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エマの告白
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それからオリヴィアはエマの部屋へとやってきた。
ドアをコンコンとノックするも、しかし返事は無い。
「エマ? いるの?」
ドア越しに尋ねてみても、やはり返事は返ってこなかった。
「……入るわよ?」
オリヴィアはそう問い掛けながらもゆっくりと鍵のかかってないエマの部屋のドアを開く。
すると、電気もつけず薄暗い部屋の中、ベッドの上でシーツにくるまって座っているエマの姿が見えた。
窓から差す夕暮れにより、シーツはオレンジに染まっている。
「エマ……その、ごめんなさい。
私の考え方が間違っていたわ」
私はゆっくりとベッドの端に腰掛けてエマに謝罪する。
「私、誕生日プレゼントなんて母さん以外から貰った事なくて、貰った以上はちゃんと返さなきゃって思っていたの。
誕生日はただプレゼントを渡すものって考えてた。
でも、本来はその人に感謝とか、こう気持ちを込めて渡すものなのよね。
何だか軽く考えていたわ。
だから……」
「私ね、オリヴィアちゃんからブレスレットを貰った時、凄く嬉しかったの」
オリヴィアの言葉を遮って、エマが唐突に話し出した。
「オリヴィアちゃんが私の為に、私の事を考えて、色んな人から私の事を訊いて回って作ってくれたブレスレット。
私、それを知った時にね、嬉しかったの。そこまでしてくれたんだって」
「それは……そりゃあ命の恩人だし、あんたが喜ぶ物を渡したかったから」
「じゃあノアは?
オリヴィアちゃんにとってノアの事はどう思ってる?」
エマは被っていたシーツから顔を出してジッとオリヴィアの目を見つめて質問してきた。
それは一体どういう意味なのだろうか?
それに、何で急にノアが出てくるんだ?
「え? ノア? どう思ってるって訊かれても、まあ義理の弟くらいの認識だけど?」
それを聞いてエマは確信した。
やっぱり、オリヴィアちゃんは例え私だろうと、ノアだろうと、全く同じ様に接するのだ。
オリヴィアちゃんは、相手が誰であろうと関係なく優しい。
それならいっその事、ノアの事を特別に想っていると言われた方がまだマシだったなぁ。
「そうよね……。
ねぇオリヴィアちゃん。
オリヴィアちゃんにとって私もノアも、それにルーカス兄様や他の人だって、みんな同じくらい好きでも嫌いでもないんでしょ?」
「えっと……?」
エマの言いたい事が分からず私は答えられずにいた。
「オリヴィアちゃんは真面目だから、プレゼントはその人が喜ぶ物をあげないとと思ったんでしょう?
だから、ノアの誕生日プレゼントでも私の時と同じ様に訊いてきたんでしょ?」
「それは、まあ相手が嫌がるものをあげるわけにもいかないでしょ」
エマはそれを聞いて俯きながらぽつぽつと話す。
「そうよね、私だけじゃないのよね。
オリヴィアちゃんは例え好きな人じゃなくても、そうやって相手の事を一生懸命考えて渡すのよね。
ごめんなさい。私、自惚れてたの。
ちょっとでもオリヴィアちゃんの特別になれた気がした。
こんな風に色んな人に訊き回って、頭を悩ませてブレスレットを作ってくれたのは、私だからなんじゃないかって思ってた。
きっとここまでしてくれるのは私だけだって。
でも違うのよね、オリヴィアちゃんは私じゃなくても、誰に対してもそうなのよね。
分かってたの。それでも、期待せずにはいられなかった。
バカなんて言ってごめんね、本当にバカなのは私の方なのに」
エマはポロポロと泣きながら懺悔するかの様に謝ってきた。
「……」
正直、なんと声を掛けたらいいのか分からない。
他人のプレゼントに本気で悩んだのはエマが初めてだよとか、誕生日以外に物を渡したのはエマだけだよとか言ってあげたらいいのだろうか?
でも、それもきっとエマが望んでいる言葉ではないと分かっている。
泣き止んで欲しい。笑っていて欲しい。
傷つけたくないのに。
「ねえオリヴィアちゃん。
私、オリヴィアちゃんの事、大好きよ。
例え特別だと想われなくても、大好きなの」
エマは泣きながら、それでも無理矢理笑いながら告白してきた。
「……私、エマの事は命の恩人だと思っているわ。
でも、それ以上ともそれ以下とも思ってないの。
気持ちに応えられなくて、ごめん」
私はエマの告白に精一杯自分の気持ちを伝える。
「うん、分かってるわ」
エマは涙を拭きながら無理矢理作り笑いをする。
「あーあ、振られちゃったわ。
でも、まだ諦めきれないだろうから、オリヴィアちゃんが本当に誰かを好きになるまでは好きでいさせてね!」
明るい口調でエマはそう言ってきた。
その眼の周りは泣きすぎたせいで少し赤く腫れている。
「……ごめん」
私が居た堪れなくて謝ると、エマからバシッと背中を叩かれた。
「いっった!!」
エマは軽く叩いたつもりなのだろうが、叩かれた背中にめちゃくちゃ激痛が走る。
「もうオリヴィアちゃんまでそんなに暗い顔しないでよ!
私オリヴィアちゃんを好きになれただけで幸せなんだから!
それにまだ完全にチャンスがなくなった訳じゃないしね!」
エマはふふふっと笑いながらそう言ってくる。
「やっとあんたらしくなったわね」
オリヴィアはホッとして少し唇を緩ませた。
「そりゃあいつまでも落ち込んでなんていられないわ!」
エマも少し空元気気味ではあるが、明かるく振る舞ってくれた。
正直エマに救われたなとオリヴィアは実感する。
あのままエマが立ち直らなかったら、私はきっとどうすれば良いか分からずに何も出来なかった。
エマもそれを分かってて、私を困らせまいと振る舞っているのだろう。
(……どうしてこうも上手くいかないんだろう?
傷つけるつもりじゃなかったのに)
「あ、そうそう!
ノアの好きな物を訊いてたわよね?」
「え? ああ、そうだけど……」
エマは無理矢理話題を変えて話し出す。
「ノアは確か昔はよく本を読んでたわねー。
でも最近はあんまり読んでないかも?」
「え? そうなの?」
あれ? ノアって読書苦手って言ってなかったっけ?
少なくとも私がこの屋敷に来てからノアが自主的に本を読んでいる所は見た事がない。
「あとはグラタンとか好きね」
「そうなのね、分かったわ。ありがとう」
私はエマにお礼を言うと、エマはニコニコと笑顔で口を開いた。
「私もグラタン好きだから、もし手作りするなら私も食べたいわ!」
「まだそうと決まった訳じゃないけど。
……まあ考えておくわ」
「うふふ♡ 楽しみにしてるわ!
じゃあ訊き込み頑張ってね!」
エマはそう言って軽く手を振る。
「……ありがとう。それじゃあ」
私はその流れでエマの部屋を出た。
多分、気を遣ってくれたんだろうなと思う。
かと言って、その気遣いに私がエマに感謝をするのも筋違いだろう。
「はあ、何で人間関係には明確な正解がないんだろう?」
どうしたら良かったんだろうか?
いや、そもそも私はエマの気持ちに応えられないから、どんな形であれ傷つける事しか出来ないんだ。
「何で私はいつも傷つける側なんだろう……。
なんていつまでうじうじ考えてても仕方ないわね」
折角エマが明るく振る舞ってくれていたのに、私がこんなんじゃあ意味がない。
「よし! ノアのプレゼントをどうするかをまず考えよう」
私は無理矢理気持ちを切り替える事にした。
一方エマは部屋でベッドに腰掛けて反省していた。
いきなり泣いたり怒ったりして、オリヴィアちゃんを困らせてしまった。
「はぁ~……。
こんなつもりじゃなかったのに……」
エマはコテンとベッドに横になる。
「あー、もう! 私のバカぁ……!
あんな事言ったって、オリヴィアちゃんが困るだけだって分かってるのに!」
オリヴィアちゃんは誰にだって優しいから、勘違いしてしまいそうになる。
その優しさを独り占めしたい。
私だけに向けて欲しい。なんて。
「そんなの無理だって、分かってるのに……」
最初この家にオリヴィアちゃんが来た時、オリヴィアちゃんは私達を冷たくあしらっていた。
酷いことを言ったりされたりはしたけど、それでも、本当に私達を傷つける様なことはしなかった。
それどころか、嫌ってる私達の事でさえ困っていたら助けてくれたりした。
分かり辛いながらにも、不器用な優しさがあって、私はそれに惹かれたんだ。
どうしてオリヴィアちゃんがそんなに頑なに悪ぶってるのか、自分を劣っている人間だと思い込みたいのか理由は分からないけど、そんなオリヴィアちゃんがいつか虚勢を張らなくてもいい様にしてあげたいと思った。
私がオリヴィアちゃんを支えてあげたい。
でもそれは多分オリヴィアちゃんは望んでいない。
私の行き過ぎた願いなんだ。
「分かってるの……私の望みは、オリヴィアちゃんにとって困るものだって。
それでも、私は」
オリヴィアちゃんを幸せにしてあげたい。
例え彼女がそれを望まなくても。
ドアをコンコンとノックするも、しかし返事は無い。
「エマ? いるの?」
ドア越しに尋ねてみても、やはり返事は返ってこなかった。
「……入るわよ?」
オリヴィアはそう問い掛けながらもゆっくりと鍵のかかってないエマの部屋のドアを開く。
すると、電気もつけず薄暗い部屋の中、ベッドの上でシーツにくるまって座っているエマの姿が見えた。
窓から差す夕暮れにより、シーツはオレンジに染まっている。
「エマ……その、ごめんなさい。
私の考え方が間違っていたわ」
私はゆっくりとベッドの端に腰掛けてエマに謝罪する。
「私、誕生日プレゼントなんて母さん以外から貰った事なくて、貰った以上はちゃんと返さなきゃって思っていたの。
誕生日はただプレゼントを渡すものって考えてた。
でも、本来はその人に感謝とか、こう気持ちを込めて渡すものなのよね。
何だか軽く考えていたわ。
だから……」
「私ね、オリヴィアちゃんからブレスレットを貰った時、凄く嬉しかったの」
オリヴィアの言葉を遮って、エマが唐突に話し出した。
「オリヴィアちゃんが私の為に、私の事を考えて、色んな人から私の事を訊いて回って作ってくれたブレスレット。
私、それを知った時にね、嬉しかったの。そこまでしてくれたんだって」
「それは……そりゃあ命の恩人だし、あんたが喜ぶ物を渡したかったから」
「じゃあノアは?
オリヴィアちゃんにとってノアの事はどう思ってる?」
エマは被っていたシーツから顔を出してジッとオリヴィアの目を見つめて質問してきた。
それは一体どういう意味なのだろうか?
それに、何で急にノアが出てくるんだ?
「え? ノア? どう思ってるって訊かれても、まあ義理の弟くらいの認識だけど?」
それを聞いてエマは確信した。
やっぱり、オリヴィアちゃんは例え私だろうと、ノアだろうと、全く同じ様に接するのだ。
オリヴィアちゃんは、相手が誰であろうと関係なく優しい。
それならいっその事、ノアの事を特別に想っていると言われた方がまだマシだったなぁ。
「そうよね……。
ねぇオリヴィアちゃん。
オリヴィアちゃんにとって私もノアも、それにルーカス兄様や他の人だって、みんな同じくらい好きでも嫌いでもないんでしょ?」
「えっと……?」
エマの言いたい事が分からず私は答えられずにいた。
「オリヴィアちゃんは真面目だから、プレゼントはその人が喜ぶ物をあげないとと思ったんでしょう?
だから、ノアの誕生日プレゼントでも私の時と同じ様に訊いてきたんでしょ?」
「それは、まあ相手が嫌がるものをあげるわけにもいかないでしょ」
エマはそれを聞いて俯きながらぽつぽつと話す。
「そうよね、私だけじゃないのよね。
オリヴィアちゃんは例え好きな人じゃなくても、そうやって相手の事を一生懸命考えて渡すのよね。
ごめんなさい。私、自惚れてたの。
ちょっとでもオリヴィアちゃんの特別になれた気がした。
こんな風に色んな人に訊き回って、頭を悩ませてブレスレットを作ってくれたのは、私だからなんじゃないかって思ってた。
きっとここまでしてくれるのは私だけだって。
でも違うのよね、オリヴィアちゃんは私じゃなくても、誰に対してもそうなのよね。
分かってたの。それでも、期待せずにはいられなかった。
バカなんて言ってごめんね、本当にバカなのは私の方なのに」
エマはポロポロと泣きながら懺悔するかの様に謝ってきた。
「……」
正直、なんと声を掛けたらいいのか分からない。
他人のプレゼントに本気で悩んだのはエマが初めてだよとか、誕生日以外に物を渡したのはエマだけだよとか言ってあげたらいいのだろうか?
でも、それもきっとエマが望んでいる言葉ではないと分かっている。
泣き止んで欲しい。笑っていて欲しい。
傷つけたくないのに。
「ねえオリヴィアちゃん。
私、オリヴィアちゃんの事、大好きよ。
例え特別だと想われなくても、大好きなの」
エマは泣きながら、それでも無理矢理笑いながら告白してきた。
「……私、エマの事は命の恩人だと思っているわ。
でも、それ以上ともそれ以下とも思ってないの。
気持ちに応えられなくて、ごめん」
私はエマの告白に精一杯自分の気持ちを伝える。
「うん、分かってるわ」
エマは涙を拭きながら無理矢理作り笑いをする。
「あーあ、振られちゃったわ。
でも、まだ諦めきれないだろうから、オリヴィアちゃんが本当に誰かを好きになるまでは好きでいさせてね!」
明るい口調でエマはそう言ってきた。
その眼の周りは泣きすぎたせいで少し赤く腫れている。
「……ごめん」
私が居た堪れなくて謝ると、エマからバシッと背中を叩かれた。
「いっった!!」
エマは軽く叩いたつもりなのだろうが、叩かれた背中にめちゃくちゃ激痛が走る。
「もうオリヴィアちゃんまでそんなに暗い顔しないでよ!
私オリヴィアちゃんを好きになれただけで幸せなんだから!
それにまだ完全にチャンスがなくなった訳じゃないしね!」
エマはふふふっと笑いながらそう言ってくる。
「やっとあんたらしくなったわね」
オリヴィアはホッとして少し唇を緩ませた。
「そりゃあいつまでも落ち込んでなんていられないわ!」
エマも少し空元気気味ではあるが、明かるく振る舞ってくれた。
正直エマに救われたなとオリヴィアは実感する。
あのままエマが立ち直らなかったら、私はきっとどうすれば良いか分からずに何も出来なかった。
エマもそれを分かってて、私を困らせまいと振る舞っているのだろう。
(……どうしてこうも上手くいかないんだろう?
傷つけるつもりじゃなかったのに)
「あ、そうそう!
ノアの好きな物を訊いてたわよね?」
「え? ああ、そうだけど……」
エマは無理矢理話題を変えて話し出す。
「ノアは確か昔はよく本を読んでたわねー。
でも最近はあんまり読んでないかも?」
「え? そうなの?」
あれ? ノアって読書苦手って言ってなかったっけ?
少なくとも私がこの屋敷に来てからノアが自主的に本を読んでいる所は見た事がない。
「あとはグラタンとか好きね」
「そうなのね、分かったわ。ありがとう」
私はエマにお礼を言うと、エマはニコニコと笑顔で口を開いた。
「私もグラタン好きだから、もし手作りするなら私も食べたいわ!」
「まだそうと決まった訳じゃないけど。
……まあ考えておくわ」
「うふふ♡ 楽しみにしてるわ!
じゃあ訊き込み頑張ってね!」
エマはそう言って軽く手を振る。
「……ありがとう。それじゃあ」
私はその流れでエマの部屋を出た。
多分、気を遣ってくれたんだろうなと思う。
かと言って、その気遣いに私がエマに感謝をするのも筋違いだろう。
「はあ、何で人間関係には明確な正解がないんだろう?」
どうしたら良かったんだろうか?
いや、そもそも私はエマの気持ちに応えられないから、どんな形であれ傷つける事しか出来ないんだ。
「何で私はいつも傷つける側なんだろう……。
なんていつまでうじうじ考えてても仕方ないわね」
折角エマが明るく振る舞ってくれていたのに、私がこんなんじゃあ意味がない。
「よし! ノアのプレゼントをどうするかをまず考えよう」
私は無理矢理気持ちを切り替える事にした。
一方エマは部屋でベッドに腰掛けて反省していた。
いきなり泣いたり怒ったりして、オリヴィアちゃんを困らせてしまった。
「はぁ~……。
こんなつもりじゃなかったのに……」
エマはコテンとベッドに横になる。
「あー、もう! 私のバカぁ……!
あんな事言ったって、オリヴィアちゃんが困るだけだって分かってるのに!」
オリヴィアちゃんは誰にだって優しいから、勘違いしてしまいそうになる。
その優しさを独り占めしたい。
私だけに向けて欲しい。なんて。
「そんなの無理だって、分かってるのに……」
最初この家にオリヴィアちゃんが来た時、オリヴィアちゃんは私達を冷たくあしらっていた。
酷いことを言ったりされたりはしたけど、それでも、本当に私達を傷つける様なことはしなかった。
それどころか、嫌ってる私達の事でさえ困っていたら助けてくれたりした。
分かり辛いながらにも、不器用な優しさがあって、私はそれに惹かれたんだ。
どうしてオリヴィアちゃんがそんなに頑なに悪ぶってるのか、自分を劣っている人間だと思い込みたいのか理由は分からないけど、そんなオリヴィアちゃんがいつか虚勢を張らなくてもいい様にしてあげたいと思った。
私がオリヴィアちゃんを支えてあげたい。
でもそれは多分オリヴィアちゃんは望んでいない。
私の行き過ぎた願いなんだ。
「分かってるの……私の望みは、オリヴィアちゃんにとって困るものだって。
それでも、私は」
オリヴィアちゃんを幸せにしてあげたい。
例え彼女がそれを望まなくても。
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