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3、帰り道
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帰る道すがら、男の子と話した。
男の子は俺と同じ「あかつき団地」という住宅地に住んでいて、帰り道一緒なのは幸運だった。
男の子の名前は中村大地。
A組で、D組の俺とほぼ顔を合わせたことないのは当然か。購買もほとんど行かないらしい。
いま10月だが、7月あたりからB組の金髪茶髪に狙われるようになり、金をとられていたようだ。
もう20万ぐらいになると。
「殴られるのが怖くて……もう貯金もなくなっちゃって」
「それで、おふくろさんの財布から抜いていたんか」
大地はよほどつらいのか、苦し気な顔でうなずいた。3万ぐらい抜いたらしい。
「まあ、おふくろさんも気づいているだろうな。正直に話して謝らねえといけねえなあ」
大地は、無言で下を向いたままだ。
「その上で、あの連中から金を取り戻す。素直に返さねえなら、学校にも言わなきゃなんねえかもな」
「でも、浦木先輩に逆らうと、学校にいられなくなるって。浦木先輩はヤクザとつながっていて、お金渡さないとヤクザが出て来るって言うんだ」
「ヤクザねえ」
この辺のヤクザというと能城組というのがあるが、任侠の人たちが、高校まで来て小銭集めたりすっかなあ?
「それに、浦木先輩って誰だ?俺はわからねえ」
「ほら、三年生ですごく大きな人いるでしょ。チョビ髭の」
「ああ!あいつか」
わかった。
三年でやたらでかいひといるんだわ。
髪をオレンジ色に染めて、チョビ髭はやして、グラサンで決めてる。
身長185センチぐらいかな。
校舎裏で、金髪やたら盛った出来損ないのホストみたいな奴や、稲妻みたいなソリコミいれた奴、髪がピンクのメンヘラっぽい女、B組のアホコンビみたいな舎弟どもとたむろってんの見たことある。
あれが「龍団」なんか。
なんか他人事だけど、名前負けしてんな。
大地が、心配そうにいった。
「隼くん、大丈夫なの?僕なんかのために、連中敵に回して」
「あ?まあ、タイマンだったらな。多人数サバキは上手くねえから一斉にかかられるとマズイかなあ」
大地の顔が曇った。
俺は慌てて笑顔作って言ったよ。
「大丈夫だよ。いろいろ武器もやってっから、なんとかなるよ!」
そう言って、制服の内ポケットに刺してる金属製のシャーペンやボールペンを見せた。
シャーペンは製図用の高級品だ。
「このペンは使えるぜ。作りがガッチリしててよ。急所突いたり関節極めたり、手裏剣としても使えるんだ。ちょっと高いが」
大地は、いくらか安心したようだった。
「格闘技はなにをやってるの?」
「ああ、天法院流っていう古武道だ。ほら、薮下町に三法会って道場あんだろ。敷島治療院の隣」
「ああ、知ってるよ。小ニの頃、自転車で転んで手首捻挫したとき敷島先生に治してもらった」
「そうか、俺はもうその頃道場に通ってた。小一の頃からやってっからな。その敷島蓮城先生と、先生の親父さんの暁雲先生が俺の師匠だよ」
「じゃ、僕、隼君とニアミスしてたんだね」
「そうだな。そうかもしれねえ」
「僕も子供のころから武道やってればよかったな……」
大地は、ふと遠いところを見るような眼をして言った。
「僕は、脅されると、怖くて怖くて何もできなくなるんだ。ただ奴らの言うことを聞くことしかできない。情けないよ」
そう言って、大地はため息をついた。
これは俺には異論がある。
「そうか?おめえ抵抗してたじゃねえか」
「え?」
「もうお金ない、どうとでもしてくれって言ってたろ。殴られんの覚悟でよ。おふくろさんの財布からもう抜きたくなかったんだろ?これ以上悲しませたくなかったんだろ?立派に戦ってんじゃねえかよ」
「……」
「おめえはちゃんとした男だ。勇気もプライドも、愛も優しさもある。な。自分を蔑んじゃいけねえよ」
大地は呆気にとられていた。
たぶんこんな風に考えたことないんだろ。
自分蔑むのは他人蔑むのと同じでよくないことだ。
心が弱って、そういうところを龍団みたいな連中に付け込まれる。
「ただ、最低限、自分守る力ぐらいは必要かな」
俺は大地を見て言った。
「大地よ。おめえもうちの道場来ねえか?護身術を身につけられるぜ。小学生も、女の人も、外人さんもやってるよ。道極めようって人もいる。護身のためだけにやっている人もいる。ただの趣味の人もいる。歴史や文化の研究のためにやってる人もいる。健康のためにやってるお婆ちゃんもいる。師匠の活法学ぶために殺法もやってる人もいる。中にゃ飲み会にしか来ねえ人もいるけど、誰も排除なんかしねえ。その辺自由だ。師匠たちがその人にあった鍛錬考えてくれっからよ。ついていけねえ人っていねえんだ。みんないい人ばっかりだ。楽しいぜ」
「僕が、武道――」
大地は戸惑っているようだった。
格闘技――それも古武道なんて、たぶん格闘ゲームの中でしか見たことないんじゃないかな。
想像しようもないのは仕方ない。(続く)
男の子は俺と同じ「あかつき団地」という住宅地に住んでいて、帰り道一緒なのは幸運だった。
男の子の名前は中村大地。
A組で、D組の俺とほぼ顔を合わせたことないのは当然か。購買もほとんど行かないらしい。
いま10月だが、7月あたりからB組の金髪茶髪に狙われるようになり、金をとられていたようだ。
もう20万ぐらいになると。
「殴られるのが怖くて……もう貯金もなくなっちゃって」
「それで、おふくろさんの財布から抜いていたんか」
大地はよほどつらいのか、苦し気な顔でうなずいた。3万ぐらい抜いたらしい。
「まあ、おふくろさんも気づいているだろうな。正直に話して謝らねえといけねえなあ」
大地は、無言で下を向いたままだ。
「その上で、あの連中から金を取り戻す。素直に返さねえなら、学校にも言わなきゃなんねえかもな」
「でも、浦木先輩に逆らうと、学校にいられなくなるって。浦木先輩はヤクザとつながっていて、お金渡さないとヤクザが出て来るって言うんだ」
「ヤクザねえ」
この辺のヤクザというと能城組というのがあるが、任侠の人たちが、高校まで来て小銭集めたりすっかなあ?
「それに、浦木先輩って誰だ?俺はわからねえ」
「ほら、三年生ですごく大きな人いるでしょ。チョビ髭の」
「ああ!あいつか」
わかった。
三年でやたらでかいひといるんだわ。
髪をオレンジ色に染めて、チョビ髭はやして、グラサンで決めてる。
身長185センチぐらいかな。
校舎裏で、金髪やたら盛った出来損ないのホストみたいな奴や、稲妻みたいなソリコミいれた奴、髪がピンクのメンヘラっぽい女、B組のアホコンビみたいな舎弟どもとたむろってんの見たことある。
あれが「龍団」なんか。
なんか他人事だけど、名前負けしてんな。
大地が、心配そうにいった。
「隼くん、大丈夫なの?僕なんかのために、連中敵に回して」
「あ?まあ、タイマンだったらな。多人数サバキは上手くねえから一斉にかかられるとマズイかなあ」
大地の顔が曇った。
俺は慌てて笑顔作って言ったよ。
「大丈夫だよ。いろいろ武器もやってっから、なんとかなるよ!」
そう言って、制服の内ポケットに刺してる金属製のシャーペンやボールペンを見せた。
シャーペンは製図用の高級品だ。
「このペンは使えるぜ。作りがガッチリしててよ。急所突いたり関節極めたり、手裏剣としても使えるんだ。ちょっと高いが」
大地は、いくらか安心したようだった。
「格闘技はなにをやってるの?」
「ああ、天法院流っていう古武道だ。ほら、薮下町に三法会って道場あんだろ。敷島治療院の隣」
「ああ、知ってるよ。小ニの頃、自転車で転んで手首捻挫したとき敷島先生に治してもらった」
「そうか、俺はもうその頃道場に通ってた。小一の頃からやってっからな。その敷島蓮城先生と、先生の親父さんの暁雲先生が俺の師匠だよ」
「じゃ、僕、隼君とニアミスしてたんだね」
「そうだな。そうかもしれねえ」
「僕も子供のころから武道やってればよかったな……」
大地は、ふと遠いところを見るような眼をして言った。
「僕は、脅されると、怖くて怖くて何もできなくなるんだ。ただ奴らの言うことを聞くことしかできない。情けないよ」
そう言って、大地はため息をついた。
これは俺には異論がある。
「そうか?おめえ抵抗してたじゃねえか」
「え?」
「もうお金ない、どうとでもしてくれって言ってたろ。殴られんの覚悟でよ。おふくろさんの財布からもう抜きたくなかったんだろ?これ以上悲しませたくなかったんだろ?立派に戦ってんじゃねえかよ」
「……」
「おめえはちゃんとした男だ。勇気もプライドも、愛も優しさもある。な。自分を蔑んじゃいけねえよ」
大地は呆気にとられていた。
たぶんこんな風に考えたことないんだろ。
自分蔑むのは他人蔑むのと同じでよくないことだ。
心が弱って、そういうところを龍団みたいな連中に付け込まれる。
「ただ、最低限、自分守る力ぐらいは必要かな」
俺は大地を見て言った。
「大地よ。おめえもうちの道場来ねえか?護身術を身につけられるぜ。小学生も、女の人も、外人さんもやってるよ。道極めようって人もいる。護身のためだけにやっている人もいる。ただの趣味の人もいる。歴史や文化の研究のためにやってる人もいる。健康のためにやってるお婆ちゃんもいる。師匠の活法学ぶために殺法もやってる人もいる。中にゃ飲み会にしか来ねえ人もいるけど、誰も排除なんかしねえ。その辺自由だ。師匠たちがその人にあった鍛錬考えてくれっからよ。ついていけねえ人っていねえんだ。みんないい人ばっかりだ。楽しいぜ」
「僕が、武道――」
大地は戸惑っているようだった。
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