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汽車とお薬
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翌日の早朝、ハワード家お屋敷にて。
「それじゃあ行きましょうか」
「まさかこんな形でオリヴィア姉様の服を着る羽目になるとか、何か複雑……」
ノアはぼやきつつも私が渡した服をきちんと着てくれた。
一応男女どちらが着ても大丈夫そうな服を渡したので、別にそこまで違和感はない。
「しかし、あれよね。格好は下町の子っぽく見えるけど、顔が綺麗だから目立つわね」
これは結局美形は何を着ても様になるという事なのだろう。
「そういうオリヴィア姉様も大分目立ってると思うよ?」
「私は普通よ。元下町の子なんだし」
と言いつつも、ノアから見たらオリヴィアもやはり目立って見える。
よく今まで下町に住んでて大丈夫だったなとすらノアは感心する。
2人は庭園の隙間から抜けて駅を目指した。
「恐らく昼までには帰れないだろうし、夕食までに帰れればいいんだけど」
「事件に巻き込まれなければ大丈夫じゃない?」
「やめて、何かフラグに聞こえるから」
オリヴィアは何となく不安になりつつも、無事に駅へと着き、それから2人で汽車に乗り込んだ。
「ウルカスカまで2時間くらいかかるし、あんたは寝てなさいよ」
「大丈夫だよ」
「どうせ酔うでしょ?」
「うっ……」
そんなこんなで。
何故か汽車の席で向かい合って座るのではなく横に並んで座る形になった。
どうしてこうなったかというと、ノアがどうしても寝顔を見られたくないと言い張り結果横に座るという事で解決? したのだが。
よくよく考えたら私ノアの寝顔を庭園で見てるし、なんならその時私が向かいに座ってても寝てたじゃないかと思いもするのだが。
チラリと横を見やると、ノアは寝息を小さく立てて寝ている。
それから、汽車が曲がり角で少し揺れた。
その揺れのせいでノアが私の方に少し寄りかかってきた。
私は気にせず窓の方から景色でも眺めていようかと思うと、窓側にノアが座っている為ノアの姿がチラリと視界に入る。
……今頭を撫でたら流石にバレるかな?
オリヴィアにふとそんな出来心が芽生えた。
ノアの頭にそっと手を乗せてみる。
さっきの揺れでも起きていない様だし、大丈夫そうだ。
やっぱり髪の毛が柔らかくて、猫とか兎の様な小動物を撫でてる感じに似ている。
何だか癒されるなぁ、こういうの。
「やっぱり、猫飼ってみたいなぁ」
私はぽつりと呟いた。
猫は好きだが、飼う余裕なんてとてもじゃないけど無かったから、雨の日に濡れてる野良猫を保護した事はあったけど、結局雨が止んだら元の場所に置き去りにするしか出来なかった。
今なら猫を飼いたいと言えばみんな許してくれるだろうけど、それは何だか違う気がする。
男爵は優しいけど、実の父でもないのにその好意に甘えるのは良くない気がするのだ。
ただ、あの少女は猫を飼えなくても友達として猫を側に置いていた。
それが、羨ましく思える。
周りから馬鹿にされても、それを貫き通せるのは凄いなと思った。
「んっ……」
「あ」
私はノアが少し動いたので咄嗟にノアの頭から手を離した。
考え事しながらも、ずっと頭を撫でっ放しだったのだ。
一瞬ノアが起きるかと冷や冷やしたが、どうやら起きてはいない様である。
「……のらねこ?」
「え?」
今、野良猫って言ってた?
私は隣のノアを暫く見てみるも、起きている気配はない。
恐らく寝言だろう。
野良猫とは、あの少女の事でも夢に見ていたのだろうか?
ノアの寝言を聞いて、何故か胸がモヤモヤする。
なんだろう、そういえば前にもモヤっとした事があった様な……。
確か最近だったけど、どのタイミングだったっけ?
しかし考えても思い出せない。
それどころか、今度はその考えにモヤモヤしてしまう。
(よし、考えるのをやめよう)
アデックに言われてからなるべく自分の気持ちを考える様にしていたが、今はそれより事件の事を優先して調べたい為、一旦自分の事を考えるのはやめた。
そんな感じで約2時間後、無事にウルカスカに到着した。
ノアは眠そうに欠伸をしながら汽車を降りる。どうやら寝ていたお陰でそこまで酔いは酷くなさそうである。
「ふぁぁ。
オリヴィア姉様、俺なんか変な事言ってなかった?」
「別に特には。
あ、途中野良猫って呟いてた」
ノアはそれを聞いて目を丸くする。
「マジか……。オリヴィア姉様が横にいるのに別の女の子の名前を言ってしまうなんて……!」
「いや、そもそもその女の子の名前はキャットレイで野良猫じゃないでしょうに」
何やらやらかしたと言わんばかりのノアに対して私は訂正する。
「そうだけど、俺は最後まで名前教えてもらえてないから、そう呼ぶ資格はないかなって思ってる」
「でも、ニックネームは教えてもらったんでしょう?
ならそっちで呼べばいいんじゃない?」
「確かに教えてもらったけど、そっちで本人を一回も呼んでないから何ともなぁ」
2人で雑談しながら取り敢えずホワイトブラン先生の診療所を目指すべく周りの人に道を尋ねる事にした。
「ホワイトブラン先生の家ならこの道をまっすぐ行って突き当たりを右だよ」
「ありがとうございます」
流石有名なお医者様なだけあって、すぐに場所を教えて貰えたうえ、駅からも近かったお陰で簡単にお家へと辿り着く事が出来た。
家の扉の前に「ご用のある方は扉から真っ直ぐの受付へどうぞ」と張り紙に書かれている。
「自宅兼診療所なのね」
「みたいだね。
じゃあ訪ねてみようか」
私とノアは扉を開けて張り紙通り真っ直ぐ進む。
扉には鈴がついており、開けると同時にカランカランと鳴っていた。
中に入ると、そこはもう診察室の一部かの様な造りになっていた。
「はい、患者様ですか?」
奥の部屋から、前に見た事のある医者が顔を出す。
「ホワイトブラン先生ですよね?」
私は憶えてはいるが、念のため確認する。
「如何にも。私がホワイトブランです」
物腰柔らかい口調で目の前の男性は答えてくれた。
温和な感じで、なんというか、こう言うのは失礼だろうけど凄みが無い。
この人が国一番の医者だと言われても、パッと見た感じでは信じ難い。
人を見かけで判断するのは良くないのだが。
「それで、私に何か用かい?
そこの少年は少し顔色が悪いね。
汽車にでも酔ったかい?」
ノアはそれを聞いて驚いた顔をする。
「え? ノアやっぱり酔ってたの?」
「まあちょっとは。しかし流石ですね。
まさか言い当てられるとは思いませんでした」
「まあ伊達に30年以上も医者やってないからね」
ホワイトブラン先生は柔らかい笑みを浮かべながらノアに小さな紙袋を手渡した。
「あの、これは?」
「酔い止めの薬だよ。何かに乗る前に飲んだら気持ち悪さが軽減されるから。
あ、飲む時はなるべく空腹時は避けてね」
「え? あ、ありがとうございます」
ノアがすかさずお金を払おうとすると、ホワイトブラン先生は手を横に振ってそれを断った。
「お金なんていいよ。私が勝手に診て勝手に渡しただけだから」
「いや、でも薬って高いですよね?
ただで貰うのはちょっと」
「大丈夫、それ私が趣味で作った試作品だから」
「「え?」」
趣味で作った試作品?
まあ医者なのだから薬は作るのだろうけど、それは趣味なのか?
「昔から色々と作るのが好きでね。
正規の薬でもないし。あ、でも安全は保証するよ」
「まあ、お医者様が作ったんならそれはそうでしょうけれど」
ノアは結局ただで薬を譲ってもらった。
「じゃあ、そろそろ君たちの用を聞かせてもらおうかな?」
改めてホワイトブラン先生に訊ねられる。
その笑顔はとても優しそうな反面、何処となく冷たい印象もあった。
「それじゃあ行きましょうか」
「まさかこんな形でオリヴィア姉様の服を着る羽目になるとか、何か複雑……」
ノアはぼやきつつも私が渡した服をきちんと着てくれた。
一応男女どちらが着ても大丈夫そうな服を渡したので、別にそこまで違和感はない。
「しかし、あれよね。格好は下町の子っぽく見えるけど、顔が綺麗だから目立つわね」
これは結局美形は何を着ても様になるという事なのだろう。
「そういうオリヴィア姉様も大分目立ってると思うよ?」
「私は普通よ。元下町の子なんだし」
と言いつつも、ノアから見たらオリヴィアもやはり目立って見える。
よく今まで下町に住んでて大丈夫だったなとすらノアは感心する。
2人は庭園の隙間から抜けて駅を目指した。
「恐らく昼までには帰れないだろうし、夕食までに帰れればいいんだけど」
「事件に巻き込まれなければ大丈夫じゃない?」
「やめて、何かフラグに聞こえるから」
オリヴィアは何となく不安になりつつも、無事に駅へと着き、それから2人で汽車に乗り込んだ。
「ウルカスカまで2時間くらいかかるし、あんたは寝てなさいよ」
「大丈夫だよ」
「どうせ酔うでしょ?」
「うっ……」
そんなこんなで。
何故か汽車の席で向かい合って座るのではなく横に並んで座る形になった。
どうしてこうなったかというと、ノアがどうしても寝顔を見られたくないと言い張り結果横に座るという事で解決? したのだが。
よくよく考えたら私ノアの寝顔を庭園で見てるし、なんならその時私が向かいに座ってても寝てたじゃないかと思いもするのだが。
チラリと横を見やると、ノアは寝息を小さく立てて寝ている。
それから、汽車が曲がり角で少し揺れた。
その揺れのせいでノアが私の方に少し寄りかかってきた。
私は気にせず窓の方から景色でも眺めていようかと思うと、窓側にノアが座っている為ノアの姿がチラリと視界に入る。
……今頭を撫でたら流石にバレるかな?
オリヴィアにふとそんな出来心が芽生えた。
ノアの頭にそっと手を乗せてみる。
さっきの揺れでも起きていない様だし、大丈夫そうだ。
やっぱり髪の毛が柔らかくて、猫とか兎の様な小動物を撫でてる感じに似ている。
何だか癒されるなぁ、こういうの。
「やっぱり、猫飼ってみたいなぁ」
私はぽつりと呟いた。
猫は好きだが、飼う余裕なんてとてもじゃないけど無かったから、雨の日に濡れてる野良猫を保護した事はあったけど、結局雨が止んだら元の場所に置き去りにするしか出来なかった。
今なら猫を飼いたいと言えばみんな許してくれるだろうけど、それは何だか違う気がする。
男爵は優しいけど、実の父でもないのにその好意に甘えるのは良くない気がするのだ。
ただ、あの少女は猫を飼えなくても友達として猫を側に置いていた。
それが、羨ましく思える。
周りから馬鹿にされても、それを貫き通せるのは凄いなと思った。
「んっ……」
「あ」
私はノアが少し動いたので咄嗟にノアの頭から手を離した。
考え事しながらも、ずっと頭を撫でっ放しだったのだ。
一瞬ノアが起きるかと冷や冷やしたが、どうやら起きてはいない様である。
「……のらねこ?」
「え?」
今、野良猫って言ってた?
私は隣のノアを暫く見てみるも、起きている気配はない。
恐らく寝言だろう。
野良猫とは、あの少女の事でも夢に見ていたのだろうか?
ノアの寝言を聞いて、何故か胸がモヤモヤする。
なんだろう、そういえば前にもモヤっとした事があった様な……。
確か最近だったけど、どのタイミングだったっけ?
しかし考えても思い出せない。
それどころか、今度はその考えにモヤモヤしてしまう。
(よし、考えるのをやめよう)
アデックに言われてからなるべく自分の気持ちを考える様にしていたが、今はそれより事件の事を優先して調べたい為、一旦自分の事を考えるのはやめた。
そんな感じで約2時間後、無事にウルカスカに到着した。
ノアは眠そうに欠伸をしながら汽車を降りる。どうやら寝ていたお陰でそこまで酔いは酷くなさそうである。
「ふぁぁ。
オリヴィア姉様、俺なんか変な事言ってなかった?」
「別に特には。
あ、途中野良猫って呟いてた」
ノアはそれを聞いて目を丸くする。
「マジか……。オリヴィア姉様が横にいるのに別の女の子の名前を言ってしまうなんて……!」
「いや、そもそもその女の子の名前はキャットレイで野良猫じゃないでしょうに」
何やらやらかしたと言わんばかりのノアに対して私は訂正する。
「そうだけど、俺は最後まで名前教えてもらえてないから、そう呼ぶ資格はないかなって思ってる」
「でも、ニックネームは教えてもらったんでしょう?
ならそっちで呼べばいいんじゃない?」
「確かに教えてもらったけど、そっちで本人を一回も呼んでないから何ともなぁ」
2人で雑談しながら取り敢えずホワイトブラン先生の診療所を目指すべく周りの人に道を尋ねる事にした。
「ホワイトブラン先生の家ならこの道をまっすぐ行って突き当たりを右だよ」
「ありがとうございます」
流石有名なお医者様なだけあって、すぐに場所を教えて貰えたうえ、駅からも近かったお陰で簡単にお家へと辿り着く事が出来た。
家の扉の前に「ご用のある方は扉から真っ直ぐの受付へどうぞ」と張り紙に書かれている。
「自宅兼診療所なのね」
「みたいだね。
じゃあ訪ねてみようか」
私とノアは扉を開けて張り紙通り真っ直ぐ進む。
扉には鈴がついており、開けると同時にカランカランと鳴っていた。
中に入ると、そこはもう診察室の一部かの様な造りになっていた。
「はい、患者様ですか?」
奥の部屋から、前に見た事のある医者が顔を出す。
「ホワイトブラン先生ですよね?」
私は憶えてはいるが、念のため確認する。
「如何にも。私がホワイトブランです」
物腰柔らかい口調で目の前の男性は答えてくれた。
温和な感じで、なんというか、こう言うのは失礼だろうけど凄みが無い。
この人が国一番の医者だと言われても、パッと見た感じでは信じ難い。
人を見かけで判断するのは良くないのだが。
「それで、私に何か用かい?
そこの少年は少し顔色が悪いね。
汽車にでも酔ったかい?」
ノアはそれを聞いて驚いた顔をする。
「え? ノアやっぱり酔ってたの?」
「まあちょっとは。しかし流石ですね。
まさか言い当てられるとは思いませんでした」
「まあ伊達に30年以上も医者やってないからね」
ホワイトブラン先生は柔らかい笑みを浮かべながらノアに小さな紙袋を手渡した。
「あの、これは?」
「酔い止めの薬だよ。何かに乗る前に飲んだら気持ち悪さが軽減されるから。
あ、飲む時はなるべく空腹時は避けてね」
「え? あ、ありがとうございます」
ノアがすかさずお金を払おうとすると、ホワイトブラン先生は手を横に振ってそれを断った。
「お金なんていいよ。私が勝手に診て勝手に渡しただけだから」
「いや、でも薬って高いですよね?
ただで貰うのはちょっと」
「大丈夫、それ私が趣味で作った試作品だから」
「「え?」」
趣味で作った試作品?
まあ医者なのだから薬は作るのだろうけど、それは趣味なのか?
「昔から色々と作るのが好きでね。
正規の薬でもないし。あ、でも安全は保証するよ」
「まあ、お医者様が作ったんならそれはそうでしょうけれど」
ノアは結局ただで薬を譲ってもらった。
「じゃあ、そろそろ君たちの用を聞かせてもらおうかな?」
改めてホワイトブラン先生に訊ねられる。
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