上 下
74 / 82
第四章

驚嘆風化 2

しおりを挟む
 ◇



「今回は神隠し、だとよ」

 アイリスの借りているアパートの一○二号室にまた性懲りも無くアポ無しで押しかけてきた情報屋のおっさんが、挨拶も無しに開口一番にそう言ってきた。

「神隠し?」

 俺は聞き慣れない言葉をおっさんへと問い返す。

「ああ。何でも隣の都心部を中心に四、五歳くらいの子供が行方不明になってるらしくてな。
今月だけでもう六人は居なくなってるそうだ。
なんでも人通りが多い場所なのに目撃者もいない上に親が近くに居たにも関わらず、一瞬目を離した隙に消えた。という事らしい」
「はあ。でもそれって、ただ単に子供が勝手にどっか行っただけの迷子とかじゃねーの?」

 断片的に聞く限りでは、よくある迷子の様な話に聞こえるのでそう訊き返すが、おっさんは首を横に振る。

「いくらちょっと目を離したとはいえ、小さな子供がその隙に行ける範囲なんてたかが知れてる。
しかし周囲数キロメートルを探しても見つからなかったそうだ。
警察は恐らく誘拐事件の類だと見ているが、それにしては誰一人にも目撃されずに次々と誘拐するその手口がまるでマジックの様だと嘆いているんだ。
まあだからこそ神の仕業なんじゃ? と神隠しなんて言われてるんだとか」
「ふーん、で?
その不可解な誘拐事件が花の怪事件の仕業だと睨んでるって事か?」
「まあな。人の手口にしてはあまりにも巧妙過ぎるのと、後、とある共通点がある」
「共通点?」
「誘拐された子は、みんな女の子なんだ」 

 おっさんの言葉に、俺はああ、と妙に納得した。

「成る程な。つまりどっかのロリコンが花の力を使って暴れてるみたいなもんか」

 子供が突然消えた、特に女の子限定ともなれば、そういう性癖を持った人達が誘拐したと怪しまれるのも無理はないだろう。

「ロリコンとは限らないんじゃない?」

 しかし、俺とおっさんの話を横で黙って聞いていたアイリスが突然俺の考えを否定してきた。

「でも幼女ばかり狙って誘拐だなんて、ロリコンか人身売買くらいじゃねーの?」
「その線も確かにあるけど、何も女の子を拐うのは男の人とは限らないよ」
「まあ、そこはアイリスちゃんの意見も一理あるな。
相手の目的が分からない以上何とも言えないが」

 そんなアイリスの意見を肯定しながらおっさんはごそごそと懐からメモと複数枚の写真を取り出す。

「これは今回の誘拐された子供達の写真だ。
裏には名前と生年月日が書いてある。
それとこれが居なくなった日時や場所なんかの詳しい情報な」

 渡されたメモにはそれぞれ居なくなった日付と場所が記されていた。

 六枚の写真をパッと見た限り、とびきり可愛いという訳でもなく何処にでもいそうな普通の女の子達の様だ。

 アイリスはその写真をおっさんから受け取り、相変わらず無表情に眺めている。

「そんじゃあ後はよろしく頼んだぞ」
「頼んだって、これだけの情報でどうやって犯人を特定しろって言うんだよ?」
「まあまあ、追加で情報が入れば持ってくるから。
取り敢えず被害者宅回ったり聞き込みしたりよろしくな~」
「んな無茶苦茶な……」

 そんな無理難題を押しつけて、おっさんは手の平をひらひらとさせながら帰ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...