上 下
79 / 106
6章 隣国と和平会談する件

革命をおこすぜ!

しおりを挟む


 やや危なげな状況から始まった和平会談だが、それ以降は驚くほどスムーズに進んだ。杵築の力もあるだろうが、相手側であるジャックロットも魔国との戦争は回避したかったんだろう。

 これを機に魔国は鎖国を解き、ジャックロットと大手を振って貿易することになった。……何を輸出するかは知らない。つーか、なんか名物とか名産ってあったっけ?
 人の行き来も徐々――高レベルモンスターが普通に闊歩してるので、まずはレベル制限をつけるらしい――に解禁されるそうで、中々に賑やかなことになりそうである。勇者を名乗る馬鹿が大挙して押し寄せないことを祈るばかりだが。

 そして話はアルスター騎士団の件に至った。

「寸前で悲劇は回避されましたが、騎士団を素通りさせた貴国にも責任はあるかと思います」

 杵築が毅然と言い放った。

「だが彼らを通過させた時点では、現在の魔国の状況は判りかねた。ならば致し方ない事かと」

 ジャックロット側の交渉役も負けじと言い返す。彼らの言い分はあくまでも『騎士団は勇者たちの護衛役』という認識だったというもの。まさか人間の騎士団が、平和に暮らしている魔族の集落を背後から闇討ちするなんて考えてもみなかったんだろうなぁ。
 昔、好戦派の魔王だった時代には魔族が逆にそういうことをしていたこともあるらしいという記録が残っているんだと。まぁ、驚きはしない。ルージオが変わり者なのは分かってるし、一般的な魔王とか魔族のイメージはそっちのほうが強い。

「今回の勇者一行に護衛が必要だったとも思えませんが、その辺りはどうお考えで?」

 勇者召喚なのだが通常は一パーティー四人が召喚されるそうなのだが、今回はイレギュラーで四十人近く召喚されている。そのことごとくが上級職というチートっぷりである。しかも事前に十分実戦経験を積んでいた。

「それは……」

 口ごもる交渉役。

「何の考えもなく盲目的に彼らの魔国への入国を許可したものとみなしますが、それでよろしいか?」
「異議あり! 調停役は少々魔国に肩入れしすぎでは?」

 交渉役を押しのけて発言したのは宰相のじいさんだった。

「ふぇっ!? ふぇぇぇ!?」

 考えもしない方向からの圧力に杵築が正気を取り戻してしまった! あのじーさん、こんな世界で長生きしてるだけあって迫力とんでもないもんな。気持ちはわかるぞ、杵築。

「――提案があります」

 杵築が使い物にならなくなってしまったのを察した先生が助け舟を出した。よし、いいタイミングだ!

「何かな、賢者殿?」
「今回の勇者召喚から始まる一連の侵攻は、アルスター王の暴走に他ならないと私は考えております」
「だとすれば何を望むか」
「――革命を」
「旗頭も無しにかね? それともそこにいる勇者殿を王に据えるか?」

 ジャックロット側の役人たちの注目が早乙女に集まる。いやー、言っちゃ何だが早乙女は王様って柄じゃねーと思うなー。

 先生も否定する様にかぶりを振った。そして――

「旗頭に相応しい方ならすでに此方におります」

 戦線の視線の先には俺――ではなく、その隣に座るシータが。それが合図であったかの様に、シータが席を立ち毅然と言い放った。

「改めて初めまして。私シルルヴェータ・リツ・トゥ・アルスターと申します。故あってこの様な境遇に甘んじておりますが、正統な血筋ですことよ?」

 ――って、シルルヴェータ、リツ、トゥ、『アルスター』!? どゆことなのシータさぁぁぁん!?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...