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5章 潜入!魔族の国……な件
断章・とあるダンマスの場合
しおりを挟むリュージと別れて、街の正面ではなく守りが比較的手薄になっている裏門で待機すること少々。見慣れた軍服の一団が見えた時は、「自分の直感を信じて良かった」と思えました。
おそらく勇者たちを囮にして、街を蹂躙するつもりだったのでしょう。彼らの使いそうな手です。母様がいらした時はまだ清廉潔白な方々も残っていらしたのに、いつからこんな誇りを持たない者たちの集団になってしまったのか……。
まあ考えていても埒があきません。私は彼らの行く手を阻むように立ち塞がりました。
ただし、一人で立ち向かうのは愚の骨頂。ダンジョンを展開しての総力戦です。いつものコボルトさんやスライムちゃんだけでなく、普段は出さない他の魔物さんたちにも陣形を取らせます。
陣形が完成した頃には、あちらもこちらに気が付き進軍を止めました。
「これより先に行くことは私が許しません!」
普段はあまり出さない大きな声で宣言。あの陽気な街の人々に危害を加えようとする輩など、一人も通す気はありません!
「これはこれはシルルヴェータ様。しばらくぶりにてございますなぁ!」
一団の中からふてぶてしくも一歩踏み出したのは、騎士団長のカーヴ。
「おだまりなさい。その名で呼んで良いのは母様だけです!」
リュージにも知らせていない名を、この男に呼ばれるのは不愉快を通り越していっそ憎しみすら湧きます。
「おや、それは失礼した。シータ殿」
飄々と言い直すカーヴですが、明らかにこちらを嘲っているのがわかります。なぜこんな男を団長にしたのか……人事部も腐敗の温床になっているということでしょうか。まぁ、既に国を出奔した私には関係のないことですけれど。
「たった一人で街を守るおつもりですか?」
「――まさか。貴方がたの実力は私が一番わかっています」
騎士団とは訓練とはいえダンジョンマスターとして幾度となくぶつかり合ってきたのです。彼ら自身に次いで彼らの実力を知るのは私でしょう。訓練では引き分け続きでしたが、それは殺さずという決まりがあったからこそ。そのルールが無くなれば負けるのは私の方。
故に私のすべき事は時間稼ぎ。時間さえ稼ぐことができれば、きっとリュージが増援を連れてきてくれます。
「メイジ部隊、撃ち方始め!」
私の命令で一斉に攻撃魔術を放つゴブリンメイジさんたち。色々な魔術がアルスター軍の先頭に立つ盾部隊へと炸裂して轟音をあげました。ただし所詮は下級モンスターの下級魔術、牽制にしかなりません。それでもリュージたちに気づいてもらえるよう、私たちはなるべく派手に動く必要があります。
「歩兵部隊、前へ!」
スライムさん達主力の歩兵部隊が前進を始めました。いつも呼び出しているコボルトさんは私の護衛で残って貰います。ダンジョンマスターという性質上、私が倒されてしまうと魔物さんたちの制御がきかなくなってしまうので、戦線の維持ができなくなってしまうのです。
時間をかけつつ、倒されないように……でも、あわよくば敵の戦力を減らす。とても難しいミッションです。でもやらなくては街に被害が出てしまう。そうなれば魔王ルージオは迷うことなく戦端を開くでしょう。彼の平和主義は、魔族の平和が前提ですもの。人族は二の次。
「――考え事をしている暇などありませんぞ、シータ殿」
騎士団長が単騎で突入して来ました。集団戦だと壁になってくれる魔物達も、間をすり抜ける彼には対応できなかったようです。騎士団長は半端に実力があるから始末に負えません。
「コボルトさん、お願いっ!」
手持ちの中では唯一、騎士団長に対抗できるコボルトさん達に相手を頼みます。
どれだけ持ちこたえることができるでしょうか……。
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