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ご機嫌よう。オリヴィア様
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オリヴィアは今日も今日とて絶賛勉強に励んでいた。
というのも、オリヴィアの飲み込みは速く、どのくらいの速さかというと、最初小学校1年生で習うところから始めたとするなら、この数ヶ月で中学2年生くらいまでに追いついたという感じである。
そもそもオリヴィアは元から要領も良く、頭も良い為、もし時代が違って幼い頃から勉強が出来る環境が整っていたのなら、学校で首席を取っていたかもしれない程に勉強が出来る方である。
しかし、オリヴィアは今の現状でも大分満足していた。
下町では勉強をするチャンスすら訪れなかったであろう状況で、きちんと学べるのは素直に喜ばしい。
知識はいくら持っていても荷物にならない。
もし、このお屋敷を出て行くことになったとしても、知恵と知識があれば何処かしらでやっていけるはずだ。
「さて、次は数学の復習までしようかな?」
そう数学の本を手に取った瞬間、扉がノックされる。
因みにもし3兄弟の内の誰かなら、ノックと共に何か声を掛けてくる、というか叫んでくる為、すぐに区別がつく。
何も言わずにノックだけということは、即ちメイドだろうか?
私は鍵を開けて扉を開ける。
すると、メイドが少し焦った様な顔をしていた。
時刻は午前9時半、家庭教師が来るのにまだ3時間半もある。
「どうかしたの?」
私が尋ねると、メイドは、はい。と答えた。
「実は……オリヴィアお嬢様にお客様が見えているのですが……」
私に客?
ルーカスやエマ、ノアになら分かるが、貴族の仲間入りをしたばかりの私に客に来る様な親しい仲の人などいないし、これまでもそんな客は来たこともなかった。
それにメイドも何だか歯切れの悪い言い方をしている。
「それは誰?」
私は少し警戒して名前を聞く。
「はい。シーラ・ハンネルお嬢様です」
私はその名前を聞いて直ぐに思い出した。
ルーカスの許嫁だった彼女を。
「……とうとう来たのね」
あの騒動以来、特に音沙汰が無かったので、私からは何も行動を起こしていなかったのだが、どうやら向こうからやってきた様だ。
「あの、どうされますか?」
メイドは心配そうに聞いてくる。
恐らくあの騒動については、屋敷の者は大体知っているだろう。
それに、ルーカスの許嫁だったのだから、シーラの事もみんな知っているはずだ。
「はぁ、来てしまった以上、無下に帰すわけにもいかないんでしょ?」
私はメイドが持ってきた来客用のドレスに着替え直す。
いつものだとシンプルすぎてダメとのことらしい。
仕方なく私はシーラの待つ応接間に行くことにした。
本当は心底会いたくないけど、どうせ何処かで話さなくてはいけない相手だろう。
何だか緊張してお腹がキリキリしてきた。
思い返せば、私は(多分)シーラには何も悪いことはしていないし、こんなに嫌がることもないのかもしれないけれど、結果私のせいで(ほぼルーカスのせいだが)婚約破棄になったのだから、相手だって私に良い気はしないだろう。
応接間で待っていた彼女は、静かに出された紅茶を飲んでいた。
遠目から見ても、彼女は目鼻立ちもくっきりしており、美人であることに違いない。
ルーカスの奴、こんな美人さんを振るだなんて、なんて勿体ないことをしたのだろうと思う。
「お待たせしました。シーラ様」
私はシーラに軽く会釈をする。
シーラもソファから立ち上がり、挨拶してきた。
「いえいえ、こちらこそ、連絡もせずに急に来てしまい申し訳ございません」
私は心の中で本当だよ! とツッコむ。
「それと、先日は私が取り乱してしまい、ご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした」
と、シーラは頭を下げる。
私はそんなシーラを見てイヤイヤと手を横に振った。
「こちらこそ、お見苦しい一面を見せてしまい、申し訳ありません!」
つられて私も一緒になって謝る。
シーラはそんな私を見て、一瞬びっくりした様な顔をした後、すぐ様クスリと笑う。
「ごめんなさい、もっときつい性格の方なのかと勘違いしていました」
まあ、前回のルーカスとのやり取りを見ていれば、どう考えてもきつそうな性格に見えるだろう。
大体ルーカスのせいだが。
しかし、お陰で一つ誤解は解けた様でほっとする。
「あの、今日はどの様な件でいらしたのですか?」
私は必死の作り笑いをしながらシーラに尋ねる。
「ええ、こちらをどうぞ」
シーラはそう言いながら包みを私に差し出した。
「えっと、こちらは?」
私はおずおずと包みを受け取り、質問する。
「初対面で無礼を働いたお詫びと、お近づきの挨拶として、遅くなってしまいましたが」
「そんな、お詫びなんて、大丈夫でしたのに!」
前回も少し思ったが、やはりシーラは凄く人が良さそうだ。
普通、自分の許嫁が勝手に惚れた女に手土産など渡すだろうか?
それとも罠なのか?
「こちら、開けてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
私は包みをなるべく破かない様に丁寧に剥がしていく。
すると中から、高級そうな茶葉が出てきた。
とても良い香りがする。
「オリヴィアお嬢様の好みが分からなかったので、色々な種類の茶葉を用意致しました」
凄い、これが本物の令嬢……!
気遣いが半端ない。
いや、普段から本物の令嬢である筈のエマも見ているのだが、何だか全然違う。
エマには悪いけど。
私が色んな種類の茶葉を繁々と眺めていると、シーラから声をかけられた。
「ところで、ルーカス様とはどこまでの仲なのでしょうか?」
ピシリと一気に空気が変わった。
私は一瞬で理解する。
シーラは私に詫びに来たわけでもお近づきになりに来たのでもない。
ルーカスを奪い返しにきたのだ。
(私はそもそもルーカスを取ってはいないけど)
というのも、オリヴィアの飲み込みは速く、どのくらいの速さかというと、最初小学校1年生で習うところから始めたとするなら、この数ヶ月で中学2年生くらいまでに追いついたという感じである。
そもそもオリヴィアは元から要領も良く、頭も良い為、もし時代が違って幼い頃から勉強が出来る環境が整っていたのなら、学校で首席を取っていたかもしれない程に勉強が出来る方である。
しかし、オリヴィアは今の現状でも大分満足していた。
下町では勉強をするチャンスすら訪れなかったであろう状況で、きちんと学べるのは素直に喜ばしい。
知識はいくら持っていても荷物にならない。
もし、このお屋敷を出て行くことになったとしても、知恵と知識があれば何処かしらでやっていけるはずだ。
「さて、次は数学の復習までしようかな?」
そう数学の本を手に取った瞬間、扉がノックされる。
因みにもし3兄弟の内の誰かなら、ノックと共に何か声を掛けてくる、というか叫んでくる為、すぐに区別がつく。
何も言わずにノックだけということは、即ちメイドだろうか?
私は鍵を開けて扉を開ける。
すると、メイドが少し焦った様な顔をしていた。
時刻は午前9時半、家庭教師が来るのにまだ3時間半もある。
「どうかしたの?」
私が尋ねると、メイドは、はい。と答えた。
「実は……オリヴィアお嬢様にお客様が見えているのですが……」
私に客?
ルーカスやエマ、ノアになら分かるが、貴族の仲間入りをしたばかりの私に客に来る様な親しい仲の人などいないし、これまでもそんな客は来たこともなかった。
それにメイドも何だか歯切れの悪い言い方をしている。
「それは誰?」
私は少し警戒して名前を聞く。
「はい。シーラ・ハンネルお嬢様です」
私はその名前を聞いて直ぐに思い出した。
ルーカスの許嫁だった彼女を。
「……とうとう来たのね」
あの騒動以来、特に音沙汰が無かったので、私からは何も行動を起こしていなかったのだが、どうやら向こうからやってきた様だ。
「あの、どうされますか?」
メイドは心配そうに聞いてくる。
恐らくあの騒動については、屋敷の者は大体知っているだろう。
それに、ルーカスの許嫁だったのだから、シーラの事もみんな知っているはずだ。
「はぁ、来てしまった以上、無下に帰すわけにもいかないんでしょ?」
私はメイドが持ってきた来客用のドレスに着替え直す。
いつものだとシンプルすぎてダメとのことらしい。
仕方なく私はシーラの待つ応接間に行くことにした。
本当は心底会いたくないけど、どうせ何処かで話さなくてはいけない相手だろう。
何だか緊張してお腹がキリキリしてきた。
思い返せば、私は(多分)シーラには何も悪いことはしていないし、こんなに嫌がることもないのかもしれないけれど、結果私のせいで(ほぼルーカスのせいだが)婚約破棄になったのだから、相手だって私に良い気はしないだろう。
応接間で待っていた彼女は、静かに出された紅茶を飲んでいた。
遠目から見ても、彼女は目鼻立ちもくっきりしており、美人であることに違いない。
ルーカスの奴、こんな美人さんを振るだなんて、なんて勿体ないことをしたのだろうと思う。
「お待たせしました。シーラ様」
私はシーラに軽く会釈をする。
シーラもソファから立ち上がり、挨拶してきた。
「いえいえ、こちらこそ、連絡もせずに急に来てしまい申し訳ございません」
私は心の中で本当だよ! とツッコむ。
「それと、先日は私が取り乱してしまい、ご迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした」
と、シーラは頭を下げる。
私はそんなシーラを見てイヤイヤと手を横に振った。
「こちらこそ、お見苦しい一面を見せてしまい、申し訳ありません!」
つられて私も一緒になって謝る。
シーラはそんな私を見て、一瞬びっくりした様な顔をした後、すぐ様クスリと笑う。
「ごめんなさい、もっときつい性格の方なのかと勘違いしていました」
まあ、前回のルーカスとのやり取りを見ていれば、どう考えてもきつそうな性格に見えるだろう。
大体ルーカスのせいだが。
しかし、お陰で一つ誤解は解けた様でほっとする。
「あの、今日はどの様な件でいらしたのですか?」
私は必死の作り笑いをしながらシーラに尋ねる。
「ええ、こちらをどうぞ」
シーラはそう言いながら包みを私に差し出した。
「えっと、こちらは?」
私はおずおずと包みを受け取り、質問する。
「初対面で無礼を働いたお詫びと、お近づきの挨拶として、遅くなってしまいましたが」
「そんな、お詫びなんて、大丈夫でしたのに!」
前回も少し思ったが、やはりシーラは凄く人が良さそうだ。
普通、自分の許嫁が勝手に惚れた女に手土産など渡すだろうか?
それとも罠なのか?
「こちら、開けてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
私は包みをなるべく破かない様に丁寧に剥がしていく。
すると中から、高級そうな茶葉が出てきた。
とても良い香りがする。
「オリヴィアお嬢様の好みが分からなかったので、色々な種類の茶葉を用意致しました」
凄い、これが本物の令嬢……!
気遣いが半端ない。
いや、普段から本物の令嬢である筈のエマも見ているのだが、何だか全然違う。
エマには悪いけど。
私が色んな種類の茶葉を繁々と眺めていると、シーラから声をかけられた。
「ところで、ルーカス様とはどこまでの仲なのでしょうか?」
ピシリと一気に空気が変わった。
私は一瞬で理解する。
シーラは私に詫びに来たわけでもお近づきになりに来たのでもない。
ルーカスを奪い返しにきたのだ。
(私はそもそもルーカスを取ってはいないけど)
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