【完結】悪役令嬢だけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

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恋ではない

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「えーと……」

「まあ病気に罹っててな、だから別れた。

それだけの話だ」

 私が驚き戸惑っているのに反して、アデックはいつもの様に何ともない様な顔で淡々と説明する。

「そ、そうなんですか……。
その、御免なさい」

 私は思わず謝ってしまった。

「別にお前が謝る事の話でもないだろ。
俺は質問に答えただけで、何も気にする事はない」

 アデックは言葉通りまるで何も気にしていないかの様に話す。

「でも、本気で好きだった人なんですよね?

私が変な質問したせいで思い出したり、嫌な思いしたなら……いたっ!」

 話している最中にアデックは私に向かってデコピンして来た。

「だからお前が気にする事じゃないって。

それに、お前に質問されようがされまいが俺は片時もあいつの事を忘れた事はないし嫌な思いもしてないから」

 アデックは特に表情を変える事なくそう言ってのける。

「……その人の事凄く愛してるんですね」

 柄にもなくそんな言葉が出て来た。

 というか、私自身人の恋愛話に興味を持ったのは初めてな気がする。

 何で知りたくなったんだろう?

「……まあな」

 そう告げるアデックの表情は少しだけ切なそうだった。

「ところで話は変わるけどお前勉強好きか?」

 唐突にアデックはそんな事を訊いてきた。

 今かなりしんみりした空気だったのでは? と思う程にいきなり過ぎてびっくりしてしまう。

「え? まあ好きな方ですかね?
知識はいくらあっても良いと思いますし」

「まあそれはそうだが、一つだけ大事な事を教えてやる。
知識欲があるのは大いに結構だが、知り過ぎるのは良くないからな?」

「へ? 知り過ぎる?」

 先程までと大分話が変わり過ぎていて話の内容が読めない。

「何事も知るのは程々にしとけって事だ。

恋愛や人間関係だって、お前は授業を聞くかの様に俺に質問してくるけど、本来は自分で考えなきゃいけないし、本当の正解なんてないんだからな?」

「えーと、つまりあんまりこういう風に相談をするのは良くないって事ですか?」

 確かにアデックは私の悩みに的確な言葉で教えてくれるから、つい甘え過ぎていたのかも……。

 そもそも昨日だってメアリーに自分で考えろと言われていたのにアデックに質問してしまっているし。

「相談をするなとまでは言わないけど、人に訊いてばかりではなく自分で考えるのも大事って事。
最終的にお前の気持ちの問題でもある訳だし」

「まあそうなんでしょうね、やっぱり。これから気をつけます」

「まあ俺はお前の友達だから、困った事があったらいつでも頼れ。どんな事でも構わんぞ。
大体の事は何でも出来るからな」 

 そうアデックはドヤ顔で自信満々に告げる。

「はぁ、流石王子ですね」

 オリヴィアは呆れつつも、すっかりいつも通りの雰囲気になった事に安心する。

 きっと話題を急に変えたのもアデックなりの気遣いなのだろう。

「アデック王子って良い人ですね」

 私は特に悪気もなくそう言った。

「お前俺の事今まで悪い人だと思っていたのか?」

「まあ1番最初の手紙には戦慄しましたけど」

「まあ、それなら仕方ないな」

 うんうんとアデックも頷く。

 それから私はいつもの如く猫と遊んでから家路に就いた。

「アデック王子への用事は済んだんですか~?」

 帰りの馬車の中、メアリーはにこやかに尋ねてくる。

「まあ、そうね。知りたいことは知れた感じかしら」

 私がそう答えると、メアリーは相変わらずニコニコとしていた。

 メアリーは私がアデックを本気で好きだと思っているのだろうか?

 確かに嫌いではないし、前より緊張もしなくなったし、あの兄弟たちとは別の意味で話しやすいけれど。

 恐らく、私の気持ちを理解しながら話してくれているからだろうか。

 はっきり言ってああいうタイプの人は今まで私が知る限りでは周りに居なかったので新鮮に感じるというか。


 だけど、これが恋なのかは分からない。

 それに、アデックにだって忘れられない人がいる訳で、そんなアデックを好きになったら駄目だと思う。

 いや、しかし相手が亡くなっているのだから別に好きになるのは構わないのかもしれないけど。

 まあ、兎も角、多分恋ではない、と思う。

 ……ん? でもこれはメアリーの言っていた様に決めつけなのか?
 
 恋ではない、ではなく恋ではないというべきなのか?

 そもそも人の心なんてコロコロと変わっていくものだ。

 私があの兄弟たちと仲良くしないと最初は思っていたのに、いつの間にか仲良くなってしまった様に。

 もしかしたら今後これまで恋愛として好きじゃないと思っていた人を好きになるなんて事もあり得るのかもしれない。

 ……。

 まあ、今のところやはり考えられないな。結局そこに尽きる。

「オリヴィアお嬢様、着きましたよ」

「え? ああ」

 考え事をしているうちに気付いたらハワード家のお屋敷に帰って来ていた。

「オリヴィアちゃん!」
「オリヴィア様!」
「オリヴィア姉様!」

 やはりと言うか、私が帰るなり3人揃って出迎えに来た。

 何だかそれが最早当たり前の様に感じているあたり、私も大分毒されたなと思ってしまう。

「相変わらずあんた達もうるさいわね」

「えー!? ひどいわオリヴィアちゃん!」

 こんな日常が楽しい、なんて。
 いつか素直に言えるだろうか。





 一方、オリヴィアが帰った後、アデックは仕事に追われていた。

「はー、めんどい」

「アデック様、口ではなく手を動かして下さい。オリヴィアお嬢様が帰ったら急いで片付けると言っていたじゃないですか」

 そう執事にどやされる。

 というのも、アデックは割と多忙で、実はオリヴィアの為に仕事の時間を割いて相談に乗っていたりする。

 本人も頼られるのは満更でもない為、そこは別に気にしてはいないのだが。

「分かってるって、ちゃっちゃとやればいいんだろー?」

「それとアデック様、隣国がまた戦争に勝ったそうですよ」

 それを聞いてアデックの表情が少し曇る。

「そりゃまた結構な話だな。
ここ数年負け戦無しとは、大層儲かってる事だろう」

「このままではこちらにいつ火の粉が飛んでくるか分かりませんよ?」

 アデックははぁ、と大きく溜め息を吐く。

「今この状況でやり合ったって勝ち目がほぼ無いから、上手く躱すしかないな。

まあ、向こうから何か仕掛けてこようとはするだろうけど」

「……何か策でも?」

「まあ相手の出方次第だが一応考えてはいる。

しかし物騒な話だな~。俺は平和主義でいたいんだけど」

 アデックはわざとらしくやれやれと肩をすくめる。

「そもそもそういうのは国王が考える事だろ?」

「国王殿はそろそろご隠居したいと仰られていましたよ」

「マジかー、俺もうちょっと遊んでたいなー」

「アデック様!」

 執事はキッときつく睨みつけてくるも、いつものことなので気にせず仕事を続ける。

 面倒臭いなー、と心底アデックは仕事をしながら思うのであった。
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