【完結】悪役令嬢だけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

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「オリヴィア姉様、どういう事?」

 ノアは首を傾げながら私の方へと振り向く。

「ここ、行き止まりだよ?」

 私がノアを案内した先は、王室の1番左端の壁際だった。

 そこは、一見何もないただの行き止まりである。

「まあ、見てなさい」

 私はポケットにあらかじめ入れていたナイフで、壁紙に切り込みを入れた。

 そして、スーッとナイフで真っ直ぐ壁紙を切っていく。

「え!?
これって」

 その壁紙の向こうに、見るからに頑丈そうな扉が出てきた。

「有事の際の地下シェルターの入り口なんだって。
ここから外の庭に繋がっているらしいの」

「な、何でそんな情報をオリヴィア姉様が知ってるの!?」

 地下シェルターなんて、アデック王子の持っていた地図にもそんな事書かれていなかったのに?

 ノアはそう思い驚きながらオリヴィアへと問い掛けた。

「あー、実はね……」

 ~数日前~

「ああ! そう言えばオリヴィアお嬢様はこちらのお屋敷に来てまだお部屋など見て回られていませんよね?
それなら、これから私と見て回りましょうか」

「え?」

 私が脱走出来る場所を探そうと屋敷内をうろちょろしていたら、メイドに捕まったあの日の事。

「さぁ行きましょうか!
こちらですよ~」
「え? あ、はい……」

 私はあの後メイドに言われるがままに屋敷内を案内されていた。

「ここは書斎です。
それからこちらはキッチンへと繋がってまして……」

「はぁ……」

 一通り屋敷をぐるっと回った後、私はこの行き止まりに連れて来られた。

「あの、ここは?
何もないみたいですけど……」

「まあ、一見何もない様に見えますよね?」

 メイドはこちらを振り向いてニコリと笑う。

「ただ、こちらをよぉく見て下さい。
うっすらと線が見えるでしょう?」

 私はメイドが指差している壁をジッと凝視すると、確かに何やら線が見える。

「あの、これが何か?」

「この線に沿ってナイフとかの刃物で壁紙を切っていったら、扉が出てくるんですよ。

その扉の先は、緊急事態があった際に逃げ込める様に去年増設された地下シェルターになってるんですよね」

「地下シェルター?」

 私は聞き慣れない単語を繰り返し訊き返した。

「はい。
戦争などで王室に爆弾が落とされたり正面から攻め込まれたりした時の為の逃げる場所です。
ただ、狭くてそんなに収容人数が多くない為、一部の人達にしか知られていません。
私以外の使用人も知らない筈です。

因みにここから外の庭に繋がっています」

「え? 外?」

 ここから逃げる事が出来るというのか?

 しかも、ここを知っている人が少ないのなら、割と安全に抜け出せる事が出来るかも……。

 しかし、何故このメイドはそんな大事な事を私に教えてくれるのだろうか?

 このメイドにとって、私に逃げられるのはまずい筈だろうに。

「あの、どうして貴方は私にこの地下シェルターを教えてくれたのですか?」

 そこが今ひとつ分からない。

「オリヴィアお嬢様はレイアン王子の婚約者なのですから、当然こちらの事もいざという時の為にお知らせしていた方が良いと思いまして」

 メイドはニコリとそう答えた。

 確かに、私が普通の婚約者なら知っていた方がいい情報ではあるだろうけれど。

「後、今週末アデック王子が王室にいらっしゃるらしいですよ?」

「!?」

 成る程、レイアンはもうアデックを呼んでいるというのか。

 なら、尚更早く逃げ出さなければ。

「後この扉、壁紙を切っちゃったら壁紙は元に戻らないので、タイミングは注意して下さいね」

 タイミング……つまり早目にこの扉から出たら脱走した事がバレるという事か。
 それならアデックが交渉している隙に逃げるのが一番良さそうである。

「貴方は……何故そこまで教えてくれるのですか?」

 私の問いに、メイドはニコリと笑う。

「私はメイドとして屋敷の案内と来客者を教えただけです。

……みんなの事、よろしくお願いしますね」

「え?」

 メイドはボソリとそんな事を呟いた。

「みんなって……」

「それでは私は仕事がありますのでこの辺で~」

 私が訊き返そうとするも、メイドはそう言って走って何処かに行ってしまった。

「なんなの、一体?」

 ~回想終了~

 そんな事があった事を私は思い出していた。

「まあ、屋敷を案内してくれたメイドが教えてくれたのよ」

「へぇ……」

 ノアは扉を見つめながら疑いの眼差しを向ける。

「でも、そのメイドの言葉を本当に信じちゃっても良いの?
本当なら最高の抜け道だけど、罠かもしれないし……」

「そこは多分大丈夫かなって思うわ」

 半信半疑のノアに、私はきっぱりと伝えた。

「何でそう言い切れるの?」

 そう問われて、私はちょっと悩んでから答える。

「……あのメイドは信用出来るから」

 確証はないけれど、恐らく私の考えが合っていれば、きっと大丈夫な筈である。

「ふーん?
まあオリヴィア姉様がそこまで言うんなら、試しに行ってみようか」

 こうして、私とノアは扉を開けた。

 扉のすぐ向こうは下へと降りる階段が続いており、すぐ側にランタンとマッチが置いてあった。

 ノアがランタンに火をつけて、先に進んでいく。

「それにしても、私のいる部屋をよく探せたわね?」

 私は階段を慎重に降りながらふと不思議に思いノアに尋ねた。

 王室はかなり広く部屋数もあるのに、なぜピンポイントで助けに来れたのだろう?

「実はアデック王子がここの王室の地図を持ってて、そのお陰でオリヴィア姉様がどこの部屋にいるかは大体絞り込む事が出来たので。

案の定というか、まあ恐らくリーシェ姫の部屋だと思っていたので、読みが当たってて良かったよ」

 成る程、地図なんてあったのか。

 そして、私が使っていた部屋は、実はリーシェさんの部屋だったのだ。

 私もその事実はあの隠された手紙を読んで知った事である。

 そこで私はふと手紙の内容をノアに話しておこうと思い口を開いた。

「そうなんだ。
ところで、そのリーシェさんの事なんだけど……」

 私は、部屋で見つけた手紙に書かれていた内容をノアに話した。





 一方各々が脱走し始める少し前、アデックは1人の近衛兵を連れてレイアンの元へと訪れていた。

「お久しぶりですね、アデック王子。
いつも手紙を出しては断られていたので、やっとお会いできて嬉しい限りですよ」

「久しぶりだなレイアン王子。
それで? 何が目的だ?」

 物腰柔らかく話すレイアンとは裏腹に、アデックは端的に話す。

「まあそう急かさないで下さい。
お互い積もる話もあるでしょう?」

「お前と積もる話なんて特にないが」

 アデックとレイアンが対峙している最中に、オルトレアの家来の1人が何やら慌ただしく入って来た。

「レイアン様! お忙しい中申し訳ございませんが、先程から通信機器が使えなくなっておりまして……」

「……ほう?
どうやら、腕の良いハッカーでも雇ったのですかねぇ?」

 レイアンは静かに微笑みながらアデックを見やる。

「何だよ、言いがかりはよしてくれよな?」

 アデックはばっさりとシラを切った。

「……まあいいでしょう。
通信機器は復旧する様に頼んでおいて下さい」

 レイアンは家来に指示を出した後、ゆっくりとアデックの方へと振り向く。

「さて、アデック王子、どうせオリヴィアお嬢様を連れ戻しに来たのでしょう?

まあ、今頃悲しみに暮れて部屋に閉じこもっていると思いますが」

「閉じ込めているの間違いだろ?」

 アデックはレイアンを睨みつけながら問い掛ける。

「人聞きが悪いですねぇ?
さて、どうしましょうかね……。
彼女を返して欲しければ、ノルトギアの貿易を一部規制でもしましょうか。
それとも税金でも上げさせましょうか?」

 レイアンは楽しげに提案をしてきた。

「……どちらも嫌な条件だな」

 アデックは苦い顔で返事をする。

「それならオリヴィアお嬢様は私が貰いますね?」

「お前、一つ勘違いしてないか?
俺はオリヴィアと付き合ってる訳じゃないし、好きな訳でもない。

だから、そもそも交渉材料にするのを間違えている」

 アデックはオリヴィアが交渉材料にはならない事をレイアンに伝えた。
 勿論、それでレイアンが引き下がる事はないだろうとは思いつつも、薄い可能性として話したのだ。

「おや、いいのですか?
この王室に彼女を置いていても。
あの女の二の舞になるかもしれないのに?」

 レイアンの言葉に、アデックの顔色に怒りが滲む。

「……お前、それはどういう意味で言っている?」

「そのままの意味ですよ。

精々、オリヴィア様はですね?」

 そこまで聞いて、アデックはレイアンの胸倉を掴んだ。

「ア、アデック様!」

 アデックの隣にいた近衛兵が驚き声を上げる。

「その反応……やはり貴方もリーシェの本当の死因をご存知でしたか」

 胸倉を掴まれてもなお涼しげな顔でレイアンは話を続ける。

「本当の、死因?」

 近衛兵は不思議そうに2人に問い掛けた。

「ええ、彼女は病気で死んだんじゃない。

本当の死因は……」

 レイアンは静かに事実を語り出した。
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