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第二章 ロストロ編
第十四話 突入
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遠くに見えていたはずの高く連なる煉瓦造りの壁は、気づくともうすぐ近くに迫っていた。
「ロストロの貧弱な壁じゃ!必ずどこか崩れておる!」
馬に揺られながらマルガルが話す。
シャルらは塀に沿い馬を走らせる。周囲には憲兵すらもおらず、ただ馬の足音が夜の空に吸い込まれるだけである。
(憲兵すらも居ない…今ロストロはどんな状況に…)
その時だった。
「おい!今通った所の壁崩れてなかったか?」
最初に抜け道を発見したのはディバイドだ。
「本当か!すぐ向かうぞ」
ディバイドが見つけた方向に向かうと、マルガルの言う通り、塀には崩れている箇所があった。
それは即ち、この周囲でも戦闘が行われていたことを意味する。
「ここから侵入するぞ!ロストロにいたウィンスター軍、国営ギルド、民営ギルド隊は現在包囲状態にある!つまり、ロストロの真ん中に追いやられているのじゃ!壁の向こうは奴らの支配下、縄張りじゃ!十分に気をつけて行け!」
シャルらはマルガルを先頭に崩れた壁を飛び越えロストロへ突入した。
壁を超えると街並みが…と思ったがそこに広がっていたのは街並みではなかった。
「堀があるぞ!10mはあるな。どうする?」
目の前に広がっていたのは、堀だ。水が張っており、馬でも飛び越える事は厳しそうだ。
石橋があったようだが、破壊され、粉々に砕け散っている。
「ロストロの内部は堀で囲まれておる。軍事都市であるロストロは武器庫などを守る為、このような構造物か多いのじゃ」
そう顔をしかめながらマルガルが喋ったその時だった。
「「「武器庫を守る?残念だったわね。わざわざ堀を用意しているみたいだけど……、それは私にとっては手助けでしかないわ…ふふふ…」」」
音が反響して聞こえる。女性の声、か細く、幻想的な声だ。
「「「ついにきたのかしら……ウィンスターの援軍達……水は私、私は水、私はこの堀…この堀は私…」」」
声がどこから聞こえているのか分からない。シャルは左右を見渡したが何も見つける事はできなかった。
「堀の中…いや、堀そのものから魔力の気配を感じる……"一体魔法"の使い手か……」
マルガルはそう言葉を発すると形相を変え、堀に矢を向けた。
「一体魔法?」
シードが尋ねる。
「そうじゃ!!物質そのものと一体化する魔法じゃ!一体化された物質には魔力が宿り、凶器同然となる!相手は水じゃ、幸い相性が良いの!雷矢流…」
刹那、堀の水が動き出し、先端が尖った触手なような形を形成すると、マルガルの弓を貫き、破壊した。
「なっ……!」
「マルガル!大丈夫か!」
「まずい…弓がなければ私は丸腰じゃ!」
水の触手はマルガルの弓そのものを狙った。即ち、手加減したのだ。あれだけ細い棒を撃ち抜くことが出来るならば、俺達の体を貫くなど容易いことだろう。
「君達…!そいつは電撃に弱いはずじゃ!誰か、電撃魔法を使えるやつはおらぬか!?」
「僕が使えます!魔法じゃないけれど…」
名乗り出たのはシードだ。
「僕の牽制銃が使えます」
「ならばそれを使え!」
水面が再び揺れる。水がスライムのように動き人の形を作り出す。
「「「当てられるなら当ててみなさい…この堀は通さないわ…」」」
体が水で作られているその女は口角を釣り上げ不気味に笑う。水でできた髪が目を覆っているため目を見ることはできない。
「「「帰りなさい……水猿尾!!」」」
女は水で大きさは5mは超えている大きな鎌のようなものを作り出すと、横一文字にそれを振るってきた。
「うぉっ!!」
「うわっ!!」
間一髪、シャルとディバイドは屈んで咄嗟に避けた。シードには当たらなかった。
近くに生えていた木に幹に斬撃が直撃し木が倒れる。断面は驚く程綺麗に切れている。恐ろしい切れ味だ。
その時、シードが女に向かい堂々とゆっくりと歩き始めた。地面を踏み締め、落ち着いて歩く様子には微塵も動揺はない。
「シード…何をする気だ…」
「…………」
ディバイドが怪訝に思い尋ねるもシードは無視をする。
シードは女の前に立った。目は女の一点を見つめ固定されている。
「「「ほう……少年を囮に?貴方たちもいがいと汚い所があるのでs…」」
刹那だった。
「牽制銃!」
ピストルを出してから撃つまでの所要時間は0.1秒もあっただろうか。
余りの速さに俺は理解が追いつかなかった。
気づいた時にはシードの銃口からは煙が出ており、女に直撃した弾丸から眩い光が出ていた。
「「「き、貴様…!」」」
堀の水が波打ち、嵐の大海原のように乱れる。
水の体の女はふっと消え、元の堀に戻った。
「シード…」
想像以上のシードの強さに俺は度肝を抜かれ、言葉を紡ぐ事ができなかった。
「…パティが危ない。早く行こう」
シードは悠然とした様子で話した。
*****************
(遂に見つけた。ここかしら。)
私が見つけた場所、それは第一軍用乗用橋だ。
ロストロの周りを囲う堀だが、そこには5本の橋がかかっている。
その内、2本が軍用橋、ロストロ軍が在中し、兵士や兵器を移動させる橋だ。
残り3つが常用橋、民間人が使う橋だ。
このロストロの全ての橋には砦が設置されており、関所として利用されている。
軍用橋は武器庫に近い位置にあるため、普段は更に警備が厳重になっている……はずだが様子がおかしいのは一目瞭然だ。
砦の上には見た事のない旗が立っていた。
黒の背景に黄色の縦線と横線がそれぞれ3本づつ入っているその旗は、夜の風になびき音を立てている。
(まさか…もうルードルートに占領されたのかしら…)
橋の入り口には男性の兵士が一人、警備をしている。夜である事もあってか、かなりの疲労が見受けられる。
フローレンスとの距離は50mと言った所だろうか。夜でなければ容易にバレる距離だ。
(あれはウィンスターの軍服じゃないわね…)
兵士がおもむろにフローレンスの方向を見る。
一瞬目が合ったが素早くフローレンスは草陰に隠れた。
(わっ…危ないわね…やっぱり可愛いと目立つわね…)
草陰で身を潜める。しかし、足音が確実に近づいている。
ーズサッ
(来てる⁉︎)
ーズサッ…ズサッ…
(なんとかしないと…!)
心臓の鼓動が速くなる。
ーズサッ、ズサッ、ズサッ!
もうすぐまで来ている。距離はもう3mもない。
ーガサッ!!
草を掻き分ける
バレた!仕方ない、今だ!
フローレンスは近くにあった木の棒を掴み兵士に殴りかかる。
「うおっ!」
ードゴッ
かぶりは見事に脳天に直撃。
男はフラフラとした後、倒れその場に仰向けに倒れた。
息はしている。命に別状はなさそうだ。
「こっっわいわね…」
その時、彼女は閃いた。
「…そうだわ、服、借りるわね…」
フローレンスは気絶した兵士の軍服を脱がすと自身の服と交換し始めた。
袖がかなり余る。ズボンもかなり長く気をつけて歩かないとこけそうだ。
(男物だから流石に胸が……入るわね。くそ。)
「…ん、うーん、、」
軍服を着るのに手こずっていると"不幸にも"兵士が目を覚ましてしまった
--ドゴッ
「見るんじゃないわ!変態!」
再び彼の脳天に拳が入る。
彼はまた気絶した。
*****************
「ここから堀を渡れそうだな」
遂に見つけた。第二軍用橋だ。
マルガルの話によればロストロの堀にかけられた5つの橋のうち、警備が厳重なもののそうだ。警備の甘い常用橋までは20kmもあるらしく、早くフローレンスを追うにはここを通るのが善だとの事だ。
だが……
「護衛兵がいない。既にやつらにやられたのか?」
ディバイドは草陰に隠れ、砦を見ながら呟く。
「いや、そうであるならば既に占拠されているはずじゃ。何故あんなに警備が甘いんじゃ?」
答えは意外なものだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〈第二軍用橋の砦にて〉
「部隊長!現在砦内部がパニック状態にあります!」
憔悴した様子で扉を開け、部隊長に報告に来たのはその部下である。
「何が起こった?」
クラック隊は五個の普通部隊と三個の特別部隊で構成されており、ここの砦を占拠しているのは第四通常部隊である。
「それが……突然、食事中に砦の内部にウルフが現れたというのです!恥ずかしながら、咄嗟に対応できる者はおらず、皆一目散に逃げ出したと…現在、ウルフは行方がわからず…」
部隊長は激昂し手を置いていた机を叩く。
「あぁ!もういい!私が直々にそいつを潰す!貧弱な貴様らはウルフを探し出すなりなんなりしていろ!」
「はっ…!」
ー ー ー ー ー
「どこにいるんだ?」
「わかんねぇ、どっかに隠れてないか?椅子の下とか」
総勢50名で砦内部を捜索する。
「おい!…名前なんだっけ……橋の見張りのやつ!ちょっと探すの手伝え!」
「え、大丈夫なんすか、それ」
「いーから、いーから。ほんの30分でいいから手伝え」
見張り兵は少し戸惑うもウルフ探しを手伝い始めた。
運悪くもシャル達が砦を訪れたのはこのタイミングだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「橋、ガラ空きだな」
あまりにも簡単に橋を渡れている事に逆にビビっているディバイドが怪訝に話す。
「不思議じゃな…」
「不思議ですね…」
偶然、マルガルとシードが同じタイミングで同じ事を口にした。
俺も少し怖くなり、杖を構え慎重に歩みを進める。
橋を最後まで渡り終えると俺らは互いに目を見合わせたが事実は事実だ。
「…あっけないな」
目を細め、呆気に取られたディバイドがそう言う。
「そうだな…」
シャルもそう返すしかなかった。
「まぁ今回は運が良かったって事で…」
しかし、シードがそう言ったその時だった、!!
ーードガン!!!!!
後方からとんでもない爆発音。すぐさまシャルらは後ろを振り返る。
「侵入者がいるぞ!砲撃を続けろ!」
まずい、見つかった。対するは向こう、大砲が五台ほどあるだろうか。砲身はすべてこちらを向いており発射準備をしている。およそ距離は100m。この距離ならモロに砲弾を喰らっていてもおかしくはない。さっきは危なかった。
「一斉砲撃だ!撃て!!」
指揮官の号令により大砲が一斉に放たれる。
「シャルとシードは迎え撃ってくれ!その隙に俺は切り込みに行く!」
そう切り出したのはディバイドだ。
「了解!」
「分かった!」
シャルは魔法を放ち、シードはピストルを砲弾に向かって撃つ。
「簡易魔法・火球!」
「牽制銃!」
火球と牽制銃は無事に砲弾にヒット。
砲弾は空中で爆発し、四散したが…
ドガン!
全ての砲弾を撃ち落とす事ができず、幾つかが地上で爆発。
被弾こそ避けたが、爆風で吹き飛びそうになる。
「撃ち落としきれない!」
凄い砲撃だ。俺もシードも対応しきれていない。
仕方ない、アレを使うしか、、あまり使った事がないから不安だが…!
「続けろ!一斉砲撃だ!!」
再び砲弾が放たれる。
撃ち落とせないなら防げば良い!
「火盾!」
シャルが魔法を唱えると空中に大きな炎の壁を作り出した。
炎に当たった砲弾は即座に爆発し、空中で粉々に砕け散る。
「なんとかなったな…」
「そうだn…って危ない!」
砲弾の破片がシャルに当たりそうになるも、シードが撃ち抜き防御する。
「助かった!俺らもディバイドを支援しに行くぞ!」
「うん!」
「お前ら、一斉砲g…っておい!なんか来たぞ!」
ディバイドが砲撃部隊に切り込む。
部隊の中で剣を所持していた男がディバイドの斬撃を防ぐ。
「調子乗るんじゃねえ若造…!」
「若いのは力だろ?見てろよ…」
ディバイドは挑発を軽く受け流すと、男の剣を弾き技を繰り出した。
「道裂斬!」
ディバイドは高く振り上げた剣を勢いよく下に振り下ろし、その遠心力で巧みに回転する。
「おわっ!!」
男を切り倒したが、回転速度はさらに加速し、猛スピードで砲撃部隊に切り掛かる。
「まずい避けろ!」
ディバイドの斬撃は全ての大砲の砲身すらも破壊し、ディバイド本人が剣を地面に突き刺す事で遂に止まった。
「これ酔うしあんまりやりたくないんだけどな…」
「ひとまず撤退だ!お前ら!」
大砲を破壊された砲撃隊は急いで砦に撤退していく。
戦いの終了にひとまず俺らは安堵した。
「ナイス、ディバイド!」
シャルはディバイドにハイタッチしたが、あまりディバイドは乗り気ではない。
「おぇ…気持ち悪い。酔った。」
「ははは!でもありがとうな!」
俺らが勝利に喜ぶ中、心苦しそうな人が一人いた。
マルガルだ。
「すまない…弓を破壊された私は攻撃手段がないただの老人だ。力になれず申し訳ない」
「仕方ねぇって…でも武器がないのはまずいな。どうする?」
剣を使うディバイドだからだろうか。マルガルを気にかけている様子である。
「……この先にはロストロの武器庫があるはずじゃ。占領されてないといいが、この様子だとそれはないじゃろう。そこで弓を調達できれば私も再び力を添えられる」
「分かった。武器のないパティも武器庫に行ってる可能性もあるしな。今からそこを目指そう」
ディバイドの意見に俺も同感だ。パティも見つかると良いのだが。
それにしても敵が強い。強すぎる。
パティ…大丈夫なのか?
夜は更け、月が南の空から東の空に向かって傾き始めていた。
「ロストロの貧弱な壁じゃ!必ずどこか崩れておる!」
馬に揺られながらマルガルが話す。
シャルらは塀に沿い馬を走らせる。周囲には憲兵すらもおらず、ただ馬の足音が夜の空に吸い込まれるだけである。
(憲兵すらも居ない…今ロストロはどんな状況に…)
その時だった。
「おい!今通った所の壁崩れてなかったか?」
最初に抜け道を発見したのはディバイドだ。
「本当か!すぐ向かうぞ」
ディバイドが見つけた方向に向かうと、マルガルの言う通り、塀には崩れている箇所があった。
それは即ち、この周囲でも戦闘が行われていたことを意味する。
「ここから侵入するぞ!ロストロにいたウィンスター軍、国営ギルド、民営ギルド隊は現在包囲状態にある!つまり、ロストロの真ん中に追いやられているのじゃ!壁の向こうは奴らの支配下、縄張りじゃ!十分に気をつけて行け!」
シャルらはマルガルを先頭に崩れた壁を飛び越えロストロへ突入した。
壁を超えると街並みが…と思ったがそこに広がっていたのは街並みではなかった。
「堀があるぞ!10mはあるな。どうする?」
目の前に広がっていたのは、堀だ。水が張っており、馬でも飛び越える事は厳しそうだ。
石橋があったようだが、破壊され、粉々に砕け散っている。
「ロストロの内部は堀で囲まれておる。軍事都市であるロストロは武器庫などを守る為、このような構造物か多いのじゃ」
そう顔をしかめながらマルガルが喋ったその時だった。
「「「武器庫を守る?残念だったわね。わざわざ堀を用意しているみたいだけど……、それは私にとっては手助けでしかないわ…ふふふ…」」」
音が反響して聞こえる。女性の声、か細く、幻想的な声だ。
「「「ついにきたのかしら……ウィンスターの援軍達……水は私、私は水、私はこの堀…この堀は私…」」」
声がどこから聞こえているのか分からない。シャルは左右を見渡したが何も見つける事はできなかった。
「堀の中…いや、堀そのものから魔力の気配を感じる……"一体魔法"の使い手か……」
マルガルはそう言葉を発すると形相を変え、堀に矢を向けた。
「一体魔法?」
シードが尋ねる。
「そうじゃ!!物質そのものと一体化する魔法じゃ!一体化された物質には魔力が宿り、凶器同然となる!相手は水じゃ、幸い相性が良いの!雷矢流…」
刹那、堀の水が動き出し、先端が尖った触手なような形を形成すると、マルガルの弓を貫き、破壊した。
「なっ……!」
「マルガル!大丈夫か!」
「まずい…弓がなければ私は丸腰じゃ!」
水の触手はマルガルの弓そのものを狙った。即ち、手加減したのだ。あれだけ細い棒を撃ち抜くことが出来るならば、俺達の体を貫くなど容易いことだろう。
「君達…!そいつは電撃に弱いはずじゃ!誰か、電撃魔法を使えるやつはおらぬか!?」
「僕が使えます!魔法じゃないけれど…」
名乗り出たのはシードだ。
「僕の牽制銃が使えます」
「ならばそれを使え!」
水面が再び揺れる。水がスライムのように動き人の形を作り出す。
「「「当てられるなら当ててみなさい…この堀は通さないわ…」」」
体が水で作られているその女は口角を釣り上げ不気味に笑う。水でできた髪が目を覆っているため目を見ることはできない。
「「「帰りなさい……水猿尾!!」」」
女は水で大きさは5mは超えている大きな鎌のようなものを作り出すと、横一文字にそれを振るってきた。
「うぉっ!!」
「うわっ!!」
間一髪、シャルとディバイドは屈んで咄嗟に避けた。シードには当たらなかった。
近くに生えていた木に幹に斬撃が直撃し木が倒れる。断面は驚く程綺麗に切れている。恐ろしい切れ味だ。
その時、シードが女に向かい堂々とゆっくりと歩き始めた。地面を踏み締め、落ち着いて歩く様子には微塵も動揺はない。
「シード…何をする気だ…」
「…………」
ディバイドが怪訝に思い尋ねるもシードは無視をする。
シードは女の前に立った。目は女の一点を見つめ固定されている。
「「「ほう……少年を囮に?貴方たちもいがいと汚い所があるのでs…」」
刹那だった。
「牽制銃!」
ピストルを出してから撃つまでの所要時間は0.1秒もあっただろうか。
余りの速さに俺は理解が追いつかなかった。
気づいた時にはシードの銃口からは煙が出ており、女に直撃した弾丸から眩い光が出ていた。
「「「き、貴様…!」」」
堀の水が波打ち、嵐の大海原のように乱れる。
水の体の女はふっと消え、元の堀に戻った。
「シード…」
想像以上のシードの強さに俺は度肝を抜かれ、言葉を紡ぐ事ができなかった。
「…パティが危ない。早く行こう」
シードは悠然とした様子で話した。
*****************
(遂に見つけた。ここかしら。)
私が見つけた場所、それは第一軍用乗用橋だ。
ロストロの周りを囲う堀だが、そこには5本の橋がかかっている。
その内、2本が軍用橋、ロストロ軍が在中し、兵士や兵器を移動させる橋だ。
残り3つが常用橋、民間人が使う橋だ。
このロストロの全ての橋には砦が設置されており、関所として利用されている。
軍用橋は武器庫に近い位置にあるため、普段は更に警備が厳重になっている……はずだが様子がおかしいのは一目瞭然だ。
砦の上には見た事のない旗が立っていた。
黒の背景に黄色の縦線と横線がそれぞれ3本づつ入っているその旗は、夜の風になびき音を立てている。
(まさか…もうルードルートに占領されたのかしら…)
橋の入り口には男性の兵士が一人、警備をしている。夜である事もあってか、かなりの疲労が見受けられる。
フローレンスとの距離は50mと言った所だろうか。夜でなければ容易にバレる距離だ。
(あれはウィンスターの軍服じゃないわね…)
兵士がおもむろにフローレンスの方向を見る。
一瞬目が合ったが素早くフローレンスは草陰に隠れた。
(わっ…危ないわね…やっぱり可愛いと目立つわね…)
草陰で身を潜める。しかし、足音が確実に近づいている。
ーズサッ
(来てる⁉︎)
ーズサッ…ズサッ…
(なんとかしないと…!)
心臓の鼓動が速くなる。
ーズサッ、ズサッ、ズサッ!
もうすぐまで来ている。距離はもう3mもない。
ーガサッ!!
草を掻き分ける
バレた!仕方ない、今だ!
フローレンスは近くにあった木の棒を掴み兵士に殴りかかる。
「うおっ!」
ードゴッ
かぶりは見事に脳天に直撃。
男はフラフラとした後、倒れその場に仰向けに倒れた。
息はしている。命に別状はなさそうだ。
「こっっわいわね…」
その時、彼女は閃いた。
「…そうだわ、服、借りるわね…」
フローレンスは気絶した兵士の軍服を脱がすと自身の服と交換し始めた。
袖がかなり余る。ズボンもかなり長く気をつけて歩かないとこけそうだ。
(男物だから流石に胸が……入るわね。くそ。)
「…ん、うーん、、」
軍服を着るのに手こずっていると"不幸にも"兵士が目を覚ましてしまった
--ドゴッ
「見るんじゃないわ!変態!」
再び彼の脳天に拳が入る。
彼はまた気絶した。
*****************
「ここから堀を渡れそうだな」
遂に見つけた。第二軍用橋だ。
マルガルの話によればロストロの堀にかけられた5つの橋のうち、警備が厳重なもののそうだ。警備の甘い常用橋までは20kmもあるらしく、早くフローレンスを追うにはここを通るのが善だとの事だ。
だが……
「護衛兵がいない。既にやつらにやられたのか?」
ディバイドは草陰に隠れ、砦を見ながら呟く。
「いや、そうであるならば既に占拠されているはずじゃ。何故あんなに警備が甘いんじゃ?」
答えは意外なものだった。
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〈第二軍用橋の砦にて〉
「部隊長!現在砦内部がパニック状態にあります!」
憔悴した様子で扉を開け、部隊長に報告に来たのはその部下である。
「何が起こった?」
クラック隊は五個の普通部隊と三個の特別部隊で構成されており、ここの砦を占拠しているのは第四通常部隊である。
「それが……突然、食事中に砦の内部にウルフが現れたというのです!恥ずかしながら、咄嗟に対応できる者はおらず、皆一目散に逃げ出したと…現在、ウルフは行方がわからず…」
部隊長は激昂し手を置いていた机を叩く。
「あぁ!もういい!私が直々にそいつを潰す!貧弱な貴様らはウルフを探し出すなりなんなりしていろ!」
「はっ…!」
ー ー ー ー ー
「どこにいるんだ?」
「わかんねぇ、どっかに隠れてないか?椅子の下とか」
総勢50名で砦内部を捜索する。
「おい!…名前なんだっけ……橋の見張りのやつ!ちょっと探すの手伝え!」
「え、大丈夫なんすか、それ」
「いーから、いーから。ほんの30分でいいから手伝え」
見張り兵は少し戸惑うもウルフ探しを手伝い始めた。
運悪くもシャル達が砦を訪れたのはこのタイミングだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「橋、ガラ空きだな」
あまりにも簡単に橋を渡れている事に逆にビビっているディバイドが怪訝に話す。
「不思議じゃな…」
「不思議ですね…」
偶然、マルガルとシードが同じタイミングで同じ事を口にした。
俺も少し怖くなり、杖を構え慎重に歩みを進める。
橋を最後まで渡り終えると俺らは互いに目を見合わせたが事実は事実だ。
「…あっけないな」
目を細め、呆気に取られたディバイドがそう言う。
「そうだな…」
シャルもそう返すしかなかった。
「まぁ今回は運が良かったって事で…」
しかし、シードがそう言ったその時だった、!!
ーードガン!!!!!
後方からとんでもない爆発音。すぐさまシャルらは後ろを振り返る。
「侵入者がいるぞ!砲撃を続けろ!」
まずい、見つかった。対するは向こう、大砲が五台ほどあるだろうか。砲身はすべてこちらを向いており発射準備をしている。およそ距離は100m。この距離ならモロに砲弾を喰らっていてもおかしくはない。さっきは危なかった。
「一斉砲撃だ!撃て!!」
指揮官の号令により大砲が一斉に放たれる。
「シャルとシードは迎え撃ってくれ!その隙に俺は切り込みに行く!」
そう切り出したのはディバイドだ。
「了解!」
「分かった!」
シャルは魔法を放ち、シードはピストルを砲弾に向かって撃つ。
「簡易魔法・火球!」
「牽制銃!」
火球と牽制銃は無事に砲弾にヒット。
砲弾は空中で爆発し、四散したが…
ドガン!
全ての砲弾を撃ち落とす事ができず、幾つかが地上で爆発。
被弾こそ避けたが、爆風で吹き飛びそうになる。
「撃ち落としきれない!」
凄い砲撃だ。俺もシードも対応しきれていない。
仕方ない、アレを使うしか、、あまり使った事がないから不安だが…!
「続けろ!一斉砲撃だ!!」
再び砲弾が放たれる。
撃ち落とせないなら防げば良い!
「火盾!」
シャルが魔法を唱えると空中に大きな炎の壁を作り出した。
炎に当たった砲弾は即座に爆発し、空中で粉々に砕け散る。
「なんとかなったな…」
「そうだn…って危ない!」
砲弾の破片がシャルに当たりそうになるも、シードが撃ち抜き防御する。
「助かった!俺らもディバイドを支援しに行くぞ!」
「うん!」
「お前ら、一斉砲g…っておい!なんか来たぞ!」
ディバイドが砲撃部隊に切り込む。
部隊の中で剣を所持していた男がディバイドの斬撃を防ぐ。
「調子乗るんじゃねえ若造…!」
「若いのは力だろ?見てろよ…」
ディバイドは挑発を軽く受け流すと、男の剣を弾き技を繰り出した。
「道裂斬!」
ディバイドは高く振り上げた剣を勢いよく下に振り下ろし、その遠心力で巧みに回転する。
「おわっ!!」
男を切り倒したが、回転速度はさらに加速し、猛スピードで砲撃部隊に切り掛かる。
「まずい避けろ!」
ディバイドの斬撃は全ての大砲の砲身すらも破壊し、ディバイド本人が剣を地面に突き刺す事で遂に止まった。
「これ酔うしあんまりやりたくないんだけどな…」
「ひとまず撤退だ!お前ら!」
大砲を破壊された砲撃隊は急いで砦に撤退していく。
戦いの終了にひとまず俺らは安堵した。
「ナイス、ディバイド!」
シャルはディバイドにハイタッチしたが、あまりディバイドは乗り気ではない。
「おぇ…気持ち悪い。酔った。」
「ははは!でもありがとうな!」
俺らが勝利に喜ぶ中、心苦しそうな人が一人いた。
マルガルだ。
「すまない…弓を破壊された私は攻撃手段がないただの老人だ。力になれず申し訳ない」
「仕方ねぇって…でも武器がないのはまずいな。どうする?」
剣を使うディバイドだからだろうか。マルガルを気にかけている様子である。
「……この先にはロストロの武器庫があるはずじゃ。占領されてないといいが、この様子だとそれはないじゃろう。そこで弓を調達できれば私も再び力を添えられる」
「分かった。武器のないパティも武器庫に行ってる可能性もあるしな。今からそこを目指そう」
ディバイドの意見に俺も同感だ。パティも見つかると良いのだが。
それにしても敵が強い。強すぎる。
パティ…大丈夫なのか?
夜は更け、月が南の空から東の空に向かって傾き始めていた。
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勇者が行方不明になって数年。
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※この作品は「小説家になろう」からの転載です。
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生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
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