上 下
5 / 33

第5話

しおりを挟む
「ならこれが証拠になるかしら?」

 そう私はブラウン家の紋章が入ったドレスのボタンを見せる。

「え?これって本物?
あんたが本当にあのレイラ・ブラウン?」

 そう男は一瞬戸惑った顔をしたが、すぐ様その顔は怒り顔へと変わっていった。

「お前が、俺の親の仇!」

 そう男は今にも飛びかかって来そうな勢いだったが、私はすぐ様トランクを見せつける。

「半分あげるわ」

「はぁ!?何言ってんだあんた!
あんたがレイラ・ブラウンだと分かってて生きて帰すわけねーだろ!」

 激昂する男に対して、私は冷静に話す。

「あなたのご両親がブラウン家のせいで何かあったとすればごめんなさい。謝るわ」

「謝って済む問題じゃねーんだよ!!」

 そう男は叫ぶ。

「そうね。謝っても宝石をいくら渡しても許されないでしょうね」

「あったり前だ!!」

「でも残念ながら、今の私はもうレイラ・ブラウンじゃないの」

 それを聞いて男は意表を突かれた様な顔をする。

「は?証拠まで見せて何言ってるんだよ?」

「つい先程私は家から追放された。
今はただのレイラよ」

 男はそれを聞いて少し納得した。

「ははーん、成る程ね、あんたの我が儘っぷりにとうとう家を追い出されたと。
はははっ!そりゃあざまーねーな!」

 男はそう馬鹿にする様に笑ってみせた。

「明日にでも私のことは街中に言われるでしょうね。
諸悪の権化が居なくなったって」

「それなら清清するぜ!
これで街も昔の様に安泰だな!」

「それはどうかしら?」

 私は男に疑問を投げかけた。

「本当に街は治安が良くなると思う?」

「は?あんたがもういないんなら、あんな我が儘政治はもう終わるだろ?」

 私はニヤリと笑った。

 ユーリはきっとそこまで計算に入れてないはずだ。

「ところで、貴方は私を殺すの?
殺したところで貴方は今後犯罪者として生きていくことになるけれど?
しかもこれから治安が良くなるというなら、これ以上に警備だって厳重になるんじゃないかしら?」

 私は至って冷静に判断する。

「あんたさ、さっきから状況を分かってなくないか?
俺以外にも、あんたを殺したがってる奴は五万といるんだぜ?」

 男はそうポケットからナイフを取り出した。

「俺が直々に仇打ち出来るなんて、ラッキーだ」

「そう、残念ね。
結局貴方も民衆も騙されてる馬鹿ばかりか」

 私は落胆しながらそう言った。

「はぁ!?馬鹿ばかりとは何だよ!?」

「私を殺したい気持ちは分かったけれど、どうせ殺すなら犯罪者ではなく勇者としての方が良くないかしら?」

 私はそうナイフを握る男に提案する。

「何言ってんだあんた」

「だから、公正な場で私を裁くのよ。
今殺したら貴方はただの犯罪者だけれど、みんなから死刑宣告されたら貴方は犯罪者にはならない。
悪を滅ぼした勇者ということ」

 その提案を、しかし男は首を横に振った。

「死刑になったら、普通は死刑執行人が殺すだろ。
そんなの勇者になれない」

「だから、私が死刑になったら、その死刑執行人に貴方を選ぶわ。
最期の私の我が儘くらいは通るでしょうし」

 確かに、死刑囚の最期の願いというやらは、実現可能なものであればなるべく叶えるのがこの国の方針だ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との
恋愛
「取り替えっこしようね」 またいつもの妹の我儘がはじまりました。 自分勝手な妹にも家族の横暴にも、もう我慢の限界! 逃げ出した先で素敵な出会いを経験しました。 幸せ掴みます。 筋肉ムキムキのオネエ様から一言・・。 「可愛いは正義なの!」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済み R15は念の為・・

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

婚約破棄された貧乏令嬢ですが、意外と有能なの知っていますか?~有能なので王子に求婚されちゃうかも!?~

榎夜
恋愛
「貧乏令嬢となんて誰が結婚するんだよ!」 そう言っていましたが、隣に他の令嬢を連れている時点でおかしいですわよね? まぁ、私は貴方が居なくなったところで困りませんが.......貴方はどうなんでしょうね?

辺境伯令嬢が婚約破棄されたので、乳兄妹の守護騎士が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  王太子の婚約者で辺境伯令嬢のキャロラインは王都の屋敷から王宮に呼び出された。王太子との大切な結婚の話だと言われたら、呼び出しに応じないわけにはいかなかった。  だがそこには、王太子の側に侍るトライオン伯爵家のエミリアがいた。

第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!

黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。 しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。 レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。 そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。 「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」 第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください! 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...