【完結】悪役令嬢だけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

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悪魔の囁き

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 無事夕食を終え、私はノアに耳打ちする。

「もうシーラさんも帰ったしバラしてもいいんじゃないの?」

 しかしノアは逆に私に質問してきた。

「オリヴィア姉様、本当に良いんですか?」

「?
何が良いのよ?」

 私がそう訊き返すと、ノアはニコリととある提案をしてきた。

「僕とこのまま付き合ってるフリをすれば、ルーカス兄さんもエマ姉さんも大人しくなりますよ?
それに僕も不用意にオリヴィア姉様を追いかけなければ、オリヴィア姉様にとっては静かに快適に過ごす事が出来ますよ?」

 確かに、それは大分魅力的な条件ではある。

 3兄弟に追われることなく、私は悠々自適に暮らせる。

 私は想像しながらんー、と考える。

 そこにノアは更に囁いてくる。

「悩む必要なんてありますか?
オリヴィア姉様は僕達3人が鬱陶しいと思ってるんですよね?
それとも、案外追いかけられる今までの生活の方が実は好きでした?」

「それは断じてないわ」

 私がきっぱりと言うと、ノアはニコニコと囁く。

「なら、迷う必要なんてないじゃないですか」

 確かにノアの言う通りだ。

 エマもルーカスも大人しくなって、ノアも本当に追いかけて来ないと言っているのであれば、それは願ったり叶ったりな事である。

「……。
なら、もう少しだけ黙っていてもいいけど、その代わり、ノア、あんたも自重しなさいよ」

「勿論ですよ、オリヴィア姉様」

 そのノアの笑顔はまるで天使の様ににこやかだった。


 私はそれから自室に戻り、ベッドにバタンと横になる。

「ノアと付き合う、か…」

 はっきり言って、あまり宜しくは無いのだろう。

 しかし、私だってあの3兄弟から解放されたいのだ。

 そのチャンスがあるというなら、多少酷い方法だとしても構わない。

 しかし付き合うフリというのを、私は出来る気がしない。

 そもそも今まで男子と付き合ったこともないのに、どうしろというのだ。

 ……。

 まあいいや、どうにかなるだろう。

 私は考えても分からないことをひたすら考えるのは苦手だ。

 そんな事に頭を使うくらいなら、数式一つ解いてる方がマシである。

「よし! 忘れよう」

 私はベッドから起き上がりすぐ様机に向かって勉強を始める。

 ふとそこで、ルーカスとシーラが2人きりになった時どんなやり取りがあったのだろうかと気になった。

 シーラは私のことを少し聞いたと言っていたが、ルーカスは私のことをどういう風に話したのだろうか?

 変な風に話したりしていないだろうか。

 後でルーカスに問い詰めてみよう。

 それはさて置き、私は続きをやろうと勉強に集中した。




 そんな中、ノアはルーカスの部屋に訪れていた。

「何だ、今はお前と顔を合わせたく無いのだが」

 ルーカスはノアを一瞥してそっぽを向く。

「怒ってますか? ルーカス兄さん」

 ノアはニコニコとそのルーカスの背中に対して質問する。

「……正直、何と言ったらいいか分からない。
オリヴィア様が選んだ相手が身内のお前で良かったと思う反面、何でお前がとも思う」

 ノアはそれを聞いてクスリと笑う。

「正直者ですね、ルーカス兄さんは。
でも、オリヴィア姉様はもう僕のものなので、これからは変にちょっかい出さないで下さいね?」

「……それを言いにきたのか」

 ルーカスはノアを冷ややかな目で見る。

 実の弟のめでたい話だと言うのに、自分はどうしても弟の幸せを願えない。

 ルーカスはそんな自分に嫌気が差し、苛立ちから舌打ちしてしまう。

「……やっぱり怒ってるじゃないですか」

 ノアは恐らく自身に対して舌打ちされたと思ったのであろう。

 しかし、ルーカスはそれを否定する気もなかった。

「僕、いつもルーカス兄さんが羨ましかったんですよ。
ルーカス兄さんにとって周りの期待は重荷でしょうけれど、僕は誰からも期待なんてされなかったから」

 ルーカスはそれを聞いてピクリと眉を動かす。

「俺はノア、お前が羨ましかったぞ。
俺よりも自由に育っていったお前が。
……そして、俺が今何よりも求めているものを手に入れたお前が」

(本当は手に入れてなんてないけどね)

 ノアは心の中でそう呟く。

「じゃあね、ルーカス兄さん。

……オリヴィア姉様としては、ルーカス兄さんも幸せになって欲しいそうだよ」

「……」

 ノアはそう言ってルーカスの部屋を後にした。

 ドアを閉めて暫くすると、ルーカスの部屋の中からクソッと嘆きの様な叫び声が聞こえてくる。

 ノアはドアに寄りかかり、小声で呟いた。

「ごめんねルーカス兄さん」


 ノアは続いてエマの部屋へと向かった。

 すると廊下でばったりエマと鉢合わせした。

 エマの目は酷く腫れており、恐らく夕食の後も暫く泣いていたのだろう。

「エマ姉さん、相変わらず泣き虫ですね」

 ノアがそう言うと、エマは少しキレ気味に返す。

「誰のせいだよ馬鹿野郎」

「エマ姉さん、こりゃまた随分荒れましたね?」

 いつもと違う口調のエマに、ノアは苦笑いで返す。

「……本当は分かってたの。

私はオリヴィアちゃんと同じ女の子で、オリヴィアちゃんはルーカス兄さんかノアか、はたまた全く別の男性とくっつくんじゃないかって。

でも、普段オリヴィアちゃんってそういうのを全然感じさせなかったから、もしかしたら、私でもいけるんじゃないかって。

寧ろ、女の子同士に目覚める可能性だってあったかもだし」

「それは難しくないですかね?」

 ノアは相変わらず苦笑いで答える。

「正直言って、悔しいわ。
男に負けることは仕方ないって最初から分かっていても、悔しいものは悔しい」

「まあ、そうですよね。
ところで、もうオリヴィア姉様は僕のものなので、勝手に変なことしたりしないでくださいね?」

 ノアはここでも釘を刺す様に言いつける。

「……はあ、分かってるわよ。
でもノア、せいぜい気をつけなさいよ?
もしオリヴィアちゃんを悲しませる様なことがあったら承知しないから」

 そういうエマの顔は本気だった。
 ノアは背筋が凍りそうになる。

 正直、エマだけは怒らせたくない。

 もし付き合ってるフリがバレたら、僕は恐らく殺される寸前まで追い詰められそうだ。

 エマはそう言った後、また自室へと戻っていった。
 恐らくエマもエマで、ノアに対してその忠告を言いにきたのだろう。

「やれやれ、本当の事を話す時がきたら、僕は覚悟しなくちゃな」

 きっともう、仲の良い兄弟ではいられなくなるのだろう。

 そう思い、ノアは少しだけ寂しい気持ちになった。
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