【完結】悪役令嬢だけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

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危険な帰り道

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「おー、このマシンやっぱりいいな!
めっちゃスピード出るじゃねーか!」

 車を操縦しながらアデックは楽しそうにハハハッと笑う。

「きゃー! 風が気持ちいいわー!
車って最高ー!」

 更に後ろで窓を開けてエマも楽しんでいた。

「ちょ!
スピード速すぎませんか?
大丈夫なんですか!?」

 アデックが運転している横でルーカスが慌てて問い掛ける。

「んあ?
まあ壊れてないから大丈夫だろ?」
「で、でも人を轢かないようにしないと!」
「大丈夫大丈夫!
ちゃんと避けてっから!」

 そう言ってアデックは目の前にいる人を思いっきりハンドルを切って躱す。

「きゃー! 今の凄ーい!
楽しー!!」

 エマはまるでアトラクションを楽しむかの様にはしゃいでいた。

「いや、絶対危ないわよね!?」

 私は見るに見かねて突っ込む。

「うっ」

 そしてノアは気絶した。

「ノア君!?
大丈夫かー!?
アデック王子、一旦止めて!」

「えー?
今俺めっちゃノリに乗ってるんだけどー?」
 
 ルイスが止めろと抗議するもアデックは言う事を聞こうとしなかった。

 そんな時。

「アデック王子、失礼します」
「ん?
うわ!」

 助手席にいたルーカスがアデック王子の腕を掴み、すかさずブレーキを押す。

 キキーッとけたたましいブレーキ音とともに車はストップした。

「なんだよルーカス、王子に対して良い度胸じゃねーか?」

「例え王子相手でも人命が大事ですので!!」

 不貞腐れるアデック王子にルーカスが一喝する。

「人命って、大袈裟だなー」
「「大袈裟じゃないわっ!!」」

 アデックの言葉にすかさずオリヴィアとルイスが突っ込んだ。

 そんなこんなで。

 結局運転はルーカスがアデック王子から一通り習いながらする事になった。

「なー、折角良いマシンなんだからもっとスピード出そうぜー?」
「そうよルーカス兄様、もうちょっとくらい出したって良いでしょう?」

「そこのスピード狂2人黙ってて下さい」

 何やらアデックとエマは不服そうにルーカスに言うも、ルーカスは刺々しくそう言い返す。

 そして後ろの席で私とルイスはホッと胸を撫で下ろしていた。

「ルーカスがこんなに頼もしく見える日が来るなんて」
「俺ルーカス様推しになりますね」

「後ろの2人のそれは褒め言葉として素直に受け取ってもいいんでしょうか?」

 ルーカスは褒められて割と嬉しそうだった。

「ところで、ノア君はこれ大丈夫なのだろうか?」
「あー、寧ろもう気絶してるままの方が良いかと思います」

 一方、ノアは最初のアデックの運転の衝撃により絶賛気絶中だった。

 それから暫くルーカスの安全運転の元、目的地の駅まで着いた。

「無事に辿り着けて良かったわ」
「ある意味王室へ潜入する以上に鬼気迫る帰り道だったからね」
「おい2人とも、言い過ぎじゃないか?」

 オリヴィアとルイスは無事に駅に辿り着けた事を喜んでいた。
 それを聞いてアデックは少し不服そうに突っ込む。

「あ、ここは……?」

 そして駅に着いて程なくしてノアが目を覚ました。

「ノア、大丈夫か?」
「車の中でずっと寝てたのよ?」

 ルーカスとエマが心配そうにノアの顔を覗き込む。

「車……うっ」

 車と聞いただけでノアの顔が青ざめた。

 間違いなくトラウマになったのだろう。

「もう二度と乗りたくない……」

「えー?
結構楽しかったから私はまた乗りたいわ!」
「いやー、本当楽しかったな!」

 暗い顔しているノアとは対極的にエマとアデックは生き生きとしていた。

 アデックはともかく、同じ姉弟のエマとノアは本当に真逆だよなとつくづく思う。

 それから、ノアが回復するのを待っている間に各々いつもの服に着替えを済ませ、その後クリスも駅へと到着したので7人でノルトギア行きの汽車へと乗り込んだ。

「車って、あのままで良かったんですか?」

 ルーカスは駅の前に置いていった車を心配してアデックへと尋ねる。

「ああ、なんか後でレイアンが回収しに行くから置いとけって言ってたぞ」

 アデックはそう端的に返事をした。

「あら? ノアが汽車で起きてるの珍しいわね?」

 エマが不思議そうにノアを見ながら問い掛ける。

 確かに、ノアが薬も飲まずにちゃんと起きてるのは珍しい。

「さっき汽車よりも凄い地獄を見たお陰で、少しの揺れくらいなら大丈夫になりました」

 ノアはアデックをジッと睨みつけながら答える。

「おー、ノア良かったじゃないか!
俺のお陰で乗り物酔いが克服出来て!」

 一方アデックは睨まれているのも気にする事なく笑顔でそう返した。

「アデック王子が王子じゃなければ殴ってますよ」
「ノア君、もうアデック王子の事を王子だなんて思わなくていいから一発かましてしまえ」
「ルイス様から許可が出たので殴ってもいいですか?」

「良い訳ないだろ?
というか2人とも共通の敵が出来た時だけ意気投合するのやめてくれよな?」

「「別に意気投合してませんけど?」」

 そう言いながらもノアとルイスの否定する声が見事にハモっていた。

「ノア様とルイス様って仲がよろしかったんですね」

 側から見ていたクリスはにこやかにそう言った。

「そうなの!
2人とも結局似た物同士なのよね!」

 エマも微笑みながらクリスに返事をする。

「まあ、確かに似た物同士ではあるわね」

 私もそれに同意した。

 それから揺れる汽車の中、すっかり夜も深くなり私達は眠りについた。



「ふぅ、みんな寝たか。
流石にこの人数の子供引率するのは大変だな」

 アデックは窓から月を眺めながらそう呟いた。

「そうは言ってもみんなそこまで手がかかるほどの子供でもないでしょう?」

 ルーカスはそれにやや否定的に返す。

「ま、そうだけどな。
ルーカス、お前も寝ていいぞ?」

「いえ、まだ眠くないので……。

ところでアデック王子、いつの間にイギリスやドイツと同盟なんて結んでいたのですか?」

 ルーカスの問いに、アデックはああ、と返事をする。

「オリヴィアとスクープされた少し後位から、俺の事をカメラマン以外の奴がこそこそと嗅ぎ回っている事に気付いてな?
そいつらがオリヴィアの事も調べ回っていたのは分かってたんだ」

「え?
そうだったんですか?」

 ルーカスはそれを聞いて驚く。

 自分もオリヴィア様の近くに居たというのに、全く気付かなかった。

 今度からもっと気を付けないととルーカスは心の中で決心する。

「それで、多分オルトレアが何やら仕掛けてくるだろうとは踏んでいたんだ。
だから、お前らの父親であるハワード子爵に頼んで何処でもいいから2、3カ国程同盟を結んできてくれと頼んでいたんだよ」

「え?
じゃあ同盟を結んだのはアデック王子ではなかったんですか?」

「ああ。
俺よりハワード子爵の方が友好的に話を進めてくれるから適任だったんだ。
しかしまさか大国のイギリスやドイツと結んできた事には流石にビックリしたがな?

ま、お前の親父さんはさぞかし上手く動いてくれたから、将来お前にも期待してるぞ」

「うっ、が、頑張ります」

 アデックに若干圧をかけられてルーカスは萎縮する。

「ま、そう気負うことはないさ。
何も父親と同じ様になれとは言わない。
それにお前だって今回十分に頑張ってくれたからな」

「え?
俺、今回はずっとアデック王子の側で見てるだけで特に何も出来ませんでしたよ?」

 アデックに褒められるも、その理由がルーカスには分からなかった。

「何を言ってるんだ?
レイアンを説得出来たのはお前のお陰だろう?」
「説得って言っても、俺はただ思った事を言っただけで……」

「俺の言葉じゃあレイアンはきっと説得出来なかった。
似た様な境遇のお前の言葉だからこそあいつを説得出来たんだ。

お前にとってはなんて事ない言葉でも、それを誰かの心に響かせるのは誰にでも出来る事じゃないさ」

 アデックは自信なさ気なルーカスに対して力強くそう言った。

「そうでしょうか?」
「ああ。だから今後に期待してるぞ?
ルーカス・ハワード」

「……はい!」

 ルーカスは少し嬉しそうに頷いた。

「あ、それとアデック王子、もう一つ訊きたい事があったのですが」

「ん? 何だ?」

 ルーカスは少し戸惑いつつも、アデックに恐る恐る質問した。

「その……アデック王子は、レイアン王子の事を嫌っていたのですよね?
それなのに、本当にレイアン王子を国王にするつもりなのですか?」

 ルーカスの問いに、アデックは静かに答えた。

「……まあ本当は国王と仲良く牢屋にぶち込みたかったがな。
ただ、あいつも妹があんな奴じゃなければあそこまでこじらせなかっただろうなと哀れに思う部分もあるんだ。

それに、最愛の女の最期の願いを聞き届けない訳にもいかないだろう?」

「……アデック王子は、本当にリーシェ姫の事を心から愛していたのですね」

 アデックの返事を聞いて、ルーカスはそう言った。

「ああ、まあな……」

 アデックは照れるでもなく、さも当たり前の様にそう返した。

 それからアデックは、あの手紙の最後の部分を思い出していた。


「……それと最後に、私の事は忘れて、アデック様はどうか他の人と幸せになって。

……なんて殊勝なこと言えれば良かったんだけれど。

私、貴方に忘れられたくなんてないわ。
私は貴方の中で永遠に生き続けたい。

だから私の事方時も忘れないでいてね♡

それにアデック様だって私の事忘れられるはずもないでしょう?

私は永遠に貴方の一番であり続けるわ。

せいぜいニ番目以降の女と幸せになってね。

リーシェより」



「最期まで我が儘で性格悪い女だよ、本当」

 アデックはボソリと小さくそう呟いた。

 そんな2人のやり取りを、後ろの席で途中から目を覚ましたオリヴィアが静かに聞いていた。

 何だか、盗み聞きしたみたいになってしまったわ……。

 ああ、でもやっぱり、アデック王子にとってリーシェさんは凄く大事な人なんだな……。

 それからオリヴィアはもう一度眠りにつこうと目を閉じるも、なかなか眠りにつく事が出来なかった。
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