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最終章 最終決戦だヒャッハーな件

トラウマを乗り越えそうで乗り越えないかんじ。

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 さて、やってやるとは言ったものの……困った。

 眼前ではみんなが持てる技術の全てを使って怪物を足止めしてくれている。別の場所では引き続き暴れているデッサン人形を相手取る、ギルドの人たちの姿も見えた。

 アイツをでっかくした時どんな感覚だったか思い出せば良いだけなのに、それが難しい。

「くそ、思い出せば……思い出せば良いだけなのに……!」

 あれだ。やろうとすればするほど遠ざかっていく感覚。眠れない時に無理に寝ようとすると、更に眠れなくなるあのどうしようもない症状にも似ている。……眠れないアル。

「リュージ、あまり焦らないで」
「シータ……わかってる」

 うぅ、ギャグチックな思考に流れてしまったとは言いづらい。……でも、そうだよな。シータの言うとおり焦ってもどうにもならない。

 まずは目を閉じて、息を整えるために深呼吸する。最初に思い出すのは魔国の地下牢での出来事だ。あの時はたしか森羅さんをバカにされたんだっけか。……あんまムカつかないな。

「森羅さんルートは無いな。となると――」
「キュルッ!?」

 なんかいつの間にか出てきてた森羅さんが影を背負ってるが放っておこう。あいつは放置プレイされても大丈夫な子だ!
 うーん、やはりシータ関連だろうか? そうだよなぁ。でもあんまり思い出したくないなぁ。……俺、あんまり本気で怒ったりしないほうだから、怒る事に対して防衛本能的なものが働いてるのかもしれない。
 とはいえ、いつまでも忌避している訳にもいかない。いくらチートとはいえ、みんなの体力にも限界はあるのだ。焦らず、だが早急に森羅さんをデカくする必要がある。

 では、今までで一番ムカついた野郎を思い出してみよう。――ダンチで騎士団長だ。あいつは絶許。何せシータを一度は殺したのだから。しかもうちのクラスの連中を囮にするという外道っぷり。その部下もロクでもなかったな。無防備な街を襲撃しようとしたくせに『誇り』を口にするロクデナシどもだった。フツフツと怒りが湧いて来る。……お、いい感じでは?
 んで、その総元締めがあの人でなしなアルスター王、と。目的のためなら自国の民ですら人質として利用する、その名に恥じない外道王。それが魔力がある限り再生し続けるバケモノに変貌した。倒せなければ全滅する。全滅とはみんな死んでしまうという事。もちろんシータや俺も。

 ――それは嫌だ。

 あんなヤツにみんなを殺されてたまるか! ……そうなるくらいなら――殺られるまえに殺る。



 気付いたら、俺の横をふよふよと漂っていた森羅がデカくなっていた。相変わらずよく判らない奴だ。

「――おい、リト。とりあえずデカくしたのは良いが……アレを殺るならフルパワーでぶっ放す必要があるのは間違いはないな?」
「……あ、ああ。そうだね」

 単に確認しただけだというのに、どもるリト。一体どうしたというんだか。

「――だ、そうだ森羅。俺の魔力ならどれだけ持っていっても良い。アレを一撃で仕留めろ」
「ガルゥ! ……ガルルゥ?」

 森羅からはやる気満々の返事。心強いことこの上ない。だが、それには多少の時間が掛かるようだ。

「構わん。皆には頑張ってもらうさ」

 どうせ、これが失敗したなら全滅なのだ。ならば、少しでも成功率の高い賭けに出た方がましである。納得したのか森羅がブレスを放つ態勢に入る。同時に何かが抜けて行く感覚。魔術回路のコアに取り込まれていた時には感じなかったモノだ。それだけに期待は十分。

「――ちょ、これは……」
「城まで跡形もなく吹き飛ぶのではありませんか、これ?」
「流石は邪神さ――リュージ様です!」

 …………ちょっと待て。今なにか居るはずのない人物が混じってはいなかったか? 見た目エルフの魔王的なのが。

「…………ルージオ、何故いる?」
「リュージ様の晴れ舞台と聞いて!」

 その返答は無駄にさわやかだった。


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