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犬猿の2人
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「しっかし、まさかオリヴィアからこんな事頼まれるとはなー」
オリヴィアと別れた後アデックはとある場所目指して歩きながら、先週オリヴィアからお願いを聞いた時の事を思い出していた。
~1週間前~
「その、私がオルトレアの王室に囚われていた際、私に地下シェルターの存在を教えてくれたメイドがいたんですけど」
「ああ、そう言えばあそこ地下シェルターが出来たらしいな。
流石に俺も知らなくてびっくりしたぞ」
「そのメイドにお礼と、後尋ねたい事がありまして」
オリヴィアの発言に、アデックは眉をひそめる。
「尋ねたい事?」
「はい。
もしかして、なんですけど。
そのメイド、ルーカスとエマとノアの母親なんじゃないかなと思いまして」
「……え?
マジ?」
アデックはそれを聞いてなんとも信じられないといった顔をした。
「流石にそれはないんじゃないか?」
「でも、雰囲気が似てましたし、それにノルトギア語も喋ってましたし、後、聞いた話によるとハワード子爵の前妻はオルトレアの方だったらしいので」
オリヴィアの言葉を聞いてアデックは、んー、と考える。
確かに一時期ノルトギアとオルトレアは仲良くやっていこうと同盟を組んだ時に、政略結婚が一時流行ったらしい。
ハワード子爵が結婚したのもちょうどそのタイミングだった筈だ。
そして3年程前にハワード子爵は離婚しており、妻は確かオルトレアに帰ったと聞く。
確か聞いた話ではその前妻には別に愛人がいるだか噂になっていたし、もしかしたら家を捨てて駆け落ちなんて事もあり得るか……。
だとしたらその前妻がメイドとして働いていてもまあ有り得なくはない話ではある。
大分確率は低いが。
「成る程な~。
それで? お前はそのメイドがあの3兄弟の母親かどうか調べて欲しいと」
「あ、出来れば直接お礼も兼ねて尋ねたいので、その、オルトレアに行きたいのですが」
「お前、それガチで言ってる?」
……というやり取りの末、俺はレイアンからそのメイドの住んでいる家を手紙で聞き出して今に至るという訳である。
「まあ確かに他の3人には言えないよなー」
俺はあの3人と母親の関係値など直接聞いた事ないので分からないが、しかしあまり良くはないのだろうなとは思う。
「まあしかしオリヴィアの好奇心も中々面倒というか、なんというか……」
そしてアデックは目的地へと辿り着いた。
辺りには沢山の墓石が綺麗に並んでいる。
アデックはそのまま奥の方へと進んでいった。
そして、目的の墓石の前に、白く長い髪を後ろに束ねている男性の姿が見えた。
男性はこちらを振り向いて薄く笑う。
「おや、これは奇遇ですね」
「げっ……」
レイアンを見るなり、アデックは嫌そうに顔をしかめた。
「何でお前がここに居るんだよ?」
「妹の墓に兄が手を合わせに来るのは普通でしょう?」
アデックの問いに、レイアンは微笑みながら答える。
「今まで一度も来た事なかったくせによく言うよ」
「まあそう言われると返す言葉もありませんが……やっと、今更ですけど、兄らしい事をしようと思ったんですよ」
レイアンは少し悲しげに微笑んだ。
「本当、今更だな」
アデックは嫌味も込めてそう返す。
「しかし、いざ墓参りに来たというのに、私は妹の好みの花すら知らなくて、結局何を供えればいいのか分からず何も持ってこれませんでしたけど」
「あいつは好き嫌いなんて特にない奴だからな。
だから俺は、適当に俺好みのやつを毎回供えてる」
レイアンはそんなアデックの言葉を聞いて、成る程と頷く。
「確かにあの女は見るからに貴女にベタ惚れでしたからね」
「見るからにって言う程でもなくないか?
いつも余裕そうに笑っていて感情読み辛い奴だったし」
アデックの返事を聞いてレイアンは少し驚く。
「いやいや、アデック王子といる時といない時であの女全然違いましたよ?
貴方に会うまではニコリとも笑わないしつまらなさそうにしていましたから」
「え? そうなのか?」
レイアンの言葉にアデックも驚く。
てっきり普段からああなんだと思っていたが、どうにも違ったらしい。
そうか、俺の前でだけだったのか。
「正直、会って間もないのによくリーシェがあそこまで心を開いていたなと驚きましたよ」
「俺は今のその事実に驚いたよ」
そんな事を今更知って、それでも嬉しいと思ってしまうなんて。
……ああ、やっぱり俺はどこまでいってもリーシェの事が忘れられないのだろうな。
「ところで、今日は珍しい格好ですね?
プライベートですか?」
レイアンはアデックの平民の様な格好を見て問い掛ける。
「まあプライベートではあるが」
アデックは面倒そうに答えた。
「そうですか。
それはそうと、あなた方が帰られた後うちは大変でしたよ。
警察が乗り込んできて、国王と側近、それに関与していた多数の使用人達が捕まっててんやわんやでした」
「ああ、ニュースで見たぜ?
あの国王、側近の男にけしかけられた!
とか言って逆に訴えようとしていたのには笑いを通り越して呆れたな」
「本当往生際が悪い人でしたからね」
レイアンとアデックは共に苦笑いを浮かべる。
「んで?
その後の判決はどうなりそうなんだ?」
「流石に国のトップの汚職事件に警察も頭を抱えている様で、国民達は追放だ死刑だと騒ぎ立ててますが、どうなる事やら」
「ふーん、色々と大変そうだな」
「全くですよ。
お陰で国王不在の今、私が国王の仕事を引き継がされている状態で本当誰かさんには頭にきますね」
レイアンの言葉にアデックはニヤニヤと悪戯っ子の様に笑う。
「お?
遂に国王昇進かー?」
「……全くもって不本意ですが、私の容疑は早い段階で晴れてしまった為、本当にそうなりそうで怖い限りですね」
「やったじゃんか!」
アデックに肩をバンバンと叩かれてレイアンは内心イラッとする。
「……まあ、今うちは見ての通り荒れている状態です。
戦争を仕掛けて滅ぼすなら今がチャンスですよ?」
レイアンは微笑みつつも挑む様な目つきでアデックに問い掛けた。
「あ、お前さてはノルトギアと合併されれば自分が国王しなくていいかもとか思ってるだろ?
もしノルトギアがオルトレアを吸収したら、お前にそのまま国王を継いでもらうからな?」
「本当嫌な人ですね貴方は」
レイアンは微笑みつつもアデックを睨む。
「まあ、冗談はさておき。
実際問題戦争けしかけるのも面倒だし、それに、この国をここまで大国にのしあげたあいつにも悪いし、今回の一件でオルトレアも今までの様に弱小国にちょっかい出せないだろうからひとまず現状維持かな」
「……本当お人好しですね貴方は」
レイアンはクスリと笑いながらそう呟く。
「ところでアデック王子、オルトレアにはオリヴィアお嬢様と一緒にいらしたのですか?」
「まあな。こないだお前から貰った地図のところまで案内してきた。
今頃そのメイドを訪ねているところだ」
アデックはやれやれと言った顔でレイアンに説明する。
「しかしあのオリヴィアお嬢様も中々観察眼が鋭いですね。
リーシェに似ていて、私の嫌いなタイプです」
「別にオリヴィアはお前には何もしていないのに嫌われるとか、風評被害だろ」
アデックは呆れながらそう言った。
「確かに私はオリヴィアお嬢様には何もされてはいませんが、でもオリヴィアお嬢様からしたら私は父親の仇なので」
それを聞いてアデックは目を丸くする。
「え?
は?」
「私が初めて戦争に出兵された時、殺した男がたまたまオリヴィアお嬢様の父親だったのですよ。
今回調べて初めて知りましたが、そんな嫌な偶然もあるものなのですね」
「……因みにオリヴィアはその事は」
「話したので知っていますよ」
レイアンはすこぶる冷静に答える。
「話したって、お前馬鹿なのか?」
アデックはレイアンを睨みつけながら問い掛けた。
「私は確かに貴方に殺されたかったのですが、殺してくれるなら誰でも良かったのです。
オリヴィアお嬢様には十分に私を殺す正当な理由があった。
しかし、彼女は存外あっさりとその事実を受け止めてました。
流石に私も驚きましたね」
「お前、最低な奴だな」
アデックは心底呆れた様にそう言った。
「まあ、リーシェにどことなく似ている彼女に殺されるのも悪くないと思ったのですが、結局それも叶いませんでしたね」
「だろうな。
オリヴィアは間違っても人を殺そうだなんて考えないよ」
「流石彼女を信頼しているだけありますね。
しかし、本当に貴方には申し訳ない事をしましたね。
好きな女性と無理矢理婚約してしまって」
レイアンは薄く微笑む。
「……だから、前にも言ったけど俺はあいつの事を好きでもなんでもないって」
「おや?
貴方はオリヴィアお嬢様の事を好きではないのですか?」
アデックの言葉にレイアンは目を丸くしながら問い掛けた。
「何驚いてるんだよ?
7つも下の子供好きになる訳ないだろ?」
「それでは、何故今日ここに来たんです?
面倒臭がりの貴方が、好きでもない女性の願いを叶える為にわざわざオルトレアまで来るなんて考えられませんが」
レイアンに問われて、アデックは溜め息混じりに答える。
「本来、俺はあいつの付き添いになるつもりはなかった。
ただ、成り行きでこうなっただけで」
「もし普段の貴方なら、成り行きで自分が行かないといけない状態になった場合は適当な事を言って断るのではないですか?
オルトレアの王子である私が散々手紙を送っても貴方は断り続けていたし、例え他の者からの誘いでも、貴方は面倒だと思ったものは断っていたのではないですか?
仕事の付き合いのものですらそうなのに、何故メリットもないオリヴィアお嬢様の付き添いを甘んじて受け入れたのです?」
レイアンに責められる様に問われて、アデックは不機嫌に返した。
「……今回の婚約騒動はそもそもスクープされた俺が悪いから、今日はその罪滅ぼしみたいなもんだよ。
それに俺が好きなのはリーシェであってオリヴィアではない」
レイアンはまるで自分に言い聞かせる様に答えるアデックを見て小さく溜め息を吐く。
「全く、貴方も中々意固地ですね。
まあ、過去を忘れて未来に生きろだなんて綺麗事を言うつもりはありませんけど」
「レイアン様!
こちらにいらしたのですね」
レイアンが話している最中に、オルトレアの家来の1人がレイアンの元へと駆け寄ってきた。
「おや、どうしましたか?」
「実は、最近海外の観光客が増えたのと同時に、何やら物騒な連中も紛れ込んで来ている様で。
なので、なるべく王子も王室の近場だからと言って1人で出歩かない様にという事になりました」
「へえ、そうなのですか。
まあいいでしょう」
「それに、何やら少年少女を誘拐する組織も流れ込んでいるみたいで、そちらの対応でお話が……」
「少年少女誘拐?」
近くで聞いていたアデックはその不穏な単語を訊き返す。
「あ、はい。
実は、12歳から16歳頃までの少年少女が連れ攫われる事件が多発しておりまして」
そこまで聞いて、アデックは胸騒ぎがしていた。
何だか、とてつもなく嫌なフラグが立った気がする。
「おや、それは何だか物騒な話ですね。
時にアデック王子、オリヴィアお嬢様とはこの後待ち合わせですか?」
「そうだが?」
「それなら、急いで行ってあげた方が良いのでは?」
レイアンは相変わらず薄い笑みで問い掛けてくる。
「……ちっ。
まあお前とこれ以上話す事もないし、それじゃあな」
アデックはそれだけ言い残して足早にその場を去っていった。
「……全く、今度はちゃんと守り抜いて下さいね」
レイアンはやれやれと肩をすくめた。
一方オリヴィアは、待ち合わせの場所に一足先にやって来ていた。
「お嬢ちゃん、ちょっと良いかな?」
「え?」
すると、オリヴィアは背後から男性にオルトレア語で話しかけられた。
「実は、この辺りで誘拐事件が多発していてね?
君、こんな所で1人だと危ないから、署の方に来てくれないか?」
オリヴィアが振り向くと、そこには2人の警察官が立っていた。
「警察?」
オリヴィアは訳が分からず目を白黒させる。
「あれ?
もしかして君オルトレア人じゃない?」
「えーと、英語なら話せます」
警察官の男性に問われるも、オリヴィアはオルトレア語が分からないので英語で返した。
「ここ、危険だから、こっちに避難して」
すると、警察官の男はカタコトの英語でオリヴィアに指示を出す。
「え?
危険?」
「こっちだよ」
こうして、オリヴィアは警察官に案内されるがまま着いて行った。
オリヴィアと別れた後アデックはとある場所目指して歩きながら、先週オリヴィアからお願いを聞いた時の事を思い出していた。
~1週間前~
「その、私がオルトレアの王室に囚われていた際、私に地下シェルターの存在を教えてくれたメイドがいたんですけど」
「ああ、そう言えばあそこ地下シェルターが出来たらしいな。
流石に俺も知らなくてびっくりしたぞ」
「そのメイドにお礼と、後尋ねたい事がありまして」
オリヴィアの発言に、アデックは眉をひそめる。
「尋ねたい事?」
「はい。
もしかして、なんですけど。
そのメイド、ルーカスとエマとノアの母親なんじゃないかなと思いまして」
「……え?
マジ?」
アデックはそれを聞いてなんとも信じられないといった顔をした。
「流石にそれはないんじゃないか?」
「でも、雰囲気が似てましたし、それにノルトギア語も喋ってましたし、後、聞いた話によるとハワード子爵の前妻はオルトレアの方だったらしいので」
オリヴィアの言葉を聞いてアデックは、んー、と考える。
確かに一時期ノルトギアとオルトレアは仲良くやっていこうと同盟を組んだ時に、政略結婚が一時流行ったらしい。
ハワード子爵が結婚したのもちょうどそのタイミングだった筈だ。
そして3年程前にハワード子爵は離婚しており、妻は確かオルトレアに帰ったと聞く。
確か聞いた話ではその前妻には別に愛人がいるだか噂になっていたし、もしかしたら家を捨てて駆け落ちなんて事もあり得るか……。
だとしたらその前妻がメイドとして働いていてもまあ有り得なくはない話ではある。
大分確率は低いが。
「成る程な~。
それで? お前はそのメイドがあの3兄弟の母親かどうか調べて欲しいと」
「あ、出来れば直接お礼も兼ねて尋ねたいので、その、オルトレアに行きたいのですが」
「お前、それガチで言ってる?」
……というやり取りの末、俺はレイアンからそのメイドの住んでいる家を手紙で聞き出して今に至るという訳である。
「まあ確かに他の3人には言えないよなー」
俺はあの3人と母親の関係値など直接聞いた事ないので分からないが、しかしあまり良くはないのだろうなとは思う。
「まあしかしオリヴィアの好奇心も中々面倒というか、なんというか……」
そしてアデックは目的地へと辿り着いた。
辺りには沢山の墓石が綺麗に並んでいる。
アデックはそのまま奥の方へと進んでいった。
そして、目的の墓石の前に、白く長い髪を後ろに束ねている男性の姿が見えた。
男性はこちらを振り向いて薄く笑う。
「おや、これは奇遇ですね」
「げっ……」
レイアンを見るなり、アデックは嫌そうに顔をしかめた。
「何でお前がここに居るんだよ?」
「妹の墓に兄が手を合わせに来るのは普通でしょう?」
アデックの問いに、レイアンは微笑みながら答える。
「今まで一度も来た事なかったくせによく言うよ」
「まあそう言われると返す言葉もありませんが……やっと、今更ですけど、兄らしい事をしようと思ったんですよ」
レイアンは少し悲しげに微笑んだ。
「本当、今更だな」
アデックは嫌味も込めてそう返す。
「しかし、いざ墓参りに来たというのに、私は妹の好みの花すら知らなくて、結局何を供えればいいのか分からず何も持ってこれませんでしたけど」
「あいつは好き嫌いなんて特にない奴だからな。
だから俺は、適当に俺好みのやつを毎回供えてる」
レイアンはそんなアデックの言葉を聞いて、成る程と頷く。
「確かにあの女は見るからに貴女にベタ惚れでしたからね」
「見るからにって言う程でもなくないか?
いつも余裕そうに笑っていて感情読み辛い奴だったし」
アデックの返事を聞いてレイアンは少し驚く。
「いやいや、アデック王子といる時といない時であの女全然違いましたよ?
貴方に会うまではニコリとも笑わないしつまらなさそうにしていましたから」
「え? そうなのか?」
レイアンの言葉にアデックも驚く。
てっきり普段からああなんだと思っていたが、どうにも違ったらしい。
そうか、俺の前でだけだったのか。
「正直、会って間もないのによくリーシェがあそこまで心を開いていたなと驚きましたよ」
「俺は今のその事実に驚いたよ」
そんな事を今更知って、それでも嬉しいと思ってしまうなんて。
……ああ、やっぱり俺はどこまでいってもリーシェの事が忘れられないのだろうな。
「ところで、今日は珍しい格好ですね?
プライベートですか?」
レイアンはアデックの平民の様な格好を見て問い掛ける。
「まあプライベートではあるが」
アデックは面倒そうに答えた。
「そうですか。
それはそうと、あなた方が帰られた後うちは大変でしたよ。
警察が乗り込んできて、国王と側近、それに関与していた多数の使用人達が捕まっててんやわんやでした」
「ああ、ニュースで見たぜ?
あの国王、側近の男にけしかけられた!
とか言って逆に訴えようとしていたのには笑いを通り越して呆れたな」
「本当往生際が悪い人でしたからね」
レイアンとアデックは共に苦笑いを浮かべる。
「んで?
その後の判決はどうなりそうなんだ?」
「流石に国のトップの汚職事件に警察も頭を抱えている様で、国民達は追放だ死刑だと騒ぎ立ててますが、どうなる事やら」
「ふーん、色々と大変そうだな」
「全くですよ。
お陰で国王不在の今、私が国王の仕事を引き継がされている状態で本当誰かさんには頭にきますね」
レイアンの言葉にアデックはニヤニヤと悪戯っ子の様に笑う。
「お?
遂に国王昇進かー?」
「……全くもって不本意ですが、私の容疑は早い段階で晴れてしまった為、本当にそうなりそうで怖い限りですね」
「やったじゃんか!」
アデックに肩をバンバンと叩かれてレイアンは内心イラッとする。
「……まあ、今うちは見ての通り荒れている状態です。
戦争を仕掛けて滅ぼすなら今がチャンスですよ?」
レイアンは微笑みつつも挑む様な目つきでアデックに問い掛けた。
「あ、お前さてはノルトギアと合併されれば自分が国王しなくていいかもとか思ってるだろ?
もしノルトギアがオルトレアを吸収したら、お前にそのまま国王を継いでもらうからな?」
「本当嫌な人ですね貴方は」
レイアンは微笑みつつもアデックを睨む。
「まあ、冗談はさておき。
実際問題戦争けしかけるのも面倒だし、それに、この国をここまで大国にのしあげたあいつにも悪いし、今回の一件でオルトレアも今までの様に弱小国にちょっかい出せないだろうからひとまず現状維持かな」
「……本当お人好しですね貴方は」
レイアンはクスリと笑いながらそう呟く。
「ところでアデック王子、オルトレアにはオリヴィアお嬢様と一緒にいらしたのですか?」
「まあな。こないだお前から貰った地図のところまで案内してきた。
今頃そのメイドを訪ねているところだ」
アデックはやれやれと言った顔でレイアンに説明する。
「しかしあのオリヴィアお嬢様も中々観察眼が鋭いですね。
リーシェに似ていて、私の嫌いなタイプです」
「別にオリヴィアはお前には何もしていないのに嫌われるとか、風評被害だろ」
アデックは呆れながらそう言った。
「確かに私はオリヴィアお嬢様には何もされてはいませんが、でもオリヴィアお嬢様からしたら私は父親の仇なので」
それを聞いてアデックは目を丸くする。
「え?
は?」
「私が初めて戦争に出兵された時、殺した男がたまたまオリヴィアお嬢様の父親だったのですよ。
今回調べて初めて知りましたが、そんな嫌な偶然もあるものなのですね」
「……因みにオリヴィアはその事は」
「話したので知っていますよ」
レイアンはすこぶる冷静に答える。
「話したって、お前馬鹿なのか?」
アデックはレイアンを睨みつけながら問い掛けた。
「私は確かに貴方に殺されたかったのですが、殺してくれるなら誰でも良かったのです。
オリヴィアお嬢様には十分に私を殺す正当な理由があった。
しかし、彼女は存外あっさりとその事実を受け止めてました。
流石に私も驚きましたね」
「お前、最低な奴だな」
アデックは心底呆れた様にそう言った。
「まあ、リーシェにどことなく似ている彼女に殺されるのも悪くないと思ったのですが、結局それも叶いませんでしたね」
「だろうな。
オリヴィアは間違っても人を殺そうだなんて考えないよ」
「流石彼女を信頼しているだけありますね。
しかし、本当に貴方には申し訳ない事をしましたね。
好きな女性と無理矢理婚約してしまって」
レイアンは薄く微笑む。
「……だから、前にも言ったけど俺はあいつの事を好きでもなんでもないって」
「おや?
貴方はオリヴィアお嬢様の事を好きではないのですか?」
アデックの言葉にレイアンは目を丸くしながら問い掛けた。
「何驚いてるんだよ?
7つも下の子供好きになる訳ないだろ?」
「それでは、何故今日ここに来たんです?
面倒臭がりの貴方が、好きでもない女性の願いを叶える為にわざわざオルトレアまで来るなんて考えられませんが」
レイアンに問われて、アデックは溜め息混じりに答える。
「本来、俺はあいつの付き添いになるつもりはなかった。
ただ、成り行きでこうなっただけで」
「もし普段の貴方なら、成り行きで自分が行かないといけない状態になった場合は適当な事を言って断るのではないですか?
オルトレアの王子である私が散々手紙を送っても貴方は断り続けていたし、例え他の者からの誘いでも、貴方は面倒だと思ったものは断っていたのではないですか?
仕事の付き合いのものですらそうなのに、何故メリットもないオリヴィアお嬢様の付き添いを甘んじて受け入れたのです?」
レイアンに責められる様に問われて、アデックは不機嫌に返した。
「……今回の婚約騒動はそもそもスクープされた俺が悪いから、今日はその罪滅ぼしみたいなもんだよ。
それに俺が好きなのはリーシェであってオリヴィアではない」
レイアンはまるで自分に言い聞かせる様に答えるアデックを見て小さく溜め息を吐く。
「全く、貴方も中々意固地ですね。
まあ、過去を忘れて未来に生きろだなんて綺麗事を言うつもりはありませんけど」
「レイアン様!
こちらにいらしたのですね」
レイアンが話している最中に、オルトレアの家来の1人がレイアンの元へと駆け寄ってきた。
「おや、どうしましたか?」
「実は、最近海外の観光客が増えたのと同時に、何やら物騒な連中も紛れ込んで来ている様で。
なので、なるべく王子も王室の近場だからと言って1人で出歩かない様にという事になりました」
「へえ、そうなのですか。
まあいいでしょう」
「それに、何やら少年少女を誘拐する組織も流れ込んでいるみたいで、そちらの対応でお話が……」
「少年少女誘拐?」
近くで聞いていたアデックはその不穏な単語を訊き返す。
「あ、はい。
実は、12歳から16歳頃までの少年少女が連れ攫われる事件が多発しておりまして」
そこまで聞いて、アデックは胸騒ぎがしていた。
何だか、とてつもなく嫌なフラグが立った気がする。
「おや、それは何だか物騒な話ですね。
時にアデック王子、オリヴィアお嬢様とはこの後待ち合わせですか?」
「そうだが?」
「それなら、急いで行ってあげた方が良いのでは?」
レイアンは相変わらず薄い笑みで問い掛けてくる。
「……ちっ。
まあお前とこれ以上話す事もないし、それじゃあな」
アデックはそれだけ言い残して足早にその場を去っていった。
「……全く、今度はちゃんと守り抜いて下さいね」
レイアンはやれやれと肩をすくめた。
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「お嬢ちゃん、ちょっと良いかな?」
「え?」
すると、オリヴィアは背後から男性にオルトレア語で話しかけられた。
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「警察?」
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「あれ?
もしかして君オルトレア人じゃない?」
「えーと、英語なら話せます」
警察官の男性に問われるも、オリヴィアはオルトレア語が分からないので英語で返した。
「ここ、危険だから、こっちに避難して」
すると、警察官の男はカタコトの英語でオリヴィアに指示を出す。
「え?
危険?」
「こっちだよ」
こうして、オリヴィアは警察官に案内されるがまま着いて行った。
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