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1章 異世界に召喚されたら職業が旅人だった件
ストレンジャー=旅人?
しおりを挟む「すとれんじゃー?」
「『異邦人』。平たく言えば放浪者。……まぁ『旅人』のようなものでしょうかね」
俺の疑問に神官は落胆を隠す事なく職業を告げた。まあそりゃそうだろう。賢者、聖騎士、聖女、勇者が揃い踏みで期待値がマックス最高潮なタイミングでフツーの職業が出ればなぁ……。
この職業システムにそこまで馴染みの無い俺でもガッカリしたんだから、どっぷり漬かった異世界の奴らの落胆はもっと酷いことだろう。気分はオールスターに紛れ込んだ素人みたいなもんだ。場違いすぎて逆に申し訳なくなってくる。……全くもって俺のせいじゃないが。
いやー、でもこんだけ当たりが続いたら一人くらいはハズレがいてもおかしくはないよな?だって三十人も居るんだぞ? 俺がたまたまハズレを引いたという話なだけで。というかもっとハズレが多くても不思議じゃないのに、そうならなかったウチのクラス連中がヤバいだけだろ?
そう考えると、俺が罪悪感を感じるのは何か違うような気がしてきた。むしろ俺が単に普通の人だったってだけだ。世の中の過半数は普通の人なんだぜ。普通の人が居ないと天才は輝けないんだぜ!
俺が自分に言い聞かせていると、勇者パーティーにされてしまった一団が慰めにも似た言葉をかけてくれた。
「旅人か……自由そうで良いな! 聖騎士とか堅っ苦しそうで息が詰まるわー」
「私なんて聖女っていうほど清廉潔白じゃないんだけど……神山ー、ちょっと変わってくれない?」
「賢者だなんてプレッシャーなんですけどぉぉ……神山君が羨ましいわぁ」
「勇者パーティーに旅人か。水先案内人って感じするよなー」
と思ったが、慰めじゃねーなこれ。勇者パーティーに本気で羨ましがられる旅人の図。
異世界の人々と違って、クラスメートや担任の甲斐先生には好感触だ『旅人』。あと、新名。俺は男だからどう足掻いても聖女にはなれん。諦めろ。……女装しろ? いやいや無理だろ。お前の特殊能力とかどう再現しろってんだよ。俺はしがない旅人だぞ! 甲斐先生もいきなり折れてないで賢者を頑張れよ!!
他の職業のやつらもなんか羨ましそうな目でこちらを見ている気がする。お前らそんなに旅人が羨ましいのかよ? ……まぁ、異世界陣営がきな臭いのを考えると、縛られてないって感じの開放感がなんとも言えず気分が良いが。
ちなみに俺の名前は神山龍司。つい先日まで普通の高校二年生だった。クラスごとこの異世界に召喚されるまでは。
*
異世界に召喚されたのは担任である甲斐先生の授業中のことだった。床が光ったかと思ったら、次の瞬間には石造りの暗い部屋にいたのだ。その後の扱いは割とぞんざいだった。高飛車な感じの姫と、やたら偉そうで装飾過多な王が「異界より来りし戦士達よ、魔王を倒せ! さすれば元の世界に返してやろう」なんてのたまったかと思ったら、すぐに部屋から追い立てられて別室で『職業診断』なるものを受けさせられた。
その結果が冒頭のやりとりだ。王道勇者パーティ以外にも、ゲームだったら上級職間違いなしな職業名が連打された挙句の『旅人』が俺である。
今まで満足そうにうなづいていた王や姫、側近たちの表情があからさまに不満気なものになったのが判った。異世界から強制的に拉致っといてそりゃねーだろーよ。とは思ったが、流石にここで口に出すほど命知らずじゃない。
「——では部屋に案内するとしよう」
俺が最後だったので微妙な空気になりながらも、大臣らしき男が場をとりなした。みな職業名で呼ばれメイドに案内されて部屋を出て行くのだが、この時点で職業至上主義なのがわかる。個人を尊重する気が全くなし。そして俺が呼ばれる気配が一向に無い。嫌な予感がする。これってアレだろ? カースト底辺ってやつ。
結局、俺が呼ばれたのは最後だった。
「『旅人』……殿、オレが案内させてもらうっす」
案内人は普通の下働きっぽいやつでメイドさんですらねぇ……! 他の皆には標準で付いていた敬称も取って付けたような感じ。明らかに応対に慣れてない。……まあ、そっちのが気楽で良いと言えばいいんだが、あからさますぎて「ちょっとはオブラートに包むとかしろよ!」とツッコミを入れたい衝動に駆られる。だが我慢我慢。今までの状況から察するに、放置プレイの方が何かとラクそうだ。目をつけられたら何をされるかわかったものじゃない。
ちなみに部屋までめっちゃ歩いた。遠すぎだろ、俺の部屋! ……どう考えてもほかのやつらから隔離されている。
そうして俺の異世界召喚生活は始まった。……いきなりお先真っ暗だが。
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