曖昧なパフューム

曖昧なパフューム

3

　朱夏は自らブラウスのボタンを外し、ブラジャーのカップを下にずらした。

　一度も触られていないはずの赤い先端が、硬く尖ってひくっ、と震えている。

「貴人くん、お願い……ここも……」

　朱夏は潤んだ瞳で懇願しながら、自分の人差し指で両胸の先端を引っ掻いた。

　気持ちいいけれど、足りない。貴人の手でないと、意味がない。

「珍しい。朱夏さんが素直におねだりするなんて」

　貴人は興味深そうに言って、朱夏に軽くキスをする。彼の指先は、朱夏のナカで暴れたままだ。

　朱夏は至近距離で彼の瞳を覗き、自信なく尋ねる。

「んっ……引い、た？」
「まさか。俺の手でどんどんエッチになってく朱夏さん、たまんない」

　貴人は口の端をくいっと上げて妖艶に笑うと、唇から顎、首筋、鎖骨と順にキスしていき、やがて胸のふくらみにたどり着いた。

　手のひらはたとえようのない柔らかさを堪能するように彼女の胸を揉み、ますます赤く熟れた乳首を、迷わず口に含んだ。

「やぁ……っ」

　朱夏は喉をそらし、ソファの上で身を捩る。貴人の舌先がチロチロとラズベリーのような果実を転がすたび、脚の間をまさぐる彼の指先が、愛液にまみれる。

　貴人は中指を差し込んだまま濡れた手のひらを朱夏の肌に密着させ、朱夏が一番感じる敏感な粒をそっと擦った。

　小刻みに震えていた朱夏の体が、ビクン！と大きく跳ねる。

「はぁんっ、そこ、ダメ……っ」
「知ってる。……すぐイッちゃうから、ですよね？」

　貴人が甘い吐息を交らせて朱夏の耳元で囁くのと同時に、赤く充血した粒に押しつけた手のひらを、ぐっと動かす。

　朱夏の視界にちかちかと閃光が走り、華奢な体が大きくわなないた。

　くたっと体を弛緩させた朱夏を跨いだまま、貴人がシャツを脱ぎ捨てる。均整の取れた張りのある肉体を露わにした彼は、続けてスラックスのベルトに手をかけた。

　布越しに彼の欲望の輪郭がくっきりと見える。

　一度絶頂を迎えたはずの朱夏だが、狂おしいほど〝欲しい〟と思い、ごくりと喉を鳴らした。

「ちょっと待ってください、ゴム……」

　ボクサーパンツ一枚になった貴人が、そう呟いて一度ソファを降りようとする。

　朱夏はほとんど無意識にその腕を捕まえ、ふるふる首を横に振った。

「いらない。そのまま挿れて……？」

　しどけなく足を開いたまま、朱夏が懇願する。

　魅惑的な誘いに、貴人は危うく理性を失いそうになる。が、勢いでしていいことではないと理解している。

　もちろん、朱夏が本心から望んでいるなら、遠慮するつもりはないが。

「朱夏さん……俺はうれしいけど、いいの？」
「じかに感じたいの、あなたを」
「赤ちゃん、できるかもしれないよ」

　貴人はひとつひとつ、朱夏の意思を確認しながらも、徐々に朱夏にのしかかっていく。

　ボクサーパンツ越しに、硬く張り詰めた昂ぶりを朱夏の秘部に押し当てる。ぬらりと溢れた蜜が、彼の下着に染みを作った。

　もどかしい刺激に煽られながら、貴人はゆっくり腰を動かす。

「ん……っ。あなたの迷惑にならないのなら、私は構わない」
「迷惑なんて、ありえない。朱夏さんと繋がって、全部注ぎこんで……その結果俺たちの子どもができたとしたら、これ以上の幸せはない」
「貴人くん……」

　朱夏の瞳に、涙の膜が張る。

　ずっと不安だった。

　彼との身分差や、自分の方が年上だという、今さらどう覆すこともできない年齢差が。

　彼にはほかに、もっとふさわしい女性がいるのではないか。心の隅にはいつもそんな思いが巣くっていて、だから涼音にも強く出られなかった。岡崎に付け込まれた。

　でも、今は――。

　朱夏は両手を伸ばし、貴人の顔をそっと包み込む。そして自分の方に引き寄せ、愛しさのままに口づけた。

「あなたを愛してる。もう、誰にも譲らない」

　色素の薄い彼の瞳をまっすぐ射貫くように見つめ、朱夏はありのままの気持ちを伝えた。

　貴人は大きく目を見開いた後、感極まったように目を潤ませる。心の奥から、朱夏への愛しさが大きな激流となって溢れ出した。