72 / 106
6章 隣国と和平会談する件
でっかくなれない龍はただのマスコット
しおりを挟むぴちゃん、ぴちゃんと水の落ちる音とカツンカツンという靴音だけが響く石造りの階段を降りていく俺たち。
まるで人を拒絶するような静けさに、心なしか背筋が寒くなる。実際に気温も下がってる気がする。
「……なあ、俺たち何処に向かってんだ?」
「地下牢ですわ」
地下牢? 地下牢で俺にしかできないこと?? 意味がわからない。
「現在、地下牢にはアルスター騎士団の生き残りが収監されております」
案内役の兵士が俺に助け舟を出してくれた。……アルスター騎士団か。つっても今更何かする事あったっけ?
「リュージ、貴方には彼らを尋問してもらいます」
「…………俺がすんのか?」
俺、一介の高校生兼旅人だぞ。尋問技術とか全く持って無いんだが?
「大きな森羅ちゃんを出して、こう問えば良いのですわ。『今回の黒幕は誰だ?』と」
表情を消せればよりベターとのこと。って、なんだそりゃ。それに黒幕なんて、わざわざ聞かなくてもアルスター王とか貴族に決まってるじゃねーか。
「そこはそれ。形式としてでも、確たる証言がなければ後々禍根になりかねませんから」
「……面倒なこった」
「一国と事を構えようというのです。それなりに準備は必要でしてよ?」
まぁ、国の膿を出す良い機会なんだろう。できれば一般人の皆さんに被害を出したくはないんだが、その辺り皆はどう考えているんだろうか?
「その辺りは城に直接乗り込む方向で合意してますわ。カイは革命を起こすのだと言っていましたが」
「いつの間に!?」
つーか、革命って甲斐先生それ危険思想! 大人しそうな顔してやる事エグいな!!
「ってことは、先生が女王様になんの?」
「いえ、カイ自身は裏方が好きだと言ってましたから、それは無いでしょう」
「旗頭無しに革命とか意味無くね?」
「それに関しては……どうにかなるかもしれません」
シータには何か心当たりがあるようだ。だが歯切れが悪い。
「――お二方。もうそろそろ到着しますので……」
案内役の兵士さんの声に、俺たちは口をつぐんだ。これから拷問的な事をしなきゃならないのに、呑気に駄弁ってる場合じゃなかった。
カツカツとまた靴音だけが響く静寂が続くこと数分。俺たちは目的地に到着した。
鉄格子の向こう側には、ボロボロのままうなだれたアルスター騎士団の生き残りの皆さん。俺に気付いた奴が「ヒィッ」と引きつった声を出して、牢の端に慌てた様子で退避した。おうおう、怖がられてんなー。城にいた時は思いっきり見下されるか、居ないものとして扱われていたのが懐かしいぜ。
「……リュージ」
シータに促されて俺は森羅さんに「出てこい」と念じる――と。
「キュルルンッ」
出た。ただし小さい方。
ダメじゃん、お前のそのデフォルメボディの何処に威圧感があるというんだ! デカイ方! いま俺が求めてるのはデカイ方のお前なんだよ! 小さい方じゃ怯えるものも怯えねぇぇ!!
「キュルキュルル!」
おーっと、森羅さんからの抗議の声だぁ!
――え? 俺が悪いの? 俺の「かしこさ」低いからでっかくなれないって? つか今さらそんなこと言われてもー。じゃあ、昨日のアレは何だったんだ? 「かしこさ」足りないのに、でっかくなってたじゃねーか。
「キュルン!」
『初回特典です』だぁ? 意味がわかんねーよ! ふざけた事ばっか言ってるなら蒲焼きにでもすんぞ!
「――キュ、キュルっ」
冗談です? お前こんな時に冗談とかフザケンナ。フツフツと怒りがこみ上げて来た。
「リュージ? どうしましたの?」
一向にデカくなる気配のない森羅さんに、シータが心配そうな声で問いかけて来た。まさか馬鹿正直に理由を話す訳にもいかない。……俺の「かしこさ」が足りないから森羅さんがデカくなれませーんなんてカミングアウトした日には俺のプライドがヘシ折れる。
うぐぐ……どうしたものか。
0
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!
林檎茶
ファンタジー
俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?
俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。
成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。
そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。
ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。
明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。
俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。
そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。
魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。
そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。
リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。
その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。
挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。
妖精王オベロンの異世界生活
悠十
ファンタジー
ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。
それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。
お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。
彼女は、異世界の女神様だったのだ。
女神様は良太に提案する。
「私の管理する世界に転生しませんか?」
そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。
そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
史上最低最凶の錬金術師~暗黒カエル男のサバイバル&ハーレムもの~
櫃間 武士
ファンタジー
俺の名前はカエル男、16歳。
もちろんあだ名に決まってます!
俺は高校デビューに失敗してイジメに遭い、毎日引きこもってゲームをしていた。
それなのにたまたま登校した日に限って、学校にいた奴らと一緒に異世界に転移してしまったのだ。
俺は偶然、万物の創造と破壊のマニュアル本「エメラルド・タブレット」を手に入れ、史上最強の錬金術師となった。
こうなったら、本音建前使い分け、他の奴らは蹴落として、美少女集めて俺だけのハーレムを作ってやるぜ!ゲロ!ゲロ!
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
追放令嬢の叛逆譚〜魔王の力をこの手に〜
ノウミ
ファンタジー
かつて繁栄を誇る国の貴族令嬢、エレナは、母親の嫉妬により屋敷の奥深くに幽閉されていた。異母妹であるソフィアは、母親の寵愛を一身に受け、エレナを蔑む日々が続いていた。父親は戦争の最前線に送られ、家にはほとんど戻らなかったが、エレナを愛していたことをエレナは知らなかった。
ある日、エレナの父親が一時的に帰還し、国を挙げての宴が開かれる。各国の要人が集まる中、エレナは自国の王子リュシアンに見初められる。だが、これを快く思わないソフィアと母親は密かに計画を立て、エレナを陥れようとする。
リュシアンとの婚約が決まった矢先、ソフィアの策略によりエレナは冤罪をかぶせられ、婚約破棄と同時に罪人として国を追われることに。父親は娘の無実を信じ、エレナを助けるために逃亡を図るが、その道中で父親は追っ手に殺され、エレナは死の森へと逃げ込む。
この森はかつて魔王が討伐された場所とされていたが、実際には魔王は封印されていただけだった。魔王の力に触れたエレナは、その力を手に入れることとなる。かつての優しい令嬢は消え、復讐のために国を興す決意をする。
一方、エレナのかつての国は腐敗が進み、隣国への侵略を正当化し、勇者の名のもとに他国から資源を奪い続けていた。魔王の力を手にしたエレナは、その野望に終止符を打つべく、かつて自分を追い詰めた家族と国への復讐のため、新たな国を興し、反旗を翻す。
果たしてエレナは、魔王の力を持つ者として世界を覆すのか、それともかつての優しさを取り戻すことができるのか。
※下記サイトにても同時掲載中です
・小説家になろう
・カクヨム
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる