【完結】悪役令嬢だけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

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妹心兄知らず

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「ルーカス君、君には分からないでしょう。

優秀な妹が、酷く恐ろしく見えた事を。
思ってはいけないのに、こんな妹さえ居なければと思ってしまう事を。

そして、妹の死を、嘆くどころか安心してしまった事を。
そんな自分に何処までも自己嫌悪する事を」

 レイアンは淡々と、しかし何処か悲しそうに微笑みながら語りかける。

「……分かりますよ」

 ルーカスは少し考えた後、口を開いた。

「分かる?
そんな筈ないでしょう。
同情でそんな事を言うのはやめて頂きたいですねぇ」

「同情なんかじゃありません。
俺にも、優秀な妹と弟が居ますから」

 ルーカスは真っ直ぐレイアンを見ながら答える。

「まあ確かに貴方のご兄弟もさぞ優秀でしょうが、だからと言って私の気持ちなど理解出来ないでしょう?」

「俺だって、俺より優秀な妹や弟を見て羨ましいとも思うし憎いとも思いましたよ。

俺も、兄として頼られたいのに、あいつらはいっつも自分達だけで解決するし、何考えてるのか分からない事も沢山あるし、もし一人っ子だったらこんな想いもしなくて済んだのかとも思います。

これまでも沢山喧嘩もしてきました。
ムカつく事もいっぱいありました。

でも、それでも良いと思ったんです。

兄弟だからって、無理して理解する必要なんてない。

あいつらと俺は違うのだから、俺の理想にあいつらを当てはめてはいけないと思う様になったんです」

「理想……」

 レイアンはルーカスの言葉を聞いて目を見開く。

 私は、リーシェの何を見ていたのだろう?

 毎日つまらなさそうにしている彼女の話を聞きもせず、勝手に勉強を教えた。

 笑って欲しいと思ったのは、彼女の為ではなく自分の為だ。

 アデック王子に対して何故そこまで心を開いたのか、聞きもしなかった。

 私だってリーシェの為に頑張ったつもりだった。

 でも、私は結局彼女の本心なんて一度も聞いた事がなかった。

 何故?
 
 私は、彼女の本心に興味がなかったのだ。
 リーシェには、理想の妹であって欲しかったから。

 それは、私の独りよがりなエゴだ。

 ああ、そうか。

「こんな私に彼女が、心を開いてくれる筈なかったんですね」
 
 私は良い兄になりたかった。

 だから、妹のリーシェにも良い妹でいる様に押し付けていたのだ。

 そんな私を、リーシェが好きになんてなってくれる筈がないだろう。

「……ま、あんな妹がいたらそりゃあ大変だろうなとは思うぞ。
俺は兄弟がいないからよく分からないが」

 横で静かに話を聞いていたアデックがフォローする様に声を掛ける。

 アデックは、リーシェから貰った手紙に書かれていた内容を思い出していた。



「……ただ、最後の最後に我が儘を言わせて?

 出来れば、兄上を、国王にしてあげて欲しいの。

貴方は兄上の事を嫌っているのでしょうけれど、兄上は私が死んだ後、自分の事を許せないと思うわ。

それと、すぐではないと思うけれど、私が死んだ数年後には父上はノルトギアに戦争を仕向けるでしょう。

その時、多分兄上は、貴方に殺されたがる。

何せ兄上は自殺出来る程の人じゃないからね。

まあ貴方も殺したい程嫌いかもしれないけれど、殺さないであげて。

それと、私が毒で死んだ事を暴露するのは、出来れば数年父上を泳がせた後の方が良いと思うわ。

今暴露してもオルトレアは羽振りがいいから、多分すぐに揉み消されると思うの。

でも、数年経てばきっと父上はやらかすと思うわ。

そのタイミングを狙った方が確実に父上を追放出来るから。

それと一応、役に立つかもしれないからオルトレアの地図も入れておくわね?

じゃあ後は任せたわ」


「……ま、お前もある意味被害者だろうしな」

「貴方にそう言われても嬉しくはないですね」

 アデックの言葉にレイアンは嫌そうな顔で返事をする。

「まあ、そうだろうけどよ。
それで……」
「レイアン王子!
大変です!
オリヴィアお嬢様が侵入者とともに逃げ出しました!!」

 アデックの言葉を遮ってオルトレアの家来が慌ててそう叫びながら客間へとやってきた。

「ああ、そうですか」

 しかし、レイアンはまるで知っていたかの様に落ち着き払った様子で返事をする。

「通信機器も中々直りませんし、侵入者は聞いた話によると12~14歳頃の子供ばかりだという事です!

それに、今脱走出来る範囲をくまなく調べているのですが、何処に行ったのか行方が分からない様で……」

「へぇ、成る程、考えましたね?」

 レイアンは薄く笑いながらアデック王子の方へと振り向く。

「まあな」

 アデックも涼し気な顔で答えた。

「どうされますか!?」

「ここのルールを忘れてはいませんよね?
賊が侵入した場合は直ちに生け捕りにせよと。
決して殺してはいけませんよ?」

「は、はい!」

 家来はそう言われてバタバタと去っていく。

「全く、子供たちに随分と無茶をさせますねぇ?」

 レイアンは苦笑しながらアデックを見やった。

「生け捕りって口で言うには簡単だけど中々難しいもんだよな。
特に女子供相手に本気で殴りかかれないだろうし、相手にするにはやり辛い事この上ないだろ?」

 アデックは涼し気に笑いながら答える。

 それを聞いてレイアンは静かに溜め息を吐いた。

「はぁ、まあこれで交渉材料も逃げた事ですし、後は貴方達もどうぞご勝手に逃げて下さい」

「え?」

 レイアンの言葉にルーカスは首を傾げる。

「あの、良いんですか?
レイアン王子はそれで」

「ええ。構いませんよ」

「やっぱりな。
お前、本当は最初からオリヴィアを逃がすつもりだったんだろ?」

 レイアンの答えを聞いて、アデックはそう訊いた。

「え?
オリヴィア様を逃がすつもりだった?」

 ルーカスは不思議そうに問い掛ける。

「……まあ隠す程の事でももうないですね。
私の目的はあくまで貴方に殺される為だったので、貴方さえ来てくれればオリヴィアお嬢様にもう用はなかったのです。

私としても、無関係な彼女をここまで巻き込んでおいて悪いなとは思ったのですよ」

 レイアンは淡々とそう語る。

「そ、そうだったんですか!?」

「ただ、オリヴィアお嬢様を逃そうと思っているのはあくまで私だけで、他の国王や家来達はオリヴィアお嬢様を使ってノルトギアに戦争する様にふっかけようとしてますから、今頃血眼になって探してますよ?
逃げるならお早目に」

「いや、まだ俺は役目が残ってるんだ。
お前を国王にのしあげるっていう大仕事がな?」

 レイアンの忠告を無視してアデックはそう宣言した。

「まだそれを言ってるのですか?
言っときますけれど、父上様は死ぬまで国王の座を譲るつもりはないのですよ?」

「殺さなくても、社会的に抹殺する事は出来るだろ?」

 アデックはニッと笑顔を浮かべる。

「全く、あの女も大概ですがあなたも相当毒されてますね」

「うるせー、狂ってねーとやってられっかこんな事!
という訳で、ルーカス、レイアン王子、行くぞ」

「え?
アデック王子、行くってどこへ?」

 ルーカスは混乱気味にアデックへと質問した。

「決まってんだろ?
諸悪の根源の国王様へと直談判しに行くんだよ!」

「はぁ、全く先が思いやられますね……」

 まあ、もう私の計画も台無しですし、ならせめてこの男がこれからどうするか見物でもしますかね?

 そう思いレイアンは渋々アデックとルーカスと共に着いていった。




「ところで、国王って今何処にいるんだ?」

 アデックはくるりとレイアンの方へ振り返って質問する。

「え?
アデック王子知らずに歩き出してたんですか?」
「本当に先が思いやられますね」

 アデックの質問にルーカスとレイアンは共に呆れていた。
 
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