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6章 隣国と和平会談する件
革命をおこすぜ!
しおりを挟むやや危なげな状況から始まった和平会談だが、それ以降は驚くほどスムーズに進んだ。杵築の力もあるだろうが、相手側であるジャックロットも魔国との戦争は回避したかったんだろう。
これを機に魔国は鎖国を解き、ジャックロットと大手を振って貿易することになった。……何を輸出するかは知らない。つーか、なんか名物とか名産ってあったっけ?
人の行き来も徐々――高レベルモンスターが普通に闊歩してるので、まずはレベル制限をつけるらしい――に解禁されるそうで、中々に賑やかなことになりそうである。勇者を名乗る馬鹿が大挙して押し寄せないことを祈るばかりだが。
そして話はアルスター騎士団の件に至った。
「寸前で悲劇は回避されましたが、騎士団を素通りさせた貴国にも責任はあるかと思います」
杵築が毅然と言い放った。
「だが彼らを通過させた時点では、現在の魔国の状況は判りかねた。ならば致し方ない事かと」
ジャックロット側の交渉役も負けじと言い返す。彼らの言い分はあくまでも『騎士団は勇者たちの護衛役』という認識だったというもの。まさか人間の騎士団が、平和に暮らしている魔族の集落を背後から闇討ちするなんて考えてもみなかったんだろうなぁ。
昔、好戦派の魔王だった時代には魔族が逆にそういうことをしていたこともあるらしいという記録が残っているんだと。まぁ、驚きはしない。ルージオが変わり者なのは分かってるし、一般的な魔王とか魔族のイメージはそっちのほうが強い。
「今回の勇者一行に護衛が必要だったとも思えませんが、その辺りはどうお考えで?」
勇者召喚なのだが通常は一パーティー四人が召喚されるそうなのだが、今回はイレギュラーで四十人近く召喚されている。そのことごとくが上級職というチートっぷりである。しかも事前に十分実戦経験を積んでいた。
「それは……」
口ごもる交渉役。
「何の考えもなく盲目的に彼らの魔国への入国を許可したものとみなしますが、それでよろしいか?」
「異議あり! 調停役は少々魔国に肩入れしすぎでは?」
交渉役を押しのけて発言したのは宰相のじいさんだった。
「ふぇっ!? ふぇぇぇ!?」
考えもしない方向からの圧力に杵築が正気を取り戻してしまった! あのじーさん、こんな世界で長生きしてるだけあって迫力とんでもないもんな。気持ちはわかるぞ、杵築。
「――提案があります」
杵築が使い物にならなくなってしまったのを察した先生が助け舟を出した。よし、いいタイミングだ!
「何かな、賢者殿?」
「今回の勇者召喚から始まる一連の侵攻は、アルスター王の暴走に他ならないと私は考えております」
「だとすれば何を望むか」
「――革命を」
「旗頭も無しにかね? それともそこにいる勇者殿を王に据えるか?」
ジャックロット側の役人たちの注目が早乙女に集まる。いやー、言っちゃ何だが早乙女は王様って柄じゃねーと思うなー。
先生も否定する様にかぶりを振った。そして――
「旗頭に相応しい方ならすでに此方におります」
戦線の視線の先には俺――ではなく、その隣に座るシータが。それが合図であったかの様に、シータが席を立ち毅然と言い放った。
「改めて初めまして。私シルルヴェータ・リツ・トゥ・アルスターと申します。故あってこの様な境遇に甘んじておりますが、正統な血筋ですことよ?」
――って、シルルヴェータ、リツ、トゥ、『アルスター』!? どゆことなのシータさぁぁぁん!?
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