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番外編 小ネタ集

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 ※今回はルーカス婚約者騒動の前の時間軸のお話になります。

 ショートショート詰め合わせです。

 一部メタ発言注意、何でも許せる心の広い方のみお読み下さい。

【夏】

「あっついわね……」

 今日は異常気象なのか何故だか知らないが、普段より妙に屋敷内が蒸し暑かった。

 オリヴィアは顔を自身の手でパタパタと仰ぎながら、試しにテラスへと出てみる。

 相変わらず暑いことに変わり無いが、少しだけ吹く風が頬にあたり気持ちが良い。

 すると、同じく涼を求めて、エマもテラスにやってきた。

「あらオリヴィアちゃんも来てたのね……」

 普段なら私を見たらすぐに飛びついてくるエマも、暑さのせいかそこまでの元気がないらしい。

 というかこんな暑さで抱きつかれたら私でなくともキレそうだ。

「今日は一段と暑いわねぇ……」

 そうエマはガーデンベンチに腰掛けながら言う。

 私も柵によりかかりながら、そうねと短く答えた。

「ていうかさ、貴族のこのドレス暑すぎじゃない?
もうちょっと軽装でも良いと思うんだけど」

 せめて、中のドレス生地を何枚も重ねずに出来ないものなのか?

 我慢ならず、私ははしたないと分かっていながらもスカートを掴み、それをパタパタと振って風を仰いだ。

 中の下着が見えない程度にしか振れないが、これでも足にまとわりつくスカートから解放されて、足だけは涼しくなる。

 ふとチラリとエマの方を見やると、何やらエマの顔が真っ赤になっていた。

「ちょっと、あんた大丈夫?
顔凄く赤いわよ?」

「オ、オリヴィアちゃん、そんなこと、私の前以外でしちゃダメですよ……」

 と、エマにそう注意されてしまった。

「まあ、普段はやらないわよ」

 私がそう言っている間にエマはバタンとガーデンベンチに倒れ込んだ。

「ちょっと、大丈夫? 暑さにやられたのね!?」

 オリヴィアはそれから急いでメイドを呼びに行った。

 オリヴィアがメイドを呼びに行っているその間、エマはうわ言の様にオリヴィアちゃんのおみ足が、と呟いていたのだがそれは誰にも知られる事はなかったそうな。


【悪役令嬢とは】

 私、オリヴィアはお屋敷内で特に図書室を気に入っている。

「こんなに本が沢山あるなんて、流石貴族ね」

 私は特に伝記物を読むのが好きだった。
 どの時代でも、人の考える事というのは大体同じ様なもので、なんだか親近感が湧くからだ。

「へぇ、この令嬢凄い方法で仕返ししたのね、こっちは猫を被って最後に裏切る展開か……」

 本物の悪役令嬢の話を見ると、何だか私が普段やってる悪行って、あまり凄くないのでは?

 むしろ、悪役令嬢にすらなりきれてない様な……。

「これが、タイトル詐欺というやつかしら……!」


【社交界】

 社交界、それは様々な貴族が集まるパーティである。

 そして、オリヴィアにとっては苦痛の時間である。

「はぁ、今日も壁に花を決め込んでおこう」

 オリヴィアが隅で大人しくしている間に、3兄弟はそれぞれ散らばっては色んなところで捕まっていた。

 特にルーカスの人気は凄い。
 凄すぎてえげつない。

 若い女性たちの8、9割くらいはこぞってルーカスの方に集まっている。

「まるで光に群がる蛾の様ね」

 まあ私には関係ない世界だと思っていると、ルーカスが私に気付いたのか、遠くからいきなり声をかけられた。

「あ、オリヴィア様ー!
一緒に乾杯しましょうー!」

 ルーカスがそう大声でこちらに声をかけてきたせいで一斉にルーカスの取り巻き達に睨まれてしまった。

 とてもじゃないが、生きた心地がしない。

 私はそそくさと逃げようとするも、すぐさまルーカスが駆けつけてきた。

 それから取り巻きの女どももぞろぞろと群がってくる。

「ルーカス様、この方は?」

 取り巻きのうちの1人がそう質問してきた。

「ああ、最近義理の妹になったオリヴィアさ「こんにちは。妹のオリヴィア・ハワードと申します」

 ルーカスにまた様付けで呼ばれる前にセリフを被せてなんとか阻止する。

 妹という単語に取り巻き達の気が一瞬緩み良かったと思ったのも束の間、すぐ様別の取り巻きが質問を投げかける。

「義理の妹ということは、血が繋がっていないということでしょうか?」

 気づかれてしまった。

「勿論! 血が繋がっていないので、結婚だって出来る!」

 何故かルーカスがドヤ顔で火に油を注ぎ始めた。
 何故こいつは女にモテる割に女のことを何一つ理解していないんだ。

 取り巻きの女達は表情こそルーカスの前だからと笑顔だが、その瞳は全く笑っていない。
 これは最早ホラー体験の様なものだ。

「あの、私ルーカス……義兄様には全く興味がないので、どうか私のことはお気になさらずに!」

 それだけ言い残して私はダッシュで逃げた。

 本来ドレスにヒールで走るなんて、しかも社交界で走るなんて以ての外なのだが、今回ばかりは命の危機すら感じたので仕方あるまい。

「はぁ、はぁ、恐ろしかったわ……」

 もう絶対にルーカスと社交界に出ない。
 もしくは、絶対に見つからない様にする。

 オリヴィアはそう心に誓ったのであった。


【再挑戦】

 週末また暇が出来たので、オリヴィアはお馴染みの様にキッチンを借りて料理を作っていた。

 今日はシュークリームを作ろうと、早速調理し始めると、またもやノアがやって来た。

「オリヴィア姉様、今日は何を作るんですか?」

 そうノアはニコニコとした笑顔で問い掛けてくる。

 こいつ、完全に私がいつキッチンを借りてるか把握してやがる……!

 キッチンを借りるためにメイドから許可を取っているのだが、恐らくそこから情報が洩れているのだろう。

「言っとくけど、あんたには作らないわよ」

 前もって私が先手を打つと、ノアはニコリと笑ってこう言った。

「別にいいですよ。
優しいお義母様から分けて貰いますので♪」

 こいつ、私がまた母に持っていくことを知ってやがる……!


「はあ、仕方ないわね。
どうせ貰われるならあんたの分も作るわよ」

「やったー!」


 こうして私は、仕方なくノアの分までシュークリームを作る事になった。

 しかし前回のクッキーには塩を混ぜたけど、今回はもっときついやつを混ぜてやろうと思う。

 カスタードに、マスタードを混ぜるのだ。

 これならノアも食べれまい。

 そう思い、チューブをこっそり取って混ぜようとすると、いつのまにキッチンに入ったのか、ノアの手が横から伸びて私のマスタードを持った手を掴まれた。

「オリヴィア姉様、いけませんよ。それ、マスタードです」

 ニコリとした笑顔で指摘される。

 恐らく何か混ぜられることを最初から警戒していたのだろう。

「あ、あらいけない」

 私は仕方なくマスタードを片付けた。

 その後もノアはずっと隣で私の料理している所を見てくる。

「ところで、いつまで居るのよ?」

「オリヴィア姉様の手際がいいので、つい目が奪われてました」

 恐らくは私がまた何か入れない様に見張っているのだろう。

 こうして仕方なく、私は普通にシュークリームを作ってノアも普通に美味しいシュークリームを頂くことが出来ましたとさ。
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