【完結】悪役令嬢だけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

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番外編 野良猫の独り言

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 私は昔から病気がちで、良く両親を心配させていた。

 心配させたくなくて、両親の前では頑張って元気に見せていたんだ。

 でも、何となく、自分は永くは生きられない事も分かっていた。

「キャシー、今日は体調大丈夫?」
「うん! お母さん、全然平気だよ!」
「そう、それは良かったわ。
これなら、お外でお友達を作っても大丈夫そうね」

「お友達?」

「そうよ。だから、その長い前髪も切り揃えて、髪も櫛で梳かしましょうか」

「いや、いい!」

 私は母の助言も聞かずに外に飛び出した。

 私の両親は、私に友達を作って欲しいそうなのだけれど。

 でも、私は。

「仲良くなって、私が死んで誰かが悲しんだら、嫌だな……」

 きっと大人になるまで生きられないから、なるべく人に迷惑なんてかけたくなかった。

 そんな中、黒の野良猫に出会った。

 二股の尻尾にオッドアイの珍しい黒猫で、他の人には警戒心が強いのに、何故か私の側にだけ居てくれた。

「お前、私が怖くないの?」

「みゃう」

「お前も独りなの?」

「みゃう」

「そっか。
私と一緒だね!」

「みゃう!」

 それから私はその猫にオスカーと名付けて、一緒に過ごす様になった。

 野良猫なら、私がもし死んでも悲しまないだろう。

 そんなある日、オスカーを追いかけていたら大きなお屋敷に迷い込んでしまった。

「えーと、君誰?」

「オスカー……」

 それから、このお屋敷に住んでいる子供のノアから度々おやつを貰う関係になった。

「ねえ、お前ってさ、髪整えないの?
女の子ってそういう身だしなみ気にするんじゃないの?」

 ノアに尋ねられて私はプイッとそっぽを向いた。

「別にボサボサでもいいもん!」

「でも、前見辛いでしょ?」

「見えてるもん」

 すると、ノアが急に私の前髪をバッと上げてきたのだ。

「前髪上げた方が可愛いじゃん」

「う、うわあああぁぁぁ!!!」

 いきなりの事にびっくりして私は後ろに思いっきり逃げた。

 可愛いなんて初めて言われたから心臓がバクバクいっててうるさい。

「何もそこまで逃げなくても」

「う、うるさい!
女の髪いきなり触るなんて変態!」

 すると、ノアはムッと怒り出した。

「変態じゃないし。
と言うかお前にそこまで色気なんて感じないし。そんな事言うならちょっとはお洒落でもしてみたら?」

「い、色気とか要らないし!」

 私はべーっと舌を出す。

「あっそ。なら今日のおやつも要らないんだね?」

「誰もおやつが要らないなんて言ってない!」

「要るんだ?」

 ノアはしたり顔でくすりと笑った。

「あっ!?」

 毎度毎度ノアには良い様に弄ばれてる気がして悔しい。

 いつかギャフンと言わせてやりたい。

 そんなある日、ノアと喧嘩別れして帰ってきた日。

 お母さんからお話があると言われた。

「実はね、隣町に凄いお医者さんが居てね。もしかしたらキャシーの病気も治せるかもしれないの」

「え? 本当!?」

「それでね、引っ越しを考えてるんだけど、まあ、お金を貯めてからだから来年にはなると思うんだけどね」

「そ、そうなんだ」

 私はふとノアの事が頭をよぎった。

 引っ越したら会えなくなる。

 それなら、もう関わらない方が良いだろう。

 どうせ喧嘩して顔も合わせ辛かったし、ちょうど良かった。

 こうして、私はお屋敷に行くのをやめた。

 それから半年程経ったある日。

「オスカー? オスカー!
……いない」

 オスカーが突然姿を消した。

 毎日一緒に居たのに。

 私は一生懸命町中を探した。

「オスカー! げほっ、こほっ!
オスカー!」

 時々咳き込みながらも、一日中必死でオスカーの名前を叫んだ。

 しかし、オスカーが現れる事はなかった。

「けほっ、ゴホッ! ゴホッ」

「キャシー? キャットレイ!?」

 家に帰る頃には、私の病状は悪化していた。

 それから1週間は家で完全に安静にしていた。

 お薬も沢山飲んだし、注射も打った。

 それから状態が良くなって、久々に外に出たのだが、やはり、オスカーは何処にも見当たらない。

「……死んじゃったのかな?」

 自然と涙が溢れてきた。

 何も別れを告げずに居なくなるのは、寂しい。

「うっ、うぅっ!」

 置いていかれるのは、こんなにも寂しいんだ。

 そう言えば、ノアともう半年程会っていない。

 ノアは寂しがっているだろうか?

 いいや、ノアはきっとそんな事表立って態度に出さないだろう。

 でも、内心は寂しがっているかも。

(そうであって欲しい……いや)

「ちゃんと、会って話そう。
この街から出て行く前に」

 私はそう決心して、久しぶりにお屋敷へと向かった。

 ノアは、驚いた顔をしていた。

 多分、もう来ないと思っていたのだろう。

 私は名前を教えようか迷ったけど、結局ニックネームしか教えられなかった。

 それでも、私が名前の一部を教えるのは、ノアが初めてだった。

 それから後日、私はまたお屋敷へと向かっていた。

 引っ越しまで残り僅かだけど、ノアと少しでもお喋りしたかった。

 多分、オスカーが居なくなって寂しかったのもあると思う。

「ノア、私の事何て呼ぶかな?
本当にキャシーちゃん、って呼んでくれたりして! なーんて。




……もし、私が病気で死んじゃったら、ノアは泣いてくれるかな?
泣いてる顔なんて想像出来ないし、ちょっと見てみたいかも!



……でも、やっぱり泣かせたくないなぁ。



よし! もし病気が治って、会いに行ける様になったら名前も教えてあげよう。

その時は、うーんとお洒落して、見返してやるんだ!
それで、その時はちゃんと言ってやるんだ。




「お友達になって下さい」って!」



 私はニコニコとそんな事を考えながら道路を渡った。

 そして、渡りきったところで。

「……えっ」



 それが、野良猫と呼ばれた少女の最期の想いだった。





 オリヴィアは、ノアから少女の話を聞いた後、ふと下町にいた頃の事を思い出していた。

 その頃はまだダルシーと遊んでいた時の事だった。

「オリヴィア、あれ見てよ」

「え? どれ?」

 私はダルシーが指差した方へと振り向く。

「あのボサボサの髪の子と黒猫。
あの猫尻尾が二股のオッドアイだから、化け猫なんじゃないかって噂があるの」

「へー、凄い珍しい猫ね!」

 オリヴィアは猫を見て少し瞳を輝かせる。

「そんで、あの女の子はそんな化け猫を飼い慣らしてる化け猫使いって呼ばれてんの。
猫と遊んでばっかりで、人間の友達作らない変な奴なんだよね」

「そうなんだ……」

 私はチラリとその化け猫使いと言われている少女を見やる。

 少女は猫と楽しそうにはしゃいでいた。

 誰ともつるむこともなく、少女は無邪気に遊んでいる。

 その光景を見て、私は正直羨ましく思えた。

 人間関係に縛られる事なく、そして、周りから何と言われようとそれを気にする事なく猫と戯れている姿が、とても強く逞しく見えた。

「仲良くなれないかな?」

「やめときなよ、誰が話しても無視するし、何か汚いし」

「……そっか」

 汚いは余計では? と言い掛けて、私は口を閉ざす。

 ダルシーはこんな私とも友達になってくれたのだから、嫌われたくない。

 でも、時々この関係が疲れると思ってしまう。

 2人の友情に亀裂が走るのは、それからもう少し後の事だった。





(ノアはあの子と友達になりたかったと言っていたけど、正直そこまで仲が良かったのが羨ましい。

本当は私も友達になりたかったな)

 オリヴィアは話しかけられなかった事を今でも後悔していた。
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