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1章 異世界に召喚されたら職業が旅人だった件

はじめての訓練

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 ――異世界生活二日目。

 異世界召喚という普通なら体験出来ない事を体験したからか、寝つきは最悪だったが、まあ動けない程じゃない。

 今日からさっそく訓練が始まるらしい。

 知らせすら来ないかと思っていたのだが、意外や意外。普通にヴァルさん伝いで連絡が来た。面子が面子だけに霞んでしまったのだが、普通なら『旅人』は十分優良職の範ちゅうなのだとか。勇者とか聖騎士とか賢者とか聖女が規格外過ぎるだけなんですよね、わかります。百人に一人の優秀者より、世界に一人の人間の方が貴重だってのは俺にだってわかる。

 ちなみに次いで適性が多かった上級職は国に四、五人くらいが普通だそうだ。……この国、一度にこんなに大量の人材抱き込んで大丈夫か? 今回、上級職に認定されたの二十人近く居るんだが……他国から危険視されたりしないのか? もしかして他国って魔王に滅ぼされてるとか? だから文句言うヤツがいない状況で好き勝手してるとか?

 いやいや。この国が人類最後の希望だったら、こんなにのんびりしてねーな。それにそんな現実は嫌すぎる。

 そういえば朝食もわりと豪勢だった。朝からこんなに食えねーです。いくら客扱いだからってこんなに食材無駄にしても良いのか? とか思ったのだが、余った分は下働きの人たちの朝食になるんだそうな。……なら、残しても平気か。





「今日から武術訓練を担当する騎士団長のカーヴだ。よろしく頼む」

 短く挨拶した男はなるほど、筋骨隆々で立派な鎧を着た強そうな騎士だった。そのいかにもな鋭い目が俺たちを一瞥する。……正直、嫌な目だった。俺たちを品定めしているといった感を隠しもしない。

「今日は取り敢えず武器の選定と基礎訓練を行う。それにあたり練習用だが武器を用意した」

 各自先ずは好きなものを手に取るようにとの言葉に、皆は興味津々に武器置き場へと近づいていった。武器なんてそうそうお目にかからないもんな。かく言う俺もワクワクしている。
 片手剣、両手剣、槍、斧、弓、杖となかなかにバリエーションが豊かである。まあ、後衛職とか生産職のやつもいるからな。オーソドックスなのはやっぱり片手剣だろうと、俺は練習用の片手剣を持ってみたのだが——

 ——重っ! こんなん持って動き回るとか無茶だろ!? というのが正直な感想であったのだがしかし。

「意外と軽いな」

 石田、お前は化け物か……!

 俺の目の前には、自分の背ほどもある幅広の両手剣を軽々と持ち上げ、あまつさえ自由自在に振り下ろす石田の姿があった。職業・聖騎士の恩恵すげーよ……。石田以外にも戦闘職の奴らは、自分の職業に縁のある武器を軽々と振り回している。

 ただ、誰もが好きな武器を扱えるという訳もなく。選んだ武器が上手く扱えないやつは、他の武器へ手を伸ばしたりしていた。そうして何だかんだ言いつつ各々の扱いやすい武器を見つけていく。

 そんな中で困ったのが俺である。剣は重くて持てない。槍、斧も同様。弓は矢がつがえられないし飛ばない。ボウガンみたいな物もあったのだが、重さでアウト。どんだけ非力なんだ、俺。杖は基本的に術式の増幅効果を狙うための物らしく、旅人の俺が持っても意味が無いときた。

 持てる武器が無い。

 生産職の女子が持てる武器ですら重くて持てない、というのは地味にショックである。いくらなんでもこれはおかしくないか? 騎士団長曰く、ここにあるのは練習用とはいえ一般的な武器だという。世の旅人の皆さんが武器を扱えないなんて考えにくい。これは……職業補正が仕事してない!

 仕事しろよ俺の旅人補正!!

 だが祈っても念じても何も変わらない。補正というのは呼吸と同じくらい自然に発揮されるものらしい。自力で発動させるようなものじゃないのだ。心臓を意識して止めろといわれても止められないのと似ている。探したらできる人間がいるかもしれないが、生憎と俺は知らないし、探す余裕もない。

 騎士団長は早々に俺を見限り、戦闘職のやつらに稽古をつけはじめた。非戦闘職のやつらにも団員が付き添いはじめて、俺は一人になってしまった。みかねたヴァルさんが俺に付き添ってくれて、いろいろ相談にのってくれた。俺が女だったら惚れていた所だ。ヴァルさんまじかっけー! 初めて会ったときハズレとか思ってすまん!


 ちなみに俺の武器は最終的に小ぶりのナイフで落ち着いた。……持てるのがこれしか無かったんだよ! 悪いか!?


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