3 / 6
幽霊でもいいから。
しおりを挟む
中学校生活の大半を、わたしはひとりで過ごしている。
休み時間も、大抵は読書。
クラスメイトのほとんどは、休み時間になるとスマホをいじってる。
本当は、スマホの持ち込みは原則禁止なんだけどね。
みんな先生がいなくなるとこっそり電源入れて、動画投稿サイトやSNSを見ながら会話してる。
あの動画面白かったとか、あのYouTuberがあんなこと言ってたとか、有名な芸能人がSNS始めたとか。
わたしは一年前のあの日以来、スマホではなくガラケーを持っている。
ママがSNSや動画サイトを見なくていいようにと、必要最低限通話とメールだけができるガラケーを契約したんだ。
今時こんなガラケー持ってる中学生、わたしぐらいだろうな。現にわたしと同じガラケーを持っているのは、家だとおじいちゃんだ。
読書しながらみんなの会話を聞いていると、自分だけ世界の片隅に取り残された気分になる。
楽しそうなクラスメイトを見ると、正直うらやましい。
でも、今でもSNSや動画サイトを見る勇気がなかった。
樫木茉莉花なんて、もう誰も興味がないのはわかっている。表舞台からいなくなった子役のことなんて、世間じゃあ誰も話題になんてしていない。
「ねえねえ甲斐田さん、何の本読んでるの?」
突然話しかけられて、わたしはびくりと顔を上げる。
目の前にはクラス委員の関さんが立っていた。
「え……あの、その、えっと」
読書中に話しかけられたことなんて今までなかったから、わたしはどう返していいかわからずしどろもどろになっていた。
「ああ、ごめんね、なんかいつも真剣に読んでるから、面白い本なのかなーって」
関さんはにっこり笑うと、わたしの前の席に後ろ向きで座った。
目の前に座る関さん。関さんはクラスの中で一番の美人だ。長い黒髪をポニーテールにして、二重の目はきりっとしている。
ちょっと中性的な感じがあって、女子からも非常にモテる。
演劇部に入っているからかな。姿勢もいいし、声もよく通った。
「甲斐田さん、本好きなの? 松島礼二とか知ってる? この前ドラマになった"人魚の水槽"の原作者の」
――松島礼二。知らないはずがない。わたしが最後に主演をつとめた映画の原作者でもある。
背中にいやな汗がつたう。
「あたし、松島礼二の"遥か遠い夜汽車"好きなんだ。去年映画も観たよ。あの映画……」
「わたし、映画観ないから!」
強い口調で、関さんの言葉を遮る。一瞬教室がしんとなった。
「……あ、あの」
「あ、ごめん。読書中だもん、邪魔したあたしが悪いんだ。気にしないで、ね?」
ごめん、ごめんと関さんが顔の前で手を合わせる。
その背後で、
「地味子が関さんに喧嘩売ってる」
とか、
「ていうか地味子いたんだ」
「幽霊みたいだからな」
という声が聞こえた。
「ちょっと、誰今の。喧嘩なんて売られてないし、感じ悪いっしょ、そういうの」
関さんが怒ったように言う。正直そんなの気にしてないから、早くひとりにしてほしかった。
映画の話なんて、したくない。あの日のことを思い出すから。
注目も浴びたくない。あの日のことを思い出すから。
幽霊でいい。幽霊でもいいから、そっとしておいてほしい。
下を向いて深く呼吸していると予鈴が鳴った。ごめんね、と関さんが自分の席に戻る。
わたしはそっと読んでいた本を閉じて、五限目の国語の教科書を取りだした。
何度呼吸を整えても、手の震えが止まらなかった。
休み時間も、大抵は読書。
クラスメイトのほとんどは、休み時間になるとスマホをいじってる。
本当は、スマホの持ち込みは原則禁止なんだけどね。
みんな先生がいなくなるとこっそり電源入れて、動画投稿サイトやSNSを見ながら会話してる。
あの動画面白かったとか、あのYouTuberがあんなこと言ってたとか、有名な芸能人がSNS始めたとか。
わたしは一年前のあの日以来、スマホではなくガラケーを持っている。
ママがSNSや動画サイトを見なくていいようにと、必要最低限通話とメールだけができるガラケーを契約したんだ。
今時こんなガラケー持ってる中学生、わたしぐらいだろうな。現にわたしと同じガラケーを持っているのは、家だとおじいちゃんだ。
読書しながらみんなの会話を聞いていると、自分だけ世界の片隅に取り残された気分になる。
楽しそうなクラスメイトを見ると、正直うらやましい。
でも、今でもSNSや動画サイトを見る勇気がなかった。
樫木茉莉花なんて、もう誰も興味がないのはわかっている。表舞台からいなくなった子役のことなんて、世間じゃあ誰も話題になんてしていない。
「ねえねえ甲斐田さん、何の本読んでるの?」
突然話しかけられて、わたしはびくりと顔を上げる。
目の前にはクラス委員の関さんが立っていた。
「え……あの、その、えっと」
読書中に話しかけられたことなんて今までなかったから、わたしはどう返していいかわからずしどろもどろになっていた。
「ああ、ごめんね、なんかいつも真剣に読んでるから、面白い本なのかなーって」
関さんはにっこり笑うと、わたしの前の席に後ろ向きで座った。
目の前に座る関さん。関さんはクラスの中で一番の美人だ。長い黒髪をポニーテールにして、二重の目はきりっとしている。
ちょっと中性的な感じがあって、女子からも非常にモテる。
演劇部に入っているからかな。姿勢もいいし、声もよく通った。
「甲斐田さん、本好きなの? 松島礼二とか知ってる? この前ドラマになった"人魚の水槽"の原作者の」
――松島礼二。知らないはずがない。わたしが最後に主演をつとめた映画の原作者でもある。
背中にいやな汗がつたう。
「あたし、松島礼二の"遥か遠い夜汽車"好きなんだ。去年映画も観たよ。あの映画……」
「わたし、映画観ないから!」
強い口調で、関さんの言葉を遮る。一瞬教室がしんとなった。
「……あ、あの」
「あ、ごめん。読書中だもん、邪魔したあたしが悪いんだ。気にしないで、ね?」
ごめん、ごめんと関さんが顔の前で手を合わせる。
その背後で、
「地味子が関さんに喧嘩売ってる」
とか、
「ていうか地味子いたんだ」
「幽霊みたいだからな」
という声が聞こえた。
「ちょっと、誰今の。喧嘩なんて売られてないし、感じ悪いっしょ、そういうの」
関さんが怒ったように言う。正直そんなの気にしてないから、早くひとりにしてほしかった。
映画の話なんて、したくない。あの日のことを思い出すから。
注目も浴びたくない。あの日のことを思い出すから。
幽霊でいい。幽霊でもいいから、そっとしておいてほしい。
下を向いて深く呼吸していると予鈴が鳴った。ごめんね、と関さんが自分の席に戻る。
わたしはそっと読んでいた本を閉じて、五限目の国語の教科書を取りだした。
何度呼吸を整えても、手の震えが止まらなかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
元婚約者様の勘違い
希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。
そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。
しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。
アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。
カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。
「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」
「そんな変な男は忘れましょう」
一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。
良いものは全部ヒトのもの
猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。
ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。
翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。
一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。
『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』
憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。
自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。
従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。
みみぢあん
恋愛
ミレイユの婚約者、オルドリッジ子爵家の長男クレマンは、子供の頃から仲の良い妹のような従妹パトリシアを優先する。 婚約者のミレイユよりもクレマンが従妹を優先するため、学園内でクレマンと従妹の浮気疑惑がうわさになる。
――だが、クレマンが従妹を優先するのは、人には言えない複雑な事情があるからだ。
それを知ったミレイユは婚約破棄するべきか?、婚約を継続するべきか?、悩み続けてミレイユが出した結論は……
※ざまぁ系のお話ではありません。ご注意を😓 まぎらわしくてすみません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる