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6章 隣国と和平会談する件

でっかくなれない龍はただのマスコット

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 ぴちゃん、ぴちゃんと水の落ちる音とカツンカツンという靴音だけが響く石造りの階段を降りていく俺たち。

 まるで人を拒絶するような静けさに、心なしか背筋が寒くなる。実際に気温も下がってる気がする。

「……なあ、俺たち何処に向かってんだ?」
「地下牢ですわ」

 地下牢? 地下牢で俺にしかできないこと?? 意味がわからない。

「現在、地下牢にはアルスター騎士団の生き残りが収監されております」

 案内役の兵士が俺に助け舟を出してくれた。……アルスター騎士団か。つっても今更何かする事あったっけ?

「リュージ、貴方には彼らを尋問してもらいます」
「…………俺がすんのか?」

 俺、一介の高校生兼旅人だぞ。尋問技術とか全く持って無いんだが?

「大きな森羅ちゃんを出して、こう問えば良いのですわ。『今回の黒幕は誰だ?』と」

 表情を消せればよりベターとのこと。って、なんだそりゃ。それに黒幕なんて、わざわざ聞かなくてもアルスター王とか貴族に決まってるじゃねーか。

「そこはそれ。形式としてでも、確たる証言がなければ後々禍根になりかねませんから」
「……面倒なこった」
「一国と事を構えようというのです。それなりに準備は必要でしてよ?」

 まぁ、国の膿を出す良い機会なんだろう。できれば一般人の皆さんに被害を出したくはないんだが、その辺り皆はどう考えているんだろうか?

「その辺りは城に直接乗り込む方向で合意してますわ。カイは革命を起こすのだと言っていましたが」
「いつの間に!?」

 つーか、革命って甲斐先生それ危険思想! 大人しそうな顔してやる事エグいな!!

「ってことは、先生が女王様になんの?」
「いえ、カイ自身は裏方が好きだと言ってましたから、それは無いでしょう」
「旗頭無しに革命とか意味無くね?」
「それに関しては……どうにかなるかもしれません」

 シータには何か心当たりがあるようだ。だが歯切れが悪い。

「――お二方。もうそろそろ到着しますので……」

 案内役の兵士さんの声に、俺たちは口をつぐんだ。これから拷問的な事をしなきゃならないのに、呑気に駄弁ってる場合じゃなかった。

 カツカツとまた靴音だけが響く静寂が続くこと数分。俺たちは目的地に到着した。

 鉄格子の向こう側には、ボロボロのままうなだれたアルスター騎士団の生き残りの皆さん。俺に気付いた奴が「ヒィッ」と引きつった声を出して、牢の端に慌てた様子で退避した。おうおう、怖がられてんなー。城にいた時は思いっきり見下されるか、居ないものとして扱われていたのが懐かしいぜ。

「……リュージ」

 シータに促されて俺は森羅さんに「出てこい」と念じる――と。

「キュルルンッ」

 出た。ただし小さい方。

 ダメじゃん、お前のそのデフォルメボディの何処に威圧感があるというんだ! デカイ方! いま俺が求めてるのはデカイ方のお前なんだよ! 小さい方じゃ怯えるものも怯えねぇぇ!!

「キュルキュルル!」

 おーっと、森羅さんからの抗議の声だぁ!

 ――え? 俺が悪いの? 俺の「かしこさ」低いからでっかくなれないって? つか今さらそんなこと言われてもー。じゃあ、昨日のアレは何だったんだ? 「かしこさ」足りないのに、でっかくなってたじゃねーか。

「キュルン!」

 『初回特典です』だぁ? 意味がわかんねーよ! ふざけた事ばっか言ってるなら蒲焼きにでもすんぞ!

「――キュ、キュルっ」

 冗談です? お前こんな時に冗談とかフザケンナ。フツフツと怒りがこみ上げて来た。

「リュージ? どうしましたの?」

 一向にデカくなる気配のない森羅さんに、シータが心配そうな声で問いかけて来た。まさか馬鹿正直に理由を話す訳にもいかない。……俺の「かしこさ」が足りないから森羅さんがデカくなれませーんなんてカミングアウトした日には俺のプライドがヘシ折れる。

 うぐぐ……どうしたものか。


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