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―――平成三年

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 宮井と祥子のデートはその次の日曜日、また次の土曜日と続いた。

 宮井の休みが土日と週ごとに交代で、その休みの度に祥子は宮井と会った。

 映子は毎回そのデートにつき合わされ、三回目のときにはさすがに遠慮したいと言った。

 でも結局祥子に懇願されて、仕方なく付き添った。

 場所は神戸、京都と交代で神戸ではおいしいケーキ屋さん、京都では和菓子のおいしいお店と毎回違う場所へ宮井は祥子と映子を連れて行った。
 おかげで映子はずいぶん甘いものの店に詳しくなった。

 支払いはいつも宮井がした。
 毎週のように二人の女子中学生のお昼代とお茶代を出すのは、積もり積もればそれなりの出費だ。
 父から毎月送金されてくる生活費を、母に代わって掌握していた映子は、自分の分は払いますと宮井に申し出た。宮井は申し出を一蹴した。

「僕は他にお金を使うところがないんだ。お気遣いなく」

 そう言って、映子の差し出すお金を受け取ろうとはしなかった。

 そういうところは大人らしく、はじめ宮井に感じた胡散臭さは映子の勘違いだったのかと思わないでもない。
 けれど何がどうとうまく説明はできないけれど、なんとなく信用しきれず、警戒する心は映子の中から消えなかった。

 出先ではたいてい祥子と宮井が二人で歩き、映子はその後ろに付き人のように従った。

 毎回二人は楽しそうに話す。
 何をそんなに話すことがあるのかと映子は訝しく思った。
 時々思い出したように祥子と宮井が振り返って二言三言話しかけてくる。

 妙な気遣いはいらない。それならばこのデートの付き添い自体をやめさせてほしい。
 時間の無駄だ。

 宮井は最初のデートのとき同様あくまで紳士的だった。

 清潔感を前面に押し出し、付き添いの映子にも嫌な顔一つしない。
 むしろ祥子の方が付いて来てという割に映子の行動が気になるようだ。
 宮井がたまに話しかけてくるのへ返事をしていると祥子の視線を感じる。

 祥子は積極的で時折宮井の指に自分の指を絡めたり、頭を宮井の肩に寄せたりした。
 その度に宮井は祥子を傷つけないようにやんわりと距離をとる。
 祥子にしてみればそれが不満なのだろう。

 五回目のデートのときだった。

 いつものようにケーキと紅茶をご馳走になり、今日は異人館へ行こうと宮井が誘った。
 祥子はそれを聞いてお手洗いに行こうと店のトイレに映子を引っ張っていった。

「ごめん、映子ちゃん」

 トイレに着くなり祥子が両手を合わせて映子に頭を下げた。

「誘っといて悪いんやけど今日はこれで帰ってくれへん?」

 この申し出はある程度予想していたので映子は驚かなかった。

「いいよ、別に」

 ただどうせなら行く前に行って欲しかった。
 そうすればわざわざ出かける必要はなかった。
 みどりばあさんの家でひがな一日過ごせた。
 
 祥子と宮井のデートに付き合った帰りは、いつも映子はみどりばあさんの家に忍び込んだ。
 何もない空間は心の均衡を保つのに必要な儀式だった。

「わたし用事思い出したからって帰るわ」

「ほんとありがとう、映子ちゃん」

 映子が帰った後、祥子と宮井がどんな風にその一日を過ごしたのか。
 映子は知らない。
 聞こうとも知りたいとも思わなかった。
 次の月曜日、祥子はいつも通り登校してきた。
 なんとなくいつもより上気した頬と浮ついた様子に気がついたが映子は何も言わなかった。

 祥子の母親から電話があったのはその次の日の夕方だった。

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