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いざ出発!

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 それから、私は外出が禁じられた。

 外の街に出掛けるのは勿論、庭園など屋敷内の外ですら出る事は駄目だという。

 とは言え、普段引き篭もりがちな私には大して痛くも痒くもなかった。

「……しかし、あの手紙はどうしようかしら……」

 私は引き出しにしまってある手紙をどうするか悩む。

 あの手紙にはとある事実が書かれていたのだが、今現状私にはそれを誰かに知らせる事が出来ない。

 それに、恐らく私がどうこう出来るものではないのだろう。

 多分、アデック辺りが知っているだろうし、なんとかうまくやってくれるはず。

 それはさておき。

「私が連れてこられた目的は分かったけど……」

 しかしまだ妙に引っかかる。

 あのレイアンという男、まだ他にも目的がありそうだ。

 まあ、そこは今考えたところで仕方がないし、正直レイアンにそこまで興味もないし、今はこれからどうするかを考えよう。

 きっと、アデックはレイアンに呼び出されてここに訪れる。

 その前に、私はこのお屋敷から出なくては。

 私がいなければ交渉も出来ないだろう。

「まずは屋敷内を見て回ろう」

 私は取り敢えず部屋を出て屋敷をぐるっと回る事にしたのだが……。


「それにしても、広いわね……」

 ノルトギアの王室も勿論広かったが、オルトレアも負けず劣らず凄く広い。

 全てを回るのは大変そうだ。

 取り敢えず、脱走出来そうな所に要点を絞って散策しよう。

 そう思い、私は1階から順に窓のある壁などを探し回った。

 ただ、使用人たちの私を見る視線が気になる。

 やはり、脱走されない様にマークされている様だ。

 お陰であまり派手には動けなさそうである。

「はぁ、面倒ね……」

「あら、お疲れですかぁ?」

 背後からの突然の声掛けに、私は急いで振り返った。

 すると、そこには黒い髪のおさげのメイドがニコニコと笑いながら立っていた。

 前髪が目元まで伸びているせいで、その瞳は見え辛い。

「こんな所で何をしているのですか?
オリヴィアお嬢様?」

「あ、えと」

 私はなんとか言い訳を考えようとするも、うまく言葉が出て来ない。

 こんな時私もノアみたいに咄嗟に嘘が吐けたらと本気で悔やんだ。

「そちら側に行ってもオリヴィアお嬢様は特に用がありませんよね?」

「ま、まあ、あの、オルトレアの王室を色々と見て見たくって」

 なんとか言い訳をするも、中々に苦しい。

「ああ! そう言えばオリヴィアお嬢様はこちらのお屋敷に来てまだお部屋など見て回られていませんよね?
それなら、これから私と見て回りましょうか♪」

「え?」

 困惑する私を他所に、メイドはこちらですよと案内しだした。

 戸惑うも、私はすぐに察した。

 どうやら、このメイドは私一人で勝手に屋敷を回らせない様に、見張りの意味も込めているのだろう。

(やはり一筋縄ではいかない、か……)


 私は結局その日はメイドと屋敷を回って1日を終えた。



 一方、ハワード家では、オリヴィアを奪還するべく各々動き回っていた。

「あ!
いけないわ!」

「どうした? エマ」

 エマの唐突な大声に、ルーカスは質問する。

「オルトレアにオリヴィアちゃんを助けに行く日、私クリスちゃんと会う約束をしてたのよ。
お断りしておかなきゃ」

「そうだったのか、まあ今回ばかりは仕方ないな」

「私ちょっと手紙を書いてくるわ!」

 エマはそう言って急いで部屋へと戻った。

 部屋に入るなりすぐに机に向かい、ペンを取ってエマは考える。

「とはいえ、どう書こうかしら?
普通に急用が入ったとかでいいわよね?」

 エマは普段、滅多な事がない限り約束を反故にする事がないので、断りの手紙など書いた事がなかった。

「でも急用ってだけだと、会いたくないからとかって勘違いされるかしら?
でも、本当の事を書く訳にも……うーん……」

 悩みながらも、エマは何とか断りの手紙を書いて送った。

 そして後日、クリスの元に手紙が届いた。

「エマちゃん……」

 クリスは手紙を読んで、溜め息を吐く。

「はぁ……遊べなくなっちゃったのは残念だな……」




 そして、更に数日後。

 とうとうオリヴィアを奪還するべくオルトレアへと向かう日がやって来た。

「よーし、みんないるか?」

「はーい!」

 アデックの問いに、エマが元気良く答える。

「エマもノアもルイス様もいるし、大丈夫です」

 ルーカスは一通り周りを確認してアデックに返事をした。

 アデック、ルーカス、エマ、ノア、ルイスは汽車に乗る為駅へとやって来ていたのだ。

「よし、みんないるな」

「あの、行かれる前に、皆さんに渡したいものがあるのです」

 アデックが確認を終えたタイミングで、見送りに来ていたイザベラが口を開いた。

「シーラ様と一緒に、ブレスレットを作ったんです。
お守りとしてどうか持っていって下さい」

 そう言ってイザベラはアデックにブレスレットを渡した。

「ありがとうございます。
オリヴィアは絶対連れ戻してくるので」

「こちらこそ、お願い致します」

 イザベラは深々とアデックにお辞儀をした後、エマとノアにもブレスレットを渡した。

「エマちゃん、ノア君、気をつけてね」

「お義母様、ありがとう!
絶対オリヴィアちゃんを取り返してみせるわ!」

「ありがとうございます。
オリヴィア姉様と共に絶対帰って来ますね!」

 2人はイザベラにそう断言した。

「ルーカス様、どうか、どうかご無事で帰ってきて下さいね!
オリヴィア様の事も、よろしくお願い致しますね!
こちらはルーカス様の無事を祈りながら作りましたので、どうか受け取って下さい!」

 一方同じく見送りに来ていたシーラは、そう言ってルーカスにブレスレットを渡す。

「ありがとうございますシーラ様。
オリヴィア様を連れて、必ず戻りますので」

 ルーカスはブレスレットを受け取りながら笑顔でそう答えた。

「ルーカス様、お怪我などなさらぬ様お気をつけてくださいね!

あ、後これルイスの分よ、はい」

 そう流れ作業の様にシーラはルイスにぽんとブレスレットを渡した。

「扱いの差が酷い」

「ちゃんとルイスの無事も祈りながら作ったわよ」

「へぇ、どうだか」

 ルイスは悪態吐くも、ブレスレットを腕につける。

 その時、ちょうど汽車のアナウンスが流れた。

「それじゃあ、乗り込むとするか」

 アデックの声掛けに、みんな汽車に乗り込んだ。




「さて、上手く私の作戦に引っかかってくれますかね?」

 オルトレアの王室で、レイアンは一人ニコリと微笑んだ。
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