれもそうなんだけどね。
ただ、アデック王子って基本的に無趣味というか、物欲がそもそも少ないというか、他に何を渡せば良いのか私達でも困るのよね」

 シーラも溜め息混じりにそう答えた。

 確かに、アデック王子って部屋の中も猫用のグッズや本がある位で豪華な部屋の割に物があまりないし、チェスの他に趣味って無さそうなイメージだ。

 そのチェスだって、人を測る物差し程度にしか思っていない気もする。

 つまり、1番誕生日に何を渡せば良いか困るタイプだ。

「因みに俺はアデック王子へのプレゼントは適当にフルーツやら肉なんかを渡してます。
あの人好き嫌いも特にないし食べ物なら外れないし」
「成る程……まあ食べ物なら1番無難よね」
 
 ふむ、とルイスの意見も参考にしながら私は雑貨屋でとある物を発見した。

「あ、これ、良いかも」
「あら、中々素敵ね」
「そうですね、使い勝手も良さそうだし」

 私がその雑貨を手に取ると横からシーラとルイスも賛同してくれたのでこの雑貨をプレゼントにする事にした。

 しかし、これ1つだけだと物足りないので、今が旬の桃もセットで渡す事にした。

「シーラ様、ルイス様、お陰でアデック王子への誕生日プレゼントが買えました。
アドバイスありがとうございました」

 帰り際、私は2人にぺこりと軽く頭を下げてお礼を言った。

 すると、シーラは満面の笑みで口を開く。

「いえいえ、こちらこそお役に立てた様で良かったわ!
それに私もプレゼント買えたし」
「そうだね。俺もオリヴィア様と町をまた歩けて楽しかったよ。
ただ、今度はまた2人きりで来たいな」

 ルイスの言葉にシーラは不満気に話す。

「何よ? 可愛い姉と町を歩けて光栄に思いなさいよ」

 そんなシーラに対しルイスは軽くあしらう様に返事をした。

「はいはい」
「何がはいはい、よ!」

 そんな2人のやり取りを眺めながら、私は2人とも仲の良い姉弟なんだなと何だか微笑ましく思った。

「私も今日は楽しかったです。
それじゃあ2人とも、また今度」

「ええ」
「はい!」

 こうして、3人はそれぞれ無事アデックへのプレゼントを買う事が出来たのでした。


「ただいまー」

 それからオリヴィアが屋敷に帰ってくると、不機嫌そうにノアが玄関へとやって来た。

「お帰りなさいオリヴィア姉様。
今日もまさかルイス様とデートだったの?」

 ちょっと棘のある言い方に、私はやれやれと溜め息を溢す。

「私が出掛ける度に訊いてくるつもり?
まあ今日はルイス様とシーラ様の3人でアデック王子への誕生日プレゼントを買いに行っただけだけど」

「なぁんだ、シーラ様も一緒だったんだね」

 私からそう聞いてたちまちノアは上機嫌になった。

「……あんたってそんなに分かりやすい奴だったっけ?」

 何だか、この前の一件以来ノアの言動が前より分かりやすくなっている気がする。

「だって、オリヴィア姉様に嘘を取り繕っても意味ないしね。
それに、素の俺の方が話しやすいんでしょ?」

「まあ、そんな事も言ったけど」

 しかし、それにしても変わりすぎな気もするのだが。

「まあいいわ。私はもう部屋に行くわよ」
「それなら俺も戻ろうかな」

 こうして、2人はまた他愛もない会話をしながら部屋へと戻っていった。



 そんな2人の様子を、影からルーカスとエマが覗いていた。

「話している内容までは聞こえなかったが、どうやらもうオリヴィア様とノアは仲直り出来た様だな」

 満足そうに話すルーカスに、エマは不思議そうに問い掛ける。

「でもルーカス兄様、良かったの?
ノアとオリヴィアちゃんが益々仲良くなっちゃったら、ルーカス兄様のチャンスがなくなっちゃうわよ?」

 エマにそう問われてルーカスはうっ、と顔をしかめた後無理矢理笑顔を作った。

「確かにノアとオリヴィア様が仲良くなるのは嫌でもあるが……俺としては、ノアとオリヴィア様の仲が悪くなる方がもっと嫌なんだ。
義理とは言え兄弟であり家族である以上、なるべくなら仲が良い方が良いだろ?」

 そう話すルーカスを見て、エマは小さく溜め息を吐く。

「全く、ルーカス兄様って本当にお人好しというか、人を優先してばかりですわよね?
まあそういう所がルーカス兄様の良い所でもあり残念な所でもあるんだけど」
「残念とはなんだ、残念とは」

 エマの言葉にルーカスはすかさずツッコむ。

「まあまあ、私としてはルーカス兄様も応援してますわよ?
まあでもシーラ様を応援したい気持ちもあるしノアを応援したい気持ちもあるからみんなそれぞれ頑張って欲しいものね」
「それは即ち誰も応援していないのでは……?」

 エマの話を聞いてルーカスは疑問に思う。

「あら、みんなを平等に応援しているつもりよ?
でももしオリヴィアちゃんに好きな人が出来たらその恋を1番応援するけどね!」
「まあ、それは俺もそうだな」

 そう笑顔で話しながらルーカスとエマも部屋へと戻っていった。
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