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ノアの憂鬱

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「……さま、オ……嬢様。

オリヴィアお嬢様」

「う、ん……?」

 誰かに声を掛けられて私は目を覚ました。

「オリヴィアお嬢様、夕食の時間なのですが、大丈夫ですか?
エマお嬢様から体調が悪いとお伺いしましたが」

 すると、目の前に白髪の長い髪を後ろでまとめた赤い瞳のメイド服の女性が立っていた。

「あ、ソフィア、体調は大丈夫よ。
ありがとう」

 私は侍女のソフィアに礼を告げてベッドから上半身を起き上がらせて伸びをする。

「んー、何だか変な時間に寝ちゃったから頭がぼうっとするわね」

 それから私は目を擦りベッドから起き上がった。

 寝巻きにも着替えずにドレスのまま眠ってしまったので、ドレスには少し皺がついてしまっている。

「そう言えばルーカスの誕生会の最中だったわよね?
まだお客はいるのかしら?」
「そうですねぇ、まだちらほら残っていますが、もう大半は帰られましたねぇ。
まぁもう少し経てば全員帰られると思いますよ?」

「うーん、それならこのドレスから普段のシンプルな奴に変えても問題ないかしら」
「オリヴィア様がそちらの方が楽なら問題ないですよ」

 ソフィアの了承を得て私はいつもの部屋着のドレスへと着替える。

「夕食はお部屋で食べられますか?
それとも広間へ行けそうですか?」

 ソフィアにそう問われて私は悩む。
 広間に行けばノアと鉢合わせて気まずいし、かと言って部屋で食べたら他の人達からも心配されそうだし……。

「そうね……広間に行くわ」

 考えた末、今日一日ノアを避けた所で一緒に住んでる限りどうしても顔を合わせる事になるのだし、私が遠慮して避ける必要もないだろうと広間へと行くことにした。

 それから私が広間へ着くと、先に来ていたエマが心配そうにこちらに近付いてきた。

「オリヴィアちゃん!
もう体調は大丈夫なの!?」

 エマのその質問に、側にいたルーカスも反応する。

「え!? オリヴィア様、体調が悪かったのか!?
途中から見かけないなと心配はしてたんだが」

「大丈夫よ、ただの寝不足みたいなもんだから、少し寝たらスッキリしたし」

 私は心配そうにしているエマとルーカスにそう告げる。

 すると、2人ともホッとした様に胸を撫で下ろしていた。

「あ、もしかしてオリヴィア様、俺の誕生日が楽しみで寝不足に」
「それはないわね」

 私はルーカスの問いにセリフを被せる勢いで否定した。

 一方、後から来たノアは少し後ろで私達の会話を聞いていた。

「ノア?
どうかしたか?」

 そんなノアを訝しむ様にルーカスは声を掛ける。

「え? いや、何でもないですよ」

 それにノアはにこりといつもの笑顔で答えた。

 それからは、何事も起こる事なく夕食を食べ終えて、各自部屋へと戻っていった。

「はぁ、結局ノアは相変わらずいつもの調子だったわね……」

 部屋に戻ってオリヴィアは夕食中のノアの様子を思い返してはそう呟いた。

 恐らく、また何事もなかったかの様にするのだろう。
 先程の悲痛な叫びを思い出してそう考える。

 結局私は、また傷付ける事しか出来なかった。

 いつもいつも、恋愛が絡むと相手を傷付けてばかりだ。
 だから、色恋沙汰は苦手なのだ。

 でも、本当にこのままで良いのだろうか……?

 なんて、私が考えた所でどうせノア自身がこれでいいと思っている限り、きっとどうしようもないのだろう。

 考えても良い解決策なんて思い浮かばないし。

 本当は私がノアの気持ちに応えられさえすれば良いのかもしれないけど、そういう訳にもいかないし……。

 なら、もうこのままなのだろう。

 まあ考えようによっては別に無視されたり変に遠慮されたりしてる訳でもないし、表面上は何もないのだからこんなに気にする必要もないのかもしれない。

 そもそも仲直りとは言ったけど喧嘩した訳でもないし……。

「いくら考えてもどうしようもないものはどうしようもないわよね。
よし、本でも読もう」

 どうせ寝ようにも先程数時間も寝てしまったせいで眠気も来ないので、私は読書をして夜を過ごす事にした。




 一方ノアは部屋で勉強をしていた。

 そんな中、コンコンと扉がノックされる。

「……入っていいですよ」

「失礼します」

 ノアが返事をすると、ガチャリと扉が開いてメアリーが入って来た。

「ノア様、こちら明日のお召し物置いておきますね。
おや、勉強中でしたか。珍しいですね」

 メアリーは勉強してるノアを見て少しびっくりする。

「寝る前に勉強したら、早く眠気が来るかなと思いまして」

 ノアはそう笑顔で答えた。

「眠くなる為に勉強される方なんて初めて見ましたよ。
私はてっきりオリヴィアお嬢様と何かあってそれの気を紛らわせる為に勉強してるのかと思いましたけど」

 ニコニコと笑顔でそう言うメアリーに、ノアは苦笑いで溜め息を吐いた。

「……流石メアリーですね」
「そりゃあ乳飲み子の頃から見ていますから。
今でもノア様が産まれた時の事はよぉく憶えていますよ。

3人の中でノア様が1番夜泣きが酷くてそれはそれは大変でしたねぇ。
夜中に何度起こされた事か……」
「今その話いらなくないですか!?」

 赤ちゃんの頃の話をされてノアは顔を赤らめながらたまらずツッコんだ。

「それから上のお2人を見て育ったせいか割と要領が良いけど、案外不器用だったり」
「え? これ僕がディスられる流れなんですか?」

「好きな女の子に素直に謝れないくらい不器用ですしね」
「……結局そこですか」

 メアリーにそう言われてノアは渋々返事をした。

「オリヴィアお嬢様も口にこそ出しませんがノア様の事を気にされてますよ?」
「分かってますよ、オリヴィア姉様は優しいですからね」

「本当に分かっているのならいいんですけどね」

 メアリーはその後失礼しましたとノアの部屋を去って行った。

「……分かってますよ。このままじゃいけない事くらい」

 ノアは目の前の教本を睨みながらそう呟いた。

 そしてノアの部屋を去ったメアリーはノアの様子を思い出しては小さく溜め息を吐いた。

「あれは何かありましたね……全く、ノア様もオリヴィアお嬢様も素直じゃないですからね。
ノア様はどうする事やら。

まあ、でもなる様にしかなりませんか」

 そう呟いてメアリーは仕事へと戻っていった。
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