26 / 106
2章 冒険者ギルドに入ってみる件
俺の彼女(予定)がカッコよすぎる
しおりを挟むあらかたゴブリンを片付けた所にシータがやってきた。なんかコボルト君ちゃんさん達が血塗れで怖いが、彼女自身は無傷で綺麗なものである。
「首尾はどうでして?」
「上々ではあるんだが……後味悪ぃな、これ」
俺の視線の先にはゴブリンのしかばねが山と積まれていた。ダンジョンではないので後処理をしなくてはならないのだが、どっと押し寄せた疲労で動く気がしない。
「シータ。悪いけど後、頼めるか?」
「……初めての実戦でしたものね。最初くらいはサービスして差し上げます」
彼女は胸元から宝石の嵌ったペンダントを取り出した。彼女のダンジョンコアだ。だがここでそれを取り出した意味がわからない。
俺の戸惑いをよそに、彼女がコアをかざすと――ゴブリンのしかばねの山が光の粒になってコアに吸い込まれていった。
「彼等は私のダンジョンの糧となりました。罪悪感を感じる必要はありません。これで貴方の行為は単なる殺りくではなくなりましたわ」
と、俺に告げた。
…………やだ、俺に惚れてる女の子が超絶格好良すぎる件! これは惚れざるを得ないのでは!?
*
「初めての討伐依頼を二人だけで完遂するとは……ほんとあんた達、将来有望だねえ」
おばちゃんから花マル評価いただきましたァァ! やっと正式に冒険者を名乗れる気がしてきた!! もうすぐ借金も返済し終えるし、この街との別れも近い。なんかさびしくなってきたな……。
「借金の事が無くなってもこの街に残って欲しいモンなんだが……」
「おばさまの気持ちは嬉しいのですが……私たちにも目的がありますの」
たそがれていた俺の代わりにシータが、おばちゃんに言いたいことを言ってくれた。
そうそう。このままこの国に留まって生存がバレてしまうと、送還魔術を探すための旅が困難になってしまうんだよな。……送還魔術がこの国にしか存在しないというオチもありえるんだが、まずは命を守るのが先決だ。今はまだ自衛するにも戦闘能力が心許ない。
「そうかい。まあ、あんたたちなら大丈夫だとは思うけど……油断はしないようにね」
「はい!」
「了解っす」
「――とまあ、湿っぽくなっちまったが、残りの期間もよろしく頼むよ」
そう言っておばちゃんは酒場の仕事に戻っていった。
この街、本当にいい人が多いんだよなー。唯一の欠点が、あの王族とか貴族どもが治めてる国っていう……。治世だけはマトモってことなのか、それとも上下に挟まれてメッチャ苦労してる中間管理職の人がいるんだろうか?
……ああ、もしかすると王都から離れるごとにマトモになってくパターンなのかもしれん。この街、王都よりも国境のが近いしな。
*
そんなこんなで採取やら討伐やら草刈りなんかをこなしていたら、とうとうその日がやって来た。
「はいよ。二人合わせて銀貨十枚、確かに受け取ったよ。――これであんた達は晴れて自由の身、正式な冒険者さね」
「……いよいよか」
「……ですわね」
「その様子じゃあ、すぐに出発するつもりかい?」
なんだかんだ言って居心地が良かったからなーこの街。俺がこの世界の住人だったら永住していたかもしれない。名残惜しいが、時間も惜しい。
俺たちの顔を見ておばちゃんも察してくれた。
「そうさね……役に立つかは判らないが、これを持っていくといいよ」
そうして差し出されたのは一通の封筒だった。
「困った事が起きた時に近くの冒険者ギルドにこれを見せれば、何とかなるかもしれないよ」
紹介状、みたいなモンかねぇ? ……おばちゃん実はスゲー人だったんか? まあせっかくの好意、ありがたく頂いておこう。
「ありがとう、おばちゃん。最初に辿り着いたのがこの街で良かったよ」
「ええ、本当に。おばさまには大変良くして頂いて、返せるものが無いのが口惜しいですわ」
「――全く。嬉しい事言ってくれるねえ、この子達は!」
そしてギュッと俺とシータをまとめて抱きしめるおばちゃん。く、苦しい。
「あんた達の目的を果たしたなら、また遊びにでもおいで。この街はいつでもあんた達を歓迎しているよ」
そんな言葉を背に俺たちはオルレットから旅立った。目指すは隣国――ユニオールだ!
20
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる