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しおりを挟む星界の主らが住む「天津都」を取り巻く隷属種の世界「慈悲の環」――そこから更に1万キロほど外周を公転する紡錘形の構造物がある。
建造中のパラダイスメーカーである。
それは、漆黒の宇宙空間より黒く、冷たく、不気味な威容を見せていた。
その心臓部では、主族による工事の進捗状況の視察が、仮面の男セオギルの案内で行われていた。
主らは工事の進捗を喜び、それが約束する夢の未来への期待をいや増しに高めていた。
主族の1人が言った。
「う~ん、ずいぶんと出来上がってきたのう。」
「は!既に90%まで出来上がっております。あと一息です」
「不老不死の世界か……まこと楽しみじゃ!」
「ありがとうございます」
セオギルの声は、微笑みを含んで、深く、誠実さにあふれて響いた。
それは真実そのような声なのか、仮面に仕込まれた音声変換器のせいなのかはわからない。
そのとき、一瞬の振動とともに、ズウン……と言う爆発音が響いた。
「なに?どうしたんじゃ!」
「じ、事故か!?」
駆け寄ってきた警備兵が答えた。
「テロリストが侵入し、D区画で自爆しました!狂信者です!」
主族の一人が聞いた。
「被害は?」
警備兵の報告を聞く前にセオギルが言った。
「大丈夫です!最重要区画には何者も進入できぬようシールドしてあります。狂信者どもにできるのは重要度の低い施設を破壊することぐらいですよ」
「そうか、なら安心だ……!」
にこやかに視察の案内を続けるセオギルだが、仮面の奥のその目には、実は何の表情もなかったのである。
その頃、社長室のファコーニは、セオギル同様研究資金を出しているメバイと言う学者から、ある進言を受けていた。
パラダイスメーカーの危険性についてである。
「なに?パラダイスメーカーに問題があると?」
「そのとおりで」
「なんじゃおまえ、おまえの研究にはあまり資金を出しとらんからヤイておるんではないか?」
「そんなことではねえです。でも、宇宙は、ビッグバン以来超光速で拡大してるで……パラダイスメーカーは、ごく限られた時空間をありえないようなエネルギー集約によってこの宇宙から強制的に自立させるもんだ。定常的宇宙ならまだしも、拡大し続ける宇宙の一部を切除するようなことをすればどうなるか」
「どうなるのじゃ?宇宙がひっちゃけるとでも言うんか?」
「わからねえども……まかり間違えば破滅的な事象が起こる可能性があるで」
「ハメツテキジショウ……?」
メバイの話はファコーニの想像をはるかに超えていた。
しかし不安要素をそのままはしておけない。
なにせ、千兆スターの大プロジェクトである。
ファコーニはセオギルを呼んだ。
「ははは!」
セオギルは一笑した。
「社長!風船じゃあるまいし……なにも問題ありません!宇宙はパラダイスメーカーのエネルギー集約など、すべて許容して余りある存在です。心配ご無用ですよ!それよりパラダイスメーカーはほぼ90パーセント完成です。御覧なさい」
セオギルが腕を振ると、建造中のパラダイスメーカーの威容が中空に出現した。
輝く星界を分断する黒い紡錘形の周囲を、作業ロボットの噴射炎らしい無数の光点が動き回っている。
「メバイは嫉妬しているのです――社長、これが完成すれば、天津都でふんぞり返っている連中の死命も制することができるかもしれません……」
ファコーニは、セオギルの言葉に心動かされた。
主族の生殺与奪の権限を握ることは、隷属種の見果てぬ夢だ。
それを、今まさに、この自分が手にしようとしているのだ。
慈悲の輪中層部の歓楽街。
さまざまな隷属種が、酩酊飲料のせいで、ふらつきながら歩き回っている。
その中に、ファコー二に忠告したメバイの姿があった。
「くそう、セオギルめ――社長もお面野郎ばかりに重用しおってからに……」
メバイはファコー二の下で働く学者たちの中では古株で、新参のセオギルばかりが重用されることを不快に思っていた。
そこでパラダイスメーカーの持つ危険性に言及したのだが、ファコー二はお面野郎ことセオギルのいうことのみ聞き、メバイの意見に耳を傾けようとはしなかったのである。
「あの野郎、ぶっ殺してやろうか……!」
怒りが募ってセオギルの殺害を本気で考え始めたメバイであったが……。
「?」
路地の暗闇の中に、銀色の、何かが浮かんでいる。
それが、怨敵であるセオギルの仮面であることに気づいた刹那、目も眩む閃光が疾ってメバイの上半身が吹き飛んだ!
セオギルの持つ高出力の光線銃で撃たれたのだ。
セオギルの仮面は、闇に溶けこむようにして消えていった。
メバイが歓楽街で射殺されたことはファコーニの耳にも入ったが、酒場の喧嘩で殺されたのだろう、馬鹿な奴だと考えて、すぐに忘れてしまった。
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