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蘇る微熱
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エレベーターが止まる直前になって、岡崎はようやくキスを止め、朱夏を解放した。それでもまだ名残惜しそうな目をした彼は、彼女の唇を見てふいに苦笑する。
「食堂より前に、化粧室に寄った方がいい」
「えっ?」
「リップが剥げてるよ。……俺が食べてしまったから」
意味深に囁かれ、朱夏の頬がかぁっと熱を持つ。と、同時にエレベーターのドアが開いたので、朱夏は岡崎の纏う甘ったるい空気から逃れるようにして、ドアの外に飛び出す。
その時前をよく見ていなかったので、思い切り誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい……」
そう言ってパッと顔を上げた朱夏は、ぶつかった相手に気付いて瞠目する。
彼女と同じく驚いた顔でそこに立っていたのは、土曜日に会ったきり、連絡も無視したままの貴人だった。
「こちらこそ。どうしたんですか、そんなに慌てて――」
社内ということもあり、貴人は一線を引いた態度で朱夏に接するが、話している途中で気づく。朱夏の口もとのメイクが、まるでキスでもした後のように崩れていることに。
思わず、開け放たれたままのドアにパッと視線を向けると、ひとりの男がゆっくりエレベーターから出てくる。朱夏と同じ開発チームに所属する岡崎だった。
「お疲れさまです、専務。申し訳ありません、うちの桐野が失礼を」
岡崎は柔らかな口調でそう言うと、貴人の前で固まったままの朱夏の肩にポンと手を置く。
「ほら、行こう。化粧を直すんだろ」
朱夏は目を伏せ、返事をしない。しかし岡崎に強引に手を引かれ、フラフラと廊下を歩いて行った。
ふたりの間に漂う微妙な空気感、それに朱夏の口もと。彼らはエレベーターでなにを?
貴人の心に、ざわっと波が立つ。たしかに、土曜日のデートでは朱夏に嫌な思いをさせてしまった。連絡をしても取り合ってもらえないので、フォローもまだできていない。
だからといって、他の男と? いや、朱夏はそんなことしない。岡崎の方から強引に仕掛けた可能性はあるが……。
悶々としながらも、貴人はエレベーターに乗ってひとつ上の階に移動し、自分の部屋に入る。
岡崎の存在に、なにか引っ掛かる。そう思いながらデスクに戻り、彼がパソコンで開いたのは人事データのファイルだ。
その中から【東京本社 フレグランス開発チーム】の項目を選び、岡崎の名を探す。
「あった。岡崎、博……ヒロキ……」
読み仮名を口に出したその瞬間、貴人は自分の犯した重大な失敗を知る。
「食堂より前に、化粧室に寄った方がいい」
「えっ?」
「リップが剥げてるよ。……俺が食べてしまったから」
意味深に囁かれ、朱夏の頬がかぁっと熱を持つ。と、同時にエレベーターのドアが開いたので、朱夏は岡崎の纏う甘ったるい空気から逃れるようにして、ドアの外に飛び出す。
その時前をよく見ていなかったので、思い切り誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい……」
そう言ってパッと顔を上げた朱夏は、ぶつかった相手に気付いて瞠目する。
彼女と同じく驚いた顔でそこに立っていたのは、土曜日に会ったきり、連絡も無視したままの貴人だった。
「こちらこそ。どうしたんですか、そんなに慌てて――」
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思わず、開け放たれたままのドアにパッと視線を向けると、ひとりの男がゆっくりエレベーターから出てくる。朱夏と同じ開発チームに所属する岡崎だった。
「お疲れさまです、専務。申し訳ありません、うちの桐野が失礼を」
岡崎は柔らかな口調でそう言うと、貴人の前で固まったままの朱夏の肩にポンと手を置く。
「ほら、行こう。化粧を直すんだろ」
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だからといって、他の男と? いや、朱夏はそんなことしない。岡崎の方から強引に仕掛けた可能性はあるが……。
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岡崎の存在に、なにか引っ掛かる。そう思いながらデスクに戻り、彼がパソコンで開いたのは人事データのファイルだ。
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