天才錬金術師と助手のモルモットくん

toki

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本編

天才「メスイキスイッチを作ったぞ!!!!」

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俺の名前はネロ。錬金術師志望の平凡な人間。
若干22歳の若き稀代の天才錬金術師、ルイスの元で助手として働いている。

ルイスとは学生時代の同期で、同時に気の置けない親友でもある間柄だ。……いや、だった、のだが。
先日とある“実験”の際にひょんなことから彼と身体の関係を持ってしまい……それからなんだかんだで、俺とルイスは『お付き合い』することになった。
以上、わかりやすいあらすじ。

——いや、全然わからない。

まったくもって何一つ意味がわからないよなぁ。一体どういうことだ。どうしてこうなった。当事者であるはずの俺ですらわからない。
勢いで身体を繋げてしまったのは、俺はあの時ルイスが調合した媚薬がガッツリ効いていたからなのだが。その後ルイスから何故か求婚されて(これも意味がわからない)、挙げ句の果てに「責任はとる」なんて言い出して、そこからまぁ、じゃあとりあえずお付き合いから始めましょうかということになって……。

いや、流されすぎだろ。俺。
その時のことを思い出して頭が痛くなる。

あれから数週間ほど経ったが、俺とルイスの関係は表面上は特に変化がない。
付き合ってくれ、なんて言われたものだから、何か関係が変わるのかと最初は身構えていたが、今のところ拍子抜けするほど何もない。今までと同じ、錬金術師とその助手という関係がただ継続していた。

俺はてっきり彼の言葉を「恋人になってくれ」って意味なのだと受け取っていたけど……。ルイスは「責任はとる」とは言ったが、俺のことが好きだとか、そういうことは全く言っていない。別に好きでもない、ただ責任をとりたいだけなら、それは恋人同士とは言えないよなと後になって気付いた。
きっと彼なりに俺に対する罪悪感なんかがあって、それで「付き合おう」なんて言ったんだろう。そもそも、もしかしたらルイスも『付き合う』というのがどういうことなのか、よくわかってないんじゃないか。そんなことを最近は思い始めた。
それくらい、いつも通り。そのうちまたあの時みたいに、セックスとかキスとか、そういうのがあるんじゃないか……そんな風に考えてドキドキしていた自分が馬鹿らしい。

俺は溜め息をひとつ吐くと、マグカップに入ったブラックコーヒーを啜った。仕事中はコーヒーを飲みながらだと集中できるので、出勤した日はいつも自分とルイスの分を淹れるようにしている。なんて事はない市販のインスタントコーヒーだが、飲むとやや酸味のある苦さが脳に沁み渡って、ほどよく頭が冴えてくれる。
ルイスについて色々思うところはあるけど、彼が何を考えているのかわからないのは今更だ。悩んでも仕方ない。とにかく今は目の前の仕事を片付けよう……。
そんな感じでまぁ、俺は以前と特に変わることもなく、ルイスの助手として忙しくも充実した日常を送っていた。


「メスイキスイッチを作ったぞ!」

そんな平和な日常も、ルイスの唐突な一言で瞬く間に破壊されたのだが。

「……は? なに、何て?」
「だから、メスイキスイッチだ。被験者の内臓や筋肉の動きその他諸々を術式に記録し、意図的にメスイキを発生させる。まさに錬金術がなせる画期的な発明――」

ルイスが嬉々として解説しているが、あまり頭に入ってこない。
そもそもメスイキってなんだ。何かの専門用語か? だが言葉の意味がわからないなりに、物凄く嫌な予感がした。これ、絶対ロクなもんじゃない。俺の直感がそう告げている。

「ごめん、何言ってるか全然わからないけど。……それ、どうするんだ?」
「データが欲しいから、お前の身体で実験させてほしい」

やっぱり来た。いつもの流れだ。
ルイスは誰もが認める天才錬金術師だが、新しい薬が完成するといの一番に俺を実験台にしようとする悪癖がある。先日の媚薬事件もその悪癖によるハプニングだったわけだが……。
さてはこいつ、まったく反省してないな。
俺は再び溜め息を吐いた。やっぱりルイスは『付き合う』だなんて言って、俺を使って好き放題実験したいだけなんじゃないか。

「断る。いつも言ってるけど、せめてラットで実験してから……」
「今回のは人体での使用が前提だから、ラットでは実験不可だ。痛みがないようにちゃんと薬で緩和するから、安心してくれ」
「まったくもって安心できない。嫌だ」

当たり前だが、俺は断固拒否。いや、いつも拒否しているつもりなんだけどな……。

「そう言うな。お前にとっても悪い話じゃない。この前みたいに気持ちよくなれるぞ?」
「ッ……ふざけんな! あ、あんなの二度と御免だ!」

唐突に『この前』の話を出されて顔に熱が集まった。
ルイスの中であれは無かったことにはなっていなかったらしい。……いや、それはそうか。都合が悪いから無かったことにするとか、こいつはそういう奴ではないということは俺も知っている。でも、あんなにお互い乱れて、性欲のまま激しく求め合ったというのに……なんでそんなに平然と話を持ち出せるんだよ。俺は正直、恥ずかしすぎて思い出したくもない。
あの時は薬のせいで理性もほとんどなくなっていて、ハッキリとは覚えていないが、それでも良い思い出ではなかったことは確かだ。ルイスの言うメスイキスイッチとやらがどんなものかはわからないが、あんな経験二度としたくない。

「そうか、残念だ。……ところで、そのくだんの薬をお前が今飲んでいるコーヒーに混ぜておいたんだが」
「んぐっ!? ……ゴホゴホッ!」

ルイスのとんでもない発言に、思わず飲んでいたコーヒーを咽せる。
ルイスは俺が薬を飲むのを拒否すると、食べ物や飲み物に混ぜて無理矢理にでも飲ませようとすることがある。学生時代にはそれで散々な目に遭ってきたので、俺は『ルイスが出してきた飲食物には絶対に手を付けない』ということを留意していた。しかし、まさか俺が淹れたコーヒーにまで細工をするだなんて。俺が資料を取りに席を立った隙でも突いたんだろうか、完全に油断していた。味の濃いブラックコーヒーだと、多少何かが混ざっていても気付けないものだと俺は新たに学習する。

「先日の実験で使った媚薬だ。覚えているだろう? 大丈夫、今度は副作用が出ないよう効き目は調整済みだ」

相変わらず何一つ大丈夫な要素が感じられない。
あの薬は大嫌いだ。身体が熱くなって、過剰なくらい気持ちよくなって、すぐに理性が飛んでしまう。自分が自分じゃなくなるみたいで、すごく怖いから。
ルイスはいつもこうだ。俺の意思なんて丸無視して、自分がやりたい実験を強行する。……まぁ、ルイスにとっての俺は所詮ただの実験体モルモットだ。生体実験用の動物に情が湧いてしまえば錬金術師や科学者は食い扶持がなくなってしまう。
だからルイスも、俺に対しての情なんて欠片もないのだろう。そう考えると、何故か胸がきゅっと締め付けられたかのように苦しくなった気がした。……いや、実際に心臓がドキドキと激しく脈打って、苦しい。先程盛られた薬が早速効いてきているのがいやでもわかった。

「んっ、はぁ……ルイ……!」
「なんだ?」
「俺、これ、やだぁ……! からだ、おかしくなる……」
「そうは言うけどな、苦痛を伴わない為に媚薬の服用は必要なんだ。ネロも痛いのは嫌だろう?」
「い、いやだ……けど」

ルイスに抗議してみたが、実験のことしか頭にない彼は一切聞き入れてくれなかった。
そりゃあ、あの薬が効いている間は痛みなんか全然感じなくて、ただただ気持ちよさしかなかった。それでもあの衝撃的な経験を思い出すだけで、俺は頭が変になりそうなのに。
そんなことを考えているうちに身体にうまく力が入らなくなり、かくりと膝が折れてその場にへたり込む。本当に調整したのかと疑問になるくらいしっかりと薬が効いてしまっていた。

「効いてきたな。……ではまず、一旦普通にメスイキしてもらう」
「えっ?……ん、やっ、ひぁあああんッッ!?♡」

薬の効き目の強さに頭をくらくらさせていると、ルイスはおもむろに俺を床に押し倒し、さも当然のように下半身の服を剥いだ。そして薬の効果で既にぐずぐずに濡れている俺のアナルに、己の剛直を一気にぶち込んだ。

「あ゛っ♡ ン゛ッ♡ い、いや゛ぁッ……! うしろ、やだぁ……!♡♡」

まさかいきなり挿入されるとは思っていなかった俺は、突然襲ってきた強烈な快感に逆らえず、ガクガクと身体を痙攣させながら無様にイッてしまった。
慣らしてもいないはずの後ろは、不思議なことにルイスの勃起したペニスをいとも容易く飲み込み、ニチュニチュッ♡と卑猥な音をさせながら美味しそうにしゃぶっている。濡れているとはいえ、ルイスの太くて大きな性器を挿入するのに痛みのひとつもなかったことに驚いた。これも薬のせいなんだろうけど、なんだか俺の身体がだんだんとルイスを憶えてきているかのような感覚に陥り、無意識にきゅうう♡とその立派なペニスを締め付けてしまう。

「んッ♡ ぁっ、いや……♡ ルイの、おっきくて、やぁ……♡♡」
「こんなに媚びながら嫌がられても、説得力がないな……♡」

羞恥で顔にかあっと熱が集まった。
悔しいがルイスの言う通りだった。口では嫌だといくら言っても、俺の身体は貪欲に快感を拾いにいってしまっている。下半身は今もなおルイスの性器を根元までぐっぽりと咥え込み、離さないとでも言わんばかりにきゅうきゅうと媚び続けているのだ。

「そろそろいいか? 動くぞ」
「あ゛ッッ♡ ま、ま゛って……! や、あぁんッ♡♡」

ルイスの腰が動き、律動を開始する。
俺は既に挿入だけで一度イッてしまっていたのでもう少し休憩したかったのだが、ルイスは俺の制止などまるで聞いてくれない。どうせ聞かないのなら確認するなよと思ったが、そんな悪態すらも吐けなくなるほどに激しくピストンされ、俺の思考は瞬く間に吹っ飛んでしまう。

ルイスは俺の腰を掴んでガツガツと奥まで突いた。先日の行為ですっかり快感を覚えてしまった前立腺も、薬で感度が上がっている内壁も、一番奥の結腸口も……ぜんぶがきもちいい。
そうしてルイスからの責め苦に喘いでいると、ゾクゾクと身体の奥底から何かが湧き上がってくるような感覚があった。いや、何か、ではない。紛れもなくこれは快感である。俺、またイクんだろうか。先程の射精から体力が回復しきっていないので、正直まだイキたくない。しかしルイスの的確かつ激しいピストンに、媚薬漬けにされた俺が耐えられるわけもなかった。

「ま、まって……もうイッちゃう♡ イッちゃうからぁっ♡♡ いや、イキたくない……!」
「イッていいぞ。どうだ、メスイキできそうか?」
「なに゛、それ……ン゛、アッ♡ イ゛ッ、あ゛あ゛あぁあーーーーーッッ♡♡」

ルイスにとどめのように結腸をぶち抜かれて、俺はまたイッてしまった。胎の内側から叩きつけるかのように強い快感が襲ってくる。ペニスで射精するのとは全く違う、まるで女の子のようなイキ方。
これがメスイキ……? もしかしたら前回の行為の際もしていたのかもしれないが、自分でちゃんと意識したのはこれが初めてだった。絶頂を覚えたナカはいまだキュンキュン♡と疼き続けていて、何もわからなくなるくらいきもちいい。どうしよう、こんなのクセになっちゃう……♡

「上手にメスイキできたな、ネロ。偉いぞ……♡」
「ン、ぁっ……♡」

ルイスが上機嫌に俺の髪を撫でた。絶頂の余韻が抜けきっていない俺は、もうそれだけで感じてしまう。
ずる、と唐突にルイスが俺のアナルから出ていった。ナカを支配していた大きな質量がいきなり無くなって、えもいえぬ喪失感が襲う。いまだ物欲しそうにヒクヒク♡と挿入を強請っている俺のアナルをよそに、ルイスはパンパンに怒張したペニスを俺に向けると、そのまま射精した。

「あっ……んんんッ♡♡」

ビュルルル、と勢いよく吐き出されたルイスの精が、俺の顔や身体をみるみる汚していく。まるでマーキングでもするかのような彼の行動に、俺はなぜか興奮してしまっていた。
ルイスに断りもなく精液を浴びせられても、嫌悪感などなかった。むしろ、もっと欲しいと思ってしまう……。これも薬のせいなんだろうか?

「っはぁ……♡ かお、べとべとする……」

射精が終わる頃には俺は顔中精液まみれになっていた。雄臭い匂いがむわっとたちこめて、思わず熱い息を吐く。
俺は顔にべったりと付いた精液を指でぬぐうと、無意識にそれを口へ運び、ごくんと嚥下していた。青臭い味が口内に広がってはっと我に返る。なんで俺はこんなものを舐めているんだ。美味しくないし、喉に絡みつく感じがしてあまり気分のいいものではない。正気だったらたとえ金を積まれたとしてもこんなことはしないだろう。それなのに、今の俺はおかしい。本能がとにかくルイスを求めている。感情と身体がバラバラになっていて、自分でも何をしているのかわからず頭が混乱する。

「あ、俺……な、なんで……?」
「エロいなぁ……♡ さて、そんな可愛いネロにご褒美だ」

ペタンと床に座り込んでひとり呆けていると、相変わらず機嫌のよさそうなルイスが手に何かを持ってこちらにやって来た。
それは手のひらサイズのペンダントのようなものだった。いや、ペンダントにしては少し大きい気もするが……。トップの部分に水晶のような宝石が誂えてあり、内部にはふわりと温かみのある光が宿っていた。この光はおそらく魔力によるものだ。

「ようやく本題に入るが、これが俺が開発したメスイキスイッチだ。先程ネロが絶頂した時の身体情報をこの水晶に記録してある。あとはここに俺が魔力を込めれば……」

ルイスはそう言いながら水晶に手を翳した。
すると水晶の光がいっそう強くなり、それと同時に俺の腹の奥がビクンッとうねって、突如として全身に耐えがたいほどの強い快感が走る。

「アッ……!? やっあ゛あ゛あああッッ!!♡♡」

何が起こったのかまったく理解できなかった。
外からは一切の刺激がなかったのに、何故か身体が勝手に絶頂している。何も咥え込んでいないはずの膣内は痙攣を繰り返しており、あるはずのない子宮がぐぐぐ……っと降りてきているような感覚すらあった。

「よし、成功だ! 俺の魔力に呼応させ水晶に記録した身体反応を任意に引き起こす、これぞメスイキスイッチ!」

俺が絶頂に喘いでいる横で、ルイスがテンション最高潮になって喜んでいるのが大変恨めしい。
魔力の無駄遣い。そんな言葉が脳裏に浮かんできた。

「ちなみに魔力を込めれば何度でも再現可能だ」
「まって、まだイッて……い゛や゛ああアアァァッッ!!♡♡」

水晶が光るたびにお腹の中がずくんっ♡と重たくなって、俺の意思とは関係なしに何度もメスイキしてしまう。目の前でチカチカと星が飛び、ガクガクガクッ♡と全身が震えて止まらない。完全に言うことをきかなくなった自分の身体に、俺の恐怖は増すばかりだった。
そんな俺にはお構いなしで、ルイスは楽しそうに水晶に魔力を送り続ける。目の前で行われている行為を殴ってでも止めたいが、いまだイキ続けている身体はまともに立ち上がることすら難しい。

「や゛っ♡ やだぁッ♡♡ イッ……イ゛キたくな゛い゛ッッ!い゛ぃッッアアアアアッッ!!♡♡♡」

プシャアアァッッ♡♡

何度目かの絶頂と同時に、俺のペニスから透明な液体が噴き出した。最初は失禁してしまったのかと思ったが、それにしてはその液体には匂いも色もない。でも、あまりにも快感が強すぎてそれを気にしている余裕すらなかった。

「潮吹きとは、またエロいな。男でも出来るとは聞いていたが……」

どこで聞いたんだか知らないし興味もないが、はやくこの拷問のような快楽地獄を終わりにしてほしい。実験は成功したみたいだし、ここまでしたんだからもういいだろ。そうしてくれないと、本当に頭がどうにかなってしまいそうだ。
女の子のようなイキ方をして、潮まで吹いてしまって、これでは本当に女になったみたいじゃないか。

「やっ、やめて……! ルイ、おねがい……おれ、もう無理ぃ……っ!」
「待て、もう少しだけ」
「い゛や゛あ゛あああぁぁあッッ!♡♡♡」
「なるほど、こうするとより強くなるのか……」
「ル゛イ゛ッッッ♡♡ も、や゛め゛……ッッ♡ こわ゛れ゛ちゃう゛ッッッ♡♡ おれッ♡ こわ゛れ゛ちゃう゛から゛あ゛あぁぁッッ!!♡♡♡」

絶頂、絶頂、絶頂、絶頂。
もうイキたくないのに何度も何度もイかされて、イッてる最中でもまたイかされて……。耐えられなくなった俺は、身体じゅう精液と潮まみれの酷い姿で、ひたすらにルイスに向かって「やめて」と嬌声まじりの懇願をするしかなかった。
足腰からはとうの昔に力が抜けているのに、ビクンビクンッ♡と痙攣だけがずっと止まらない。ナカはキュンキュンキュン♡とメスイキの余韻が抜けないまま、俺はもう指の一本ですら思うように動かせなくなっていた。もはや視界すら霞んでいる。こんな状態で、まともな思考などできるわけもない。

「や゛ッ♡ や゛め゛ッ♡♡ きゃああァんッッ♡♡ イ゛ッッッ♡♡ イクの、もうっやだぁ……ッ♡♡」
「ふむ……」
「ル゛イ゛ッ♡ ごめ゛ん゛な゛さい゛ッッ♡♡ も゛、もうっ……や゛めてぇ゛……ッ♡ なんでも、するからぁッッ……!♡♡」
「……限界か。仕方ない、ここまでにしよう」

わけもわからず謝りだした俺を見て、ルイスはようやく水晶に翳していた手を止めてくれた。
魔力による強制絶頂が終わっても、俺の身体はいまだガクガクとイキ続けている。荒くなった呼吸はなかなか整わず、メスイキによる甘い痺れが脳まで回っていて、戻って来ることができなかった。

「ル、イ……」

本当だったらルイスに恨み言のひとつやふたつやみっつくらい言ってやりたかったが、無理だった。
全身に走る重たく甘い快感がようやく治まってきたと思ったその瞬間、不意に目の前がブラックアウトして俺は気絶してしまった。



✦✦✦



目を覚ますと、俺はアトリエの二階にあるルイスの自室のベッドの上にいた。

あのあとルイスが後処理をしてくれたのだろう。あれだけ色んな体液でベタベタだった身体はすっきりと清められており、服もおそらくルイスのものと思われる寝間着に着替えている。身体はまだだいぶ怠いが、媚薬の効き目を調整したというルイスの言葉は一応嘘ではなかったらしく、前回のような副作用は起きていないようだった。
自分がどのくらい気を失っていたのかはよくわからないが、窓から見える外の景色は既に真っ暗で、少なくとも数時間は寝ていたのだと思われた。

「目が覚めたか?」

しばらくベッドの上でぼうっとしていると、寝室のドアが開きルイスが入ってきた。俺は彼と顔を合わせたくなくて、思わずさっと目を逸らす。介抱してくれたことには感謝するけど。それでもあれだけのことをしたというのに、何事もなかったかのように平然としているルイスに俺は無性に腹が立っていた。

「……俺、帰る」

喋ってみると声が酷く掠れていて、自分で驚いた。
けほ、とひとつ咳をしてから、俺はベッドを降りようと床に足をついた。しかし直後にかくんと腰が抜けてしまい、ゾクゾクッ♡と下腹部から背筋にかけて微弱な電流のような甘い快感が走った。

「……ッぁ、なんで、今……っ♡」

余韻だけで甘イキしていると気付いた時には、俺はつい漏れそうになる甘ったるい声をなんとか抑えて、身を丸くしながら必死に快感を押し殺していた。
思わずじわりと目元に涙が浮かぶ。余韻だけでイクだなんて、恥ずかしい。こんな淫乱と言われても仕方がないような身体になってしまって、俺はこれからどうすればいいんだ。もう普通のセックスなんて出来そうにないし、ルイスしか……ルイスじゃないとこんな身体、どうにもできないじゃないか。

……でも、ルイスは俺のことなんて『まあまあ便利な奴』程度にしか思っていない。ルイスは実験のためだったら俺にあんな事をしても平気なんだろうけど、俺は仕事だと割り切ることなんてできないし、本当は、ちゃんと好き同士でセックスがしたかった。身体だけの関係なんて嫌だ。22歳にもなってこんな乙女みたいなことを考えているから、ルイスにいいように利用されるのかもしれないけど。

「こんな状態で出歩くのは危険だ。今日は泊まっていくといい」

動けない俺を見てルイスはそう言うと、俺を抱き上げて元いたベッドの上に下ろした。たったそれだけでも快感を拾ってしまう自分の身体に心底嫌気がさす。それもこれも全部ルイスのせいなのだと思うと、素直にお礼を言う気にはなれなかった。

「鎮静剤を調合した。少しは落ち着くと思うから、飲んでくれ」

ルイスはそう言って錠剤と水の入ったグラスをこちらに差し出したが、俺は受け取らずにふいと身体を逸らした。もう金輪際、こいつの作ったものは口に入れたくない。

「……ネロ。その、悪かった。少しやりすぎた」
「……」

頑なに薬を飲もうとしない俺の態度を見て、ルイスが珍しく謝罪してきた。
誰もが認める天才であるルイスが反省したり謝罪をするのは、そこそこ長い付き合いの中でも滅多になかったことだ。それでも謝ったということは、それだけ悪いとは思っているんだと思う。それをわかっていてもなお、俺はそう簡単に許す気にはなれなかった。
ベッドの上で彼に背を向けたまま、俺は小さな声で言い返す。

「俺、嫌って言った」
「……ああ」
「やめてって、何度も言った……」
「すまない」

ルイスはきっと、俺になら何をしても許されると思っているんじゃないか。もしかしたら今も、謝れば済むと考えているかもしれない。実際、俺は今まで何をされても許してきた。
ルイスのことは錬金術師として尊敬していたし、楽しそうに何かを作っている姿も、実験が成功して嬉しそうにする姿も、俺は好きだったから。
そんなルイスと、先日身体を繋げてしまってから……「付き合ってくれ」と言われてからは、少しだけ関係が変わるかと思っていた。でも結局、俺はルイスに都合のいいように弄ばれているだけで、恋人になんかなれなかった。ずっと便利な実験体モルモットのままだった。

「……きらい……」
「……っ」
「ルイなんか、きらいだ……」

気が付けば俺の口からはそんな言葉が溢れていた。
胸が痛いし、涙が止まらない。なんで俺、泣いているんだろう。ルイスに何を期待していたんだろう。
ルイスと付き合うようになったけど、それは俺が思っていた関係と違っていたから。……そうだ、俺が勝手に拗ねているだけだ。本当は、ルイスに俺を好きになってほしかったんだ。ただの助手でも実験体モルモットでもない、彼の“特別”になってみたかった……。
……馬鹿みたいだ。俺みたいな出来損ないが、ルイスのような天才と対等にいられるわけがないのに。学生時代から親友でいてくれて、助手にもしてくれたから、俺はつけ上がってしまっていたんだ。

「……」

その場に重たい沈黙が流れる。「嫌い」と言ったきり、ぐすっと鼻を啜って黙り込んでしまった俺を見て、ルイスも何も言わずしばらく黙っていた。
しかし、その次に彼の口から発された衝撃的な言葉に、俺は自分の耳を疑った。

「……そうか。俺は、好きなんだけどな」

——俺は、好きなんだけどな。
好き、なんだけどな……。
好き。すき? ……え、好き??

「……へぇ!?」

俺は先程までの怒りも忘れて、間抜け極まりない声を上げながら彼を振り返る羽目になった。



end.
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