【完結】悪役令嬢だけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

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初めて見るその顔は

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「ふぅ、やっと落ち着ける……」

 一方、誕生会の主役であるルーカスは、女性達からなんとか逃げ出して庭園の方へとやって来ていた。

 ここまでなら誰も追っては来ないだろう。
 
 そう思ったルーカスは庭園へと足を踏み入れる。

「しかし庭園の花はたまにしか見ないが綺麗だな」

 それからルーカスが庭園の奥を見やると、そこには見慣れた女性が立っていた。

 その女性は花を眺めては優しく微笑んでいる。

「あれ? シーラ様?」
「え!? ル、ルーカス様っ!?」

 ルーカスに声をかけられた女性ーーシーラは顔を赤らめて驚いていた。

「あの! えーと、お手洗いに行った後に、たまたま綺麗なお花を見かけて、窓から眺めていたらメイドの方に見て行っても良いと言われたのでそれで!」
「ああ、そうだったんですね」

 慌ててそう説明するシーラの言葉を聞いて、ルーカスはすぐに納得した。

 普段から礼儀正しいシーラが勝手に庭園に入る様な真似はしない事をルーカスは理解していたのだ。

 しかし、シーラは気まずく感じてしまい、取り敢えず話題を変えようと慌てて花の方を見て口を開く。

「えっと、ここの庭園も沢山の花々が咲いていて綺麗ですね」

「そうですね、たまにこうしてゆっくり花を眺めるのも悪くな……うわぁっ!」

 すると、ルーカスが話している途中大声をあげた。

「ルーカス様? どうかされましたか?」
「あ、いや、目の前を蝶が……」

 シーラは突然のルーカスの大声に驚きながらもルーカスの方を振り向くと、そこには小さなモンシロチョウがヒラヒラと可愛らしく飛んでいた。

「あら、モンシロチョウね。
もしかして……ルーカス様は蝶が苦手なのですか?」

 顔を青ざめさせながら胸に手を当てているルーカスを訝しむ様に眺めながらシーラは問い掛ける。

「お恥ずかしい限りだが、俺は虫が全般的に苦手でして……。
うわっ、こっちにも!」

 ルーカスはそう答えながら今度は葉っぱについていた青虫を見つけてはそれから逃げる様にシーラの側に急接近してきた。

「ル、ルーカス様!?」

 あまりにも急にルーカスが近づいてきた為シーラは顔が真っ赤になる。

「あ、シーラ様、ごめんなさい!」

 そしてシーラとの距離が近過ぎる事にやっと気付いたルーカスは急いでシーラから離れた。

「えーと、それじゃあ一旦庭園から出ましょうか?」
「そ、そうします……」

 シーラはバクバクいっている心臓を押さえつつルーカスにそう提案した。
 そしてそのシーラの提案にルーカスは素直に同意する。

 それからルーカスは庭園を出るまでの間何か他に虫が飛んで来ないか少しビクビクしながら歩いていた。

「ふぅ……」

 そして庭園から抜け出してやっとルーカスは再び一息をついた。

「すみませんシーラ様、なんともお見苦しい面を見せてしまって」

 ルーカスは先程までの自分の不甲斐ない行動をシーラに見られた事が恥ずかしくなって顔を赤らめる。

 恥ずかし過ぎて穴があったら入りたいくらいだ……。
 流石にシーラ様も引いただろうな……。

 そうルーカスが思いつつチラッとシーラの様子を窺うと、シーラは顔を赤らめながら微笑んでいた。

「ふ、ふふっ」
「シ、シーラ様?」

 そんなに顔が赤くなる程笑うとは、よっぽど俺の挙動が面白かったのだろうか……。

 しかし、あれだけビビっていては馬鹿にされるのも無理はない。

 ルーカスはシーラに馬鹿にされて笑われたのだろうと考えて少ししょんぼりする。

 そんな落ち込んでいるルーカスを見てシーラは慌てて口を開いた。

「あ、ごめんなさいルーカス様。
その、今まで完璧なところばかり見ていたけれど、虫が苦手だなんて、しかもその反応が、なんというか、可愛らしくて……」

「へ? 可愛らしい?」

 ルーカスはてっきり馬鹿にされて笑われたものだとばかり思っていた為、シーラの予想外の言葉に目を丸くして驚いた。

「ええ、とっても可愛らしかったわ!」
「え、そ、そうなのですか?」
「はい!」

 ルーカスは不思議に思いつつも、満面の笑みのシーラを見てどうやら馬鹿にされたり軽蔑された訳ではなさそうで良かったと安堵した。

 一方シーラは、普段見た事もないルーカスの焦ったり怯えていたりする顔や、恥ずかしさのあまりに赤面したりしょんぼりしている顔を見てオリヴィアが前に言っていたルーカスが犬っぽいという言葉を思い出していた。

 確かに、オリヴィア様の言う通りちょっと犬っぽくて可愛らしいですわ……。

「ふふ、私、普段のカッコいいルーカス様も勿論好きですが、そういう駄目な所も好きですわ」
「え? 駄目な所が好き?」

 シーラにそう言われてルーカスはキョトンとする。

「ええ! ふふふ、今日は普段と違うルーカス様が見れて良かったですわ。

……あ! 忘れてましたわ!」
「え? どうされましたか?」

 相変わらず呆気に取られてキョトンとしているルーカスに、シーラは花の様な可愛らしい笑顔を見せる。

「ルーカス様、17歳の誕生日おめでとうございます!」
「あ……ありがとうございますシーラ様」

 シーラからの祝言に、ルーカスもにこりと微笑んでお礼を言った。

「それと、プレゼントは広間の方に置いてきてしまったので、また後で渡しに行きますね」
「そうですか。ありがとうございます。
それなら広間の方へと戻りましょうか」

 ルーカスはそう言って歩き出すと、シーラがそんなルーカスの袖をクイっと掴んだ。

「あの、ルーカス様、お疲れではないですか?
休まれる為にここへ来たのでしょう?」

 シーラはそう心配する様にルーカスを見ながら尋ねる。

「え? まあ、休む為に来たのは確かですけど、かと言って俺の誕生会にいつまでも俺自身が抜け出す訳にも行かないですし」

 一方ルーカスはシーラに心配された事に驚きつつも真面目にそう答えた。

「そうですか……。

少し残念です」

 ルーカスの答えにシーラは本当に残念そうに少し顔を俯けつつも無理矢理微笑んでいた。

「え? 残念?」

 そんなシーラを見てもルーカスはシーラの本心に気付いていないのか、もう一度シーラに問い掛ける。

「ええ、もう少し2人っきりで居たいなと思ったので」

 顔を赤らめながらそう答えるシーラに、ルーカスは申し訳なさそうに微笑んだ。

「まあ俺ももう少し休みたいのは本音ですけどね。
じゃあ行きましょうか」
「ええ」

 こうして、ルーカスとシーラは2人で広間へと戻ってきた。

 すると、2人の側にすぐ様他の女性達が群がってくる。

「あら? シーラお嬢様?
何故ルーカス様のお隣にいるのかしら?」

 女性の内の1人がシーラを睨みながらそう問い掛けてきた。

「たまたま途中でお会いしたので一緒に来ただけですよ?」

 シーラはその女性に素っ気なくそう返す。

「ふーん、婚約破棄されたのにまだ意地汚くルーカス様を狙ってるだなんて、ルーカス様も大変ですわね?」

 今度は横から別の女性がそう言ってきた。

「ルーカス様はお優しいから、貴女の様な方にもお情けで声をかけて下さっている事が分からないのかしら?」
「ルーカス様、こういう方にははっきりと迷惑だと言った方がいいですわよ?」

 それから他の女性も口々にそう言い出した。

 それを聞いてルーカスは不機嫌気味に答える。

「ならはっきりと言わせて頂きます。
その様に1人の女性によってたかって攻撃するのは如何なものでしょうか?」

 ルーカスに強い口調でそう言われ、女性達は驚きながらたじろいだ。

「あ、ルーカス様違うんです!
攻撃なんてそんな」
「そうですよ、私達はシーラ様の為を思って教えてあげているだけで!」

 慌ててルーカスに弁解している女性達に、今度はシーラがにっこりと笑顔でお礼を言った。

「まあ、私の為にわざわざ言ってくださりありがとうございます」

「そ、そうよ!
分かればいいのよ!」

「ええ。
その様な妬み僻みは身を滅ぼすとまさしくその身をもって教えて下さるだなんて、皆さんとても心優しいのですね!
私、感心して溜め息しか出ませんわ」

 そう言い返すシーラの顔は笑っているが、その瞳は笑ってなどいなかった。

「っな!
ふ、ふん! いい気になるんじゃないわよ!」
「憶えてらっしゃい!」

 そしてシーラに一蹴された女性達は口々に文句を垂れつつも散り散りに去っていった。

「シーラ様、大丈夫でしたか?」

 ルーカスが心配そうにシーラの方を見やると、シーラは立ち去っていく女性達の後ろ姿を冷ややかに睨みつけていた。
 それからシーラはルーカスに見られている事に気付きパッと笑顔を見せる。

「え? あ、私は大丈夫ですわ!
ああいう事は割とある事なので」

 何せシーラはこれまでもルーカスの許嫁だからという理由であまり女性達からよくは思われていなかった為、この様に絡まれる事も少なくなかったのだ。

 しかしルーカスは普段そういう場面は見かけなかった(というより気付かなかった)ので単純に驚いていた。

「そうだったんですね。もし次に何かあったら俺に言ってください。
注意しますので!」

 ルーカスはシーラの事を心配しながらそう申し出た。

「ありがとうございます。
でも大丈夫ですわ」

 しかし、シーラはそのルーカスの申し出をやんわりと断った。

「そうですか?
まあ確かに俺は頼りないかもしれないけれど、シーラ様の力にならいつでもなりますので」

 ルーカスにそう言われてシーラはドキッとしながら顔を赤らめる。

「た、頼りないなんて事ないですわ!
それに、心配してくださってありがとうございます!

あ、そうだ、プレゼント持ってきますね!」
「え? あ、はい」

 そう言い残してシーラは急いで人混みの方に走っていった。

「……シーラ様のあんな表情初めて見たな」

 そして1人取り残されたルーカスは、先程のシーラの冷ややかな目線を思い出しては驚きつつも感心していた。
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