鬼神伝説オボロガミ

JUNG2

文字の大きさ
上 下
3 / 12

祭り第一日目 木曜日(1)「花之江の伝説」

しおりを挟む
 

 
 夏休み、オレは「花之江市」の親戚の家に遊びに来ている。花之江の夏まつりに合わせてね。
 花之江夏まつりは、回り灯篭をかざる七夕や鶏舞(お神楽の一種)の群舞が有名な四日間のおまつりだ。ほかにも踊りのパレードや、お神楽の公演とかいろいろあるけど、いちばん盛り上がるのは、なんといっても三日目の花火大会かな。花火1万発、風川っていう川で打ち上げるんだけど、打ち上げ担当してるのはうちのお父さんの会社なんだ。
 オレんちは「秋月煙火工業あきづきえんかこうぎょう」という花火の会社を経営していて、お父さんが社長だよ。(亡くなったおじいちゃんからうけついだんだけどね)
 大きな会社じゃないけど、おじいちゃんが2回、お父さんが1回、全国花火競技会で賞をもらってる。花火の世界ではそれなりに知られた会社なんだ。
 花之江の花火は、おじいちゃんの代から担当している。
 
 花之江にはうちの親戚がいる。
 小学校の国語の先生をしている、大ちゃんこと大介おじさんの一家だ。
 大ちゃんに、奥さんの美奈ちゃん、おばあちゃんと三人の子供たちで、計六人家族だよ。
 うちの亡くなったおじいちゃんと、大ちゃんが子供のころ亡くなった大ちゃんのお父さんは兄弟だから、お父さんと大ちゃんはいとこ同士なわけ。
 大ちゃんとお父さんは子供のころから仲良しで、お互いに「大ちゃん」「ヒロ」(お父さんの名前はひろし)って呼び合う仲だ。
 オレも、お父さんやお母さんが大ちゃんて言うから、チビのころから大ちゃんって呼んでる。
 おじいちゃんと子供のころのお父さんも、今のお父さんとオレのように、毎年お泊りしてたんだ。
 
 オレは、お祭り初日から電車で来て泊めてもらう。
 お父さんは花火の仕込みがあるから、打ち上げ前日の金曜日の夜に来て、大ちゃんとお酒を飲んでカラオケで騒いで、当日の朝、会社の人たちと合流するんだ。(いつもはお母さんも来るんだけど、妹の花を生んだばかりなので今年は来ない)
 オレだけなんで早く来るかというと、大ちゃんの子供たちと遊びたいからだ。
 大ちゃんの子供たちは、おんなじ六年生の舞ちゃん、四年生の陽介、あとチビの真奈ちゃんの三人だ。
 このなかで、特にヨースケとは気が合う。
 お互い釣り好きだし、ゲームも対戦格闘とか同じようなのが好きで、一緒にいると楽しい。
 マナちゃんはまだ保育園のおチビちゃんだけど、ひとなつっこくて可愛いんだ。
 で、同級生のマイちゃんだけど……昔から民謡教室やダンススクールに通っていて、歌や踊りが得意でさ。花之江の市民劇団で子役としても活動してるんだ。やるのはミュージカル、市民ミュージカルだ。将来は女優さんになりたいんだって。
 ま、それはそれでいいんだけど、行った初日の夕飯時に、去年の市民劇のDVDをムリヤリ見せられるのがツラい。
 わるいけど、正直あんまり面白くないんだよね。
 だいたい地元のえらい人のお話とか多くて、よく知らないし、マイちゃんが主役っていうわけでもないしさ。
 でも、おもしろそうに見ないとマイちゃんが怒る。絶対。
 そうなると、オレが真城に帰るまで一切口をきかないというヒジョーにつらいことになる。
 おととし三年生の時、やっぱり変な巫女さんのミュージカル見せられて、おもしろい?って聞くからつい「おもしろくない」って正直に言ったら、怒っちゃって帰るまで口をきいてくれなかった。
 だから楽しい四日間を過ごすためにも、一時間半、がんばらないといけないんだ。
 ヨースケが姉ちゃんのDVDを見せられるときはココロを無にするんだそうだ。
 ヨースケはなんでもズケズケ言う子なので、つい余計なことを言ってマイちゃんを怒らせるからだろうね。
 

 今年のDVDがようやく終わった。
 今回は花之江の名物のダンゴの話だった。
 ダンゴのミュージカルだった。
 マイちゃんは、「ダンゴの妖精」の役だった。
 ダンゴ馬鹿と呼ばれたトクサブローが、妖精たちに励まされながら、ずんだ(エダマメをすり潰した東北の食いもの)とあんこをダンゴに入れて名物「ずんだんご」を作り上げるまでの涙と笑いの物語――。
 
 コレは、おもしろいんだろうか。
 わからない。
 でも(冷や汗をかきながら)最後まで見た。
 おもしろそうに。
 
 DVDが終わってホッとしてたら、マイちゃんがハナイキも荒く言った。
「ケンちゃんよかったね!ケンちゃん、今年はマイの舞台がナマで見られるよ!」
「エ?ナ、ナマ!?」
「そ!土曜日にね、ケンちゃんのパパの花火の前に、風川のおまつり広場の特設ステージで野外劇の公演があるの!マイ、準主役だよ‼︎」
「ジュンシュヤク!?でも、マイちゃんの劇って年末じゃあ……」
 ドッと冷や汗が出てきた。
「だから特別公演よ!年末のはまた別にあるから楽しみにしてね!それより見て!これポスター!」
 そう言って、マイちゃんは大きなポスターを広げて見せた。
 「ジャジャーン!『鬼神伝説オボロガミ~少女の祈りが奇跡を呼んだ』よ!」
 

 目がたくさんある青い丸顔の鬼?の絵があって、その妖怪と戦う?お坊さん?の下に、着物を着て、なにかに祈りをささげるマイちゃんの写真が大きくあしらわれたポスターだ。
「少女はマイなの!マイの祈りが奇跡を呼ぶの!」
「あ……そう!そうか!あの……オボロガミってなに?」
 オレが思わず言うと、大ちゃんが教えてくれた。
「うん、花之江に霊願寺れいがんじっていうお寺があるんだけど、そこに秘密のうちに伝えられてきた絵巻物が、おととし公開になってね。これなんだけどね」
 大ちゃんは、大きなタブレットでどっかのサイトを見せてくれたんだ。(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

最期の花火

刀梓(Toshi)
恋愛
男女2人用(ナレーション別で3人も可)の声劇台本です。 ⚠注意書⚠ 動画·音声投稿サイトに使用して頂ける場合は、語尾変更や方言などの多少のアレンジはOKですが、大幅なアレンジや台本の世界観を逸脱する様なアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 台本の使用する場合は、読み手様のお名前、Twitterアカウント、投稿して下さったサイト名とURLを明記の上、 作者のTwitter(@toshi_zoh)へDM頂ければと思います。できる限り無許可での使用を控えて頂けると有難いです。 またYoutube等の動画投稿の際には、作者のTwitterアカウント(@toshi_zoh)の記載をお願い致します。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...