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5章 潜入!魔族の国……な件

魔王はぽんこつ

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「世界平和とは言いますけれど、具体的な案はありますの?」

 それまで黙って話を聞いていたシータが口を開いた。それに対するルージオの答えは、というと――

「まずは隣国に使者を出そうと試みたのですが……進軍と勘違いされまして」

 迎撃されてしまったと。……ダメじゃん! 最初の一歩から躓いてるじゃねーか!! ……ん、進軍と勘違い?

「……まさかとは思うが使者を魔族だけで編成したりとか?」
「一個師団を向かわせたのですが、何処が悪かったのでしょうか?」
「全てが悪いだろ! 俺でも判るぞ!?」

 魔族オンリーの一個師団が近づいてきたら、そりゃ攻めて来たと思って迎撃するわ! 一個師団の人数知ってるか? 最低でも六千人だぞ?

「人数をもっと減らして、せめて交渉役に人族を混ぜろよ!」
「交渉役に人族を混ぜる、ですか。……盲点でした!」

 お前の目は節穴だよ。……生真面目すぎて他の考えが頭に浮かばなかったんだな。こんなのがトップで魔国は大丈夫なのか? いや、無闇に世界征服とかしないだけマシだが。誤解で世界戦争の引き金引くのはあり得るな、これ。

 ですが、とルージオの顔が曇った。

「……我が国にいる人族は大抵、世捨て人であったり、何らかの理由で人族の国に居られなくなった者ばかりでして」

 中には俺たちみたいに密入国する冒険者もいるらしいが、やはり少数派なのだとか。……あー、それなら選択肢に登らないか。そんな特殊な事情がある人間が、人族にすすんで関わり合おうとするとも思えない。……すまん節穴とか思って。

「けれど、その中にも和平を望む方は居るのではなくて?」
「……そう、かもしれません」

 なんか乗り気じゃないみたいだな。問題でもあるのか?

「募集をかけたとして我らのために立ってくれるか……そこがわからないのです」
「とりあえずやってみろよ。もし誰も居なかったら、俺たちが引き受けてやっから」

 そう俺が言った途端にパァっと明るい表情になるルージオ。俺たちが和平の使者になるのがそんなに嬉しいんだろうか。……まあ、崇めてる神様が自分の考えを肯定してくれれば嬉しいモンなんだろう。

「ちなみに俺は交渉とかやった事ないんで、あんまり期待しないでくれよ?」

 一学生でしかない俺に国同士の仲裁が出来るか……普通に考えて無理な気はするが、要望を伝えるくらいならできるだろ。こんな時、上級職・調停者の杵築がいればなー。

「私も交渉ごとはあまり得意ではありませんので……」

 シータの場合は対人関係積み始めたのがつい最近だからな。期待する方が間違ってる気がする。

「ところでそちらの女性、我らが神とはどの様なご関係で?」

 ――って、今更かよ!?

「そういうのって普通もっと早く聞くよな!?」

 例えば最初に顔を合わせた時とか、この部屋に移動して来た時とか、チャンスは何度もあったはずだろ!

「場に馴染んでおられたので……ついタイミングを逸してしまいまして」

 あー、うん、だな。普通に溶け込んでたな、違和感なく。

「あー、そういえば俺のことはリュージって呼び捨てでいいから」
「え!? そんな恐れ多い!」

 プチパニックになるルージオ。これくらいでパニック起こされても困るんだが。目標は普通にダチのごとく会話することだぞ?

 それにしても、俺とシータの関係か。旅の道づれっちゃそうなんだが、もうちょっと進展したいとこではある。あの時――初めて会ったときに断ってしまったシータの告白はまだ有効なんだろうか? 最近は俺の扱いも割とぞんざいだし、自分から告白するのも……なあ、今更感っつーか?

「旅のパートナーといったところですわよ。いづれはお付き合いなどもしたいですけれど!」

 お、おう。先を越されちまった……。これ、男としてどーなんだ? 俺は何を言えばいいんだ!?

 お付き合い宣言を聞いたルージオが更にパニックに陥ったが、俺は知らん。それどころじゃねぇ!


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