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6章 隣国と和平会談する件
やっと和平会談です。
しおりを挟むジャックロットの砦は山脈と山脈の切れ目を塞ぐように建てられていた。守りやすいが、一度突破されたら立て直しが難しそうな地形だ。 石を積み上げた堅牢な要塞。屋上には常に見張りの兵士が立ち、始終魔国の動向を見張っている。
一番近場の街であるスミストルの呑気な現状を見れば、こんな厳重に見張らなくても良いのになぁと思えてしまうが、魔国は現在鎖国中。ジャックロットの人たちには知りようがないのである。
――はい。と言うわけで何故か和平会談一行の一員にされていた俺がいますよー。……この一員になって俺は一体なにをすれば良いんだ。打ち合わせとか何にもなかったんだが。
「踏ん反り返って座っていればいいのではなくて?」
セットで抜擢されたシータが不思議そうにそんなことを言った。
……やだ、それって大ボスポジション?
「そうは言うけどさ、神山の場合、実際大ボスじゃん?」
「早乙女の言うことももっともだが……何故、俺?」
「さすがに今ルージオさんが国を空けるわけにはいかなくて……」
甲斐先生が手を合わせてゴメンネしている。なんでも文官が足りなくてルージオの仕事が終わらないらしい。前回のチャレンジで一個師団で手を打とうとしたのも人材が足りなかったからだそうで……。今回の俺の抜てきは、ルージオの代行という意味が大きい。
おいおい、そんな状況で和平とか大丈夫なのか?
「和平自体は国全体の意志だし、実際問題として開戦は時間の問題だし……」
ついっと顔をそらす先生。
……あー、うん、わかります。人材がなくてもやらなきゃいけない時があるって事ですね。
「――ああ、でもでもっ。代理で交渉するのは問題無いわっ。そのために昨日まで準備して来たんですもの!」
「はいっ、わたしも頑張りますっ!」
むふんと自信満々にうなずく甲斐先生につられる様に、普段は気弱な杵築も大きな声を出した。二人は今回のミッションの要、頼もしいことだ。ならば俺はせいぜい邪神様らしくドッシリと構えておくことにしよう。
*
和平交渉の団員には魔族も数名混じっていたが、勇者・早乙女のお陰で砦はスルーできた。勇者の威光すげぇ。もしかしたら単に魔族の外見的特徴を知ってる奴がいなかっただけかもしれないが。
先生が交渉の意を伝えると、とんとん拍子に話は進み、あっという間にジャックロットの王城へとご招待された。賢者の影響力もやばい。
急遽設けられた会談の席。
一通りの自己紹介が済んだところで、ジャックロット側の老宰相が口を開いた。
「……ところで、賢者殿。先ほど魔族の神との紹介があった彼ですが、人族にしか見えないのは?」
「あーっと、それは……」
口ごもる先生。顔だけこっち向けて、声を出さずに何か言っている。読唇術とか無理なんすけど、俺。それでもやらなきゃいけない時があるとばかりに俺の脳みそは頑張った。その結果読み取れたのは――
『なんとか邪神らしく頑張って!』
――えええええ!? 初っ端からアドリブ要求とかハードル高すぎやしませんか先生ぇぇ!! そもそも邪神っぽいところってどうやって見せりゃいいんだよ!!
ここで森羅さんをデカくするのは果てしなくヤバイ気がするし……
「人族ではあるものの彼が魔族の神である事は、魔王自身が認めているところですわ。魔族の最高位たる神自身がこの席にいる、その意味がわからないほど耄碌してはいらっしゃいませんよね? 宰相殿」
俺が迷っている間にシータが助け舟を出してくれた。おおー、なんかいつも頼もしいシータがより頼もしく見える!
ふと周りを見渡してみると、先生が安堵のため息をついていたり、交渉団の魔族の皆さんが地味にこめかみに青筋立てつつ臨戦態勢をとっていたりしたので、彼女の助力はギリギリセーフだった様だ。あっぶねぇ!
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