曖昧なパフューム

宝月なごみ

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かりそめの幸福

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 濡れた体をタオルで拭うのもそこそこに、貴人は朱夏の体を担ぎ上げ、ベッドまで運んだ。

 仰向けに寝かせた彼女に覆いかぶさり、物欲しげに半開きになった唇を貪る。

「ん、んふぅ……っ 貴人くん、苦し……っ」

 息をつく暇も与えられないキスに、朱夏がもがくような声をあげる。貴人は一度唇を離し、呼吸を荒らげたまま言う。

「だってこの部屋、朱夏さんの匂いが立ち込めてるんだもん……興奮するなって言う方が無理」

 貴人の指先が、固く立ち上がった朱夏の乳首を優しくかすめる。びくりと反応した朱夏にクスッと笑った貴人は、そのまま指の腹でぐにぐに弄び、空いた手でもう一方の胸を強く掴み、赤子のように吸い付いた。

「ひぁっ。両方は、だめぇ……っ!」

 口ではそう言いながら、彼女はもどかしそうに腰をくねらせる。でも、まだそこは触ってやらない。貴人は意地悪くそう思い、胸の愛撫に集中する。音を立てて強く吸い、指で転がしていた方は、ギュッと強く摘んだ。

「ああああっ」

 朱夏の背中がシーツから浮き、微かに痙攣する。触れていないはずの脚の間から、つう、とひと筋の蜜がこぼれた。

「かわいい。胸だけでイキました?」

 放心状態でいまだびくびくと震えている彼女のこめかみやまぶたにキスをして、貴人が甘い声で問う。

「わかん、ない……」

 朱夏は涙目でそう答えたが、決して恥ずかしいから誤魔化したのではなく、自分が達したのかどうか、本当にわからなかったのだ。胸だけでこんな状態になるのは初めてだった。

 未だ腫れたように赤く立ち上がった乳首は、部屋の空気の流れがわかるほどに、敏感になっている。

「貴人くん……もう、つらい……」

 全身の感覚が研ぎ澄まされ、常に絶頂と隣り合わせにいるような感覚に、朱夏は耐えられなくなった。一番気持ちよくなれる場所に、貴人の指でも舌でもないものが、欲しい。

 微弱な電流が流れているかのように小刻みに震える足を遠慮がちに開き、指先でそっと柔らかなひだを押し広げ、はしたないと思いつつ貴人に懇願する。

「お願い……ここに、ちょうだい。あなたの……」
「朱夏さん……」

 貴人の全身が、カッと熱くなる。すでに怒張していた彼のそれが、ドクンと脈打って質量を増す。

 ずっと待っていた。失恋の慰めじゃなく、自分自身を求めてもらえるこの日を。

 貴人は夢中で彼女を貫きたい気持ちを抑え、自分の荷物から取り出した避妊具のパッケージを開ける。焦りと興奮で少し手間取ったが無事に装着すると、ベッドに座ったまま朱夏を手招きした。


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