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第1章
バトル編 世界の始まり
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「いや~暑いね~夏休みだな‥」
「言うまでもなく暑い。
やっぱり、こんな日には辛いものでも食べにいきたいな‥」
「辛いもの?たとえば?」
ユウカが聞き返す。
「うーん、たとえば辛いカレーとか、
辛子めっちゃ入れたうどんとかラーメンとか‥」
「あと、タバスコ多めのピザとか‥」
ケンが付け加える。どうやら、ケンもそういうものが好きなようだ。
「いや、夏にカレーとか、ありえないし~」
ユウカが、意外という感じで聞き返してくる。
駅には3分に一度くらい、電車が止まる音や発車する音がして、
そのたびに3人の会話が一瞬かき消される。
‥そもそも、なぜここにユウカがここにいる。ふと思った。
図書室で三人で放課後、調べ物をしていたときから1週間。
ちょうど次の日も同じような宿題が出され、3人で集まることになった。
そしてなぜか運がよいのか悪いのか分からないが、その2日後にも
同じように、魔法の種類について調べてこなければいけなかった。
そうこうしているうちに、
図書館に張ってあるポスターを見つけてしまったのだ。
「スキルアート大会、
ならびに世界のトップ術師による講演会開催! In pulehado」
「・・・・」
行く以外に何の選択肢がある!ちょうどそこにいた2人、ケンとユウカに思わず
「これ絶対いこうぜ!」
‥言ってしまった。
「ええ!おもしろそう~3人でいこうよ!」
「お前らが行くってんならいいけど‥一応、ポスターの下に応募制って
書いてあるからな。あと、締め切り明日までだし。カイがまとめて
俺たち3人の分、応募しとけよ‥」
「・・・・・」
「お前が言い出したんだからな、じゃあよろしく~」
あああああ!ぎゃああああ!
心の中で叫んだ。あんなこと言わなければよかった。しかし、
もう過去は変えられない。
「はい」
それは、とてもとても小さい返事でした。
3日後パソコンを開くと、メールのマーク。
「当選してしまった」
嬉しさ100分の84というところでした。
「おいカイ、確かこの電車だよな」
ケンの一言で急に現実に引き戻される。
「ああ、確か」
今から、電車で約20分。同じプレッハドの
中にしては遠いほうだ。そしてそこから
バスで約10分。と、最終確認を頭で済ませるのと
同時に電車のドアが開く。
歴史書で読んだことがあるが、ここの地名が
東京となっていた時代の駅のホームでは主に
ICカードというものが使われていたらしい。
それに比べると、今は指紋認証機ですべてを一瞬で
済ませてしまう。
もちろん、今の時代は
紙幣や硬貨というものはなくすべてそれが
電子化されている。
そして、当時スマートホォン
という四角い機械があったらしいのだが、
現在はそれに変り、指輪のような指につける小さい
機械を必ず一人ひとつずつ持っている。文字が浮き出る
ため、画面は要らない。
しかし今のところ
犯罪を防ぐために、駅のホームなど金銭を扱うところには
必ず指紋認証機がついている。
「その会場は何人くらいは入るんだっけ?」
ユウカが聞いてくる。
「えっと、確か10万人くらいとかテレビで言ってたような‥」
「意外と多い‥」
「いや、でもテレビでの視聴率が80%とかいってたから、」
全国の視聴者に比べれば、めちゃくちゃ少ないほうだと思うよ」
「じゃあ、応募者何人いたんだよ‥」
その話を横でケンが唖然とした顔で聞いてくる。
「・・・・」
「知らん」
確かに、何人いるんだろう。
そんな疑問を抱えながらいつの間にか目的地に。
「バス‥乗り心地わる!」
「がまんがまん!あと1ヶ月すればスマートカーに変わるんだし」
ユウカが明るい口調で言う。
「あと1ヶ月か‥長いな‥」
「スマートカーって、宙に浮いて走るやつ?」
「そうそれ、多分」
「10年前に反重力装置が発明されたけど、実用化には
まだ時間がかかったようね」
なぜか、ユウカがそれについてやたら詳しい。
いろいろ疑問を抱きながら、会場の入り口をくぐる。
見わたすと、10万人入れるだけあって、
とてもでかい。
オリンピック、パラリンピックの
テレビ中継を思い出す。
自分たちの席を見つけるまで、15分近くもかかってしまった。
「はあ‥ついた~」
「やっと‥」
「人多すぎ!」
3人それぞれの感想を言う。
「開始まであと10分。幸い、結構よく見えるところだったね」
「うん」
「最初は、講演会だっけ?」
「えっと、プログラムによれば最初40分程度、講和があって
その次にスキルアート大会らしい。」
「楽しみだ」
~エピソード3『始まり』~
「え~皆さん、こんにちは、わたくし司会を務めさせていただきます、
谷口龍馬といいます、よろしくお願いしま~す。」
よくテレビにも出演している、司会者のあいさつ。
「一流魔術師による講演会、そして
中級魔術師の部、上級魔術師によるバトルがそのあと
どう繰り広げられるか!テレビの前にいる皆さんも、
どうかチャンネルを変えずに、どうぞご覧くださ~い。
果たして、魔法の限界とは?」
どうやら、司会者のあいさつは終わったようだ。
「それでは、最初に一流魔術師、田中さんに
ご講演していただきま~す。」
おそらく、この会場の全員が思ったことだろう。
一流魔術師だからといって、特別な名前ではなく、
ごくごくある普通の名前なんだと。
「ちなみに、私の場合だと、大体15分程度ですかね~
空を飛べる時間は。上級魔術師といっても、魔術の
強力さによって、級があるんです。20級から、
1級まであります。その上は・・・
これ以上いうと、ややこしくなるので、一応
ここまで説明を終わります。ついでに、私の場合は、
まだ9級です。といっても、そのくらいになれば、世界に
1500人程度しかいないのですが。ついでに、1級や2級の
魔術師は、私が知っている中で大体1~2人ぐらいですかね~。
そのレベルまでいくと、私でも情報が入ってこないくらいです。」
説明は続く。
「中級魔術師になれば、一県に大体2000人くらいいますかね‥。
中級魔術師の級についても説明を入れておきます。中級魔術師も
やはり20級から1級まで割り振られており、20級クラスだと、
各県に1000人くらいでしょうか。1級は、20人くらいです。」
意外と勉強になる。
「上級魔術師に上がるためには、一流と言われるだけあり
厳しい試験が各県で行われます。今日のように戦う必要は
ありませんが、「スキルアート」、
つまり「技の美術」というだけあり、
技の美しさを披露します。そこで合格すれば、
上級魔術師になることができるのです。」
なろう。たとえどんな試練が待っているとしても、
絶対なってやる。と、心に決めた。
ケンが話しかけてくる。
「お前、将来上級魔術師目指すって今決めただろ?絶対」
「え‥」
「表情に出てたぞ」
「ばれた‥」
「俺もお前についていく。な!同じ陸上部だろ~」
「・・・・・・」
「ちょっと何2人で話してんの?」
ユウカが隣から口を挟む。
「え‥将来、2人で上級魔術師になってやろう、
って話しをしてた」
「私はその中に入らず、いつの間にかはずされていたわけ?」
「・・・・・」
「実は、私もそう決めたの。だから、これからもよろしく」
「・・・・・」
「いきなり黙って‥入れてくれないならいい」
「いやいやあの、その
ああもちろん、歓迎するとも、いや、させて頂きます」
なぜ敬語になった。自分に問いかける。
「ということで魔術師についての大まかな説明を終わります。
次は、僕自身について10分程度軽く紹介していきたいと
思います。僕は、34年前熊本で生まれました。
10年前に熊本から、
「ベア」に県名が変更されたので、
そのときは少し戸惑いましたが。
僕の魔法の属性は、雷です。今日は快晴なので‥」
途中で言葉が途切れた。会場が2秒間くらい、静まりかえる。
ズドドドオオオオオオオオオオン
次の2秒で会場全体に結構大きな雷鳴が聞こえる。
観衆がざわめき始めるのと同時に、またマイクの
スイッチが入れられる。
「まあ、この程度くらいしか僕の持っている最強の術は使えないのですが。
1級にもなると、雷で会場に1~2mの穴を
ほがしかねません。まさに、爆弾ですね。」
会場が再び静まり返る。魔法の恐ろしさやすごさに圧倒されたようだ。
『すげえー』
3人の声が思わずそろう。
「確かに、9級レベルであれなら、1級とかは‥」
「もっとやばい」
「かっこいい」
「今日の上級魔術師の戦いで、観客に影響が及ばないことを祈るよ」
「確かに」
「そういえば‥属性って種類何個あるんだっけ?」
「えっと、火、水、気、地、光、風、氷、毒、生命、雷、の10
だったような‥」
「属性が「生命」の上級魔術師っているのかな?」
ユウカが聞いてくる。
「いると思う。いや、絶対いると思う。
確か、属性が生命であれば、その道を極めれば
いろんな動物の心情、が分かるとか‥人でさえも。
でも、上級というだけあって基礎的魔力が
高く、あの人と同じように空を飛べたりするらしい。
だから、いくら生命は攻撃タイプじゃないからといって、
上級魔術師がいないことはないと思う」
「ふ~ん」
司会者にマイクが渡される。
「それでは皆さん、お待ちかねのスキルアート大会、
略してスキアー大会のお時間がやってまいりました~」
もっといい訳し方ないのかよ。心の中で思う。
「ここで、ルールを説明いたしま~す。
ゲームの勝敗は、相手が降参と言う、もしくは倒れたら
決まります。もちろん2人での対戦です。
また、相手が重傷を追った時点で、ゲームは
終了となります。制限時間は15分、観客に
被害が及ばない範囲ならどんな技も使用可能です。」
‥意外と普通のルールだな。
「最初は、中級の部!10人の参加者の中から、1人の優勝者を決めます。
まずは‥1組目、中級魔術師5級同士!ニックネーム
ライセン!そしてフーガ!」
会場が一瞬にして歓声であふれる。
「属性それぞれ雷、氷!」
司会者の声が途切れるとともに、2人がそれぞれ反対のほうから登場する。
2人の間は、260mくらいだろうか。あんなに遠くにいるのに、
2人の熱い目線がここまではっきりと伝わってくる。
「レディ」
司会者のこと一言で観客は静まり返る。
「ゴウ!」
「覚醒!」「スケーティング!」
2人は同時に叫んだ。
ライセンはその言葉と同時に光に包まれ、髪がさっきよりも
上に立っている。そして1秒に2回ぐらい体の回りから
青い光、つまり小さな雷が発生している。
「瞬殺してやる・・」
フーガは猛スピードでライセンめがけて走っている。
いや‥滑っている。氷の上を。
「ウオオオ!」
もしかして‥オリンピックで優勝できるんじゃね?という
考えが頭に浮かんだ瞬間、ライセンが消えた。と同時にその10m先にまた現れた。
これを何回か繰り返しながら進んでいく。
2人の間は3秒たたずにもう100mをきった。
「は?ほんとに人間か?あの2人」
ケンの言葉が頭を通り抜ける。通り抜けるほど、2人に圧倒されていた。
残り60m。相変わらず2人のスピードは変わらない。近づくにつれ、歓声はさらに増す。
ぶつかった!
6秒後には2人とも4mほど飛ばされていた。
上にある大きなテレビに、今のスローモーションの映像が流れている。
まず、ライセンがぎりぎり聞こえるくらいの声で
「サンダーアーム」と言う。と同時に、腕が光ったと思うと、
それを振り下ろす。フーガはそれをよけきろうと、一瞬体を右へずらす。
ライセンの腕の先が光り輝く。つまりその先には小さな雷。
フーガはそれをぎりぎりよけきり、ライセンの動きを阻止しようと
ライセンの下に氷を張ろうと試みる。
しかしまたきた雷がフーガのわきの下をかすめ、
フーガは自分で作った氷の上を0.6秒すべり続ける。
しかしその間に氷の盾を作り、次の0.6秒で反撃に出る。
ライセンの雷を3つそれで防ぎながら、ライセンに近づき、
「アイスチャンク!」
「ロック!」
40個ぐらいの氷がフーガの回りに現れ、それらがライセンを取り囲む。この間約4秒。
ライセンは、いわゆるショートによってできる熱によって
氷を溶かそうと、0.5秒電気をため、次の0.5秒でその電気を解き放つ。
一瞬にして、氷は溶ける。
しかし、その1秒の間にフーガは氷の剣を作り、突進してくる。
これを全力で阻止しようとしさっきのためた電気の余力を
使い、2人の間に巨大な雷を落とす。これにより、2人は吹き飛ばされた。
「ウワアアアア!!」
「く・・・」
この間約2秒。
2人は体力の7~8割使ったような、厳しい表情をしている。
「はあ、はあ、はあ」
息も結構切らしている。
おそらく、この体力でどのようにこの勝負に勝つか検討でもしているのだろう。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
3人は、上のテレビのスローモーションを見たあと出る言葉がなかった。
同じくこの会場の観客全員も。上級魔術師を除いては。
上級魔術師たちは‥笑っていた。まさに幼稚園児と鬼ごっこをするときの笑顔で。
今、二人の間は約10~15m。
今すぐにでも戦闘が始まってもおかしくない。
「降参」
ライセンが言う。
「負けを認める」
「え~ライセンが降参したので、このバトルは、終了となります。
優勝者‥フーガ!」
会場がいったん静寂に包まれていたが、1秒後にまた
歓喜であふれる。
「え!何で降参しちゃったの?」
ユウカが呆然とした顔で聞いてくる。
「・・・・」
「たぶん、これ以上すると体がついていけない。体への
負荷が大きすぎたんじゃないかな‥」
「どっちが?」
「降参って言ったのは、ライセンだけどやっぱりフウガも相当
大きかったんだと思うよ。」
「意外と早かったね‥」
「さあて、次は中級魔術師3級同士!
ポルスとリュウキ!属性それぞれ、毒、火!」
級が2級上がったせいなのか、歓声がいっそう増したように感じられる。
2人が同じように両サイドから出てくる。
「毒と火か‥どうなるんだろ」
「まあ、見てみよう」
「レディ」
会場は静まり返る。
「ゴウ!」
「ポイズンルート!」
ポルスはそう言って、歩き出す。
リュウキも‥歩く。氷の上を歩くのではなく普通に歩く。
「まあ、この距離なら歩いても十分に余裕はあるとは思うけどね~」
「確かに」
「でも‥確かさっきポルスって‥なんか叫んでなかった?」
「ポイズンルートって、えっと‥」
「!ルートって英語で『根』だ‥」
「あ!」
「!!!」
いつの間にか、リュウキの真下から、黒い根っこのようなもの
が4本生えてきている。リュウキが反応する前に根はもう足元のすぐそばに。
リュウキは明らかにあせっている。
とっさに
「ファイアーカット!」
一瞬で出てきた炎の剣は、3本まとめて切る。
しかし、残りの1本はリュウキの足に。
1秒もたたずにその根は足にがっしりとからまる。
「・・・・・」
「いつの間に・・・」
しかし、とっさに
「ぺネトレーション!」
と言いながら、手を足の根に向ける。
「は!」
根は一瞬で燃え、足から消える。
「今‥なにがあった?」
ケンが聞く。
「さあ?」
‥の3~4秒後。
ポルスの体か炎に包まれる。
完全に油断していたように見えた。
つまり、根を火が貫通してそれがそのままパルスに直撃したのだ。
「‥遠距離戦じゃん」
「まさしく」
「さっきと戦い方違うけど‥こんな戦法もあるのか‥」
「ポイズンスピア!」
両手から黒い物体‥おそらく毒が現れたかと思うと、
次はそれが細長い、2mくらいの矛に変化する。
2人の間は100m以上ある。
しかし躊躇なくその矛を投げる。
もちろん、落ちることなくリュウキのほうへ。
「ファイアーシールド!」
両手に炎の渦ができたと思うと、それは盾の形になる。
ギイイイン!
盾と矛のぶつかり合う音が会場全体に響き渡る。
盾が矛を防いでいる。‥いや、なんか‥。
盾が矛を突き通しているわけでなく‥
盾にくっついている。
「!!!」
盾から、煙が出ている。
ドオオオン!
またしも大きな音。
毒が火と反応して、爆発した。
ポルスのガッツポーズが見える。
「すごい」
ユウカが思わず感嘆の声を上げる。
「そんな毒を作りきれるのもすごい」
またしも会場の7割ぐらいの人が感じただろう。
矛盾が矛盾していたことに‥。
「矛と盾‥どっちも強いね!」
「うん」
その7割の中には、もちろんこの3人も。
ポルスは余裕の表情だが、リュウキの表情に余裕という文字はない。
「く‥もう終わりにしてやる‥」
「ファイアーアトム!」
「ポイズンシールド!‥トゥワイス!」
2人は同時に叫ぶと、リュウキの手が赤くなり始めた。
そしてパルスの手も紫に。
リュウキは、手を広げる。パルスは手を胸の前に。
「ダウン!」リュウキは広げた手を下ろすと同時に叫ぶ。
次の瞬間パルスの真上に小さな太陽が現れ、ゆっくりと下降していく。
パルスは、全身を毒のガードで覆いながらその太陽の真下から
全力で逃げている。
‥しかし‥間に合わない。
ズウウウウン‥
爆弾が、地面に接すると同時に、
低いうなり声を上げて消滅する。
パルスは‥逃げ切れていなかった。通常の2倍の厚さのポイズンシールドも
貫き、力尽きていた。
「降参」
ポルスが倒れたまま言う。
「ただいまの結果、勝者‥リュウキ!」
歓声が再び大きくなる。
「遠距離だったけど、すごかったな‥」
「うん」
「特に最後の爆弾とか‥」
こうして1人2人の怪我人は出たが、あとは順調に中級魔術師の部は終わった。
そして、勝者は2級相手に競り勝ち、リュウキとなった。
「中級でも、なかなか‥いや、かなりすごいな」
「将来は、絶対あれ越そうぜ!」
ケンが言ってくる。
「もちろん、越すさ」
「3人でね」
ユウカがあとでしっかりとお姉さん口調で付け足す。
「もちろん、3人で」
「さあ、中級の次は、上級!
どんなバトルになるのか!」
司会者が喋りだす。
「まずは‥なんと3級同士!今日一番の
熱戦になるかもしれません!
ニックネームは‥エア、そしてスパイラル!
属性、それぞれ気、火」
両者が現れる。エアは、オレンジ色の服、青色の尾を腰に巻いている。
スパイラルは上半身‥裸。ズボンは、黒色のいかにも少林寺拳法というような
服装をしている。そして‥礼儀正しい。しっかりと手を合わせて礼をした。
「レディ」
両者とも身構える。
「ゴウ!」
パパパパ ズドドドド シュパシュパ ドーン
「ウラアアアア!」
「なんの!」
「は?」
「何が起こってんの?」
言葉が‥出ない。
上についているテレビでも画像が荒い。
どうにか、体を張って戦っている‥ということは読み取れる。
ドン!
2人は50mぐらいだろうか。一瞬で離れる。
‥早すぎる。テレビでも追いつけないなんて‥
まず、基本的な運動能力が違いすぎる‥。
しかも、見たところまだ魔法を使っていない。
と頭の片隅で思った瞬間、2人の間が火に包まれた。
「ファイアーハンド!」
太く、勇ましい声が響く。
次の瞬間また
ズドドドドド という激しい機械のような声が響く。
ファイアーハンドと言うだけあって、高温の腕で相手を殴ること
によって発せられる音ということぐらいは分かる。
10秒ぐらい続く。
「うわ!」
そしてスパイラルが吹き飛ばされる。
恐らく、空気圧だろう。
まるで、さっきの中級とは格が違う。
「波!」
エアが叫んだと思えば、ドン!という重い音がする。
と同時にスパイラルが手でバツを作って防御するが、
それでも10mは後方に飛ばされる。
「今のって、いわゆる‥か○はめ波?」
「たぶん‥」
「波波波!」
3連続!スパイラルはまたさらに30mほど後方に飛ばされる。
「はあ、はあ」
エアは、今ので結構体にきたようだ。 同じくスパイラルも。
「招喚!出でよ、ファイアードラゴン!!」
巨大な炎の渦ができたと思うと、それが竜の形に変形していく。
「招喚って出来るの?」
ユウカが少し興奮気味に聞いてくる。
「3級にもなると、そういう高度なことも出来るんじゃないんかな?」
「フ~ン」
「気鋼波、トゥワイス!」
さっきの「波」の構えを見せる。
しかし、さっきよりもためている時間が長い。
「アタック、ドラゴン!」
「波!」
「いっけ~!」
「ウリャア!」
ドラゴンの頭の部分と、気鋼波がぶつかる。
ボン!
ぶつかる音はそれほど大きくないが、十分迫力は伝わってくる重低音。
「グオオ―!!」
ドラゴンの雄叫びとともに体制が崩れる、そのまま気鋼波に押し流される。
しかし、ドラゴンも負けてはいない。体制を取り戻そうと、一層雄叫びを
あげ、気鋼波を少しずつではあるが、押し返している。
ここで歓声がさっきの2倍に増えたような気がした。
下で術を操っているエアとスパイラルの手にも、汗が光る。
そして次の瞬間、ドラゴンが気鋼波を押しのけるようにして
自分の体から突き放す。しかし気鋼波は勢力を維持して、そのまま突き進む。
後ろの観客席のほう、しかも自分たちに向かって。
‥会場の、反対側からみればぶつかるまでおよそ3~4秒といったところだろう。
最初、冗談だろうと思っていた。
「え?なんか、気鋼波、私たちのほうに来てない?」
「うん‥」
ここで、自分たちに死がもうすぐそこに迫っていることに気づく。
「に、逃げろ!」
「やばい、間に合わない!!!」
もうだめだ。確信した。
「キャー」
「今までありがとう、お父さん、お母さん」
「また来世で」
・・・・痛みは感じなかった。
その代わりに自分がどこにいるのか、急に分からなくなった・・・・
<序編>
スキルアート<本編>
第1章『出会い』
‥まぶたが重い‥。ああ、遠くに、白い光が見える。
ここは、どこだろう‥。生きているのか‥?
まぶたを開けよう。‥ほんの少し開いた。‥生きている。
ああ、思い出した。確か、なんかの大会の途中で犠牲者に‥。
スキルアート大会。そこで起こった不慮の事故の犠牲者になったわけだ。
とりあえず‥生きている。もっと開けてみよう。
!眩しい。ここは‥病院か?
いや、おそらく病院以外にはないだろう。
体は‥動く。起き上がろう。上に毛布がかぶせてある。
‥改めてよく見てみると‥病院‥なのか?
魔法瓶みたいなもの、瓶の中を飛び回る色とりどりの虫?のようなもの。
そして、このベッドは木でできている。右のベッドにはケン、
左のベッドにはユウカが寝ている。
とりあえずベッドから出るために、毛布をどかす。
体は動く。身体に特に異常はないようだ。
近くにある窓に近づく。足取りは、軽い。
窓をのぞいて確信した。
‥ここは、地球じゃない‥
「言うまでもなく暑い。
やっぱり、こんな日には辛いものでも食べにいきたいな‥」
「辛いもの?たとえば?」
ユウカが聞き返す。
「うーん、たとえば辛いカレーとか、
辛子めっちゃ入れたうどんとかラーメンとか‥」
「あと、タバスコ多めのピザとか‥」
ケンが付け加える。どうやら、ケンもそういうものが好きなようだ。
「いや、夏にカレーとか、ありえないし~」
ユウカが、意外という感じで聞き返してくる。
駅には3分に一度くらい、電車が止まる音や発車する音がして、
そのたびに3人の会話が一瞬かき消される。
‥そもそも、なぜここにユウカがここにいる。ふと思った。
図書室で三人で放課後、調べ物をしていたときから1週間。
ちょうど次の日も同じような宿題が出され、3人で集まることになった。
そしてなぜか運がよいのか悪いのか分からないが、その2日後にも
同じように、魔法の種類について調べてこなければいけなかった。
そうこうしているうちに、
図書館に張ってあるポスターを見つけてしまったのだ。
「スキルアート大会、
ならびに世界のトップ術師による講演会開催! In pulehado」
「・・・・」
行く以外に何の選択肢がある!ちょうどそこにいた2人、ケンとユウカに思わず
「これ絶対いこうぜ!」
‥言ってしまった。
「ええ!おもしろそう~3人でいこうよ!」
「お前らが行くってんならいいけど‥一応、ポスターの下に応募制って
書いてあるからな。あと、締め切り明日までだし。カイがまとめて
俺たち3人の分、応募しとけよ‥」
「・・・・・」
「お前が言い出したんだからな、じゃあよろしく~」
あああああ!ぎゃああああ!
心の中で叫んだ。あんなこと言わなければよかった。しかし、
もう過去は変えられない。
「はい」
それは、とてもとても小さい返事でした。
3日後パソコンを開くと、メールのマーク。
「当選してしまった」
嬉しさ100分の84というところでした。
「おいカイ、確かこの電車だよな」
ケンの一言で急に現実に引き戻される。
「ああ、確か」
今から、電車で約20分。同じプレッハドの
中にしては遠いほうだ。そしてそこから
バスで約10分。と、最終確認を頭で済ませるのと
同時に電車のドアが開く。
歴史書で読んだことがあるが、ここの地名が
東京となっていた時代の駅のホームでは主に
ICカードというものが使われていたらしい。
それに比べると、今は指紋認証機ですべてを一瞬で
済ませてしまう。
もちろん、今の時代は
紙幣や硬貨というものはなくすべてそれが
電子化されている。
そして、当時スマートホォン
という四角い機械があったらしいのだが、
現在はそれに変り、指輪のような指につける小さい
機械を必ず一人ひとつずつ持っている。文字が浮き出る
ため、画面は要らない。
しかし今のところ
犯罪を防ぐために、駅のホームなど金銭を扱うところには
必ず指紋認証機がついている。
「その会場は何人くらいは入るんだっけ?」
ユウカが聞いてくる。
「えっと、確か10万人くらいとかテレビで言ってたような‥」
「意外と多い‥」
「いや、でもテレビでの視聴率が80%とかいってたから、」
全国の視聴者に比べれば、めちゃくちゃ少ないほうだと思うよ」
「じゃあ、応募者何人いたんだよ‥」
その話を横でケンが唖然とした顔で聞いてくる。
「・・・・」
「知らん」
確かに、何人いるんだろう。
そんな疑問を抱えながらいつの間にか目的地に。
「バス‥乗り心地わる!」
「がまんがまん!あと1ヶ月すればスマートカーに変わるんだし」
ユウカが明るい口調で言う。
「あと1ヶ月か‥長いな‥」
「スマートカーって、宙に浮いて走るやつ?」
「そうそれ、多分」
「10年前に反重力装置が発明されたけど、実用化には
まだ時間がかかったようね」
なぜか、ユウカがそれについてやたら詳しい。
いろいろ疑問を抱きながら、会場の入り口をくぐる。
見わたすと、10万人入れるだけあって、
とてもでかい。
オリンピック、パラリンピックの
テレビ中継を思い出す。
自分たちの席を見つけるまで、15分近くもかかってしまった。
「はあ‥ついた~」
「やっと‥」
「人多すぎ!」
3人それぞれの感想を言う。
「開始まであと10分。幸い、結構よく見えるところだったね」
「うん」
「最初は、講演会だっけ?」
「えっと、プログラムによれば最初40分程度、講和があって
その次にスキルアート大会らしい。」
「楽しみだ」
~エピソード3『始まり』~
「え~皆さん、こんにちは、わたくし司会を務めさせていただきます、
谷口龍馬といいます、よろしくお願いしま~す。」
よくテレビにも出演している、司会者のあいさつ。
「一流魔術師による講演会、そして
中級魔術師の部、上級魔術師によるバトルがそのあと
どう繰り広げられるか!テレビの前にいる皆さんも、
どうかチャンネルを変えずに、どうぞご覧くださ~い。
果たして、魔法の限界とは?」
どうやら、司会者のあいさつは終わったようだ。
「それでは、最初に一流魔術師、田中さんに
ご講演していただきま~す。」
おそらく、この会場の全員が思ったことだろう。
一流魔術師だからといって、特別な名前ではなく、
ごくごくある普通の名前なんだと。
「ちなみに、私の場合だと、大体15分程度ですかね~
空を飛べる時間は。上級魔術師といっても、魔術の
強力さによって、級があるんです。20級から、
1級まであります。その上は・・・
これ以上いうと、ややこしくなるので、一応
ここまで説明を終わります。ついでに、私の場合は、
まだ9級です。といっても、そのくらいになれば、世界に
1500人程度しかいないのですが。ついでに、1級や2級の
魔術師は、私が知っている中で大体1~2人ぐらいですかね~。
そのレベルまでいくと、私でも情報が入ってこないくらいです。」
説明は続く。
「中級魔術師になれば、一県に大体2000人くらいいますかね‥。
中級魔術師の級についても説明を入れておきます。中級魔術師も
やはり20級から1級まで割り振られており、20級クラスだと、
各県に1000人くらいでしょうか。1級は、20人くらいです。」
意外と勉強になる。
「上級魔術師に上がるためには、一流と言われるだけあり
厳しい試験が各県で行われます。今日のように戦う必要は
ありませんが、「スキルアート」、
つまり「技の美術」というだけあり、
技の美しさを披露します。そこで合格すれば、
上級魔術師になることができるのです。」
なろう。たとえどんな試練が待っているとしても、
絶対なってやる。と、心に決めた。
ケンが話しかけてくる。
「お前、将来上級魔術師目指すって今決めただろ?絶対」
「え‥」
「表情に出てたぞ」
「ばれた‥」
「俺もお前についていく。な!同じ陸上部だろ~」
「・・・・・・」
「ちょっと何2人で話してんの?」
ユウカが隣から口を挟む。
「え‥将来、2人で上級魔術師になってやろう、
って話しをしてた」
「私はその中に入らず、いつの間にかはずされていたわけ?」
「・・・・・」
「実は、私もそう決めたの。だから、これからもよろしく」
「・・・・・」
「いきなり黙って‥入れてくれないならいい」
「いやいやあの、その
ああもちろん、歓迎するとも、いや、させて頂きます」
なぜ敬語になった。自分に問いかける。
「ということで魔術師についての大まかな説明を終わります。
次は、僕自身について10分程度軽く紹介していきたいと
思います。僕は、34年前熊本で生まれました。
10年前に熊本から、
「ベア」に県名が変更されたので、
そのときは少し戸惑いましたが。
僕の魔法の属性は、雷です。今日は快晴なので‥」
途中で言葉が途切れた。会場が2秒間くらい、静まりかえる。
ズドドドオオオオオオオオオオン
次の2秒で会場全体に結構大きな雷鳴が聞こえる。
観衆がざわめき始めるのと同時に、またマイクの
スイッチが入れられる。
「まあ、この程度くらいしか僕の持っている最強の術は使えないのですが。
1級にもなると、雷で会場に1~2mの穴を
ほがしかねません。まさに、爆弾ですね。」
会場が再び静まり返る。魔法の恐ろしさやすごさに圧倒されたようだ。
『すげえー』
3人の声が思わずそろう。
「確かに、9級レベルであれなら、1級とかは‥」
「もっとやばい」
「かっこいい」
「今日の上級魔術師の戦いで、観客に影響が及ばないことを祈るよ」
「確かに」
「そういえば‥属性って種類何個あるんだっけ?」
「えっと、火、水、気、地、光、風、氷、毒、生命、雷、の10
だったような‥」
「属性が「生命」の上級魔術師っているのかな?」
ユウカが聞いてくる。
「いると思う。いや、絶対いると思う。
確か、属性が生命であれば、その道を極めれば
いろんな動物の心情、が分かるとか‥人でさえも。
でも、上級というだけあって基礎的魔力が
高く、あの人と同じように空を飛べたりするらしい。
だから、いくら生命は攻撃タイプじゃないからといって、
上級魔術師がいないことはないと思う」
「ふ~ん」
司会者にマイクが渡される。
「それでは皆さん、お待ちかねのスキルアート大会、
略してスキアー大会のお時間がやってまいりました~」
もっといい訳し方ないのかよ。心の中で思う。
「ここで、ルールを説明いたしま~す。
ゲームの勝敗は、相手が降参と言う、もしくは倒れたら
決まります。もちろん2人での対戦です。
また、相手が重傷を追った時点で、ゲームは
終了となります。制限時間は15分、観客に
被害が及ばない範囲ならどんな技も使用可能です。」
‥意外と普通のルールだな。
「最初は、中級の部!10人の参加者の中から、1人の優勝者を決めます。
まずは‥1組目、中級魔術師5級同士!ニックネーム
ライセン!そしてフーガ!」
会場が一瞬にして歓声であふれる。
「属性それぞれ雷、氷!」
司会者の声が途切れるとともに、2人がそれぞれ反対のほうから登場する。
2人の間は、260mくらいだろうか。あんなに遠くにいるのに、
2人の熱い目線がここまではっきりと伝わってくる。
「レディ」
司会者のこと一言で観客は静まり返る。
「ゴウ!」
「覚醒!」「スケーティング!」
2人は同時に叫んだ。
ライセンはその言葉と同時に光に包まれ、髪がさっきよりも
上に立っている。そして1秒に2回ぐらい体の回りから
青い光、つまり小さな雷が発生している。
「瞬殺してやる・・」
フーガは猛スピードでライセンめがけて走っている。
いや‥滑っている。氷の上を。
「ウオオオ!」
もしかして‥オリンピックで優勝できるんじゃね?という
考えが頭に浮かんだ瞬間、ライセンが消えた。と同時にその10m先にまた現れた。
これを何回か繰り返しながら進んでいく。
2人の間は3秒たたずにもう100mをきった。
「は?ほんとに人間か?あの2人」
ケンの言葉が頭を通り抜ける。通り抜けるほど、2人に圧倒されていた。
残り60m。相変わらず2人のスピードは変わらない。近づくにつれ、歓声はさらに増す。
ぶつかった!
6秒後には2人とも4mほど飛ばされていた。
上にある大きなテレビに、今のスローモーションの映像が流れている。
まず、ライセンがぎりぎり聞こえるくらいの声で
「サンダーアーム」と言う。と同時に、腕が光ったと思うと、
それを振り下ろす。フーガはそれをよけきろうと、一瞬体を右へずらす。
ライセンの腕の先が光り輝く。つまりその先には小さな雷。
フーガはそれをぎりぎりよけきり、ライセンの動きを阻止しようと
ライセンの下に氷を張ろうと試みる。
しかしまたきた雷がフーガのわきの下をかすめ、
フーガは自分で作った氷の上を0.6秒すべり続ける。
しかしその間に氷の盾を作り、次の0.6秒で反撃に出る。
ライセンの雷を3つそれで防ぎながら、ライセンに近づき、
「アイスチャンク!」
「ロック!」
40個ぐらいの氷がフーガの回りに現れ、それらがライセンを取り囲む。この間約4秒。
ライセンは、いわゆるショートによってできる熱によって
氷を溶かそうと、0.5秒電気をため、次の0.5秒でその電気を解き放つ。
一瞬にして、氷は溶ける。
しかし、その1秒の間にフーガは氷の剣を作り、突進してくる。
これを全力で阻止しようとしさっきのためた電気の余力を
使い、2人の間に巨大な雷を落とす。これにより、2人は吹き飛ばされた。
「ウワアアアア!!」
「く・・・」
この間約2秒。
2人は体力の7~8割使ったような、厳しい表情をしている。
「はあ、はあ、はあ」
息も結構切らしている。
おそらく、この体力でどのようにこの勝負に勝つか検討でもしているのだろう。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
3人は、上のテレビのスローモーションを見たあと出る言葉がなかった。
同じくこの会場の観客全員も。上級魔術師を除いては。
上級魔術師たちは‥笑っていた。まさに幼稚園児と鬼ごっこをするときの笑顔で。
今、二人の間は約10~15m。
今すぐにでも戦闘が始まってもおかしくない。
「降参」
ライセンが言う。
「負けを認める」
「え~ライセンが降参したので、このバトルは、終了となります。
優勝者‥フーガ!」
会場がいったん静寂に包まれていたが、1秒後にまた
歓喜であふれる。
「え!何で降参しちゃったの?」
ユウカが呆然とした顔で聞いてくる。
「・・・・」
「たぶん、これ以上すると体がついていけない。体への
負荷が大きすぎたんじゃないかな‥」
「どっちが?」
「降参って言ったのは、ライセンだけどやっぱりフウガも相当
大きかったんだと思うよ。」
「意外と早かったね‥」
「さあて、次は中級魔術師3級同士!
ポルスとリュウキ!属性それぞれ、毒、火!」
級が2級上がったせいなのか、歓声がいっそう増したように感じられる。
2人が同じように両サイドから出てくる。
「毒と火か‥どうなるんだろ」
「まあ、見てみよう」
「レディ」
会場は静まり返る。
「ゴウ!」
「ポイズンルート!」
ポルスはそう言って、歩き出す。
リュウキも‥歩く。氷の上を歩くのではなく普通に歩く。
「まあ、この距離なら歩いても十分に余裕はあるとは思うけどね~」
「確かに」
「でも‥確かさっきポルスって‥なんか叫んでなかった?」
「ポイズンルートって、えっと‥」
「!ルートって英語で『根』だ‥」
「あ!」
「!!!」
いつの間にか、リュウキの真下から、黒い根っこのようなもの
が4本生えてきている。リュウキが反応する前に根はもう足元のすぐそばに。
リュウキは明らかにあせっている。
とっさに
「ファイアーカット!」
一瞬で出てきた炎の剣は、3本まとめて切る。
しかし、残りの1本はリュウキの足に。
1秒もたたずにその根は足にがっしりとからまる。
「・・・・・」
「いつの間に・・・」
しかし、とっさに
「ぺネトレーション!」
と言いながら、手を足の根に向ける。
「は!」
根は一瞬で燃え、足から消える。
「今‥なにがあった?」
ケンが聞く。
「さあ?」
‥の3~4秒後。
ポルスの体か炎に包まれる。
完全に油断していたように見えた。
つまり、根を火が貫通してそれがそのままパルスに直撃したのだ。
「‥遠距離戦じゃん」
「まさしく」
「さっきと戦い方違うけど‥こんな戦法もあるのか‥」
「ポイズンスピア!」
両手から黒い物体‥おそらく毒が現れたかと思うと、
次はそれが細長い、2mくらいの矛に変化する。
2人の間は100m以上ある。
しかし躊躇なくその矛を投げる。
もちろん、落ちることなくリュウキのほうへ。
「ファイアーシールド!」
両手に炎の渦ができたと思うと、それは盾の形になる。
ギイイイン!
盾と矛のぶつかり合う音が会場全体に響き渡る。
盾が矛を防いでいる。‥いや、なんか‥。
盾が矛を突き通しているわけでなく‥
盾にくっついている。
「!!!」
盾から、煙が出ている。
ドオオオン!
またしも大きな音。
毒が火と反応して、爆発した。
ポルスのガッツポーズが見える。
「すごい」
ユウカが思わず感嘆の声を上げる。
「そんな毒を作りきれるのもすごい」
またしも会場の7割ぐらいの人が感じただろう。
矛盾が矛盾していたことに‥。
「矛と盾‥どっちも強いね!」
「うん」
その7割の中には、もちろんこの3人も。
ポルスは余裕の表情だが、リュウキの表情に余裕という文字はない。
「く‥もう終わりにしてやる‥」
「ファイアーアトム!」
「ポイズンシールド!‥トゥワイス!」
2人は同時に叫ぶと、リュウキの手が赤くなり始めた。
そしてパルスの手も紫に。
リュウキは、手を広げる。パルスは手を胸の前に。
「ダウン!」リュウキは広げた手を下ろすと同時に叫ぶ。
次の瞬間パルスの真上に小さな太陽が現れ、ゆっくりと下降していく。
パルスは、全身を毒のガードで覆いながらその太陽の真下から
全力で逃げている。
‥しかし‥間に合わない。
ズウウウウン‥
爆弾が、地面に接すると同時に、
低いうなり声を上げて消滅する。
パルスは‥逃げ切れていなかった。通常の2倍の厚さのポイズンシールドも
貫き、力尽きていた。
「降参」
ポルスが倒れたまま言う。
「ただいまの結果、勝者‥リュウキ!」
歓声が再び大きくなる。
「遠距離だったけど、すごかったな‥」
「うん」
「特に最後の爆弾とか‥」
こうして1人2人の怪我人は出たが、あとは順調に中級魔術師の部は終わった。
そして、勝者は2級相手に競り勝ち、リュウキとなった。
「中級でも、なかなか‥いや、かなりすごいな」
「将来は、絶対あれ越そうぜ!」
ケンが言ってくる。
「もちろん、越すさ」
「3人でね」
ユウカがあとでしっかりとお姉さん口調で付け足す。
「もちろん、3人で」
「さあ、中級の次は、上級!
どんなバトルになるのか!」
司会者が喋りだす。
「まずは‥なんと3級同士!今日一番の
熱戦になるかもしれません!
ニックネームは‥エア、そしてスパイラル!
属性、それぞれ気、火」
両者が現れる。エアは、オレンジ色の服、青色の尾を腰に巻いている。
スパイラルは上半身‥裸。ズボンは、黒色のいかにも少林寺拳法というような
服装をしている。そして‥礼儀正しい。しっかりと手を合わせて礼をした。
「レディ」
両者とも身構える。
「ゴウ!」
パパパパ ズドドドド シュパシュパ ドーン
「ウラアアアア!」
「なんの!」
「は?」
「何が起こってんの?」
言葉が‥出ない。
上についているテレビでも画像が荒い。
どうにか、体を張って戦っている‥ということは読み取れる。
ドン!
2人は50mぐらいだろうか。一瞬で離れる。
‥早すぎる。テレビでも追いつけないなんて‥
まず、基本的な運動能力が違いすぎる‥。
しかも、見たところまだ魔法を使っていない。
と頭の片隅で思った瞬間、2人の間が火に包まれた。
「ファイアーハンド!」
太く、勇ましい声が響く。
次の瞬間また
ズドドドドド という激しい機械のような声が響く。
ファイアーハンドと言うだけあって、高温の腕で相手を殴ること
によって発せられる音ということぐらいは分かる。
10秒ぐらい続く。
「うわ!」
そしてスパイラルが吹き飛ばされる。
恐らく、空気圧だろう。
まるで、さっきの中級とは格が違う。
「波!」
エアが叫んだと思えば、ドン!という重い音がする。
と同時にスパイラルが手でバツを作って防御するが、
それでも10mは後方に飛ばされる。
「今のって、いわゆる‥か○はめ波?」
「たぶん‥」
「波波波!」
3連続!スパイラルはまたさらに30mほど後方に飛ばされる。
「はあ、はあ」
エアは、今ので結構体にきたようだ。 同じくスパイラルも。
「招喚!出でよ、ファイアードラゴン!!」
巨大な炎の渦ができたと思うと、それが竜の形に変形していく。
「招喚って出来るの?」
ユウカが少し興奮気味に聞いてくる。
「3級にもなると、そういう高度なことも出来るんじゃないんかな?」
「フ~ン」
「気鋼波、トゥワイス!」
さっきの「波」の構えを見せる。
しかし、さっきよりもためている時間が長い。
「アタック、ドラゴン!」
「波!」
「いっけ~!」
「ウリャア!」
ドラゴンの頭の部分と、気鋼波がぶつかる。
ボン!
ぶつかる音はそれほど大きくないが、十分迫力は伝わってくる重低音。
「グオオ―!!」
ドラゴンの雄叫びとともに体制が崩れる、そのまま気鋼波に押し流される。
しかし、ドラゴンも負けてはいない。体制を取り戻そうと、一層雄叫びを
あげ、気鋼波を少しずつではあるが、押し返している。
ここで歓声がさっきの2倍に増えたような気がした。
下で術を操っているエアとスパイラルの手にも、汗が光る。
そして次の瞬間、ドラゴンが気鋼波を押しのけるようにして
自分の体から突き放す。しかし気鋼波は勢力を維持して、そのまま突き進む。
後ろの観客席のほう、しかも自分たちに向かって。
‥会場の、反対側からみればぶつかるまでおよそ3~4秒といったところだろう。
最初、冗談だろうと思っていた。
「え?なんか、気鋼波、私たちのほうに来てない?」
「うん‥」
ここで、自分たちに死がもうすぐそこに迫っていることに気づく。
「に、逃げろ!」
「やばい、間に合わない!!!」
もうだめだ。確信した。
「キャー」
「今までありがとう、お父さん、お母さん」
「また来世で」
・・・・痛みは感じなかった。
その代わりに自分がどこにいるのか、急に分からなくなった・・・・
<序編>
スキルアート<本編>
第1章『出会い』
‥まぶたが重い‥。ああ、遠くに、白い光が見える。
ここは、どこだろう‥。生きているのか‥?
まぶたを開けよう。‥ほんの少し開いた。‥生きている。
ああ、思い出した。確か、なんかの大会の途中で犠牲者に‥。
スキルアート大会。そこで起こった不慮の事故の犠牲者になったわけだ。
とりあえず‥生きている。もっと開けてみよう。
!眩しい。ここは‥病院か?
いや、おそらく病院以外にはないだろう。
体は‥動く。起き上がろう。上に毛布がかぶせてある。
‥改めてよく見てみると‥病院‥なのか?
魔法瓶みたいなもの、瓶の中を飛び回る色とりどりの虫?のようなもの。
そして、このベッドは木でできている。右のベッドにはケン、
左のベッドにはユウカが寝ている。
とりあえずベッドから出るために、毛布をどかす。
体は動く。身体に特に異常はないようだ。
近くにある窓に近づく。足取りは、軽い。
窓をのぞいて確信した。
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