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小話
小話:ねこちゃんみるく
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pixivに本作一話を投稿してから一周年(2024/4/30時点)ということで、記念に書いた小話です。
内容は特に一周年にちなんでいません。いちゃいちゃしてるだけです!
—————————
ラビと想いが通じ合って恋人同士となり、一緒に暮らすようになってから、もう随分と経った。
ラビは優しくて可愛くて、ほがらかな笑顔がとても魅力的で、そばにいるだけで心があたたかくなる、まるでひだまりのような人だ。
ラビとの出会いは、今思うと運命としか言いようがない。奴隷であった僕は、とある事件がきっかけで仕えていた貴族の元から逃げ出して、怪我のせいもありそのまま路地裏で気を失ってしまった。それを見つけたラビは、雨の中行き倒れていた素性も知れない僕のことを助けてくれて、自分の家に招き入れてくれた。怪我の手当てをして、身体を綺麗にしてくれて、食事も与えてくれた。僕はそれまで生きてきた中で他者からこれほど親切にされたことがなくて、最初は戸惑って警戒してしまっていたけど、ラビはそんな僕に対しても嫌な顔ひとつしなかった。そんなラビに、僕はとても救われたんだ。
ラビがそばにいるだけで心が満たされる。優しいラビと一緒にいると、なんだかこちらまで優しい気持ちになれる。
ラビは不思議だ。素朴で人好きのする雰囲気があるけれど、どこか他人とは一線を引いている。だけど無愛想だとかそういうことは全くなくて、困っている人がいたら相手が誰であろうとも手を差し伸べて、懸命に力になろうとする。彼はそういう人だった。
そんなラビのことが、僕は大好きだ。
「ニャル、ミルクだよー」
「みゃあ、みゃあ!」
今日は休日。僕もラビも仕事は休みで、二人きりで一日ゆっくりと一緒に過ごせる日。……といってもうちには飼い猫のニャルがいるから、正確には二人と一匹なんだけれど。
天気もよく過ごしやすい、のどかな昼下がり。ニャルに水分補給をさせなければと、ラビはキッチンで猫用ミルクを容器に注ぐと居間にいるニャルのところへと持って行く最中だった。ニャルは喉が渇いていたのか、ラビの手にあるミルクの容器を見て大喜びで鳴いている。僕はというと、そんな微笑ましい光景を横目にしながら、居間のテーブルで勉強用のノートにひとつひとつ文字を綴っていた。
「みゃう!」
「えっ……うわあっ!」
しかし唐突にゴトン!と大きな音とラビの驚いたような声が居間に響き渡り、僕はノートに向けていた顔をすぐに上げた。たった一瞬でも、ラビの身に何かあったかもしれないと思うだけで背筋が凍りつく思いだった。
見るとそこには、先程とは打って変わって凄惨な光景が広がっていた。
「ラビ!? 大丈夫!?」
「いたた……。あ、うん。平気だよ」
ミルクを前にしたニャルが興奮してラビに飛び掛かったようで、ラビは床に尻餅をついて転倒してしまっていた。倒れた拍子に浅めの容器に入っていたミルクがぶちまけられてしまい、そこらじゅうが白く染まっている。ラビはすっかり空になってしまった容器を片手に拾いながら、ぶつけてしまったらしい腰の部分を庇うように摩っていた。
「本当に? 怪我は……?」
「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ」
心配する僕に、ラビは何ともないと言うように笑顔を見せる。ラビはひっくり返したミルクを頭から思いきり被ってしまったようで、髪や服がところどころ濡れていた。結構な大惨事だ。僕は慌ててキッチンからタオルを何枚か持ってきて、ラビの身体を拭いてやる。そんな僕に対してラビは「ありがとう」と言ってまた微笑んだ。
そんな中で当のニャルはというと、大騒ぎになっている僕たちとは対照的に呑気な様子で、床にこぼれたミルクを嬉しそうにペロペロと舐めていた。僕が「こら」と軽く叱ると、ニャルは一瞬ぴたりと動きを止めてこちらを見る。叱られたことはなんとなく理解しているようにも見えたが、またすぐに床のミルクに夢中になった。まったく、反省しているのか、していないのか。
「あーあー、午前中に綺麗にしたばかりだったのに。また掃除かぁ」
そうぼやきながら居間を見回しているラビの髪から、ぽたりと雫が垂れた。その雫はそのまま顔に落ちて、ラビの血色のいい滑らかな頬を伝う。白い液体がラビの顔を濡らすさまを見て、ついうっかり心の中に邪な思考がよぎってしまい、僕は思わずぐっと息を詰めた。
やめろ自分、変なことを考えるな。そう自分に言い聞かせながら、ベッドの上で乱れるラビの姿を脳裏から必死にかき消そうとする。確かにラビはいつだって可愛いけれど、こんな時にそういう目で見てしまうだなんて、それはいけないことだ。今のラビにそんなつもりは一切ないのだから。
理性ではそう理解しているものの、このままラビの顔を見ていると色々とこみ上げてしまいそうで、僕はラビの肩口に顔を埋めた。
「アル?」
ラビが僕の名前を呼ぶが、熱くなってしまった顔はまだ上げられない。
耳に心地良い、優しい声。ラビは声まで可愛いな、と思いながら、そのまま腕を伸ばして彼の身体を抱きしめる。彼の肌や髪からはほんのりとミルクの匂いがしていて、余計に情欲が刺激された。
「いいにおい……」
「……ッ!」
そう言いながらすんと匂いを嗅ぐ。首筋に息がかかってくすぐったかったのか、僕に抱きしめられたままのラビの身体がピクッと揺れた。それに気付いた僕はするりと手を動かしてラビの首筋から耳へのラインを撫で、赤く火照ってきたそこにちゅ、と痕がつかない程度に吸い付く。するとラビはびくん、びくんと僕の指の動きに合わせて身体を震わせ、ついに喉からは艶を帯びた声が漏れ出た。
「ン、ぁっ……♡」
そう、ラビは首が弱い。
これは多分、僕しか知らないことなのではないだろうか。
恋人同士になってから幾度となく身体を重ねた結果、ラビは僕の手により全身の至る所を開発されまくっている。しかしどうやら首だけは元から感じやすい部分だったみたいで、僕が最初に触れた時から既に良い反応を返してくれていた記憶がある。
そう、ただでさえ敏感な場所だった。それに加えて僕がセックスのときに何度も触っていたものだから、今ではラビのそこは立派な性感帯と言って差し支えないほどになっていた。
こうなっては他の男に絶対触らせたくない。ラビにも日頃から気を付けるよう言っているのだが、ラビは俺なんてアル以外誰も触らないよといまいち危機感がないようだった。……本当に危ない。
「ラビ、ここ弱いよね。きもちい?」
「ん、んっ……♡」
僕の問いかけに、ラビは顔を真っ赤に染めながらもこくこくと頷きを返してくれた。ああ、ラビってばもう顔がとろけちゃってる。可愛すぎる……♡
すり、すり♡と柔らかいタッチで首筋に触れる。爪を立てるような刺激の強いものではなく、指の腹を使って優しくゆっくりと撫で上げるような動きがラビは好きみたいだった。
ラビの身体からはすっかり力が抜けていて、くったりとした様子で僕に寄り掛かり、体重を預けている。しかし腰だけはもぞもぞとしきりに動いていて、ああもどかしいんだな、ということがひと目で見て取れた。かくいう僕も……だけど。
「はぁ……ラビ……♡」
「アル、ん……」
僕が名前を呼ぶと、ラビのとろんと蕩けた目がこちらに向けられた。可愛い。綺麗だ。彼のその美しいモスグリーンの瞳を独り占めできるなんて、僕はなんて贅沢者なんだろう。
欲望のまま、ちらちらと赤い舌が覗いている彼の唇に深く深く口付ける。ラビはそれに抵抗することはなく、むしろ僕の服をぎゅっと握りしめて、よりキスが深まるようにと自ら身体を密着させてくれた。
もうお互い完全にスイッチが入っている。止まりそうもない。まだ昼間で家の中は明るく、そういうことをするような時間ではないとわかっているのだけど、最早僕もラビもそんなことは全く気にならなかった。
「あ……」
どさ、と音を立ててラビの背中が床につく。無論、押し倒したのは僕だ。
状況を理解したラビが、期待に満ちた目でこちらを見つめている。これまでも数え切れないほど思ってきたけど、本当にラビは可愛い。うるうると潤んだ瞳で僕を見つめるその表情が……堪らない。
つう、とラビの細い首筋に指をなぞらせながら、そこを濡らしているミルクをぺろりと舌で舐めとる。甘くて美味しかった。
そして、舌の感触が気持ちよかったのだろうか。ラビは途端にぎゅっと目を瞑り、普段よりも幾分か高い声を上げながら喉をひくんっと鳴らして喘いだ。興奮からか先程よりも感度が上がっているようで、あまりにも素直で愛らしい反応を見せるラビに僕も思わずごくりと唾を飲む。もう我慢できそうにない。
そして、僕はそのままラビの身体を——
「みゃーん!」
突如、部屋の中に響いた鳴き声で二人ともはっと我に返る。
慌てて周りを見てみると、先程まで床にこぼれたミルクを夢中になって舐めていたはずのニャルが、顔を上げてこちらをじっと見ていた。
「あっ……そうだ、ニャルに新しいミルクをあげないと……」
ニャルの姿を確認して正気に戻ったのか、ラビがそう言いながら緩慢に身を起こす。起き上がるラビの邪魔にならないようにと、僕も自然と彼の上から身を引いていた。
ああ、そういえばここは居間だ。それどころか、すぐそばにニャルがいたんだった……。かなり良い雰囲気だったので中断されてしまったのは口惜しかったけれど、そもそも最初はラビにはその気がなかったのにも関わらず盛ってしまったのは僕のほうで……。ラビとそういう関係になってからももうそれなりに経っているというのに、いまだにまったく自制ができていないのが情けない。
僕は息を小さく吐いてから、ラビに倣って立ち上がった。そういえば床も掃除しなければならない。ラビはこれからシャワーを浴びると思うから、その間に着替えも用意しておくべきだろう。僕としてはミルクのいい匂いがするラビをもう少しだけ堪能していたかったけど……って、この期に及んで何を考えているんだ。
「ねぇ、アル」
「なに?」
僕が濡れ雑巾で床を拭いていると、空の容器に新しいミルクを注ぎニャルに与えていたラビが話しかけてきた。それに返事を返すと、ラビは僕の服の裾をきゅっと摘んで頬を赤く染める。その様子がいじらしくて可愛くて、僕の中で治りかけていた熱がまたじわじわと蘇ってきてしまった。
ラビはそんな僕をどこか熱っぽい瞳で見つめながら、小さな声でひと言。
「シャワー浴びたら……その、続き、する……?」
「!」
……どうやら不完全燃焼だったのは僕だけではなかったらしい。
end.
内容は特に一周年にちなんでいません。いちゃいちゃしてるだけです!
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ラビと想いが通じ合って恋人同士となり、一緒に暮らすようになってから、もう随分と経った。
ラビは優しくて可愛くて、ほがらかな笑顔がとても魅力的で、そばにいるだけで心があたたかくなる、まるでひだまりのような人だ。
ラビとの出会いは、今思うと運命としか言いようがない。奴隷であった僕は、とある事件がきっかけで仕えていた貴族の元から逃げ出して、怪我のせいもありそのまま路地裏で気を失ってしまった。それを見つけたラビは、雨の中行き倒れていた素性も知れない僕のことを助けてくれて、自分の家に招き入れてくれた。怪我の手当てをして、身体を綺麗にしてくれて、食事も与えてくれた。僕はそれまで生きてきた中で他者からこれほど親切にされたことがなくて、最初は戸惑って警戒してしまっていたけど、ラビはそんな僕に対しても嫌な顔ひとつしなかった。そんなラビに、僕はとても救われたんだ。
ラビがそばにいるだけで心が満たされる。優しいラビと一緒にいると、なんだかこちらまで優しい気持ちになれる。
ラビは不思議だ。素朴で人好きのする雰囲気があるけれど、どこか他人とは一線を引いている。だけど無愛想だとかそういうことは全くなくて、困っている人がいたら相手が誰であろうとも手を差し伸べて、懸命に力になろうとする。彼はそういう人だった。
そんなラビのことが、僕は大好きだ。
「ニャル、ミルクだよー」
「みゃあ、みゃあ!」
今日は休日。僕もラビも仕事は休みで、二人きりで一日ゆっくりと一緒に過ごせる日。……といってもうちには飼い猫のニャルがいるから、正確には二人と一匹なんだけれど。
天気もよく過ごしやすい、のどかな昼下がり。ニャルに水分補給をさせなければと、ラビはキッチンで猫用ミルクを容器に注ぐと居間にいるニャルのところへと持って行く最中だった。ニャルは喉が渇いていたのか、ラビの手にあるミルクの容器を見て大喜びで鳴いている。僕はというと、そんな微笑ましい光景を横目にしながら、居間のテーブルで勉強用のノートにひとつひとつ文字を綴っていた。
「みゃう!」
「えっ……うわあっ!」
しかし唐突にゴトン!と大きな音とラビの驚いたような声が居間に響き渡り、僕はノートに向けていた顔をすぐに上げた。たった一瞬でも、ラビの身に何かあったかもしれないと思うだけで背筋が凍りつく思いだった。
見るとそこには、先程とは打って変わって凄惨な光景が広がっていた。
「ラビ!? 大丈夫!?」
「いたた……。あ、うん。平気だよ」
ミルクを前にしたニャルが興奮してラビに飛び掛かったようで、ラビは床に尻餅をついて転倒してしまっていた。倒れた拍子に浅めの容器に入っていたミルクがぶちまけられてしまい、そこらじゅうが白く染まっている。ラビはすっかり空になってしまった容器を片手に拾いながら、ぶつけてしまったらしい腰の部分を庇うように摩っていた。
「本当に? 怪我は……?」
「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ」
心配する僕に、ラビは何ともないと言うように笑顔を見せる。ラビはひっくり返したミルクを頭から思いきり被ってしまったようで、髪や服がところどころ濡れていた。結構な大惨事だ。僕は慌ててキッチンからタオルを何枚か持ってきて、ラビの身体を拭いてやる。そんな僕に対してラビは「ありがとう」と言ってまた微笑んだ。
そんな中で当のニャルはというと、大騒ぎになっている僕たちとは対照的に呑気な様子で、床にこぼれたミルクを嬉しそうにペロペロと舐めていた。僕が「こら」と軽く叱ると、ニャルは一瞬ぴたりと動きを止めてこちらを見る。叱られたことはなんとなく理解しているようにも見えたが、またすぐに床のミルクに夢中になった。まったく、反省しているのか、していないのか。
「あーあー、午前中に綺麗にしたばかりだったのに。また掃除かぁ」
そうぼやきながら居間を見回しているラビの髪から、ぽたりと雫が垂れた。その雫はそのまま顔に落ちて、ラビの血色のいい滑らかな頬を伝う。白い液体がラビの顔を濡らすさまを見て、ついうっかり心の中に邪な思考がよぎってしまい、僕は思わずぐっと息を詰めた。
やめろ自分、変なことを考えるな。そう自分に言い聞かせながら、ベッドの上で乱れるラビの姿を脳裏から必死にかき消そうとする。確かにラビはいつだって可愛いけれど、こんな時にそういう目で見てしまうだなんて、それはいけないことだ。今のラビにそんなつもりは一切ないのだから。
理性ではそう理解しているものの、このままラビの顔を見ていると色々とこみ上げてしまいそうで、僕はラビの肩口に顔を埋めた。
「アル?」
ラビが僕の名前を呼ぶが、熱くなってしまった顔はまだ上げられない。
耳に心地良い、優しい声。ラビは声まで可愛いな、と思いながら、そのまま腕を伸ばして彼の身体を抱きしめる。彼の肌や髪からはほんのりとミルクの匂いがしていて、余計に情欲が刺激された。
「いいにおい……」
「……ッ!」
そう言いながらすんと匂いを嗅ぐ。首筋に息がかかってくすぐったかったのか、僕に抱きしめられたままのラビの身体がピクッと揺れた。それに気付いた僕はするりと手を動かしてラビの首筋から耳へのラインを撫で、赤く火照ってきたそこにちゅ、と痕がつかない程度に吸い付く。するとラビはびくん、びくんと僕の指の動きに合わせて身体を震わせ、ついに喉からは艶を帯びた声が漏れ出た。
「ン、ぁっ……♡」
そう、ラビは首が弱い。
これは多分、僕しか知らないことなのではないだろうか。
恋人同士になってから幾度となく身体を重ねた結果、ラビは僕の手により全身の至る所を開発されまくっている。しかしどうやら首だけは元から感じやすい部分だったみたいで、僕が最初に触れた時から既に良い反応を返してくれていた記憶がある。
そう、ただでさえ敏感な場所だった。それに加えて僕がセックスのときに何度も触っていたものだから、今ではラビのそこは立派な性感帯と言って差し支えないほどになっていた。
こうなっては他の男に絶対触らせたくない。ラビにも日頃から気を付けるよう言っているのだが、ラビは俺なんてアル以外誰も触らないよといまいち危機感がないようだった。……本当に危ない。
「ラビ、ここ弱いよね。きもちい?」
「ん、んっ……♡」
僕の問いかけに、ラビは顔を真っ赤に染めながらもこくこくと頷きを返してくれた。ああ、ラビってばもう顔がとろけちゃってる。可愛すぎる……♡
すり、すり♡と柔らかいタッチで首筋に触れる。爪を立てるような刺激の強いものではなく、指の腹を使って優しくゆっくりと撫で上げるような動きがラビは好きみたいだった。
ラビの身体からはすっかり力が抜けていて、くったりとした様子で僕に寄り掛かり、体重を預けている。しかし腰だけはもぞもぞとしきりに動いていて、ああもどかしいんだな、ということがひと目で見て取れた。かくいう僕も……だけど。
「はぁ……ラビ……♡」
「アル、ん……」
僕が名前を呼ぶと、ラビのとろんと蕩けた目がこちらに向けられた。可愛い。綺麗だ。彼のその美しいモスグリーンの瞳を独り占めできるなんて、僕はなんて贅沢者なんだろう。
欲望のまま、ちらちらと赤い舌が覗いている彼の唇に深く深く口付ける。ラビはそれに抵抗することはなく、むしろ僕の服をぎゅっと握りしめて、よりキスが深まるようにと自ら身体を密着させてくれた。
もうお互い完全にスイッチが入っている。止まりそうもない。まだ昼間で家の中は明るく、そういうことをするような時間ではないとわかっているのだけど、最早僕もラビもそんなことは全く気にならなかった。
「あ……」
どさ、と音を立ててラビの背中が床につく。無論、押し倒したのは僕だ。
状況を理解したラビが、期待に満ちた目でこちらを見つめている。これまでも数え切れないほど思ってきたけど、本当にラビは可愛い。うるうると潤んだ瞳で僕を見つめるその表情が……堪らない。
つう、とラビの細い首筋に指をなぞらせながら、そこを濡らしているミルクをぺろりと舌で舐めとる。甘くて美味しかった。
そして、舌の感触が気持ちよかったのだろうか。ラビは途端にぎゅっと目を瞑り、普段よりも幾分か高い声を上げながら喉をひくんっと鳴らして喘いだ。興奮からか先程よりも感度が上がっているようで、あまりにも素直で愛らしい反応を見せるラビに僕も思わずごくりと唾を飲む。もう我慢できそうにない。
そして、僕はそのままラビの身体を——
「みゃーん!」
突如、部屋の中に響いた鳴き声で二人ともはっと我に返る。
慌てて周りを見てみると、先程まで床にこぼれたミルクを夢中になって舐めていたはずのニャルが、顔を上げてこちらをじっと見ていた。
「あっ……そうだ、ニャルに新しいミルクをあげないと……」
ニャルの姿を確認して正気に戻ったのか、ラビがそう言いながら緩慢に身を起こす。起き上がるラビの邪魔にならないようにと、僕も自然と彼の上から身を引いていた。
ああ、そういえばここは居間だ。それどころか、すぐそばにニャルがいたんだった……。かなり良い雰囲気だったので中断されてしまったのは口惜しかったけれど、そもそも最初はラビにはその気がなかったのにも関わらず盛ってしまったのは僕のほうで……。ラビとそういう関係になってからももうそれなりに経っているというのに、いまだにまったく自制ができていないのが情けない。
僕は息を小さく吐いてから、ラビに倣って立ち上がった。そういえば床も掃除しなければならない。ラビはこれからシャワーを浴びると思うから、その間に着替えも用意しておくべきだろう。僕としてはミルクのいい匂いがするラビをもう少しだけ堪能していたかったけど……って、この期に及んで何を考えているんだ。
「ねぇ、アル」
「なに?」
僕が濡れ雑巾で床を拭いていると、空の容器に新しいミルクを注ぎニャルに与えていたラビが話しかけてきた。それに返事を返すと、ラビは僕の服の裾をきゅっと摘んで頬を赤く染める。その様子がいじらしくて可愛くて、僕の中で治りかけていた熱がまたじわじわと蘇ってきてしまった。
ラビはそんな僕をどこか熱っぽい瞳で見つめながら、小さな声でひと言。
「シャワー浴びたら……その、続き、する……?」
「!」
……どうやら不完全燃焼だったのは僕だけではなかったらしい。
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