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1、ゲーム好きってはなし

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「私……私、めっちゃイケボになってる。うっそ、信じられない!」






テレビゲームが市民権を得て、半世紀が過ぎた。
あの時、子どもだった者達が大人になって、制作する側になると、開発の波はますますは激化した。
ゲームの種類も多様化し、その中でVRも一時期話題になったが、市民権を得ることはなかった。
いわゆる「ながらゲーム」ができない、ある程度の場所も必要で時間的拘束が長すぎる、ゲームを簡単に中断することができないと、社会人や学生からの支持を得られなかったのが、一番の原因である。
さらに、VRの長時間の使用により、視覚や聴覚に障害が出ることもわかり、VRというコンテンツは衰退の一途を辿ることになる。
かわりに、従来の据え置き型ゲームが息を吹き返し、その時に新しくリリースされたコミュニケーション型RPGゲームが、世界的な大ヒットを記録した。

大手ゲーム会社からリリースされたその商品の名前は、「しゅうごう!ゆかいな仲間たち」。
子供だましのようなネーミングセンスだが、これが大人にも子供にもウケたらしく、馬鹿みたいに売れた。
社会現象まで巻き起こして、知らない者はいないほどになった。
そのゲームは、何より自由度が高いことが売りだった。
明確な目的も一応設定されているのだが、必ずしもそれをする必要はない。
ゲームのスタート地点はギルドになるのだが、純粋に冒険を楽しみたい人は、そのまま冒険者として世界を冒険することができる。
そのため、魔物や魔王なども配置されたが、必ずしも皆が戦闘パートに出る必要はない。
鍛冶のスキルを取得して、武器屋を営んでもいいし、料理のスキルを取得して、カフェを営業してもいい。
海に出て、巨大な魚を釣り上げてもいい。
大森林を斬り開いたり、巨大な山に挑んだり、海底遺跡や古代遺跡を探索したりと、自由度は高かった。
好きなデザインの服を作ることもできたし、木材加工のスキルを取得すれば、家具も自由自在にデザインして製作することができた。
もちろん、ソロプレイヤーへの対応も手厚く整っていた。
ソロプレイヤーを補佐するために、大量のNPCがゲームには存在している。
そのほとんどが農業や建築などに従事しており、必要な物資や人材などは、そのNPCを雇うことによって補っていた。
そのため、一人でも気軽に自由に好きなことにのめり込むことができた。
ゲーム開始時や、メニュー画面を操作したり、攻撃したときやイベントパートのときは、アバターがフルボイスで話してくれる。(もちろん、設定により、ボイスのオンオフは自由だ)
その声に、声優だけでなく、実在する役者の声があてがわれた。
それが、ゲームをしたことがない客層まで取り込んだため、ヒットの一任を担った。
オタクやアニメを好きな人はもちろんのこと、有名な俳優や女優も出演し、顔も似たアバターが配信されるとあって、今までゲームに馴染みのなかった層までもがこぞってそのゲームを始めだした。
そのほとんどが有料コンテンツで課金しなければならないが、ちょっといいご飯を食べに行く程度の出費で好きなアイドルやアニメキャラクターになれるとあって、爆発的にヒットした。
さらに、他のゲームとのコラボがたくさん開催され、その中のキャラクターが実装されるはじめると、今まで遠巻きに見ているだけの人までもがプレイヤーになり参加しはじめた。

そして、私もそんなソロオタクの一人だった。
自分の推しを作り上げるべく、ゲームをスタートさせたうちの一人だ。
初期設定である種族とステータスも自由に設定できたため、なるべく似通うものを選択した。
長命種であり、身体能力が高い「鬼」という種族を選択。
力こそ全て、と言わんばかりに、筋力と防御、知力に初期値を振り分けた。
足りない所は、レベルアップ時やイベント時に貰えるスキルポイントを振り分ければいい。
そして、ここからが重要だ。
推しを顕現させるべく、容姿と声、服、装備、装飾品、専用スキルの全てが一式セットになっている、いわゆる推しセットを購入して、ゲームをスタートさせた。
某ゲームのキャラクターなのだが、性別は男。
黒髪、長身、金の瞳、顔はすっきりとしたイケメンで、低いテノールが印象的な声の持ち主。
筋肉質だが着やせするタイプらしく、細身に見え、力が強く、頑丈で、とりあえず言葉で解決できないなら、力で何とかするタイプ。
そんな、イケメンが私の初期アバターだった。
もちろん、この姿は一般販売されているもので、このゲームの中には、同じ顔を使っている人はたくさんいる。
しかし、自分自身が好きな姿になって、自由に行動でき、声も同じだという特権に買わずにはいられなかった。
そうして、同じ趣味を持つ友人のパーティに入れてもらい、のんびり冒険するという選択肢を選び、プレイし続けること3年。
イベントをたくさんこなしているうちに、いつの間にかプレイヤーランクとしては中級くらいにはなれた。

物理攻撃特化型に育てたために、魔法適性はゼロ。
比較的簡単だと言われている強化魔法や回復魔法すら覚えていない。
魔法が必要な場合は、杖(スタッズ)か、巻物(スクロール)で補っていたし、回復アイテムも上限まで買いこんでいたし、何より、友人がいればなんとかしてくれたので、自分で魔法を使うということに必要性を感じてはいなかった。
レベルアップ時にもらえるステータスポイントやスキルポイントは、物理攻撃に特化させるためのスキルを取得するために使用した。
刀剣や大剣、大鎚などの武器を用いたものも取得したが、空手、中国武術、テコンドー、シラット、ルチャリブレ、パンクラチオン、カポエイラなどの体術を積極的に取得した。
体術系スキルは、ネタスキルと言われていたので、比較的、安価で取りやすかったのも手伝い、馬鹿の一つ覚えのように取りまくった。
おかげで、純粋な対人戦における勝敗率は7割ほどをキープしている。
魔法を使われたらなすすべがないので、その対策もばっちりしてある。
即死無効、異常状態無効、精神異常無効、五感異常無効、上位物理無効、各種属性の魔法耐性、自動回復、手加減、エトセトラ。
それでも、やはり、魔法程の便利なものは世の中にはないようで、上位プレイヤーにはほとんど敵わなかった。
やはり、魔法スキルも必要かと悩んでいた時、NPCの存在を思い出した。
自分の不得意なところは、他人に補ってもらえばいんじゃないか。と。
友人がいつも一緒だとは限らない。
ならば、さっそくとNPCを雇おうと思ったら、世の中、そんなに便利に出来ていないらしい。
プレイヤーは、ステータスポイントやスキルポイントや装備品をつかって、どんどん強くなれる。
しかし、NPCたちにそんなものはない。
救済措置として、専用のアクセサリーを装備させるといいらしいが、装飾品の数にも限度がある。
自分の満足するキャラクターを作ることは望めないようだった。
仕方ないので、次の対策として考えたのが、サブアカウントを作る。というものだった。
サブアカウントを作るためには、ゲーム機本体がもう1台あれば作ることができる。
たかがゲームのために本体をもう1台買うのは愚行だろうと、散々悩み、結局、中古で本体とソフトをもう1台購入して、魔法特化のアカウントを作った。
性別は女性。
魔法適性の高いエルフを選択。
このキャラクターには、本アカウントで余った資材を投入することにした。
エルフと言えばこれだろ!と言わんばかりに銀髪長髪に設定して、目は深い緑色。
とんがり耳はそのままで、知力と魔力をメインに強化。背は高く、手足はすらりと長くて、胸は控えめに設定して、本アカウントでは使い道のなかった女性用の装備一式をこっちにぶちこんだ。
そこまでして、初めて、種族は魔女でもよかったかなと思ったが、魔女では年老いて死ぬかもしれないので、やり直しはしないことにした。
そうして、魔力がずば抜けて高い魔法使いが誕生した。

そうして、サブ垢はパートナーに設定し、オートを選択する。
パートナーに設定すると、対象がログインしていなくとも、そのキャラクターを借りることができ、一緒にパーティを組み、冒険を進めることができる。
なんとも便利な機能だ。
そうして、ソロで冒険をすすめること数カ月。
慣れてきたころに事件は起こった。

きっかけはたぶんあれだ。

バージョンアップのためのメンテナンスだ。
メンテナンス後、上手くログインできなかったユーザーがたくさんいたため、運営側は事前連絡なしで急遽追加でメンテナンスを敢行した。
そのとき、プレイヤー側は深く考えたりせず、後日配られるであろうお詫びの品欲しさに、運営もっとやれ!と煽る始末である。
私は普通にログイン出来たのだけれど、追加メンテナンスのために、強制ログアウトされた。
どういうことだと、すぐに運営公式サイトに飛んだが、そこで初めて理由を知り、結局、その日はログインするのを諦めた。

その夜、夢を見た。

自分が、ゲームの世界に入り、そこで、楽しく冒険する夢だった。
どうしてそんな夢を見たのか、心当たりが多すぎた。
あまりにも好きすぎたからだ。
想いが強すぎて、とうとう夢にまで見たかと思ってしまった。
まぁ、どうせ夢だし。
実際に夢だったわけだけど。

朝起きて、すぐにゲームを起動したが、メンテナンスはまだ続いていた。
運営からは、メンテナンスの通知が来ており、終了時刻は未定になっていた。
未定だと?!
急いでSNSを開くと、中ではお祭り騒ぎになっていた。
「メンテ延長。いつ終わるんだろ」
「お詫びの品への期待が高まる」
「運営寝てくれ」
そんな言葉が延々と続き、その中に、変な書き込みを見つけた。
「メンテの理由が、人が死んだからってマジ?」
「メンテとメンテの間にログインできた奇跡の人がばたばたと死んだらしいよ」
「なにそれこわい」
「何万人プレイしてると思ってんだ。ガセネタ」
「こじつけるのもたいがいにしろ」
「俺の家族が奇跡の人。脳こうそく起こして倒れた。まじやばい」
「はい、うそー」
「奇跡の人なんだけど。俺、死ぬの?」
「死んだら教えて」
「もはや都市伝説だな」
そんな書き込みを延々と見ていて思った。

あれ?私も奇跡の人なんじゃね?
もしかして、死ぬんだろうか?
そういえば、だんだん呼吸が苦しくなってきたような。
すー、はー、と深呼吸を何度もしてみたが、ただの考えすぎだったようだ。
思い込みって怖い。

「それより、会社!じかんやばい!」

慌てて身支度を整えて、家を出た。
普段通りに玄関を開け、一歩足を踏み出したその先が普通じゃないなんて、誰が予想しえようか。




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